破壊的技術 破壊的技術と優良企業の凋落

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破壊的技術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/16 07:25 UTC 版)

破壊的技術と優良企業の凋落

ある時期に市場をリードする優良企業が新技術への対応に失敗して地位を失う現象はイノベーション研究のテーマの一つである[10]。例えばHenderson & Clark(1990)は、企業の組織構造は部品(モジュール)レベルの製品開発に特化されているがゆえに、製品アーキテクチャの変化をもたらすような新技術へは対応しづらくなると論じている[11]

だが、クリステンセンは、ハードディスクドライブ業界などにおいては、アーキテクチャの変化をもたらすような複雑な技術変化に問題なく対応できた優良企業であっても技術的には単純な新技術の対応に失敗して凋落する現象を観察した。優れた経営を行う企業がしばしば新技術への対応に失敗して凋落する理由として、クリステンセンは優れた経営を行っているがゆえに破壊的技術への投資が正当化されないからであると考えた[12]。ここでいう優れた経営とは、顧客の声をよく聞き、それに丁寧にこたえることを指す。この優れた経営の推進が破壊的技術に対応する際には企業をジレンマに(イノベーションのジレンマ)陥らせるとクリステンセンは論じた。

なぜなら、以下のような理由があるからである。[13]

  • 企業は収益を高め顧客と投資家を満足させなければならないため収益性の低い案件には投資しにくい。破壊的技術はその初期の段階では新しく小規模な顧客しか得られないうえに、従来の価値基準では性能的に劣るために投資を正当化しづらい。また、「顧客の声をよく聞く」という主要顧客を対象とした調査方法では新たな顧客の需要をつかむことも難しい。
  • 従来技術に対して最適化された組織の能力が状況が変化した際に足かせになってしまう。特に、インプットをアウトプットに変える組織的プロセスや投資案件の優先順位をつける際の価値基準は状況の変化に応じて容易に変えることはできない。

  1. ^ "「破壊的技術」... これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つ ... 一般的 に、破壊的技術の性能が既存製品の性能を下回るのは、主流市場での話である。... 破壊的技術は、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.23). 翔泳社.
  2. ^ Bower, Joseph L. & Christensen, Clayton M. (1995). "Disruptive Technologies: Catching the Wave" Harvard Business Review, January-February 1995.
  3. ^ Googleスカラー「"破壊的革新" イノベーション OR innovation」
  4. ^ Păvăloaia, Vasile-Daniel; Necula, Sabina-Cristiana (2023-02-23). “Artificial Intelligence as a Disruptive Technology—A Systematic Literature Review” (英語). Electronics 12 (5): 1102. doi:10.3390/electronics12051102. ISSN 2079-9292. https://www.mdpi.com/2079-9292/12/5/1102. 
  5. ^ "技術革新のペースがときに市場の需要のペースを上回る ... 顧客が必要とする以上の、ひいては顧客が対価を支払おうと思う以上のものを提供してしまう" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.23). 翔泳社.
  6. ^ "競合する複数の製品の性能が市場の需要を超えると、顧客は、性能の差によって製品を選択しなくなる。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.35). 翔泳社.
  7. ^ 破壊的技術の性能は、現在は市場の需要を下回るかもしれないが、明日は十分な競争力を持つ可能性がある。 ... 破壊的技術は ... いずれ主流市場で確立された製品に対抗しうる性能を身につける ... この事態が起きたとき、競争の基盤、すなわち顧客が製品を比較して選択する際の基準が変化する" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press. 翔泳社.
  8. ^ "新技術のほとんどは、製品の性能を高めるものである。これを「持続的技術」と呼ぶ。... あらゆる持続的技術に共通するのは、主要市場のメインの顧客が今まで評価してきた性能指標にしたがって、既存製品の性能を向上させる点である。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.22). 翔泳社.
  9. ^ "持続的技術のなかには、断続的なものや急進的なものもあれば、少しずつ進むものもある。" Clayton M. Christensen. イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press (p.22). 翔泳社.
  10. ^ Tushman, M.L. & Anderson, P. (1986). Technological Discontinuities and Organizational Environments. Administrative Science Quarterly 31: 439-465.
  11. ^ Henderson, R. and Clark, K.(1990) "Architectural innovation: the reconfiguration of existing product technologies and the failure of established firms", Administrative Science Quarterly, 35, pp. 9-31.
  12. ^ Christensen, Clayton M.;Raynor, Michael E. (2003). The Innovator's Solution. Harvard Business School Press. ISBN 1-57851-852-0.(玉田俊平太監修・伊豆原弓訳(2001)『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社)
  13. ^ イノベーションのジレンマ 《要約》”. 2021年3月9日閲覧。
  14. ^ http://www.sankei.com/smp/gqjapan/news/140718/gqj1407180001-s.html
  15. ^ http://japan.zdnet.com/article/35019196/
  16. ^ http://www.circu.co.jp/x_book_magazine/526
  17. ^ 大西宏. “テレビもDVDもツタヤも、「終わり」始めている 定額動画サービスの脅威”. ビジネスジャーナル/Business Journal. 2022年11月6日閲覧。
  18. ^ wikt:disrupt
  19. ^ 山口栄一(2006)『イノベーション 破壊と共鳴』NTT出版
  20. ^ “『イノベーションのジレンマ』早わかり講座」”. Biz/Zine (翔泳社). (2014年11月15日). http://bizzine.jp/article/detail/111 


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