生薬 生薬の概要

生薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/18 04:02 UTC 版)

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さまざまな生薬
生薬のひとつ「紅花
陳皮ミカンの皮を乾燥させたもの)

漢方薬は、生薬であるが漢方医学に基づいたものであり同一の概念ではない[2]

概要

有効成分を多く含んだ生の薬用植物や動物、鉱物を、いつでも用いることができるように、保存ができる形に加工したものを生薬とよんでいる[3]

人が生薬を使い始めたときは1種類(いわゆる単味)の生薬を用いていた[4]。これらは例えば柴胡は熱を下げる、杏仁は咳を止めるといった簡単な知識の集積となった[4]。しかし、漢書『芸文志』ですでに指摘されているように、病気は、季節、気候、風土、体質などの遺伝的要因の影響を受け、他の病と併発するなど複雑化することもある[4]。そこで2種類以上の生薬を組み合わせて用いられるようになった[4]

日本における生薬は、漢方処方や民間伝承の和薬などの東洋医療で用いられる天然由来の医薬品すべてであるが、漢方医学の影響が大きいため、生薬と漢方薬が同一視される場合も多く、混乱を招いている。生薬は漢方医学以外にも、民間薬として単独で使用する機会もあるが、漢方薬は複数の生薬を漢方医学の理論に基づいて組み合わせた処方で配合比率も厳格に決められており決して同一ではない[1][2]。漢方生薬は、慣習上漢字名で生薬名を呼んでいるため、薬用植物の標準和名とは異なる名前で呼ぶことが多い[3]。一方で民間薬では、植物和名で呼ぶことがふつうである[3]

江戸時代に、生薬は漢方薬の原料という意味で薬種(やくしゅ)とも呼ばれており、鎖国下においても、長崎貿易対馬藩を通じた李氏朝鮮との関係が維持された背景には、山帰来・大楓子・檳榔子朝鮮人参などの貴重な薬種の輸入の確保という側面もあった[5]。輸入された薬種は薬種問屋・薬種商を通じて日本全国に流通した。

種別

生薬となる天然産物には、植物由来のもの(薬用植物)、動物由来のもの、菌類由来のもの、そして鉱物由来のものが含まれる。そして多くの場合は煎じ薬やエキス剤、チンキ剤など、加工してから薬品として用いる。まれに、貼薬のように原体をそのまま使う場合もある。西洋医学のように注射剤として用いるものはなく、経口剤か貼薬として服用するのである。

生薬は天然物であることから、含有されている薬効成分は一定ではなく、同じ植物であっても、産地や栽培方法、あるいは作柄によっても成分が変わる場合も多い。たとえば薬用人参では、朝鮮半島産のものは「朝鮮人参」や「高麗人参」と銘打たれて重宝されるが、朝鮮半島より導入した国産のものは、「御種人参」(オタネニンジン)と呼ばれ、格が下がるとみなされている。

また、昨今の天然物資源への注目もあいまって、生薬から得られた成分をもとに医薬品が作られる場合も多い。植物資源(薬用植物)がその対象となることが多く、最も古い例としてはアヘンから得られたモルヒネがある。

生薬の加工

生薬は、摘み取ったり掘り出したりしたままで使えるわけではない。泥を落とすことや日干しにすることなども含めると、何らかの加工を行わなければ使用できない生薬がほとんどである。本節では、中医学で行われる修治(しゅうち)、炮製(ほうせい)を中心に取り上げる。

加工の目的

薬剤として不要な部分を除去する

収穫したばかりの薬草には、泥、枯れ葉、他の植物、虫などの不要物が付着している。また、全草を用いる生薬は稀で、大多数の植物生薬では、薬効成分の多い一部のみが使われ(人参は根、粳米は実というように)、他の部分は廃棄または薬用以外の用途に利用される。このように、不純物を可能な限り減らし、厳密な計量に耐えるようにしないと、生薬に含まれる薬効成分の量が推測できず、結果として、処方という行為自体が意味を成さないことになる。

長期保存

薬草の組織に水分が含まれていると、重量や容積が大きく、品質が安定せず、また腐敗やカビが発生しやすい。このままでは、遠隔地に出荷することはできない。この問題へのもっとも原始的な対処法は、天日に干すことである。含まれている酵素によって、収穫すると薬効成分が崩壊してしまう生薬もある。このようなものは、収穫したら速やかに熱を加え、酵素を失活させなくてはならない(この点については、緑茶紅茶の製法についても参照されたい)。また、長期保存には、除去し切れなかった昆虫微生物などを殺す加工も必要である。

成分を変化させる

生薬によっては、成分そのものが、収穫したままでの使用に耐えないこともある。附子など猛毒のものは、弱毒処理を行わなければ危険きわまりない。巴豆の種子は大量の油脂を含むため、そのまま投与すると激しい下痢を起こしてしまうので、ぎりぎりまで油を絞ったかすを用いなければならない。また、地黄のように、生のものと加工されたものに、別々の薬効を期待する生薬も存在する。

抽出しやすくする

貝殻化石鉱物などは、そのほとんどが固く、溶けにくいため、何らかの加工を行い、溶媒とは限らない)に溶けやすく、人体に吸収しやすくする必要がある。細かく砕いたり、加熱して組織を壊したり、薬品に漬け込んだりすることが行われている。

加工の方法

機械的な方法

選薬(せんやく)
生薬として必要のない部分を取り除く前処理。
粉砕(ふんさい)
搗き潰したり、磨り潰したりする。
切製(せっせい)
規格の大きさに切断する。

火を使う方法

煨(わい)
泥団子か練った小麦粉で包み、熱灰の中で加熱する。
煆(たん)
るつぼに入れて焼き、脆くする。
炮(ほう)
鉄の鍋で黄色くなるまで、あるいは破裂するまで乾煎りする。
炒(しゃ)
炒める。
炙(しゃく)
薬物を液体の補助材料(酒、塩水、蜂蜜など)と一緒に炒め、補助材料を染み込ませる。
烘烤(こうこう)
炙り焼き。
焙(ばい)
とろ火で乾燥させる。

水を使う方法

洗(せん)
水洗い。
漂(ひょう)
水に晒して不純物を除去する。
泡(ほう)
形を整えるための前加工として、水に浸して柔らかくする。
潤(じゅん)
霧を吹く。
水飛(すいひ)
水簸とも書く。細かく研磨してから水で洗い、沈殿させる。

水と火を使う方法

蒸(じょう)
蒸す。水以外の液体で蒸すこともある。
煮(しゃ)
煮る。
茹(じょ)
茹でる。
淬(すい)
赤熱するまで焼き、水か酢で急冷する。

その他の方法

発芽(はつが)
種子に水分を与え、芽の状態にまで育てる(麦芽など)。
発酵(はっこう)
温度や湿度を管理して、微生物を繁殖させる。
製霜(せいそう)
油を絞り、細かくする(巴豆など)。

  1. ^ a b 漢方ですこやか生活 日本漢方製薬製剤協会、2019年9月21日閲覧。
  2. ^ a b 花輪寿彦 2003, pp. 286-288.
  3. ^ a b c 馬場篤 1996, p. 4.
  4. ^ a b c d 陳維華ほか原著、木村郁子ほか翻訳『薬対論』南山堂、2019年、2頁
  5. ^ 小山幸伸「薬種」『日本歴史大事典 3』小学館2001年
  6. ^ “【厚労省】西洋ハーブ製剤の承認申請‐海外データ活用を容認”. 薬事日報. (2007年3月28日). http://www.yakuji.co.jp/entry2615.html 2015年10月1日閲覧。 
  7. ^ 第43回生薬分析シンポジウム食品と医薬品の境界
  8. ^ DNA配列情報を利用したブラックコホシュ国内市場品の基原鑑別
  9. ^ 富山大学和漢医薬学総合研究所民族薬物研究センター民族薬物資料館






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