細胞核
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/03 08:52 UTC 版)
細胞生物学 | |
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細胞核は細胞の遺伝物質の大部分を含んでおり、複数の長い直鎖状のDNA分子がさまざまな種類のタンパク質 (ヒストンなど) と複合体を形成することで、染色体が形成されている。これらの染色体の内部の遺伝子が核ゲノムを構成しており、細胞の機能を促進するよう構造化されている。核は遺伝子の完全性を維持し、遺伝子発現の調節により細胞の活動を制御する。すなわち、核は細胞のコントロールセンターである。核を作り上げている主要な構造は核膜と核マトリックスである。核膜は核全体を包む2層の脂質二重膜で、その内容物を細胞質から分離している。核マトリックス (核ラミナもこれに含まれる) は核内部のネットワーク構造で、細胞を支える細胞骨格のように、核構造の機械的支持を行っている。
巨大な分子は核膜を透過できないので、核膜を越える輸送の調節には核膜孔が必要とされる。孔は二重膜を貫通しており、膜輸送体による能動輸送を必要とする巨大分子が通過するためのチャネルとなっている一方、低分子やイオンは自由に移動する。タンパク質やRNAなどの巨大分子の孔を通っての移動は、遺伝子発現と染色体の維持の両方のプロセスに必要とされる。核の内部には膜結合性の小区画は存在しないが、その内容物が一様であるわけではなく、特定のタンパク質、RNA分子、染色体の特定の部分から構成される、多数の核内構造体が存在する。最もよく知られているのは核小体で、主にリボソームの組み立てに関与している。リボソームは核小体で合成された後、細胞質へ輸送されてmRNAの翻訳を行う。
歴史
核は最初に発見された細胞小器官である。現存する最古の描画はおそらく、初期の顕微鏡学者であったアントニ・ファン・レーウェンフック (1632–1723) によるものである。彼はサケの赤血球細胞の中に "lumen" を観察した[1]。哺乳類とは異なり、他の脊椎動物の赤血球は核を持っている。
また、核はオーストリアの植物画家フランツ・バウアーによって1802年[2]または1804年[3]に記載された。イギリスの植物学者ロバート・ブラウン(Robert Brown、1773年12月21日 - 1858年6月10日)により1831年に再発見され、ロンドン・リンネ協会で発表された。ブラウンは顕微鏡下でランの研究をしている際、花の外層の細胞に不透明な領域を発見し、それを"areola"または"nucleus"と名付けた[4]。
ブラウンはその領域の機能については示唆しなかったが、1838年にマティアス・ヤーコプ・シュライデンは、核が細胞を生成する役割を持つと提唱し、"cytoblast"という名称を導入した。彼は、新しい細胞が"cytoblast"の周辺に集まっているのを観察したと信じていた。フランツ・ユリウス・フェルディナント・マイエンはこの見方の強固な反対者で、細胞が分裂によって増殖することをすでに記述しており、多くの細胞は核を持たないと信じていた。"cytoblast"か何かによって細胞が「新たに」生じるという考えは、「全ての細胞は細胞から生じる」("Omnis cellula e cellula") という新たなパラダイムを決定的に広めた、ロベルト・レーマク (1852) とルドルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ (1855) の業績とも矛盾していた。核の機能は依然不明なままであった[5]。
1877年から1878年の間に、オスカー・ヘルトヴィヒはウニの卵の孵化に関するいくつかの研究を発表し、精子の核が卵母細胞に進入し、その核と融合することを示した。これは、個体が1個の有核細胞から発生することを初めて示唆したものであった。またこれは、種の系統発生は胚の発生中に完全に反復され、原始的な粘液体 ("Urschleim") の構造化されていない塊 ("monerula") から最初の有核細胞が発生する、としていたエルンスト・ヘッケルの理論と矛盾するものであった。しかし、ヘルトヴィヒは両生類や軟体動物など、他の動物群を用いて自身の観察を確証した。エドゥアルト・シュトラスブルガーは、1884年に植物でも同じ結果を得た。ここから、遺伝における重要な役割を核へ割り当てる道が開かれた。1873年にアウグスト・ヴァイスマンは、遺伝に関しては母系と父系の生殖細胞が等価であると予想した。核の遺伝情報の保持機能は、有糸分裂が発見され、メンデルの法則が20世紀の初めに再発見されるまで明らかにされなかった。その後、遺伝の染色体説が発展した[5]。
構造
通常、核は細胞に1つある(例外は後述)。核は動物細胞で最大の細胞小器官である[6]。哺乳類の細胞では、核の直径は約 6 µm であり、細胞の総体積の約10%を占める[7]。核の内部の粘性の液体は核質と呼ばれ、その組成は核外の細胞質基質と類似している[8]。外観は、濃密で球形または不定形の細胞小器官である。ある種の白血球細胞、特に顆粒球では、核には切れ込み (lobation) が入っており、二裂、三裂、または多数に分裂した形で存在する。
また、核内には1つ以上の核小体がある。細胞の他の部分(細胞質)とは、核膜と呼ばれる2層の脂質二重膜によって隔てられており、核と細胞質間で物質輸送が行われるときには、核膜に空いた多くの穴(核膜孔)を通って行われる場合が多い。核内には遺伝情報であるDNAのほか、核タンパク質、RNA(リボ核酸)が含まれており、DNAの遺伝情報は核でRNAに転写される。細胞分裂時には、核内のDNAは凝縮し、染色体と呼ばれる棒状の構造をとり、細胞分裂後の2つの細胞に分かれて移動する。このとき、核の表面は二重の核膜で包まれる。その後、それぞれの細胞では、再び核が形成され、染色体が消失、DNAが核内に広がる。
核内には、糸状に連なったDNA分子が結合蛋白質と複合体を構成しながら散らばっており、クロマチン(chromatin)あるいは染色質と呼ばれる。染色質の名前は、ヘマトキシリン染色などの染色を施した細胞を光学顕微鏡で観察すると、核内が濃く染色されることに由来する。クロマチンは大きく2種類に分けられる。
- ユークロマチン(euchromatin)、あるいは真正染色質 - RNA転写活性が高く、DNAがよく広がり、多種の蛋白質と共存する部位
- ヘテロクロマチン(heterochromatin)、あるいは異質染色質 - 遺伝子発現が不活性化され、DNAと結合蛋白質の複合体は凝集されたままの状態になっている部位
核膜と核膜孔
核膜は、内膜と外膜の2層の脂質二重膜によって構成される。内膜と外膜は互いに平行で 10–50 nm 離れている。核膜は核を完全に包んで細胞質から遺伝物質を分離するとともに、高分子が核質と細胞質の間を自由に拡散することを防ぐ障壁の役割を果たしている[9]。外膜は粗面小胞体の膜と連続しており、粗面小胞体膜と同様にリボソームが点在している[9]。内膜と外膜の間の領域は perinuclear space と呼ばれ、粗面小胞体内腔と連続している。
核膜孔は核膜を通過するチャネルである。複数のタンパク質から構成されており、それらはヌクレオポリンと総称されている。核膜孔はおよそ 125 MDa で、約50 (酵母) から 数百 (脊椎動物) のタンパク質で構成されている[6]。孔の直径は約 100 nm であるが、孔の中心部には調節システムが位置しているため、分子が自由に拡散する間隙は約 9 nm の幅しかない。このサイズ選択性のため、水溶性の低分子は通過できる一方、核酸やタンパク質などの巨大な分子は不適切な出入りが防がれており、核内外への輸送は能動的になされる必要がある。典型的な哺乳類細胞の核膜には約3000から4000の核膜孔があり[10]、内膜と外膜が融合する地点のそれぞれに8回対称のリング状の構造が存在している[11]。そのリングから核質側へは核バスケット (nuclear basket) と呼ばれる構造が突出しており、細胞質側へは一連のフィラメントが伸びている。両方の構造が核輸送タンパク質の結合に関与している[6]。
ほとんどのタンパク質、リボソームのサブユニット、そしていくつかのDNAは、カリオフェリンとして知られる輸送因子ファミリーによって、核膜孔複合体を通って輸送される。核内への移動を媒介するカリオフェリンはインポーチン、核外への移動を媒介するものはエクスポーチンと呼ばれる。ほとんどのカリオフェリンはその積み荷 (cargo) と直接相互作用するが、いくつかのものはアダプタータンパク質を利用する[12]。コルチゾールやアルドステロンのようなステロイドホルモンや、細胞間シグナル伝達に関与する他の脂溶性低分子は細胞膜を通過して細胞質へ拡散するが、そこで核内受容体に結合し核へと輸送される。核内受容体はリガンドが結合時には転写因子として機能し、リガンドがないときには、その多くが遺伝子発現を抑制するヒストン脱アセチル化酵素として機能する[6]。
核ラミナ
動物細胞では、2種類の中間径フィラメントのネットワークによって核は機械的に支持されている。核ラミナは核膜の内側にメッシュ状に組織されたネットワークを形成しており、細胞質側は比較的組織されていない。両方のシステムが核膜の機械的支持や、染色体や核膜孔のアンカー部位として機能している[7]。
核ラミナの大部分はラミンタンパク質で構成されている。他の全てのタンパク質と同様、ラミンは細胞質で合成される。その後、核の内部へ輸送され、そこで重合して既存の核ラミナのネットワークに組み込まれる[13][14]。核ラミナは核膜内側のエメリン、細胞質側のネスプリンなどを介して細胞骨格と連結されている[15]。ラミンは核質の内部にも見つかり、核質ヴェール (nucleoplasmic veil) として知られる、蛍光顕微鏡で観察可能な別の構造を形成している[16]。このヴェールの機能は不明だが、核小体からは排除されており、細胞周期の間期に存在する[17]。ラミンの構造体はクロマチンと相互作用しており、これらの構造を破壊するとタンパク質をコードする遺伝子の転写が阻害される[18]。
他の中間径フィラメントの構成要素と同様に、ラミンの単量体はα-ヘリカルドメインを持っており、2分子の単量体が互いに巻きついてコイルドコイルと呼ばれる二量体構造を形成する。そして、2つの二量体が逆平行の配置で並んで結合し、プロトフィラメント (protofilament) と呼ばれる四量体が形成される。さらに8つのプロトフィラメントが並んでねじられ、ロープ状のフィラメントが形成される。これらのフィラメントが動的に重合・脱重合を行い、その競合によってフィラメントの長さが変化する[7]。
フィラメント重合に欠陥が生じるラミン遺伝子の変異は、ラミノパシーとして知られる一群の稀な遺伝子疾患の原因となる。ラミノパシーで最も有名なものはプロジェリアとして知られる疾患ファミリーであり、患者には早期の老化が引き起こされる。老化の表現型を生じさせる生化学的変化の正確なメカニズムは、まだよく理解されていない[19]。
染色体
細胞核には、複数の直鎖状のDNA分子の形で細胞の遺伝物質の大部分が含まれており (少数の遺伝子はミトコンドリアと、植物では葉緑体にも存在している)、DNA分子は染色体と呼ばれる構造に組織化される。ヒトの各細胞は大雑把に見積もって約 2 m のDNAを含んでいる。細胞周期のほとんどの期間、これらはクロマチンとして知られるDNA-タンパク質複合体に組織されている。細胞分裂の間クロマチンは、核型の図で馴染み深い、染色体を形成しているのが観察される。
クロマチンには2つのタイプが存在する。ユークロマチンはDNAが比較的コンパクトに納まっていない形態で、高頻度で発現している遺伝子を含んでいる[20]。他のタイプであるヘテロクロマチンはよりコンパクトな形態で、低頻度で転写されるDNAが含まれる。ヘテロクロマチンはさらに、特定の細胞種または特定の発生ステージでのみヘテロクロマチンとして組織化される条件的ヘテロクロマチン (facultative heterochromatin) と、テロメアやセントロメアのような染色体の構造的要素からなる構成的ヘテロクロマチン (constitutive heterochromatin) とに分類される[21]。間期を通じて、クロマチンは染色体テリトリー (chromosome territory) と呼ばれる個別のパッチ状の組織となっている[22][23]。一般的に染色体のユークロマチン領域に見つかる活性型の遺伝子は、染色体テリトリーの境界に位置する傾向がある[24]。
特定のタイプのクロマチン組織、特にヌクレオソームに対する抗体は、全身性エリテマトーデスのような多くの自己免疫疾患と関連している[25]。これらは抗核抗体として知られており、多発性硬化症の患者でも、その病態とは関連しないものの、一般的な免疫不全の一部として高頻度で観察される[26]。
核小体
核小体は、濃密に染色される構造体として核内に存在している。核小体は膜に囲まれておらず、サブオルガネラ (suborganelle) と呼ばれることもある。リボソームRNA (rRNA) をコードするDNA (rDNA) のタンデムリピートの周囲に形成される。これらの領域は核小体形成域 (nucleolus organizer region) と呼ばれる。核小体の主な役割はrRNAの合成とリボソームの組み立てである。核小体の構造的凝集はその活性に依存している。核小体でのリボソームの組み立てが核小体構成要素の一時的な結合をもたらし、それによってさらにリボソームの組み立てが促進され、さらに結合が行われる。このモデルは、rDNAの不活性化によって核小体構造が混合するという観察によって支持されている[27]。
リボソームの組み立ての最初のステップでは、RNAポリメラーゼIと呼ばれるタンパク質がrDNAを転写し、大きなpre-rRNA前駆体が形成される。そして、5.8S、18S、28S rRNAのサブユニットへ切断される[28]。転写と転写後プロセシング、そしてrRNAの組み立ては、核小体低分子RNA (snoRNA) の助けによって行われる。そのいくつかは、リボソームの機能に関連する遺伝子をコードするmRNAからスプライシングされたイントロンに由来する。組み立てられたリボソームのサブユニットは核膜孔を通過する最も大きな構造である[6]。
電子顕微鏡による観察では、核小体は3つの判別可能な領域から構成されていることが観察される。最も内側の fibrillar center (FC)、それを取り囲む濃密な dense fibrillar component (DFC)、外側の境界部の granular component (GC) である。rDNAの転写はFCまたはFC-DFC境界で起こり、そのため、細胞でrRNAの転写が増加すると、より多くのFCが検出されるようになる。rRNAの切断と修飾の大部分はDFCで行われ、リボソームサブユニットへのタンパク質の組み込みを伴う後半のステップはGCで行われる[28]。
他の核内構造体
構造の名称 | 構造の直径 | 出典 |
---|---|---|
カハール体 | 0.2–2.0 µm | [29] |
クラストソーム | 0.2–0.5 µm | [30] |
PIKA | 5 µm | [31] |
PML体 | 0.2–1.0 µm | [32] |
パラスペックル | 0.5–1.0 µm | [33] |
核スペックル | 20–25 nm | [31] |
核小体以外にも、核には膜で区切られていない構造体が多数含まれている。カハール体 (Cajal body)、GEMs (Gemini of coiled bodies)、PIKA (polymorphic interphase karyosomal association)、PML体 (promyelocytic leukaemia body)、パラスペックル (paraspeckle)、核スペックル (speckle, splicing speckle) などの構造体が知られている。これらの構造体の機能はあまり解明されていないが、核質が一様な混合物ではなく、むしろ組織化された機能的なサブドメインを含むものであることを示している[32]。
他の核内構造体は、疾患の異常なプロセスの一部として出現する。例えば、ネマリンミオパチーのいくつかの症例では、核内に小さな桿状の構造体の存在が報告されている。これは典型的にはアクチンの変異によるものであり、桿状構造は変異体アクチンやの細胞骨格タンパク質から構成されている[34]。
カハール体とGem
典型的な核には、カハール体 (カハール小体、カハールボディ、Cajal body) またはコイル体 (coiled body) と呼ばれる1個から10個のコンパクトな構造が存在し、その直径は生物種や細胞種によって異なるが 0.2 µm から 2.0 µm 程度である[29]。電子顕微鏡下での観察では、糸が絡まった球のような形状をしており[31]、濃密な中心部 (foci) にはタンパク質コイリンが分布している[35]。カハール体はRNAのプロセシングに関する多数の異なる役割に関与しており、特に、核小体低分子RNA (snoRNA) や核内低分子RNA (snRNA) の成熟や、ヒストンのmRNAの修飾などに関与している[29]。
カハール体に類似した構造として、Gem (Gem小体、Gems、Gemini of coiled bodies、Gemini of Cajal bodies) がある。その名前はふたご座 (Gemini) に由来し、カハール体との緊密な関係を表している。Gemはカハール体と似た大きさと形状であり、実際、顕微鏡下で視覚的に区別することはできない[35]。カハール体とは異なり、Gemは核内低分子リボヌクレオタンパク質(snRNP) を含まないが、snRNPの生合成に関連した機能を持つSMNタンパク質 (survival of motor neuron) を含んでいる[36]。 電子顕微鏡による微細構造の解析によって、Gemとカハール体との差異はコイリンにあることが示された。すなわち、カハール体はSMNとコイリンを含んでおり、GemはSMNを含むがコイリンを含まない[37]。
PIKAとPTFドメイン
PIKA (polymorphic interphase karyosomal association) またはRAFAドメインは、1991年の顕微鏡研究で初めて記載された。その機能は未だ明らかではないが、DNA複製、転写、そしてRNAのプロセシングには関与していないと考えられている[38]。snRNAの転写を促進する転写因子PTFの濃密な局在によって定義される別のドメインとしばしば相互作用していることが判明している[39]。
PML体
PML体 (PML小体、PMLボディ、promyelocytic leukemia body) は核質中に分散して存在する球形の構造体で、大きさは約 0.1–1.0 µm である。他の名称が多く付けられており、nuclear domain 10 (ND10)、Kremer body、PML oncogenic domain などとも呼ばれる。PML体の名称は、主要な構成要素であるPMLタンパク質 (promyelocytic leukemia protein) に由来する。核内でカハール体や cleavage body と関連して存在しているのがしばしば観察される[32]。PML体は、核内のはっきりしない超構造である核マトリックスに属しており、DNA複製、転写、エピジェネティックなサイレンシングなど、多くの核の機能のアンカーとなって調節を行っていると提唱されている[40]。PMLタンパク質はこのドメインを組織する主要な因子であり、リクルートされるタンパク質の数は増え続けているが、報告されている機能に唯一共通するものはSUMO化である。しかし、PML遺伝子が欠失し核内構造体が形成されないマウスも発生は正常であるため、PML体はほとんどの基礎的な生物学的機能には必要ないことが示されている[40]。
核スペックル
核スペックル (スペックル、スプライシングスペックル、speckle) は、pre-mRNAスプライシング因子に富む核内構造体で、哺乳類細胞の核質のクロマチン間領域 (interchromatin region) に位置している。蛍光顕微鏡のレベルでは不定形の点状構造で大きさや形も様々であるが、電子顕微鏡ではクロマチン間顆粒 (interchromatin granule) のクラスターとして観察される。核スペックルは動的な構造で、タンパク質やRNA-タンパク質複合体の構成要素は絶えずスペックル間や、転写の活性部位を含む、核の他の領域を循環している。核スペックルの構成要素、構造、挙動についての研究からは、核の機能的区画化と、遺伝子発現装置、スプライシングsnRNP、他のpre-mRNAスプライシングに必要なタンパク質の組織化に関与しているというモデルが立てられている[41][42][43][44]。細胞が必要とするものの変化によって、これらの構造体の構成要素や位置も、mRNAの転写や特定のタンパク質のリン酸化による調節を通じて変化する[45]。核スペックルは上に挙げた名称の他にも、splicing factor compartment (SF compartment)、interchromatin granule cluster (IGC)、B snurposomes などとして知られる[46]。B snurposome は両生類の卵母細胞の核や、キイロショウジョウバエの胚で観察されている。両生類の核の電子顕微鏡像からは、B snurposome は単独で存在するか、カハール体に付着しているように見える[47]。IGC はスプライシング因子の貯蔵部位として機能している[48]。
パラスペックル
Foxらによって2002年に発見されたパラスペックル (paraspeckle) は、核のクロマチン間領域の不定形の区画である[49]。最初に報告されたのはHeLa細胞においてであり、その核には一般的に10個から30個存在するとされた[50]。現在では、全ての初代培養細胞、形質転換細胞株、組織切片に存在することが知られている[51]。その名称は核での分布に由来するもので、"para"は"parallel"の略、"speckle"は常に近接して存在する核スペックルを指している[50]。
パラスペックルは動的な構造で、細胞の代謝活性の変化に反応して変化する。転写に依存的で[49]、RNAポリメラーゼIIによる転写がないときにはパラスペックルは消失し、全ての関連するタンパク質の構成要素 (PSP1、p54nrb、PSP2、CFI(m)68、PSF) は核小体で三日月型のキャップ構造 (perinucleolar cap) を形成する。この現象は細胞周期中でも確認されている。パラスペックルは間期を通じて存在し、有糸分裂中も終期を除いて存在する。2つの娘細胞の核が形成される終期にはRNAポリメラーゼIIによる転写が行われないため、タンパク質構成要素は代わりに perinucleolar cap を形成する[51]。
Perichromatin fibril
Perichromatin fibril (クロマチン周囲の線維状の構造物) は、電子顕微鏡下でのみ観察可能である。転写が活発なクロマチンに隣接して位置し、pre-mRNAのプロセシングが活発に行われている場所であるという仮説が立てられている[48]。
クラストソーム
クラストソーム (clastosome) は小さな構造体で (0.2–0.5 µm)、構造体周縁部のカプセルのために厚いリング状に観察される[30]。その名称はギリシャ語の klastos (壊れた) と soma (体) に由来する[30]。クラストソームは典型的には通常の細胞に存在せず、検出することは難しい。核内部のタンパク質分解活性が高いときに形成され、活性が低下するか、細胞がプロテアソーム阻害剤によって処理されると分解される[30][52]。クラストソームが細胞にわずかしか存在しないということは、それがプロテアソームの機能に必須なわけではないことを示している[53]。浸透圧ストレスも、クラストソームの形成を引き起こすことが示されている[54]。この核内構造体は、プロテアソームの触媒サブユニットと調節サブユニット、そしてその基質を含んでおり、タンパク質分解部位であることが示唆される[53]。
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