精神刺激薬 精神刺激薬の概要

精神刺激薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/22 03:33 UTC 版)

デキストロアンフェタミン英語版メタンフェタミンを含むアンフェタミン[5]コカインカフェインや他のキサンチン類、ニコチンメチルフェニデートが含まれる[1]。ということは、日本におけるアンフェタミン類の覚醒剤を含むものである。a-PVP英語版のような新規向精神薬(NPDs)のデザイナードラッグも含む。メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)は化学構造としてアンフェタミン類に分類される。しかし幻覚作用を有し特性が異なる[6]

関連障害の単位としては、世界保健機関はコカインと、それ以外のものに分け[1]ているがタバコの分類もある[7]アメリカ精神医学会は、アンフェタミン様の作用を持つものと、コカイン、またニコチンとカフェインに分類している[8]。共にMDMAは、幻覚剤に分類される[1][9]

定義

訳語の問題

次に訳語の問題があり、訳語が一定していない。同じような薬物を表すstimulantという単語に対して興奮剤、覚醒剤、刺激薬といった訳語が混在してきた。

Excitantica(analeptica, stimulanta) (1916年の簡易処方集におけるドイツ語の日本語訳)
脳興奮剤[10]。カフェインが含まれている。

日本における乱用が問題となってくることによって取締法が制定される。

Stimulant Control Law(法務省刑事局の日本語訳)
覚醒剤取締法[11]。1951年の法律である。しかし、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)での日本の厚生省の報告では、「覚醒剤(awakening drugs)」として知られる「興奮剤ないし精神刺激薬(Stimulant)」と報告し[12]、覚醒アミンあるいはアンフェタミン類である[13]
Analeptics and nervous system stimulants(総務省による1949年の薬効分類の翻訳)
興奮剤、覚せい剤[14]。1949年の分類である。
central nervous system stimulants(総務省による1964年と1990年の薬効分類の翻訳)
興奮剤、覚せい剤[15][4]。1964年改定と、1990年改定で同一のもの。Analepticsの語は無くなった。
stimulant drugs(医学書『モーズレイ処方ガイドライン』における翻訳)
刺激性薬物である。なお、コカインやアンフェタミンを説明している[16]

『グッドマン・ギルマン薬理書』第12版では、英単語が見当たらないが、「興奮薬」にてコカインやアンフェタミン、カフェインに言及している[17]

日本の法律

日本では、第二次世界大戦後に、アンフェタミンと特にメタンフェタミンの注射剤の乱用が問題となった。このため、1951年(昭和26年)6月30日に覚醒剤取締法が公布される。「日本の法律上の覚醒剤」が規定されている。

この法律の日本語訳は、法務省刑事局の『法律用語対訳集』によれば、Stimulant Control Lawである[11]。しかし、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)における厚生省の報告ではAmphetamines Control Law[13][12]、UNDOCの認識やユネスコでの厚生省麻薬課の報告では、Awakening Drug Control Lawである[18][19]

第二条 この法律で「覚せい剤」とは、左に掲げる物をいう。
一 フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
二 前号に掲げる物と同種の覚せい作用を有する物であつて政令で指定するもの

三 前二号に掲げる物のいずれかを含有する物 — 覚醒剤取締法

第三条に規定されるように、医療および研究上の使用は認められている。

なおコカインやMDMAは「日本の麻薬取締法における麻薬」である。

世界保健機関

1961年の麻薬に関する単一条約は、第二次世界大戦後に解体した国際連盟による万国阿片条約を、国際連合および世界保健機関が引き継いだことによって締結された国際条約である[20]。これはコカインなどの使用も制限している[20]。当時、コカインは飲料のコカ・コーラなどにも含まれ乱用が問題となったためである。ただし、麻薬に関する単一条約の第30条(b)(i)および(ii)は、個人の治療に関して、処方箋を要して施用するための規定である。「コカインは国際条約上の麻薬」である。

しかし、麻薬に関する単一条約が公布される過程においても、1956年の「沈溺性薬物に関する世界保健機関専門委員会」は、日本におけるアンフェタミンの乱用を問題に挙げ、同時に睡眠薬のようなトランキライザーの国際的な乱用も問題に挙げた[21]。1963年には、「依存性薬物に関する世界保健機関専門委員会」と名を変えた委員会は、中枢神経系に対して鎮静あるいは覚醒作用のある鎮静剤や精神刺激薬(stimulants)の乱用が、麻薬の乱用のような問題となっていることを懸念し、新たな規制条約につながっていった[22]

1971年の向精神薬に関する条約において新たな規制の範囲が示された。条約の翻訳文では、stimulationに興奮の字をあてている。

1) A state of dependence, and
2) Central nervous system stimulation or depression, resulting in hallucinations or disturbances in motor function or thinking or behaviour or perception or mood, or
(i) (1)依存の状態及び
(2)幻覚をもたらし又は運動機能、思考、行動、知覚若しくは感情に障害を起こす中枢神経系の興奮又は抑制

— 向精神薬に関する条約 (PDF) (外務省)

アンフェタミンやメタンフェタミン、メチルフェニデートなどが同じスケジュールIIに指定され規制管理下にある[23]。後の、1984年の世界保健機関の会議では、乱用が流行していたMDMAは医療価値がないとしてスケジュールIに規定された[24]。同条約の1条(e)に定義されるように、これらは「国際条約上の向精神薬」である。

疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10)では、stimulantに精神刺激薬の語を用いている。

stimulants, including caffeine

カフェインおよび他の精神刺激薬

— 『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10):DCR研究用診断基準[2]

For stimulant drugs such as cocaine and amfetamines[25]
コカインやアンフェタミンのような刺激性の薬物の場合[26]

— 『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10):臨床記述と診断ガイドライン

世界保健機関の『アルコールと薬物の用語集』においては、精神刺激薬(Stimulant)とは、中枢神経系に作用し、神経活動を増加させ、主要な作用が刺激作用である薬物であり、アンフェタミン類、コカイン、カフェインや他のキサンチン類、ニコチン、メチルフェニデートフェンメトラジン英語版のようなものを挙げ、ICD-I0においてはコカインによるものと、カフェインを含む他の精神刺激薬によるものに分けているということである[1]。なおMDMAは幻覚剤に分類されている[27]

最近の世界保健機関の文書では、精神刺激薬に分類される薬物は、コカイン、ニコチン、カフェイン、アンフェタミン、メタンフェタミンといった中枢神経系の活動を増加させる薬物である[6]。したがってメチルフェニデートも含まれる[28]MDMAは、精神刺激薬に属するが幻覚特性があり[6]、依存性がないなど異なった特徴を持つ[29]

アメリカ精神医学会

精神障害の診断と統計マニュアル』第4版(DSM-IV)では、アンフェタミン(またはアンフェタミン様)関連障害に、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、メタンフェタミンのような置換されたフェニルアラニン構造をもつものすべてと、メチルフェニデートのように構造は異なるが同様の作用を有する物質やカートを含め、作用がコカインに似ているがコカインのように局所麻酔効果のないものを想定している[30]。DSM-IVの日本語訳書では、コカインやアンフェタミンを指すのに精神刺激薬と興奮剤の語が両方用いられている。MDMAは、幻覚剤に分類される[9]

DSM-5においては、上位に精神刺激薬関連障害群(Stimulant—Related Disorders)を用意し、この下位に、アンフェタミン型、コカイン、他のまたは特定不能の精神刺激薬が分類される[3]

化学

アンフェタミン、デキストロアンフェタミンはその活性型右旋性異性体である[31]

メチルキサンチン類は、カフェインやテオフィリンが含まれる[31]


  1. ^ a b c d e f g 世界保健機関 1994, pp. 59–60.
  2. ^ a b 世界保健機関 2008, p. 63.
  3. ^ a b アメリカ精神医学会『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』日本精神神経学会日本語版用語監修・高橋三郎・大野裕監訳・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉訳、医学書院、2014年6月30日。ISBN 978-4260019071 
  4. ^ a b 中分類87医薬品及び関連製品 第五回改定(pdf)(総務省)
  5. ^ 世界保健機関 1994, p. 15.
  6. ^ a b c 世界保健機関 2009, p. 3.
  7. ^ 世界保健機関 2005, p. 81.
  8. ^ アメリカ精神医学会 2004, pp. 220-221、228、259.
  9. ^ a b アメリカ精神医学会 2004, p. 246.
  10. ^ 栗林景英(編)『簡易処方集-和独対訳』南山堂書店、1916年、103頁。 
  11. ^ a b 法務省刑事局『法律用語対訳集-英語編』(改訂版)商事法務研究会、1995年、12頁。ISBN 4785707135 
  12. ^ a b c d Masamutsu Nagahama (1968). “A review of drug abuse and counter measures in Japan since World War II”. U.N. Bulletin on Narcotics 20 (3): 19-24. https://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/bulletin/bulletin_1968-01-01_3_page004.html. 
  13. ^ a b Kiyoshi Morimoto (1957). “The problem of the abuse of amphetamines in Japan”. U.N. Bulletin on Narcotics 9 (3): 8-12. https://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/bulletin/bulletin_1957-01-01_3_page003.html. 
  14. ^ 中分類34医薬品および関連製品 第一改定(pdf)(総務省)
  15. ^ 中分類34医薬品および関連製品 第三改定(pdf)(総務省)
  16. ^ David Taylor, Carol Paton, Shitij Kapur『モーズレイ処方ガイドライン』(第10版)アルタ出版、2011年、323頁。ISBN 978-4-901694-45-2 、The Maudsley Prescribing Guideline 10th Edition, 2009
  17. ^ Laurence Brunton(編集), Bjorn Knollman(編集), Bruce Chabner(編集) 2013, pp. 825、841.
  18. ^ a b Smart RG (1976). “Effects of legal restraint on the use of drugs:a review of empirical studies”. U.N. Bulletin on Narcotics 28 (1): 55–65. PMID 1046373. http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/bulletin/bulletin_1976-01-01_1_page006.html. 
  19. ^ Motohashi, Nobuo (1973). Countermeasures for drug abuse in Japan Document code:MCE/D/7;MCE/3489/19.12.72. http://unesdoc.unesco.org/Ulis/cgi-bin/ulis.pl?catno=1851. 
  20. ^ a b 松下正明(総編集) 1999, pp. 109–110.
  21. ^ a b 世界保健機関 (1957) (pdf). WHO Expert Committee on Addiction-Producing Drugs - Seventh Report / WHO Technical Report Series 116 (Report). World Health Organization. pp. 9-10. http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_116.pdf.  記述はabuse of amphetmineである。
  22. ^ 世界保健機関 (1965) (pdf). WHO Expert Committee on Dependence-Producing Drugs - Fourteenth Report / WHO Technical Report Series 312 (Report). World Health Organization. pp. 9-10. http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_312.pdf.  記述は"sedatives" and "stimulants"である。
  23. ^ 松下正明(総編集) 1999, p. 114.
  24. ^ 世界保健機関 (1985) (pdf). WHO Expert Committee on Drug Dependence - Twenty-second Report / WHO Technical Report Series 729 (Report). World Health Organization. pp. 25. ISBN 92-4-120729-9. http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_729.pdf. 
  25. ^ 世界保健機関 1992, p. 73.
  26. ^ 世界保健機関 2005, p. 90.
  27. ^ 世界保健機関 1994, p. 39.
  28. ^ 世界保健機関 2004, pp. 2.
  29. ^ 世界保健機関 2004, pp. 96–100.
  30. ^ アメリカ精神医学会 2004, pp. 220–221.
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  32. ^ a b Laurence Brunton(編集), Bjorn Knollman(編集), Bruce Chabner(編集) 2013, p. 825.
  33. ^ a b c d e 世界保健機関 2004, pp. 174–175.
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  37. ^ 立津政順、後藤彰夫、藤原豪共著 1956, pp. 3–4.
  38. ^ 立津政順、後藤彰夫、藤原豪共著 1956, p. 5.
  39. ^ a b c d 風祭元「第10章:向精神薬の長期大量多剤併用療法と副作用」『日本近代精神科薬物療法史』アークメディア、2008年、73-82頁。ISBN 978-4-87583-121-1 
  40. ^ a b 立津政順、後藤彰夫、藤原豪共著 1956, pp. 序-1.
  41. ^ 立津政順、後藤彰夫、藤原豪共著 1956, pp. 8–9.
  42. ^ a b 山下格、森田昭之助編集『覚醒剤中毒』金剛出版、1980年。25、39、41頁。
  43. ^ 松下正明(総編集) 著、編集:牛島定信、小山司、三好功峰、浅井昌弘、倉知正佳、中根允文 編『薬物・アルコール関連障害』中山書店〈臨床精神医学講座8〉、1999年6月、118-119頁。ISBN 978-4521492018 
  44. ^ 『塩酸メチルフェニデート製剤(リタリン、コンサータ)の取扱いに関する関連通知等』(プレスリリース)厚生労働省、2007年https://www.mhlw.go.jp/topics/2007/12/tp1219-2.html2014年6月29日閲覧 
  45. ^ United Nations Office on Drugs and Crime (UNODC) (2011-04) (pdf). Synthetic cannabinoids in herbal products (Report). https://www.unodc.org/documents/scientific/Synthetic_Cannabinoids.pdf. 
  46. ^ 厚生労働省 (2 August 2011). 指定薬物部会審議会議事録.


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