皇室 被服

皇室

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 10:05 UTC 版)

被服

天皇・皇后史上初めて洋装をした
明治天皇昭憲皇太后
洋装の大正天皇(陸軍正装)と貞明皇后
即位直後の昭和天皇香淳皇后
洋装の昭和天皇(陸軍正装) と香淳皇后
2019年(令和元年)10月22日
即位礼正殿の儀に臨む天皇徳仁と皇后雅子

天皇と皇族が着用する被服(御服)は、皇室令「天皇ノ御服ニ関スル件」と同「皇族服装令」に規定があるが、西洋のノブレス・オブリージュの慣習に倣い、大日本帝国憲法下であった戦前の各皇族男子はほぼ軍務に服していたためそれぞれの大日本帝国陸軍および大日本帝国海軍の服制によった。また、祭儀用の御服については、その儀式において一々に規定されており、現在も慣習としてこれを踏襲している。なお、皇族女子の御服は、朝議、祭儀用ともその祭儀に一々にして規定はあるが、それ以外は別段の規定はない。

天皇の被服

下記の二種は、1945年(昭和20年)までの天皇の被服に関して記す。

陸軍式
正装(フロック形式正衣に前立を附する正帽)、礼服(フロック形式正衣に前立を附さない正帽)、通常礼服(軍衣、軍帽)、軍装、略装。
海軍式
正装(燕尾形式衣に黒色天鵞絨反り形帽子、大元帥佩刀)、礼装(フロック式礼衣に黒色天鵞絨反り形帽子、佩刀)、通常礼装(フロック形礼衣に軍帽、短剣)、軍装(第一種および第二種)であり、略装は存在しない。

なお第二次世界大戦後、傍系宮家に属する皇族臣籍降下(皇籍離脱)以後、女性はもとより男性皇族が自衛官ないし自衛隊員として自衛隊陸上自衛隊海上自衛隊航空自衛隊)の服務に従事するようなことはないため、天皇の御服として自衛官制服(他国における軍服)が使用されることはない。

装束

袞衣
袞衣(こんえ)は、天皇の最高礼装であり、歴代天皇の即位の礼朝賀の際にのみ用いられた服であった。着用の際には冕冠を戴冠する。明治天皇即位の礼の際に廃止された。
御祭服(束帯
御祭服(ごさいふく)は、宮中祭祀の神事の中で、最も清浄にして神聖な御服であり、練らない白生絹で製作されたもので、大嘗祭の「悠紀主基(ゆきすき)両殿親祭」、年中恒例の神事では新嘗祭の時にだけ召される。冠は幘製の御幘の冠(おさくのかんむり)で、これらは天皇が未成年の場合には一切召すことができない。
帛御服(束帯、縫腋袍)
帛御服(はくのごふく)は、前者に次ぐ祭儀服で、純白無文、冠は立纓(冠の纓が前方に立っているもの)である。ただし、未成年時はこれらを召さず「空頂黒幘」を召す。即位の礼の一部と、大嘗祭の渡御のときにしか召されず、通常は用いられることはない。
黄櫨染御袍(束帯、縫腋袍)
黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)は、年中の神事、皇室行事を通じて最も多く用いられる。鳳凰麒麟の地紋が表されている。袍は禁色黄櫨染であり、嵯峨天皇以来明治天皇までの御服であり袞衣が廃止されてからは、即位の礼など重要儀式で用いられる。
御直衣
御直衣(おのうし)は、皇室または国家の大事に際し、御奉告のため臨時に行う神宮、山陵への勅使発遣の儀、紀元節祭および先帝祭の御神楽の儀等に用いられる。また毎月(一月一日を除く)の旬祭に御親拝の節もこの御服を召される。
御引直衣
御引直衣(おひきのうし)は、御袍の丈が長く、裾を三尺以上(1メートル以上)も長く引く。即位礼後神宮の礼、神武天皇山陵と前帝四代の山陵へ勅使発遣の儀に用いられる。
御小直衣
御小直衣(おこのうし)は、年中恒例行事の御祭儀では、六月、十二月の節折の儀式等に用いられる。
闕腋袍
闕腋袍(けってきのほう)は、未成年の男性皇族の装束。冠は被らず、空頂黒幘を着用する。

皇太子・男性皇族の装束

黄丹袍
皇太子(皇嗣・皇太弟を含む)が儀式の際に着用する束帯。太陽の色を表している。
束帯(縫腋袍
一般皇族男子が着用する文官の束帯。

皇后・皇太后、女性皇族の被服

御洋装と御儀服(御装束)の二種に分けられる。下記の二種は、1945年(昭和20年)までの皇后および皇太后の被服に関して記す。

御大礼服 - マント・ド・クールmanteau de cour
フランス語宮廷礼服を意味する。戦前までの宮中新年儀式(現・新年祝賀の儀)においてのみ用いられた、18世紀フランスルイ王朝時代の礼服。明治19年(1886年)6月23日、伊藤博文宮内大臣内達によって宮中における皇族女性の礼服として定められた。
御中礼服 - ローブ・デコルテrobe décolletée
御通常服 - ローブ・モンタントrobe montante

注釈

  1. ^ a b 天皇の退位等に関する皇室典範特例法に基づく身位。
  2. ^ 東久邇成子(昭和天皇第1子、照宮成子内親王)、久宮祐子内親王(同第2子)、鷹司和子(同第3子、孝宮和子内親王)、池田厚子(同第4子、順宮厚子内親王)、島津貴子(同第7子/末子、清宮貴子内親王)
  3. ^ 近衞甯子(三笠宮崇仁親王第1子、やす子内親王)、千容子(同第4子、容子内親王)
  4. ^ 延べ面積。
  5. ^ 兆域の重複を勘案。
  6. ^ 内閣紋章は七五桐。

出典

  1. ^ NHK特設サイト『平成から令和へ 新時代の幕開け』 「新しい皇室の姿」
  2. ^ 「上皇の身分に関する事項の登録、喪儀及び陵墓については、天皇の例による。」(天皇の退位等に関する皇室典範特例法第3条第3項)
  3. ^ 岡田英弘「第五章 最初の王朝」(『倭国』中央公論社,1977, pp.147-183)、「神話が作った大和朝廷」(『日本史の誕生』筑摩書房,2008)pp.245-267。
  4. ^ 平凡社, “神武天皇”, 『百科事典マイペディア』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E7%A5%9E%E6%AD%A6%E5%A4%A9%E7%9A%87-82633#E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.E3.83.9E.E3.82.A4.E3.83.9A.E3.83.87.E3.82.A3.E3.82.A2 2018年3月6日閲覧。 
  5. ^ 国史大辞典吉川弘文館
  6. ^ 新田英治, “両統迭立”, 『日本大百科全書(ニッポニカ)』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E4%B8%A1%E7%B5%B1%E8%BF%AD%E7%AB%8B-150055#E6.97.A5.E6.9C.AC.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E5.85.A8.E6.9B.B8.28.E3.83.8B.E3.83.83.E3.83.9D.E3.83.8B.E3.82.AB.29 2018年8月18日閲覧。 
  7. ^ VOYAGE GROUP朝日新聞社, “南北朝時代”, 『コトバンク』, VOYAGE GROUP・朝日新聞社, https://kotobank.jp/word/%E5%8D%97%E5%8C%97%E6%9C%9D%E6%99%82%E4%BB%A3-108982 2015年5月24日閲覧。 
  8. ^ フランク・B・ギブニー編『ブリタニカ国際大百科事典』 14巻(第2版改訂版)、ティビーエス・ブリタニカ、1993年、9頁。全国書誌番号:74006385 
  9. ^ 芦部信喜『憲法』p86
  10. ^ 憲法(1) 第3版(有斐閣)野中俊彦 中村睦男 高橋和之 高見勝利 216頁 / 憲法 新版補訂版(岩波書店)芦部信喜 86頁 / 憲法学(2)人権総論(有斐閣)芦部信喜 106頁 115頁 / 憲法 第3版(弘文堂)伊藤正己 199頁 / 憲法 第3版(青林書院)佐藤幸治 415頁 / 体系・戸籍用語辞典(日本加除出版)114頁
  11. ^ “皇族の「人権」どこまで? 目につく「不自由さ」”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2020年1月20日). https://www.asahi.com/articles/ASN196K0KN19UPQJ00R.html 2020年12月7日閲覧。 
  12. ^ 倉山満 (2019年4月1日). “皇族に人権はない。当たり前の事実を、日本人は忘れてしまったのか?”. 日刊SPA! (扶桑社). https://nikkan-spa.jp/1562553 2019年5月4日閲覧。 
  13. ^ “Kさん 「皇室のしきたり」を破り記者は顔色を変えた”. NEWSポストセブン (小学館). (2018年8月10日). https://www.news-postseven.com/archives/20180810_737674.html?DETAIL 2020年12月7日閲覧。 
  14. ^ “佳子さまICU志望”で考えた 皇室とキリスト教はどんな関係? 〈週刊朝日〉”. AERA dot.. 朝日新聞出版 (2014年10月30日). 2019年5月5日閲覧。
  15. ^ 元「天皇の料理番」に聞いてみた!天皇陛下は普段のお食事で何を召し上がっているの?”. テレビドガッチ. プレゼントキャスト (2019年2月10日). 2020年12月7日閲覧。
  16. ^ 皇族のプライベート 私生活や食事はどうなっているのか?禁止事項や買い物・テレビについて | 皇室の話題 - ウェイバックマシン(2015年3月7日アーカイブ分)
  17. ^ “皇族の買い物事情 百貨店の外商が主流、Amazonもご利用”. NEWSポストセブン (小学館). (2017年5月27日). https://www.news-postseven.com/archives/20170527_558842.html/2 2019年5月5日閲覧。 
  18. ^ 「新旧皇室典範のおける『皇統』の意味について」『日本法学』第82巻第3号、平成28年12月、日本大学法学会。『皇位の継承』平成30年、明成社
  19. ^ 里見, pp. 499–501.
  20. ^ 里見, p. 501.
  21. ^ 天皇皇后両陛下 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  22. ^ 上皇上皇后両陛下 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  23. ^ 「皇室史上の宮家制度」歴史読本 新人物往来社 2006‐6‐11 102‐106頁
  24. ^ 秋篠宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  25. ^ 常陸宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  26. ^ 時事ドットコム:寛仁親王家廃止、5宮家に=1年前にさかのぼり-ご一家、三笠宮家でお世話・宮内庁 - archive.today(2013年6月25日アーカイブ分)
  27. ^ 朝日新聞デジタル:寛仁親王家廃し三笠宮家に合流 逝去1年、当主決まらず - 社会 - archive.today(2013年6月25日アーカイブ分)
  28. ^ 三笠宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  29. ^ 高円宮家 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  30. ^ 皇室の構成図 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  31. ^ 主要祭儀一覧 - 宮内庁”. 宮内庁. 2024年1月27日閲覧。
  32. ^ 信任状捧呈式の際の馬車列 - 宮内庁”. www.kunaicho.go.jp. 2023年6月22日閲覧。
  33. ^ 山本淳, 小幡純子 & 橋本博之 2003, p. 23-24.
  34. ^ 予算 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  35. ^ 『週刊ダイアモンド 2016 9/17 36号』 ダイヤモンド社
  36. ^ 皇室の経済 - 宮内庁”. 宮内庁 (2024年1月15日). 2024年1月24日閲覧。
  37. ^ 皇室用財産 - 宮内庁”. 宮内庁. 2021年12月24日閲覧。
  38. ^ 陵墓地形図集成 縮小版 & 2014年, pp. 5–6.
  39. ^ a b c d 吉田孝 『日本の誕生』 岩波書店<岩波新書>、1997、ISBN 4004305101
  40. ^ 吉村武彦 「倭の五王の時代」 『古代史の基礎知識』 角川書店<角川選書>、2005、ISBN 4047033731
  41. ^ 熊谷公男 『日本の歴史03 大王から天皇へ』 講談社 2001年 ISBN 4-06-268903-0 p.237.
  42. ^ 岸俊男 『日本の古代6 王権をめぐる戦い』 中央公論社 1986年 ISBN 4-12-402539-4 p.53.
  43. ^ 『新視点 日本の歴史2 古代編Ⅰ』 p.314.
  44. ^ 同『日本の歴史03 大王から天皇へ』 p.237.
  45. ^ 森田悌 『推古朝と聖徳太子』 岩田書院 2005年 ISBN 4-87294-391-0 p.145.
  46. ^ 同『推古朝と聖徳太子』 p.145.
  47. ^ 同『推古朝と聖徳太子』 p.146.
  48. ^ 王仲殊 西嶋定生監訳 桐本東太訳 『中国からみた古代日本』 学生社 1992年 ISBN 4-311-20181-8 p.145.
  49. ^ 皇室会議議員名簿 - 宮内庁”. 宮内庁 (2023年12月20日). 2024年1月12日閲覧。
  50. ^ a b 警察法 第29条
  51. ^ 皇宮警察本部
  52. ^ 組織紹介 皇宮警察本部-IMPERIAL GUARD HEADQUARTERS-(2009年10月26日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  53. ^ 平成25年警察白書 P201「皇宮警察本部の活動」 (PDF)





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「皇室」の関連用語

皇室のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



皇室のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの皇室 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS