紙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/25 23:55 UTC 版)
概要
広義の紙は、直径100マイクロメートル以下の細長い繊維状であれば、鉱物・金属・動物由来の物質、または合成樹脂など、ほぼあらゆる種類の原料から作れる[2]。例えば、不織布は紙の一種として分類されることもある。しかし一般には、紙は植物繊維を原料にしているものを指す[2]。製法からも、一般的な水に分散させてから簀の子や網の上に広げ、脱水(水を抜く)・乾燥工程を経て作られるもの以外に、水を使用しない乾式で製造したものも含まれる。
紙の用途は様々で、原初の紙は単純に包むための包装用に使われた[3]。やがて筆記可能な紙が開発され、パピルスや羊皮紙またはシュロ・木簡・貝葉などに取って代わり情報の記録・伝達を担う媒体として重宝された[3]。
やがて製法に工夫がこらされ、日本では和紙の技術確立とともに発展し、江戸時代には襖や和傘、提灯・扇子など建築・工芸材料にも用途を広げた[4]。西洋では工業的な量産化が進行し、木材から直接原料を得てパルプを製造する技術が確立された[3]。
19世紀に入るとイギリスでフルート(段)をつけた紙が販売され、瓶やガラス製品の包装用途を通じて段ボールが開発された。さらにクラフト紙袋など高機能化が施され、包装用としての分野を広げ現在に至る[5]。
材料としては種類や加工法が豊富、加工の技術が比較的容易、安全などの特徴がある[6]。
紙の原料
製紙用として使用される繊維素材には、植物性天然繊維、動物性天然繊維、人造繊維などがある[7]。
植物性天然繊維
紙の原料である植物繊維細胞壁の成分は、セルロース・ヘミセルロース・リグニンに細分される。セルロースが骨格を、ヘミセルロースが接続を、リグニンが空隙充填を担う[2]。セルロースは、水素結合によって結びつく性質がある。紙を構成する繊維がくっつき合うのは、主にこうした水素結合のためである。一方、水素結合は水が入るとすぐ切れるため、防水加工していない紙は水濡れに弱い。
茎幹繊維
- 木材
- (#木材パルプも参照)
- 靭皮繊維
- 単子葉植物の維管束(藁・アシ・イグサ・パピルス・竹・バガスなど[7])
- 藁(稲わらや麦わら) - 中国では唐時代から紙の原料として使われた。日本では1890年代ごろは洋紙の主原料であり、中国などではまだ原料として使用されている。藁には、繊維が細くて短すぎるため弱い紙しかできない、年に1回しか収穫できず腐りやすいため保管が難しい、などの問題点がある。「わら半紙」参照。
- アシ - 若いススキやアシを原材料にする。
- カミガヤツリ(パピルス) - カミガヤツリは古来よりパピルスとして利用されてきた。
- 竹 - 竹紙は、中国で唐時代(7世紀)から作られ、宋時代(10世紀以降)には竹が紙の主原料:唐紙となった。竹の豊富な四川省夾江県や福建省では現在でも毛辺紙や玉扣紙などの竹紙が作られており、工場もある[8]。
- サトウキビ(バガス) - インド・中国や南米諸国では、製糖時に発生したサトウキビの絞りかすであるバガスからバガスパルプを製造し、紙の原料としている[9][10]。バガスには、森林保護や、省エネルギー、地球温暖化への対策などのメリットがあるとされる。
果実繊維
種子毛では木綿、果実ではカポック、殻ではココナツやヤシなどが原料になる[7]。
- 木綿 - 木綿のぼろ(ラグ)は、欧米で木材以前は紙の主原料であった。しかし、15世紀に印刷技術が確立して紙への需要が大きくなると供給不足になり、木材からの製紙方法が開発される契機となった。日本でも、製造開始直後の1880年代ごろは洋紙の主原料だった。また、綿花の加工途中で生ずる地毛などの短繊維(リンター)を原料として紙を漉くこともできる。木綿のぼろから作られるパルプをラグパルプ、綿花の地毛などの短繊維から作られるパルプをリンターパルプという。なお、通常の木綿は、繊維が長過ぎるため、製紙には使いにくい。
- アブラヤシ - アブラヤシは実からパーム油を絞るために栽培されているが、この絞りかすの繊維は強度が高いため、これを用いて紙をつくることが中国などで実用化されつつある。
葉繊維
マニラ麻・サイザル麻・パイナップルの葉・バナナの葉などが原料になる[7]。
- マニラアサ - マニラアサ(アバカ)は、フィリピンなどで栽培されているバショウ科の植物。アバカパルプは繊維が細長いため、しなやかで強い紙を作ることができる。現在、日本紙幣の主原料となっているほか、ティーバッグ、掃除機の紙パックの原料となっている。
- バナナ - バナナの茎の繊維を用いて、和紙をつくる要領で紙を作ることができる。生産廃棄物の再利用として途上国での利用が期待されている[11]。
動物性天然繊維
動物性天然繊維では羊毛や絹などが利用される[7]。
- 毛 - パルプに羊毛を漉き込みフェルトのようなもこもことした見た目と温かなぬくもりやざっくりとした手触りを出すために開発された羊毛紙[12]など。名刺、クリスマスカードやバレンタインカードなどプレゼントカード、ペーパークラフトおよび手芸用・壁紙用紙材などに利用される。
- 羽毛 - 粉砕したパウダー状の羽毛由来ケラチンの吸油性・撥水性・強靭性を生かしてコーティングすることで包装紙やチラシなどに利用される。[13]
- 卵殻膜 - 粉砕したパウダー状の卵殻膜をパルプに配合したもの。高い吸油性や皮膚治癒機能を生かしパーマ用ワインディングペーパーやあぶらとり紙に利用される。[13]
化学繊維など
- 化学繊維 - 化学繊維紙(合成繊維紙)は、レーヨン・ナイロン・ビニロン・ポリエステル・アクリロニトリルなど通気性や弾力性・耐摩耗性・耐水性・耐薬品性および防食性・防皺(ぼうしゅう)性など化学繊維の各特性を生かし、フィルターなどの濾過・吸着材、電気絶縁材などの多種な用途に利用される。
- プラスチック紙 - 木材原料の代替としての合成紙。プラスチックの強靭性と撥水性、防汚損性を生かし国外20か国以上でポリマー紙幣などに利用される。またポリスチレンペーパーは印刷に利用される。
無機繊維紙
無機物質を主体とするものを無機質紙、無機繊維紙、セラミック紙などという[14]。
- ストーンペーパー - ストーンペーパーは粒子の細かい石灰石粉を高密度ポリエチレン樹脂でシート状に固めた合成紙である。強靭な耐久性と筆記性を持つ[15]。木材原料の代替として開発され製造時に水を使わないので汚水を排出しない[16]。
- ガラス繊維・炭素繊維 - ガラス繊維紙は耐熱・断熱性、電気絶縁性、耐食・耐薬品性、軽量性と強靭性や補強性を生かし電設資材や家電の絶縁材、建材や自動車などの断熱・防水材や成型材に使われる[17]。炭素繊維紙も同様に車や飛行機や自転車、家電やヘルメットなどの成型材や耐食性を生かし耐食タンク、導電性を生かし電設資材や家電の導電材に用いられる[18]。
特に陶紙や不燃紙など填料(後述)を一般用紙よりもはるかに多く(50%以上)内添して機能化した紙を高填料充填紙という[14]。
紙の分類
和紙と洋紙
紙は、原料により和紙と洋紙に分類される。割合をみると、現在は木材を原料としたパルプから、機械を使って製造した洋紙が多くの割合を占めている。
特徴
和紙は日本伝来の技術でつくられた紙である[21]。7世紀初めまでに中国から伝来した紙が日本独自に発展したもので、ガンピ・コウゾ・カジノキ・ミツマタなどが原料である。洋紙に比べて繊維が長く丈夫で軽い[22][21]。
一方の洋紙は、主に木材を主原料に機械を使って製造する。日本では1873年に、欧米の機械を導入した初の洋紙工場が設立された。和紙に比べて印刷適性に優れる[22]。なお、木質紙が主流になる以前、洋紙の主原料は木綿のぼろや藁だった。
唐紙
唐本には竹紙が多く用いられている[21]。紙は和紙・洋紙・唐紙に分類されることがある。
板紙
紙の中で、主に包装用に使われる厚い紙を板紙(ボール紙)という。紙は和紙・洋紙・板紙に分類されることがある[6]。
経済産業省による分類
経済産業省(旧通産省)では1948年以来、紙・板紙・パルプの品種分類を所管しており、「生産動態統計分類」で紙を分類している。2002年以降の分類は次の通り。
- 新聞巻取紙 - 新聞に使用される新聞紙のこと。「新聞用紙」とも呼ばれる。
- 印刷・情報用紙 - 印刷用紙は印刷されることを前提とした紙を、情報用紙は情報システム用の紙を指す。経済産業省の分類では、以下の5つに分類されている。
- 非塗工印刷用紙 - 表面を顔料などで塗工していない印刷用の紙。ただし、筆記性や表面強度を改善するため、デンプンなどの薬品が表面に塗布されることも多い。化学パルプの使用割合により、上級印刷用紙(100%、上質紙)、中級印刷用紙(40%から100%、中質紙および上更紙)、下級印刷用紙(40%未満、更紙)に分類される。辞書本文などに使われるインディア紙などの薄葉紙も含まれる。
- 塗工印刷用紙 - 上級印刷用紙や中級印刷用紙を原紙とし、表面に塗料を塗布した印刷用紙。塗料の量などにより、アート紙・コート紙・軽量コート紙などに分類される。詳細は塗工紙を参照。
- 微塗工印刷用紙 - 1987年ごろに登場した比較的新しい品種で、塗料の量が塗工印刷用紙よりも少ない。
- 特殊印刷用紙 - 色上質紙・官製はがきなどを指す。
- 情報用紙 - コピー用紙・インクジェット用紙・ノーカーボン紙・感光紙・感熱紙などを指す。
- 包装用紙 - 印刷用紙より強度があり、包装紙や封筒に使用される紙である。未晒し包装紙は漂泊されておらず茶褐色。重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙などの種類がある。晒し包装紙は晒しクラフトパルプが原料で、純白ロール紙、晒しクラフト紙などの種類がある。
- 衛生用紙 - ティッシュペーパー・トイレットペーパー・紙おむつ・生理用品などの用途に使用される吸水性を持つ紙である。
- 雑種紙 - 工業用と家庭用に分類される。トレーシングペーパー・合成紙・絶縁紙・剥離紙・ライスペーパー(紙巻きたばこの巻紙)・書道用紙などが該当する。
注釈
- ^ 民営化前における官製はがきのこと。
出典
- ^ 日本印刷技術協会編、『製本加工ハンドブック 〈技術概論編〉』日本印刷技術協会(2006/09 出版)、ISBN 9784889830880
- ^ a b c d e f g 原 p.71-147 4.洋紙のレシピ
- ^ a b c d e f 原 p.15-33 1.紙の来た道“ペーパーロード”
- ^ 原 p.35-59 2.文化が育てた“紙”、紙が育てた“文化”
- ^ 日本包装技術協会『包装の歴史、3.包装産業の発達』日本包装技術協会、1978年、111-125頁。
- ^ a b 小平征雄, 福田隆真, 梅田素博「目的造形における紙の技法と教材の分類」『北海道教育大学紀要 第1部 C 教育科学編』第39巻第2号、北海道教育大学、1989年3月、p161-177、doi:10.32150/00003593、ISSN 03864499、NAID 110004381364、2023年4月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 石井大策「スピーカ振動板材料 : 主要材料と技術動向」『日本音響学会誌』第66巻第12号、日本音響学会、2010年、616-621頁、doi:10.20697/jasj.66.12_616、2020年6月23日閲覧。
- ^ 小林亜里. “中国竹紙紀行~竹紙のふるさとを訪ねて~”. 2017年10月1日閲覧。
- ^ “バガス(非木材紙)普及事業”. 地球と未来の環境基金(EFF:Eco Future Fund). 2017年10月1日閲覧。
- ^ “人と自然の未来環境のために”. 五條製紙. 2017年10月1日閲覧。
- ^ バナナ・グリーンゴールド・プロジェクト
- ^ 羊毛紙|紙を選ぶ|竹尾 TAKEO
- ^ a b カミグループ・技術開発 | カミ商事株式会社
- ^ a b c d 小泉正弘「高填料充填紙について」『紙パ技協誌』第42巻第11号、紙パルプ技術協会、1988年、1022-1028頁、doi:10.2524/jtappij.42.1022、2020年6月23日閲覧。
- ^ 環境性に優れたストーンペーパーのことは株式会社富士美術へ
- ^ [1][リンク切れ]
- ^ ガラス繊維紙グラベスト|製品情報|オリベスト株式会社
- ^ 炭素繊維紙カーボライト|製品情報|オリベスト株式会社
- ^ 陶芸紙の扱い方 | ツチノココロ
- ^ 化粧紙 - 注目商品 - 事業案内 - 日本紙パルプ商事株式会社
- ^ a b c 元興寺文化財研究所. “国立公文書館所蔵公文書等保存状況等調査”. 国立公文書館. 2020年6月22日閲覧。
- ^ a b c d e f g 小宮英俊. “紙のはなし”. 日本印刷産業連合会. 2020年6月22日閲覧。
- ^ 羊皮紙とは
- ^ 公益財団法人紙の博物館
- ^ 日本製紙連合会 世界の紙・板紙生産量 2017年
- ^ a b c 原 p.149-180 5.紙に要求される機能
- ^ アビゲイル・セレン、リチャード・ハーパー『ペーパーレスオフィスの神話』(創成社、2007)
「紙」に関係したコラム
-
日本の株式上場企業は、東京証券取引所(東証)をはじめとする証券取引所の独自の基準により、業種別に分類されています。例えば、東京証券取引所(東証)の場合、業種分類は「業種別分類に関する取扱い要領」により...
-
株式市場に上場している銘柄を分類する方法の1つに、株価水準が挙げられます。株価水準では、株価の高い、安いによって銘柄を分類します。一般的に株価水準では、次のように分類します。値がさ株(値嵩株)中位株低...
-
ネット証券に口座を開設するには、一定の基準をクリアしなければなりません。以下は、ネット証券の口座開設の一般的な基準です。ネット証券と証券会社との口座開設の基準の違いは、インターネット利用環境があるかど...
-
株式の投資基準とされるPBR(Price Book-value Ratio)とは、時価総額が株主資本の何倍かを示す指標のことで、株価純資産倍率とも呼ばれています。PBRは、次の計算式で求めることができ...
- >> 「紙」を含む用語の索引
- 紙のページへのリンク