短機関銃
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歴史
第一次世界大戦
世界で最初に実用化された短機関銃は、第一次世界大戦末期にドイツ帝国軍が開発したMP18である。ただし、拳銃弾を使用するフルオートマチックの銃としてはイタリアのビラール・ペロサM1915(1915年)の方がMP18よりも早い[1]。
M1915の前身は、アビエル・ベテル・レベリ・ディ・ボーモン少佐が1914年に開発した拳銃弾を用いる航空機用の小型機関銃である。軽機関銃として運用されたこともあり、通常は短機関銃の一種とは見なされない。ただし、M1915の運用に関する試行錯誤はイタリアにおける短機関銃開発の発端となり、M1915を改造したカービン銃ベレッタM1918が近い時期に採用されている[13]。そのため、M1915とMP18のいずれを世界初の短機関銃とするべきかについては、研究者の間でも意見が分かれている[5]。そのほか、1915年頃にはオーストリアでもシュタントシュッツェ・ヘルリーゲルM1915機関銃として知られる拳銃弾を用いる自動火器が試作されたものの、数枚の写真が残されているのみで詳細は不明である[14]。
1915年、ドイツ小銃試験委員会は、塹壕戦に適した新型火器の要件を示した。この新型火器は、軽量、フルオート、短射程の火器、すなわち拳銃の軽便さと機関銃の火力を兼ね備えたもので、なおかつ構造が単純で兵士1人で運用可能なものであるべきとされた。最初に提案されたのは、ルガーP08の長銃身モデル(アーティラリー)に銃床とフルオート射撃機能を追加したものだったが、発射速度があまりにも高く、銃口の跳ね上がりも大きすぎたため、試験を経て却下された[5]。
1916年までに、アンドレアス・ヴィルヘルム・シュヴァルツローゼとヒューゴ・シュマイザーによって、全く新規の設計案が提出された。1918年、シュマイザー設計案がMP18/Iとしてプロイセン陸軍省に採用され、50,000挺が発注された[5]。
1918年3月のドイツ軍最後の大攻勢において、塹壕戦の膠着状態を打開のために編制された突撃歩兵にMP18約5,000挺が配備され大戦果を挙げた。しかし、ドイツ帝国軍はこの攻勢を持続できずに敗戦を迎え、戦後のヴェルサイユ体制下でMP18の配備は禁止された[1]。
短機関銃に関連するものとして、半自動拳銃にフルオート射撃機能を付与したいわゆるマシンピストルも、1910年代から設計が試みられていた。ステアー M1912ピストルにフルオート射撃機能を付与したM1912/P16は、世界初のマシンピストルとも呼ばれた。M1912/P16の生産は少数に留まったが、戦後の1920年代には、スペインでドイツ製モーゼルC96ピストルのコピー製品を原型とするマシンピストルが設計され、1930年代にはモーゼル社でも同様のモデルが発表されている。以後、このようなマシンピストルの設計の試みは各地で何度も繰り返されていくことになる[11]。
戦間期
第一次大戦直後にトンプソンM1921が完成し、アメリカ陸軍が興味を示したが、戦後の大軍縮の影響で大量配備には至らなかった。当時、短機関銃にもっとも興味を示したのは、禁酒法下で密造酒の製造や酒類の密輸で急成長し、相互の抗争のエスカレートから武装強化を図っていたギャング(マフィア)たちと、それを取り締まる司法組織(FBI、IRSなど)であり、ロシア革命の影響で勢力を拡大した労働組合のストライキを主とする実力闘争を鎮圧する需要から成長していた民間の警備会社や、組合側が自衛のために雇ったマフィアなどの武装集団も格好の武器として多用した。
また、国外に輸出されたトンプソンM1928は中国・欧州・中東・中南米など全世界で使用され、ニカラグア革命では鎮圧のため同国へ侵攻したアメリカ海兵隊がジャングル戦で同銃を活用したサンディーノの革命軍に返り討ちにされる事件なども発生し、戦間期を代表する短機関銃となった。
1930年代のギャング映画では「シカゴ・ピアノ」「シカゴ・タイプライター」「トミーガン」の通称でトンプソンM1928、しかも50連ドラムマガジン付きの機種が派手な小道具として頻出し、「ギャングの武器」というイメージを世界中に印象づけることになった。
グランチャコを巡るボリビアとパラグアイの領土問題に起因するチャコ戦争(1932年 - 1935年)では、短機関銃が広く使われた。ボリビア軍は1920年代から諸外国製短機関銃、例えばMP18、MP28、MP35、スオミm/26、S1-100、エルマEMP、トンプソンM1921などの配備を進めていた。一方のパラグアイ軍は、開戦の時点ではMP28とエルマEMPを少数配備するのみだったが、まもなくしてボリビア側から大量の短機関銃を鹵獲した。短機関銃は険しい地形における近接戦闘のほか、要塞化された陣地の守備などでも有用性が示された。とりわけ、ゲリラ戦を重視していたパラグアイ軍においては、軽量ながらも十分な火力を発揮しうる短機関銃が非常に高く評価されていた。ヨーロッパ各国の観戦武官も短機関銃の活用に注目こそしたものの、ほとんどはこれらの有用性がグランチャコ固有の環境に由来するものに過ぎず、既に確立された自国のドクトリンには影響を及ぼし得ないと判断した。このときに数少ない例外となったのがドイツの観戦武官であった[15]。
第二次世界大戦
ドイツではヒトラー政権下で再軍備が始まると、戦車に随伴する歩兵の火器として短機関銃が見直され、スペイン内戦に派遣されたドイツ義勇軍のコンドル軍団はMP18の改良型であるMP28短機関銃を使用し、その価値が実証された。
大戦初期の電撃戦の成功にも、短距離ながら濃密な弾幕を簡単に形成できる短機関銃は大きく貢献した。これは当時の歩兵が通常装備したボルトアクション方式の手動ライフル銃は、速射が利かず、また、リーチの短い銃剣に比べ、近接戦闘における短機関銃の制圧火力が圧倒的だったためである。
同時に、ピストルを装備していた下級将校の防御力不足が判明すると、一般の歩兵と同じく小銃装備だった下士官達ともども短機関銃の配備が計画され増産が図られたが、MP28は小銃と同形態の削り出しレシーバーや木製ストックで製造された銃器であり生産性は良くなかったため、レシーバーなどを鋼板プレスで生産し、ショルダーストックも金属製とし、ベークライト部品を導入するなど新しい製法を導入して生産性を著しく高めたMP38やその改良型であるMP40が造られた。MP40の評価は特に高く、敗戦まで大量生産され総生産数は100万丁に達した。戦後もイスラエル国防軍の主力銃器のひとつとなり、南アメリカやアフリカといった過酷な環境でも長年使用されている。
同じ頃にフィンランドへ侵攻したソ連赤軍はスオミ KP/-31を装備したフィンランド軍に苦戦した経験から、これを参考に製造されたPPSh-1941が採用され、独ソ戦やその後の満洲侵攻で大量に使用され、当時これを見た日本人の間では“マンドリン”の通称で記憶されている[注 1]。
短機関銃の運用でドイツに後れを取ったイギリスでは、ダンケルクからの敗走で装備の多くを失った数十万の自軍兵士のために、生産コストを重視した設計のステン短機関銃が開発され、玩具メーカーまで動員しての大量生産が行われた。同銃はイギリス軍や植民地軍の他にもドイツ国防軍や日本軍の占領下各地で活動するレジスタンス勢力へパラシュート投下される援助兵器としても広く用いられた。
米国ではトンプソンが第二次世界大戦の開始とともにイギリス軍やアメリカ軍で本格的に使用され、中国大陸やフィリピンでは鹵獲された同銃を日本兵も使用するなど、敵味方を超えた絶大な人気を誇った。同銃の生産性は、MP40のようなプレス加工を採用した製品に比べれば良くなかったが、各部品には平面が多用されており、構造も単純なため、ベトナムなど発展途上国でもフライス加工で容易に生産可能ではあった。トンプソンに代わるべく開発されたM3(通称:「グリースガン」)が1943年に採用され、自動車メーカーの鋼板プレス技術を用いて開発されたこの銃は、MP40やステン短機関銃の影響が明白であった。
第二次世界大戦以降
第二次世界大戦後も多くの国では短機関銃の配備を続けた。しかし戦後に超大国として出現したソ連は、戦中にドイツが開発したStG44の流れを汲むAK-47を短機関銃と小銃を兼ねる存在として採用したため、ソ連の影響下にあった東側ブロック諸国では大量の短機関銃が退役し、冷戦下で勃発した世界各地での紛争に安価な援助兵器として大量投入された。
逆に西側陣営では、高威力長射程だが反動も強い7.62x51mm NATO弾がアメリカの強い後押しでNATOの共通新型小銃弾として採用された結果、AK-47と同世代の西側製突撃銃であるFN FALやH&K G3、スプリングフィールドM14はどれもフルオート連射時の反動制御が難しいうえに全長も概して長い(3種類とも1mを超える)ため、戦車兵やヘリコプター搭乗員などの自衛用に短機関銃の配備と運用が続けられた。
拳銃弾は小銃弾に比べて発射ガスの量が少なく低圧で、初速も遅いためにサプレッサーの効果が得やすい利点があったため、発射音を抑制した短機関銃はゲリラ戦やテロ活動には格好の武器であった。特に中国は様々な改良を繰り返し、「微声」とよばれる独自の消音短機関銃を発展させており、朝鮮戦争やベトナム戦争では、共産側勢力がサプレッサー付短機関銃を投入して、山岳地帯やジャングルでのゲリラ戦で多用し、アメリカ軍を苦しめた。
戦後に出現した短機関銃であるイスラエルのUZIサブマシンガンは、L型ボルトと呼ばれるアイデアで全長を短くして携帯性を向上させたものだったが、このアイデアを取り入れた小型の短機関銃は以降の主流となり、イングラムM10や日本の陸上自衛隊が採用した9mm機関けん銃なども、この系統に属している。
その後、1977年のルフトハンザ航空181便ハイジャック事件では、GSG-9がドイツ製短機関銃H&K MP5を用いて鎮圧に成果を挙げ、その名は一挙に広まった[1]。
MP5シリーズはクローズドボルト発射方式とローラー遅延式ブローバックを用いた独特の構造により良好な命中精度と集弾性を実現した「拳銃弾を使用するアサルトライフル」とでも言うべき短機関銃だった。精密な構造から従来の短機関銃よりずっと高価で整備に手間がかかるという欠点があったものの、警察・特殊部隊を中心に広く採用された。
また、近年ボディアーマーが進化・普及し、従来の拳銃弾ではこれを貫通するのが困難となったため、FN P90やH&K MP7のようにライフル弾を小型化して貫通力に優れた新しい弾薬が開発され、近距離でアサルトライフル並の貫通力を実現した存在である「PDW(Personal Defence Weapon:個人防衛兵器)」と呼ばれる新ジャンルの火器が登場している。
PDWは車両などの搭乗者や後方勤務の兵士が自衛のために持つことを想定したものであり、短機関銃を後継する存在と考えられている(PDWとは元々H&K MP7に付けられていた開発コードだった)が実際の採用例はまだ少なく、多くの軍隊ではPDW用途としてアサルトライフルの銃身やストックを短縮化したアサルトカービンを用いている他、新型のアサルトカービンにPDWの名称のみを冠した新型PDWも開発されている。
なお、PDWの元祖的存在であるP90を開発したFN社は、逆にPDW専用弾を使用する拳銃FN Five-seveNを開発している。
注釈
出典
- ^ a b c d e f 進化を続ける『SUBMACHINE GUN』、松代守弘、 歴史群像 No.83 2007年6月号、学習研究社、P92-98
- ^ 『機関拳銃』 - コトバンク
- ^ 『機関短銃』 - コトバンク
- ^ “Development of the Thompson Sub Machinegun”. The Unofficial Tommy Gun Page. 2021年5月13日閲覧。
- ^ a b c d “The M.P. 18,I: The First German Maschinepistole”. SmallArmsReview.com. 2021年5月13日閲覧。
- ^ a b “Submachine gun”. britannica.com. 2022年5月25日閲覧。
- ^ a b c “防衛省規格 火器用語(小火器)” (PDF). 防衛省 (2009年5月13日). 2018年1月27日閲覧。
- ^ “Maschinenpistole”. Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache. 2021年5月13日閲覧。
- ^ a b Rottman, Gordon (2013). The Big Book of Gun Trivia: Everything You Want to Know, Don't Want to Know, and Don't Know You Need to Know. Bloomsbury Publishing
- ^ インターネットアーカイブ: DTIC_AD0867982
- ^ a b “The Machine Pistol – Where It Fits in the Toolbox”. SOFREP. 2022年9月7日閲覧。
- ^ インターネットアーカイブ: 1942-uk-regulations-for-the-equipment-of-the-army-part-1
- ^ “The Machine Gun History, Evolution, and Development of Manual, Automatic, and Airborne Repeating Weapons”. 2018年1月27日閲覧。
- ^ “Standschütze Hellriegel Submachine Gun”. Historical Firearms. 2022年5月25日閲覧。
- ^ Scarlata, Paul (May 2014). “La Guerra del Chaco: fighting in El Infierno Verde: Part 2: tanks, airplanes, submachine guns: all played a role in this bloody conflict over some of the world's most godforsaken real estate”. Shotgun News .
- ^ 藤田昌雄 (2004). もう一つの陸軍兵器史―知られざる鹵獲兵器と同盟軍の実態. 光人社. p. 20. ISBN 4769811683
- ^ テレ東ニュース「皇居で年頭視閲式 部隊が華々しく行進」【動画】
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