社会保障 社会保障の概要

社会保障

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/16 15:19 UTC 版)

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OECD各国のGDPに占める社会的支出割合(公費および私費)[1]

社会保障の目的は多くの国で共通するが、言葉の意味するところは国によって異なる。たとえばイギリスでは、Social Security(社会保障)は経済的保障のみを指す。国際労働機関欧州連合などではSocial Securityに代えてSocial Protection(社会保護、社会的保護)という言葉も用い、経済協力開発機構(OECD)の統計ではSocial Expenditure(社会支出)の概念を採用するなど[1]、国際比較や統計処理のために様々な分類を行っている。

その財源については、一般税収を原資とする方式(ベバリッジ型)と、労使で保険料を拠出する方式(ビスマルク型)に分かれる[3]。後者については社会保険制度とも呼ばれる。

財政規模

OECD諸国における公的社会的支出(2011年)[1]
人口一人あたり
支出(PPP米ドル)
GDPに占める
割合(%)
GNIに占める
割合(%)
NNIに占める
割合(%)
政府一般支出
占める割合(%)
メキシコの旗 メキシコ 1,260 7.7 7.8 8.8 32.9
 チリ 2,045 10.1 10.7 12.3 ..
大韓民国の旗 韓国 2,611 9.0 9.0 10.3 29.8
イスラエルの旗 イスラエル 6,555 20.7 21.7 25.4 47.5
カナダの旗 カナダ 7,211 17.4 17.7 21.3 42.6
オーストラリアの旗 オーストラリア 7,671 17.8 18.3 21.7 48.9
日本の旗 日本 7,981 23.1 22.4 28.2 55.1
OECD平均 7,981 21.4 22.4 26.7 47.9
イギリスの旗 イギリス 7,991 22.7 22.5 25.3 47.3
スペインの旗 スペイン 8,617 26.8 27.3 32.7 58.6
イタリアの旗 イタリア 9,325 27.5 27.7 33.6 55.4
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 9,375 19.0 18.6 22.1 45.5
アイルランドの旗 アイルランド 9,592 22.3 27.5 31.4 47.4
スイスの旗 スイス 9,961 19.3 19.1 23.3 57.4
オランダの旗 オランダ 10,133 23.5 23.4 27.5 47.1
ドイツの旗 ドイツ 10,471 25.5 25.0 29.3 56.6
 フィンランド 10,934 28.3 28.2 33.6 51.4
 スウェーデン 11,363 27.2 26.6 30.5 52.8
フランスの旗 フランス 11,419 31.4 30.7 35.7 56.2
 デンマーク 12,578 30.1 29.3 34.9 52.1
 ノルウェー 13,506 21.8 21.6 25.0 49.7

社会保障給付と税・保険料負担の大きさを比較し、北欧諸国は「高福祉・高負担」、アメリカは「低福祉・低負担」の代表例と言われている(ただしアメリカは公的支出は小さいが私的支出はOECD各国で最大であり、慈善団体の果たす役割が大きい[1])。

制度財源は国によって様々であり、社会保障財政を政府一般会計から分離して運営する場合には社会保障基金(Social security Funds)と呼ばれる[4]

財源

原資を雇用者または雇用主(あるいはその両者)にて供出する場合は社会保険制度(Social insurance)、ビスマルク型と呼ばれる[5][3]。ドイツ、フランスなどが該当する[3]

それに対して、一般税収を原資として給付を行う方式をベバリッジ型と呼ぶ[3]スウェーデンデンマークなどの北欧諸国や[3]、社会保険制度のないオーストラリアニュージーランドなどが該当する[6]

欧州連合の旗 欧州連合における社会保護費の拠出セクター(Social Protection receipts)(2005年、%)[7][3]
企業 一般政府 家計 非営利団体 国外から
小計 中央政府 地方政府 社会保障基金
アイルランドの旗 アイルランド 21.7 62.8 56.9 5.9 0.0 15.3 0.1 0.0
イギリスの旗 イギリス 27.5 54.3 51.2 3.1 0.0 16.3 1.8 0.0
イタリアの旗 イタリア 18.4 54.0 38.8 14.9 0.3 17.5 0.2
オーストラリアの旗 オーストラリア 32.1 38.7 23.7 14.9 0.1 27.4 0.1 0.0
ギリシャの旗 ギリシャ 26.7 46.5 44.6 1.9 0.0 23.0 0.9 2.8
 スウェーデン 29.9 60.4 10.6 37.1 2.3 9.0 0.7
スペインの旗 スペイン 37.4 40.5 8.7 31.5 0.3 16.3 0.1 1.0
 デンマーク 6.8 66.7 27.2 39.5 0.0 18.5 8.0 0.0
ドイツの旗 ドイツ 27.6 42.6 23.8 18.4 0.4 28.2 1.6 0.0
 フィンランド 22.0 66.3 33.0 27.2 6.1 11.4 0.3 0.0
フランスの旗 フランス 37.6 5.5 0.1
ベルギーの旗 ベルギー 43.5 33.9 22.6 7.6 3.8 22.6 0.0 0.0
ポルトガルの旗 ポルトガル 27.9 52.0 50.9 1.1 0.0 23.8 1.7 2.2
ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク 19.0 54.9 53.2 1.5 0.3 17.2 0.6 8.2

歴史

社会保障の歴史は、経済社会の動きと密接に関係しており、社会保障の仕組みは、各国が長い歴史の中で、相互に影響を与えながら積み重ねてきたものである。19世紀から20世紀にかけては、各国で失業問題が最大の課題であり、その中から社会保障が進展してきた。また、本来、福祉とは正反対の戦争が契機となって社会保障の基礎がスタートした。21世紀の先進各国では少子高齢化と財源確保が社会保障の大きな課題である。

救貧法

大航海時代は、世界貿易を発展させ、商業の一大変革をもたらした。毛織物工場を刺激し、輸出を志向するエンクロージャー(囲い込み)政策により、イギリス農業地帯はいっせいに羊牧場へ変わっていった。農地から追い出された農民たちは都市へ流れ込み無産者(貧民)となった。1601年、イギリスではこれまでの救貧施策をまとめた(エリザベス救貧法)、家族による支援が得られない貧困者を救済する法を制定した。この救貧法(Poor Law)は現在の公的扶助にいたる原形となるが、当時社会保障という言葉は生まれていなかった。1834年に救貧法の大改正が行われ、貧民処遇の一元化や中央集権化が図られた。新救貧法では、貧困者は救貧院に収容されて、そこで働かされることになった。救貧の水準について「自立して働いている人のうちのもっとも貧しい人の生活水準以下で救済する」という、劣等処遇の原則や院外救済の禁止、市民権の剥奪などが確立されていったが、その劣等処遇の過酷さに社会的批判が高まるようになる。

社会保険の誕生

産業革命により資本主義が定着していくと、資本家から失業は個人の問題であり国による貧民救済は有害との主張がなされた。一方、工場労働者たちも防貧のために、自分たちの賃金の一部を出し合って助け合う共済組合を作っていった。共済組合はイギリスでは友愛組合、ドイツでは疾病金庫などの名前で親しまれ、主に疾病と失業による雇用の中断の際の経済的保障を提供していた。これらは、共済内メンバーの所得保障等に寄与したが、一方で共済外の高齢者(退職した労働者)の貧困問題には対処できなかった。また、小規模の助け合いの仕組みでは給付水準も限られ不安定であった。

1883年、ドイツで初めて疾病保険が制定された。1884年には労災保険1889年には年金保険が制定された[3]。このように、社会保険制度を創設しつつ社会主義運動を弾圧する鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクの政策は「飴とムチ」の政策と呼ばれる。疾病保険は、既存の共済組合を利用したもので、経費の公費負担はなかったが、労災保険の費用は全額事業主負担だった。年金保険は30年以上保険料を払い込んだ70歳以上の高齢者に給付を行うものであり、公費負担が3分の1だった。ドイツで始まった社会保険の仕組みは、その後世界各国で導入されるようになる[3]

ベヴァリッジ報告

1929年ウォール街での株の大暴落を契機として始まった世界大恐慌により、世界各国には大量の失業者があふれ、社会不安が増大した。アメリカでは、フランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策の一環として1935年に連邦社会保障法(Social Security Act)を制定した。社会保障という言葉はこのとき初めて使われたが、この連邦社会保障法は、老齢年金、失業保険、障害者扶助、母子衛生及び児童福祉事業等をその内容としており、必ずしも、今日使われているような社会保障を意味するものではなかった。

社会保障という言葉が、国際的に本格的に使われるようになったのは、ベヴァリッジ報告以後である。イギリスでは、戦時中の1942年ウィリアム・ベヴァリッジが「社会保険と関連サービス」と題したベヴァリッジ報告書を提言し、その後、多くの国の社会保障の発展に大きく影響を与えることになる[3]。この報告では、社会保険制度を中心とし、公的扶助・関連諸サービスを総合し、「ゆりかごから墓場まで」をスローガンにした社会保障計画を提唱した[3]戦後の社会保障の理想的体系(ナショナル・ミニマムの保証)を示したものであり、社会保険制度については均一拠出と均一給付を採用していた[3]

世界人権宣言

第二次世界大戦後、貧困が社会不安と戦争の惨禍を生んだことから、世界人権宣言は前文で『恐怖と欠乏からの自由』その第22条で社会保障を人権の一つとして明記した。

「全て人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展に欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。」

この項目は、1961年に採択された欧州社会憲章と1966年に採択された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」により基本的人権である社会権の一つとして法定拘束力を与えられた。

社会保障の拡充

戦後期には、多くの先進国で社会保障が拡充された。

ケインズ主義の受容によって消極国家から積極国家へと転換したことにより、財政政策を通じた市場への介入と同時に社会保障政策を通じた市民生活への介入も正統性を得た。

社会保障(たとえば公的扶助失業給付)の対象となる受給者が膨大であれば財政を大いに圧迫してしまうため、ケインズ主義政策による完全雇用の実現は社会保障の質的向上の必要条件である。

大量生産が実現して資本主義がフォーディズム段階に至ると、労働者に単純労働を強いる代償として社会保障の拡充が容認されうる。

社会保障を通じた所得再分配は大量生産の受け皿である国内需要の拡大に寄与する。

特に開放経済の諸国においては、賃上げ抑制の見返りとして、政府が社会保障を拡充する。

社会保障の充実は必ずしもプラスの効果ばかりをもたらすものではなく、社会保障制度が充実するにつれて、

  1. 労働供給への影響
  2. 資本蓄積への影響
  3. モラルハザード

というマイナスの効果も認識されるようになった[8]

先進諸国での社会保障の見直し

1970年代からオイルショックを契機とした先進諸国が低成長化によって税収が減少、社会保障の抑制の必要性がされるようになる。高齢者への無償福祉や低額福祉導入後、先進諸国における人口の急激な高齢化・少子化は社会保障の役割と規模の拡大によって社会保障費が増大し続けている。

イタリアの医療はかつて健康保険組合方式をとっていたが、基金は1970年代にほぼ破産状態となり、英国NHSを手本とした租税原資による国民保健サービスに移行した[9]

フランスはビスマルク方式であり社会保険を主な財源としていたが、保険料の上昇を回避するために租税代替化を進めており、1991年から一般社会税フランス語版(CSG)が社会保障目的税として導入された[3]


  1. ^ a b c d OECD Social Expenditure Statistics (Report). OECD. (2011). doi:10.1787/socx-data-en. http://www.oecd.org/els/soc/expenditure.htm. 
  2. ^ glossary of statical terms -SOCIAL SECURITY SCHEMES”. OECD. 2015年3月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 片山 信子 (2008-10). “社会保障財政の国際比較 : 給付水準と財源構造”. レファレンス (国立国会図書館) 58 (10): 73-103. 
  4. ^ glossary of statical terms -SOCIAL SECURITY FUNDS - SNA”. OECD. 2015年3月1日閲覧。
  5. ^ glossary of statical terms -SOCIAL INSURANCE SCHEMES”. OECD. 2015年3月1日閲覧。
  6. ^ OECD 2014, pp. 29-30.
  7. ^ European Social Statistics - Social protection Expenditure and receipts - Data 1997-2005 (Report). 欧州連合. (2008-01-24). http://ec.europa.eu/eurostat/en/web/products-statistical-books/-/KS-DC-08-001. 
  8. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、179-180頁。
  9. ^ 松井和子「イタリアの医療制度改革」、『海外社会保障情報』第85巻、国立社会保障・人口問題研究所1988年12月
  10. ^ 社会保障費用統計 (Report). 厚生労働省. (2013年12月6日). 
  11. ^ 社会保障給付費、25年度に149兆円に 厚労省推計”. 日本経済新聞 (2012年3月30日). 2017年10月31日閲覧。
  12. ^ 社会保障費用統計, 厚生労働省
  13. ^ 小児科 医師不足を加速させている小児医療費無料化政策に強く抗議し 条例の撤廃を求める・・・:医療経営財務協会ホームページ
  14. ^ a b c d <1960~70年代>  キーワード:「“老人医療費無料化”がもたらしたもの」NHK
  15. ^ a b c d e 高校無償化で「バラマキ教育」の競争が始まる
  16. ^ a b c d 柏市議会議員 上橋泉 柏市政研究会 http://www16.plala.or.jp/kamihasi-izumi/kouki_kourei.htm
  17. ^ a b c d e 老人医療無料化制度の形成 と国民医療費呉 世榮
  18. ^ もう失敗できない」都知事の間違えない選び方 明大教授・元都副知事 青山佾
  19. ^ a b c 正々堂々と消費税導入を掲げて選挙に負けた男 あまりにも軽くなった政治家の言葉 | JBpress(日本ビジネスプレス)
  20. ^ [1]「佐藤優氏 消費税導入で日本の社会民主主義の矛盾が露わに」
  21. ^ 鄭子真 "中曽根内閣と消費税 : 導入失敗の過程" 大阪大学大学院国際公共政策研究科紀要論文 国際公共政策研究 vol.14 no.1 pp.191-205 2009年9月
  22. ^ 鎌倉治子 2008.
  23. ^ 第131回国会概観 参議院
  24. ^ a b 消費税5%への決定 村山富市 元総理大臣 2010年9月1日 日本記者クラブ
  25. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171114-00196208-toyo-bus_all&p=2
  26. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171114-00196208-toyo-bus_all&p=1


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