硫酸 日本国内の製造史

硫酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 06:27 UTC 版)

日本国内の製造史

国内最初の硫酸製造工場は、1872年5月20日(旧暦明治5年4月14日)、大阪市北区天満にある大阪造幣局に設置された。大阪造幣局創設の翌年である。貨幣に利用する合金の分離精製、および円形(えんぎょう/金属板を貨幣の形に打ち抜いたもの)の洗浄に用いるためである。当時の製造設備は硝酸法の一種である鉛室式であり、製造能力は1日当たり、180キログラムであった[17]

硝酸法のもう一つの製造方法である接触法の製造設備は日露戦争中である1905年に登場した。設置場所は、神奈川県平塚市にあった平塚海軍火薬廠である。製造能力は1日当たり、3,000キログラムであった。

工業的製法

硫酸の原料は亜硫酸ガスすなわち二酸化硫黄 (SO2) である。現在日本国内では銅などの非鉄金属製錬副産物を二酸化硫黄の原料としている。現在は日本国内では行われてはいないが黄鉄鉱などの焙焼でも得られ、石油脱硫による回収硫黄も原料となり得る。

硫酸は二酸化硫黄を酸化し水と反応させることで製造されている。

酸化の方法は大きく接触法と硝酸法に分かれる。歴史的には窒素酸化物触媒とする硝酸式(代表的なものは鉛室法)で製造されてきたが、製造できる硫酸の濃度が低く、装置とくに鉛室の鉛に起因する不純物も多くなってしまう。2004年現在、日本国内ではすべて接触法で硫酸を製造している。

接触法では、二酸化硫黄酸化するために五酸化二バナジウムを表面に付着させたペレットやタブレットを用いる(触媒の失活を抑えるための添加物に特色があり、各種触媒が開発された)[18]。固体触媒を使い二酸化硫黄ガスを直接酸化させるため不純物の少ない三酸化硫黄(無水硫酸)が得られる。

三酸化硫黄は水ときわめて激しく反応して、生成物が飛散しやすいため、吸収塔内で反応生成物である三酸化硫黄を濃硫酸に過剰に吸収させて発煙硫酸 (H2SO4·nSO3) とし、純水で希釈して最終製品である濃度が93 %、95 %、98 %の濃硫酸が得られる。得られた濃硫酸はプロセスに戻して三酸化硫黄の溶媒として用いるほかに、原料ガスの脱水にも用いられる[19]

補足1: 三酸化硫黄とは発熱を伴って激しく反応し、硫酸を生じる。その化学反応式を以下に示す。

補足2: 二酸化硫黄を二酸化窒素により酸化する硝酸法による硫酸製造の反応式。

補足3: 過酸化水素で酸化することによる方法

生産

硫酸はさまざまな肥料繊維薬品の製造に不可欠である。そのため、硫酸の生産能力は、一国の化学産業の指標となっている。2000年現在の年間生産量では、全世界の9600万トンのうち、中国が2400万トンを占める。次いで、アメリカ合衆国の960万トン、ロシアの830万トン、日本の710万トン、インドの550万トンである。中国とインドは5年間で生産量を約30%伸ばしており、ロシアも成長しているが、日本は微増にとどまり、アメリカ合衆国は減少している。

2016年度日本国内生産量は 6,460,710t、消費量は 762,555t である[20]


  1. ^ a b c 厚生労働省モデルSDS
  2. ^ a b Sulfuric acid safety data sheet”. arkema-inc.com. 2012年6月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。8/29/2021閲覧。 “Clear to turbid oily odorless liquid, colorless to slightly yellow.”
  3. ^ Sulfuric acid – uses”. dynamicscience.com.au. 2013年5月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。8/29/2021閲覧。
  4. ^ BASF Chemical Emergency Medical Guidelines – Sulfuric acid (H2SO4)”. BASF Chemical Company (2012年). 2019年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年12月18日閲覧。
  5. ^ Chenier, Philip J. (1987). Survey of Industrial Chemistry. New York: John Wiley & Sons. pp. 45–57. ISBN 978-0-471-01077-7. https://archive.org/details/surveyofindustri0000chen/page/45 
  6. ^ Hermann Müller "Sulfuric Acid and Sulfur Trioxide" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim. 2000 doi:10.1002/14356007.a25_635
  7. ^ Sulfuric acid”. 2019年2月21日閲覧。
  8. ^ Sulphuric acid drain cleaner”. herchem.com. 2013年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月7日閲覧。
  9. ^ a b D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)
  10. ^ M.J.Jorgentson, D.R. Hatter, J. Am. Chem. Soc., vol.85,878(1963).
  11. ^ a b シャロー 『溶液内の化学反応と平衡』 藤永太一郎、佐藤昌憲訳、丸善、1975年
  12. ^ a b c 田中元治 『基礎化学選書8 酸と塩基』 裳華房、1971年
  13. ^ a b F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年, 原書:F. ALBERT COTTON and GEOFFREY WILKINSON, Cotton and Wilkinson ADVANCED INORGANIC CHEMISTRY A COMPREHENSIVE TEXT Fourth Edition, INTERSCIENCE, 1980.
  14. ^ Greenwood, Norman N.; Earnshaw, A. (1997). Chemistry of the Elements, 2nd Edition, Oxford: Butterworth-Heinemann.
  15. ^ 湯川泰秀訳 『ストライトウィーザー有機化学解説(1)(第4版)』 広川書店、1995年
  16. ^ 国立天文台編『理科年表 平成25年』 p.388、丸善
  17. ^ 『造幣局百年史(資料編)』 大蔵省造幣局、1971年
  18. ^ 触媒懇談会ニュース No. 62 触媒学会シニア懇談会 January 1, 2014。2017年12月3日 閲覧 (PDF)
  19. ^ 三井造船技報 No. 200(2010-6)。2017年12月3日 閲覧 (PDF)
  20. ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
  21. ^ a b 化学大辞典編集委員会 『化学大辞典』 共立出版、1993年
  22. ^ M. S. Schmøkel, S. Cenedese, J. Overgaard, M. R. V. Jørgensen, Y.-S. Chen, C. Gatti, D. Stalke and B. B. Iversen, Inorg. Chem., 51, 8607 (2012).
  23. ^ E. B. Robertson and H. B. Dunford, J. Am. Chem. Soc., 86, 5080 (1964).






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