精神病質 診断

精神病質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 15:52 UTC 版)

診断

現状では、チェックリストのみが診断基準であるので医学的にサイコパスと同じ状態であっても反社会性がなければサイコパスとはならない。反社会性などの診断基準を満たす者は幼少期からの素行問題など行動面の異常を示すことが多い[33]。日本国の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に、「この法律で『精神障害者』とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」と定義され、精神障害者に該当しつつ、保護の対象者と成る事を法的に認めているが、必ずしも全てが該当するとも言えず、時代相応の医学(科学)的な診断結果に基づいて判断される。

現在は20項目(『HARE PCL-R第2版テクニカルマニュアル』)が新たに定められ、それを用いて個別診断で半構造面接を行い2時間半 - 3時間かけて評定をする。

サイコパスは病気(いわゆる精神病)ではなく、ほとんどの人々が通常の社会生活を営んでいる。そのため、パーソナリティ障害と位置付けられており、日本では反社会性パーソナリティ障害と名称されている。

精神病質と社会病質が混合されているがヘアによると精神病質と社会病質は似て非なるものであると記している。精神病質の原因と考えられているのは前頭葉の障害であるとされ、精神病質は遺伝病だとされる意見が主とされている。逆に、家庭・周囲環境や障害に因る心身の衰弱によるものなどによる、精神病質に似た性格異常は仮精神病質(偽精神病質)とされ、精神病質とは識別されている。

エミール・クレペリン[* 5]によるとサイコパスのひとつに「空想虚言者」という類型がある。ただしクレペリンの時代の精神病質の概念は現在のものとはことなる。

DSM-IVでの行為障害反社会性パーソナリティ障害の診断とPCL-Rで示されるサイコパス概念の違いは、人格というより、〈対人・情動〉、〈衝動的・反社会性行動〉、〈前2者に含まれない要素〉に着目することによってDSM-IVの診断を発展させたところにある。DSM-IVの診断では、単に反社会的行動をとる人たちという幅広い、それに至る多くの道があるという集団が同定されてしまう。

チェックリスト

サイコパシー・チェックリスト(PCL)

最も一般的に用いられているのは、ロバート・D・ヘアによって作成されたサイコパシー・チェックリスト英語版Psychopathy Checklist, Revised (PCL-R))である[34][35][36]

PCLは専門家が使う場合でも相当に複雑な臨床診断の道具であり、専門知識のない一般人が自分自身やそばにいる人をこれを使って診断してはならないとされている。この診断にはしっかりした訓練と、正式な採点方法が必要である。

サイコパシー・チェックリスト (PCL)
  1. 口達者/表面的な魅力
  2. 過去におけるサイコパスあるいは類似の診断
  3. 自己中心性/自己価値の誇大的な感覚
  4. 退屈しやすさ/欲求不満耐性の低さ
  5. 病的に嘘をついたり人を騙す
  6. 狡猾さ/正直さの欠如
  7. 良心の呵責あるいは罪悪感の欠如
  8. 情緒の深みや感情の欠如
  9. 無神経/共感の欠如
  10. 寄生虫的な生活様式
  11. 短気/行動のコントロールの欠如
  12. 乱交的な性関係
  13. 幼少期からの行動上の問題
  14. 現実的で長期的な計画の欠如
  15. 衝動性
  16. 親として無責任な行動
  17. 数多くの結婚・離婚歴
  18. 少年時代の非行
  19. 保護観察あるいは執行猶予期間の再犯の危険が高い
  20. 自分の行動に対する責任を受け入れることができない
  21. 多種類の犯罪行為
  22. 薬物やアルコールの乱用が反社会的行動の直接の原因ではない
  • 各項目は、「0, 1, 2」の3点法で採点し、臨床的には合計点で評価する。点数が高いほどサイコパスの特質を多く持っていることになる。
サイコパシー・チェックリスト改訂版 (PCL-R)[37]
  1. 口達者/表面的な魅力
  2. 誇大的な自己価値観
  3. 刺激を求める/退屈しやすい
  4. 病的な虚言
  5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)
  6. 良心の呵責・罪悪感の欠如
  7. 浅薄な感情
  8. 冷淡で共感性の欠如
  9. 寄生的生活様式
  10. 行動のコントロールができない
  11. 放逸な性行動
  12. 幼少期の問題行動
  13. 現実的・長期的な目標の欠如
  14. 衝動的
  15. 無責任
  16. 自分の行動に対して責任が取れない
  17. 数多くの婚姻関係
  18. 少年非行
  19. 仮釈放の取消
  20. 多種多様な犯罪歴
  • それぞれの項目は、0 - 2点で評定、総計で0 - 40点に分布する。
  • 成人で30点を超えるとサイコパスとされ、20点未満であるとサイコパスではないとみなされる。
  • 子供のサイコパス傾向についての基準はあまり確立していないが、27点がカットオフ値。
サイコパシー・チェックリスト (PCL-R) をめぐる論争

サイコパシーの尺度の一つとして、PCL-Rは確かに有用ではあるが、PCL-Rが「サイコパスの定義」と誤解されることが危惧されており、特に犯罪歴に関する項目が含まれている点に関しては強い批判がある[38]。これに対して、ロバート・ヘアらは、「サイコパスであるためには、広義の意味で反社会的(: antisocial)であることは必須であるが、犯罪的(: criminal)であることは必ずしも必須ではない」と認めている[39]。これにより、かつてハーヴェイ・クレックレーがその著書「The Mask of Sanity(正気の仮面)」で示唆した、非犯罪的サイコパスないし“成功した”サイコパス[* 6]の存在が再認識された。“成功した”サイコパスと呼ばれる者たちの多くは、大統領や大企業のCEOなど、社会的成功を収めている人物だといわれている。

サイコパスの2因子モデル
因子1:対人/情動面 因子2:衝動的/反社会的行動面 因子3:どちらにも含まれない項目
1. 口達者/表面的な魅力 3. 刺激を求める/退屈しやすい 11. 放逸な性行動
2. 誇大的な自己価値観 9. 寄生的生活様式 17. 数多くの婚姻関係
4. 病的な虚言 10. 行動のコントロールができない 20. 多種多様な犯罪歴
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る) 12. 幼少期の問題行動
6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 13. 現実的・長期的な目標の欠如
7. 浅薄な感情 14. 衝動的
8. 冷淡で共感性の欠如 15. 無責任
16. 自分の行動に対して責任が取れない 18. 少年非行
19. 仮釈放の取消
サイコパスの3因子モデル
尊大で虚偽的な対人関係 感情の欠落 衝動的/無責任 どの因子にも含まれない項目
1. 口達者/表面的な魅力 6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 3. 刺激を求める/退屈しやすい 10. 行動のコントロールができない
2. 誇大的な自己価値観 7. 浅薄な感情 9. 寄生的生活様式 11. 放逸な性行動
4. 病的な虚言 8. 冷淡で共感性の欠如 13. 現実的・長期的な目標の欠如 12. 幼少期の問題行動
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る) 16. 自分の行動に対して責任が取れない 14. 衝動的 17. 数多くの婚姻関係
15. 無責任 18. 少年非行
19. 仮釈放の取消
20. 多種多様な犯罪歴

原因、脳の特徴

先天的な原因があるとされ、男性が多いとされるが[40]、B・ブレアによれば反社会性の面では男性優位であるが、情動面では男女に差はないという。脳の働きを計測すると、共感性を司る部分の働きが弱い場合が多いという[40]反社会性パーソナリティ障害の一般人口における有病率は、男性3%、女性1%ほど[41]

ジェームズ・ファロン(自らがサイコパスと同じ脳構造を持っているという脳科学者)は「三脚スツール」という理論を提唱し[42]、「反社会的行動をするサイコパス」の発現条件として以下3つの要素全てが揃うこととしている。

  1. 脳機能:前頭前野から扁桃体へつながる機能の低下
  2. 遺伝子:MAO-A遺伝子などいくつかの遺伝要因
  3. 生育環境:幼少期の身体的、精神的、性的虐待

ファロン自身が患っている疾患は双極性障害、強迫性障害、パニック発作。遠い親族に殺人者、殺人嫌疑者、兄弟にADHDがおり、本人の行為障害的行動についても語っている[43]。ジェームズ・ブレアは扁桃体の機能不全こそがサイコパスの主な原因とするが、その原因については不明としている。

現時点で言えることは、以下の2点である。

  • 脳の機能について、遺伝の影響は大きい
  • 生育環境が引き金になって反社会性が高まる可能性がある

虐待や劣悪な環境を避けることで反社会性の発現のいくらかは抑えられるという研究がある[44][要ページ番号]

脳の特徴

管理

英国国立医療技術評価機構(NICE)は精神病質の診断基準を満たす人口に対しては、認知行動介入を検討するとしている[47]。また併発疾患を治療することで、精神病質によるリスクを減少させることができる[47]。また、これに携わるスタッフは有害事象リスクが高いため、スタッフには高レベルの支援と厳重な監督が提供されなければならないとしている[47]


注釈

  1. ^ 良心をもたない人たち』では、訳者あとがきにも述べられているように、ソシオパス、反社会性パーソナリティ障害、サイコパスがほとんど区別されていない。
  2. ^ 原文は“Psychopaths are some of the worst people in the world. They do terrible things. So should we be putting the world in the hands of people who are low empathy or psychopathic?”
  3. ^ ハーバード大学の専門家グループによる非専門家向けの啓蒙書『サイコパスとサイコパシーに関する考察:よくある質問に対する答えと事例 ("Thinking About Psychopath and Psychopathy: Answers to Frequently Asked Questions With Case Examples")』(2006) - iUniverse によれば、「ジム・ジョーンズが何の精神疾患を有していたかは多少の議論の余地はある。彼について知られている全てのことに基づいて言えば、彼は完全サイコパスであったように思われる」(同、148頁)とある。ジム・ジョーンズは、子供の頃から猫を殺してお葬式ごっこをするなどの行為障害がみられた(Stanley Nelson, “Jonestown: The Life and Death of the People’s Temple,” Fireflight Media, October 20 2006, compact disk, https://www.youtube.com/watch?v=ydHRESPjBxg.)が、成人後はインディアナポリス人権委員会(Indianapolis Human Rights Commission)委員長、サンフランシスコ住宅管理委員会(San Francisco Housing Authority Commission)委員長といった公職を歴任し、当時の大統領夫人ロザリン・カーター(Rosalynn Carter)の表敬訪問も受けている(Reiterman, Tim, and John Jacobs. Raven: The Untold Story of Rev. Jim Jones and His People. Dutton, 1982. ISBN 978-0-525-24136-2,p.66,p.266,p.303)ので、成功したサイコパスであったともいえる。ジム・ジョーンズは、成功したサイコパスと完全サイコパスが必ずしも相反する概念ではないことを示す好例である。
  4. ^ テッド・バンディは、サイコパシーのポスターボーイとして有名であるが、実際には少年期犯罪や早期の行為障害がなく、PCL-R の得点もサイコパスと呼ばれるには少し足りない。サイコパシーの特性を示さなかったわけではないが、典型的なサイコパスとはいえない(『Thinking About Psychopath and Psychopathy: Answers to Frequently Asked Questions With Case Examples』, p.204)。
  5. ^ 内田クレペリン精神検査の元となる「作業曲線」を発見した人物。
  6. ^ ただし、クレックレー自身は「部分的サイコパス(: partial psychopath)」という言い方をしている。このタイプのサイコパスは、例えば、『社内の「知的確信犯」を探し出せ』において、「デイヴ」というキャラクターを用いて素人向けに説明されている。

出典

  1. ^ 小学館 2020, p. 「精神病質」.
  2. ^ Britannica Japan Co., Ltd. 2020, p. 「精神病質」.
  3. ^ 赤羽 2012, p. 108.
  4. ^ 加戸 et al. 2013, p. 15.
  5. ^ Lykken, D. T. "The Antisocial Personalities", Psychology Press, 1 edition (May 3, 1995), 7頁。
  6. ^ http://karapaia.com/archives/52252648.html
  7. ^ 原田隆之による書籍の抜粋記事、100人に1人がサイコパス?!──身近な「冷血」とどう付き合うか 原田隆之『サイコパスの真実』より じぶん堂
  8. ^ 『サイコパス』中野信子,文春新書
  9. ^ 『サイコパスの真実』(原田隆之、ちくま新書)
  10. ^ CG77: Antisocial personality disorder: Treatment, management and prevention (Report). 英国国立医療技術評価機構. (2009-01). http://www.nice.org.uk/guidance/cg77/. 
  11. ^ 『サイコパス』文春新書P194
  12. ^ サイコパス-冷淡な脳-、25p
  13. ^ a b 英国心理学者 サイコパスが多い職場上位10を発表
  14. ^ 『サイコパスの真実』(原田隆之、ちくま新書)
  15. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  16. ^ 『サイコパス』文春新書
  17. ^ 『サイコパス』文春新書P221
  18. ^ a b c Moralities of Everyday Life Week 2 Office Hours (2015) https://www.coursera.org/lecture/moralities/week-2-office-hours-2015-5Ohrr
  19. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  20. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  21. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  22. ^ https://keiei.proweb.jp/news/1/1375/1883/
  23. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  24. ^ Lerner, M.J. & Montada, L. (1998). An Overview: Advances in Belief in a Just World Theory and Methods, in Leo Montada & M.J. Lerner (Eds.). Responses to Victimizations and Belief in a Just World (1–7). Plenum Press: New York.
  25. ^ Liars' Brains Wired Differently https://news.usc.edu/22586/Liars-Brains-Wired-Differently/
  26. ^ Can victims become like the psychopath?(サイコパスの犠牲者はサイコパスのようになりますか?) http://www.lovefraud.com/2008/10/03/can-victims-become-like-the-psychopath/
  27. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 『Snakes in suits』p194、診断名サイコパスp32
  28. ^ Clive R. Boddy (2011). “The Corporate Psychopaths Theory of the Global Financial Crisis”. Journal of Business Ethics (Springer) 102 (2): 255-259. doi:10.1007/s10551-011-0810-4. http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10551-011-0810-4. 
  29. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  30. ^ ためらいなくハラスメントを起こす「職場のサイコパス」があなたの隣にもいる?~筑波大学人間系教授 原田 隆之氏インタビュー アスクル みんなの仕事場
  31. ^ 『サイコパス』文春新書 P24~30
  32. ^ Moralities of Everyday Life
  33. ^ サイコパス-冷淡な脳-第二章
  34. ^ Hare, Robert D.; Neumann, Craig S. (2008). “Psychopathy as a Clinical and Empirical Construct”. Annual Review of Clinical Psychology 4 (1): 217-46. doi:10.1146/annurev.clinpsy.3.022806.091452. PMID 18370617. http://www.hare.org/references/HareandNeumannARCP2008.pdf. 
  35. ^ Handbook of Personology and Psychopathology Stephen Strack, John Wiley & Sons, 21 Jan 2005. Chapter 15: Psychopathy as a Personality Construct (Ronald Blackburn).
  36. ^ Thinking about Psychopaths and Psychopathy: Answers to Frequently Asked Questions "What are the differences between the psychopathy definitions designed by Hare and by Cleckley?" Editor: Ellsworth Lapham Fersch. iUniverse, 30 Oct 2006
  37. ^ Hare RD. Manual for the Hare Psychopathy Checklist-Revised. Multi-Health Systems, 1991.
  38. ^ Skeem JL, Cooke DJ, "Is Criminal Behavior a Central Component of Psychopathy? Conceptual Directions for Resolving the Debate", Psychological Assessment, Volume 22, Issue 2, June 2010, Pages 433-445.
  39. ^ Hare RD, Neumann CS. "The role of antisociality in the psychopathy construct: Comment on Skeem and Cooke (2010)", Psychological Assessment, Volume 22, Issue 2, June 2010, Pages 446-454.
  40. ^ a b 日経サイエンス2013年2月号サイコパス特集
  41. ^ CG77: Antisocial personality disorder: Treatment, management and prevention (Report). 英国国立医療技術評価機構. (2009-01). http://www.nice.org.uk/guidance/cg77/. 
  42. ^ サイコパス・インサイド117p
  43. ^ サイコパス・インサイド33p 185p
  44. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  45. ^ https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2019/09/26/8535/
  46. ^ https://toyokeizai.net/articles/-/60647?page=2
  47. ^ a b c 英国国立医療技術評価機構 2009, Chapt.1.5.
  48. ^ Moralities of Everyday Life https://www.coursera.org/learn/moralities/
  49. ^ "Handbook of Psychopathy", Christopher J. Patrick PhD (Editor), The Guilford Press; 1 edition (October 18, 2005), 23, The "Successful" Psychopath, Jason R. Hall & Stepen D. Bennings, Conceptualization of noncriminal psychopathy, 460頁。






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