白熱電球
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 00:35 UTC 版)
2000年代までは蛍光灯とともに、世界の主流の光源の一つだったが、消費電力が大きいことから、2010年代に次第にLED電球に置き替えられた。日本では、2019年4月施行の改正省エネ法に基づき、白熱電球の廃止は2027年と想定されている。
概説
- 特徴
白熱灯から放たれる光のスペクトルは黒体放射に近い。電力の多くが赤外線や熱に変換されるため発光効率は低い。日常用いられる100Wガス入り白熱電球では、可視光の放射に使用される電力は10%程度であり、赤外放射は72%で、残りは熱伝導により消費される。
そのかわり、一般の人工光源の中では演色性に特に優れており、写真や映画、テレビの撮影光源として広く利用される。演色性の基準となる光源は、専用の白熱電球と特殊な光学フィルターの組み合わせで定義されている(CIE標準光源)。
- 歴史
19世紀以降、多くの発明家が電気エネルギーを利用した照明の開発に取り組み、1870年代から1880年代にかけて、主にイギリスのジョゼフ・スワンとアメリカのトーマス・エジソンが開発を競っていた。しかしスワンのフィラメントは径が4mmと太く、利便性等の問題があった。エジソンは、さまざまな素材のフィラメントを試し、当時で連続1,200時間点灯という画期的な改良に成功した。この電球について1879年と1880年に特許を取得し、本格的な商用化と大量生産を実現したことで、世界中にフィラメント電球が普及してた。→#歴史
2010年代なかばころまで一般的に使われ、電気式の照明装置としては世界的には標準的なものであった。
2010年代にLEDバルブへの置き換えが急激に進んだが、2010年代でも研究は続けられてはおり、今後、LEDバルブを超える高効率の白熱球が開発・実用化される可能性は残されている。→#高効率化
構造と素材
抵抗線としては通常はタングステンが用いられ、高温での蒸発を防ぐためアルゴンおよび窒素ガスが管球内におよそ 0.7 気圧になるように封入されていることが一般的[2]。
- フィラメント
- 白熱電球の発光部分本体。
- 導入線
- アンカ(吊り子)
- フィラメントを支える補助線。モリブデン線が用いられる。
- バルブ
- フィラメント部を封入したガラス球。通常軟質ソーダガラス、ときに硬質硼珪酸ガラス。ハロゲンランプでは石英ガラスが用いられる。
使用する電流
電源は直流、交流のどちらでも使用可能である。瞬間的に電流が途切れてもフィラメントの赤熱は持続するため、交流電源の場合でもチラツキは無い[注 1]。
歴史
19世紀後半、電気照明にはアーク灯が用いられていたが、花火のような灯りでバチバチという音も伴うもので屋内の照明にはまぶしすぎた[3]。一般家庭の室内照明にはガス灯が普及していたが、爆発の危険性もあるほか室内の壁が黒ずむ問題もあり、硫黄臭やアンモニア臭が発生することもあった[3]。また、ガス灯は大量の酸素を必要としたため、酸欠によるめまいや頭痛を引き起こすこともあった[3]。他に電気を使った発光体としてガイスラー管もあったが、高電圧を必要としもっぱら実験用途で照明用には使われなかった。
そこで19世紀半ば以来、電気エネルギーを利用した照明の開発に多くの発明家が取り組んだ[4]。イギリスのジョゼフ・スワンとアメリカのトーマス・エジソンが開発を競っており、スワンが1878年には白熱電球を発明したが、フィラメントは径が4mmと太く利便性等の問題があった[5]。
1879年10月19日、エジソンは木綿糸を炭化させてフィラメントにした実用炭素電球を開発した[6][7]。フィラメントの材料に白金を試していたが加熱するとガスが出て寿命が短くなる問題があった[5]。そこで炭素処理を施した厚紙を使ったが最終的には竹を使用することになった[5]。エジソンは中国と日本に部下を派遣し、最終的に粘着性と柔軟性に富む京都・八幡の真竹がフィラメントに採用された[5][8]。エジソンの開発した電球のフィラメントは径が0.4mmと細く、自由に点けたり消したりするのに優れた特長をもった[5]。
エジソンは高抵抗のランプを使用することで、電圧100Vに電球を並列に接続しそれぞれ独立して点滅できるようにするとともに、ソケットをねじ込み式(エジソンベース)にして自由に交換できるようにした[3]。そして発電所から各需要家に電気を供給するためのシステムを構築した[3]。
1904年、オーストリアのアレクサンダー・ユスト(Alexander Just)とフランツ・ハナマン(Franjo Hanaman)がタングステンのフィラメントを発明したが、資金不足により1906年にやっと押線タングステン電球を商品化した[9]。ただ、この電球に使われたタングステンは脆くて加工が困難で、フィラメントは衝撃に弱く[9]取り扱いに注意が必要だった。1910年、ゼネラル・エレクトリックのウィリアム・クーリッジがその欠点を解消した引線タングステン電球を開発した[10][6]。
1913年、ゼネラル・エレクトリックのアーヴィング・ラングミュアが、タングステン電球の黒化現象は蒸発したタングステンのガラス面への付着であると確認し、その防止策として不活性ガスを注入したガス入り電球を開発した[11][6]。これにより電球の効率が向上し、寿命が著しく伸びた[11][6]。
1921年、東京電気(現・東芝)の三浦順一技師がタングステン電球のコイルを二重にした二重コイル電球を開発し、熱損失の減少と電球の効率向上につながった[12][6]。
電球の効率向上により、まぶしさが問題となり、1923年に東京電気の不破橘三が電球内部をつや消し処理する方法を開発した[13][6]。ほぼ同時にゼネラル・エレクトリックのマービン・ピプキンも内面つや消し電球を開発したが、不破の方が約1年早く特許を申請していた[13]。1925年につや消しによる強度劣化を防止する方法を考案し、内面つや消し電球が完成した[13][6]。後年の1974年に松下電器(現・パナソニックホールディングス)がシリカを内部処理に用いた「シリカ電球」を開発しまぶしさがさらに軽減された[14]。
1950年、通商産業省が白熱電球を産業標準化法に基づき「標準化指定商品」に決定。22の工場に新型標準電球の製造許可を出した。新型の標準電球は、以前の電球より同じワット数でも3%〜8%明るくなる一方、寿命は多少短くなった。1951年よりJISマークが入った新電球の販売が開始された[15]。また、1950年には松下電器(現・パナソニックホールディングス)がフィラメントを二重コイル化(寿命の項を参照)した電球を発売。広告にて「二割明るい お徳用」とアピールを行った[16]。
大出力電球や映写用ランプ等では電球にガスを入れたものでも電球の黒化が生じて問題であった。その対策として1959年、ゼネラル・エレクトリックのツブラーとモスビーが石英ガラス管の内部に不活性ガスとヨウ素を封入することで電球の黒化を抑制するハロゲン電球を開発した[17][6]。
1993年に中村修二により青色LEDが開発されたことにより白色LEDも可能になったが、最初の頃はかなり高価で白熱灯は使われ続けた。やがて多数のメーカーが白色LED製造に参入するようになり、2010年代には白色LEDの低価格化が進み、白色LEDの省エネ効果による電気料金の削減額が購入価格に見合う水準にまでなった段階で各国政府がLEDバルブへの置き換え政策を採用するようになって置き換えが進み、白熱電灯の製造・販売は急激に減少した。
注釈
- ^ ただし、調光器に接続されている場合はその制御方式によっては肉眼では目視できなくてもカメラ越しであればわかるようなチラツキがあるものもある。
- ^ あくまで明るさの目安としてWが使われており、実際の消費電力は高効率白熱電球等では、W表示より低いことがある。
- ^ そのため、電球形蛍光灯やLED電球では、実際の消費電力とは別に「○○W相当」というような表記がパッケージに併記されている。
- ^ 型番等で110Vと謳っているものもある[19]。同一メーカーで定格消費電力が同じで100Vと110Vの両方がラインナップされている場合、定格電圧が低い方(100V)がわずかに明るいが寿命が短くなる。
- ^ なお、新品状態でもガラス球だけでなくフィラメントも衝撃には弱いため、松下電器(現・パナソニックホールディングス)は「丸サック」と呼ばれる円筒形の梱包を特許を取ったうえで採用した[14]。
- ^ ただし、上記のようにLED電球や電球型蛍光灯の製造コストは高く、必然的に販売価格も高くなる。そのため、安価で売れるという理由で、2013年4月現在でも朝日電器など一部のメーカーでは白熱電球の製造を続けており、家電量販店その他の小売店では、白熱電球の販売を続けている[24]。
- ^ 方向指示器(ウインカー)や一部の車種の尾灯(テールランプ)等。
- ^ 対処法としては、抵抗器を接続するか、オートバイのウインカーの場合リレーを交換することもある。
出典
- ^ 文部省、日本物理学会編『学術用語集 物理学編』培風館、1990年。ISBN 4-563-02195-4。
- ^ a b 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』【白熱電球】
- ^ a b c d e 松本 2000, p. 154.
- ^ 松本 2000, p. 153.
- ^ a b c d e 松本 2000, p. 155.
- ^ a b c d e f g h “2017-2018 東芝ランプ総合カタログ”. page3.cextension.jp. 東芝ライラック. 2020年4月18日閲覧。
- ^ 石﨑 2011, p. 7.
- ^ 光り輝く竹は「京都の裏鬼門」にあった 探し求めた発明王との縁(朝日新聞2023年2月26日記事)
- ^ a b 石﨑 2011, p. 11.
- ^ 石﨑 2011, pp. 11–12.
- ^ a b 石﨑 2011, pp. 15–17.
- ^ 石﨑 2011, pp. 19–20.
- ^ a b c 石﨑 2011, pp. 18–19.
- ^ a b c “ついに白熱電球の生産が終了、パナソニックの白熱電球76年の歴史を振り返る”. 2012年12月27日閲覧。
- ^ 「明るい新標準電球近く売り出し」『日本経済新聞』昭和25年12月13日
- ^ 新聞広告『日本経済新聞』昭和25年10月17日2面
- ^ 石﨑 2011, pp. 20–22.
- ^ 80Wの電球がない!?
- ^ 三洋電機 ホワイト電球
- ^ 読売新聞 2008年4月5日朝刊 11面記事から一部を引用。
- ^ 東芝ライテック2008年4月14日付プレスリリース
- ^ “政府、白熱電球の販売自粛を要請”. ITmedia (2012年6月13日). 2012年6月14日閲覧。
- ^ “高効率な照明製品の普及促進を関係団体に協力要請しました〜「あかり未来計画」キックオフ会合の開催〜”. 経済産業省 (2012年6月13日). 2012年6月14日閲覧。
- ^ (参照)
- ^ パナソニック 2012年7月12日付プレスリリース
- ^ “現代社会に欠如しているバイオレット光が近視進行を抑制することを発見-近視進行抑制に紫の光-”. 2019年5月7日閲覧。
- ^ “ようやく追いついた!? LED非常灯の法整備”. 2021年6月21日閲覧。
- ^ 高原淳一. “メタマテリアルによる熱輻射の制御に向けて”. 大阪大学大学院基礎工学研究科. 2019年4月26日閲覧。
- 1 白熱電球とは
- 2 白熱電球の概要
- 3 白熱電球の種類・分類
- 4 明るさの表示
- 5 高効率化
白熱電球と同じ種類の言葉
- 白熱電球のページへのリンク