生命の起源 パンスペルミア説

生命の起源

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 20:58 UTC 版)

パンスペルミア説

「宇宙空間には生命の種が広がっている」「最初の生命は宇宙からやってきた(=地球で生命が生まれたのではない)」とする仮説である。この説の原型となる考え自体は1787年にスパランツァーニによって唱えられていた。

1906年スヴァンテ・アレニウスによって提唱され、この名が与えられた。彼は「生命の起源は地球本来のものではなく、他の天体で発生した微生物の芽胞が宇宙空間を飛来して地球に到達したものである」と述べた。

この説の20世紀後半での有名な支持者としては、DNA二重螺旋で有名なフランシス・クリックほか、物理学者・SF作家のフレッド・ホイルがおり、その後もこの仮説に関連して、真剣に調査を試みる科学者は増えてきており、最近では2006年に日本の多数の科学者たちにより≪たんぽぽ計画≫が立ち上げられ、2015年から宇宙空間で浮遊する物質を採取しており、サンプルを地球に送り届けては、地上の科学者たちが解析する活動が続けられている。この調査によって地球の地表から宇宙空間まで生命にかかわる物質が届くことがあると確認されれば、(広い宇宙では無数の惑星があり)惑星間で有機物などの移動(惑星間移動)が広く一般的に起きている可能性を強く示唆するものとなる、という展望のもとで行われている[20]

生物進化から生命の起源を探るアプローチ

化学進化説に関する考察や実験は、「おそらく無機物から生命への進化が起きたのだろう」と推論し、可能かも知れない道筋についてより細かい仮説を立てたり、個々の仮説が実際に起こりえるのか、科学者が推定した太古の地球上の環境を「in vitro」で具体的に実験を行うことであり、1980年代まではそのような流れが支配的であった。だが、多くの科学者が、太古の地球にあったであろう環境を作って、たとえば雷などを再現するために高圧電流を流すなどの検証実験をいくら行っても、生命が誕生するということは起きなかったので、しだいに化学進化論に関して検証実験を行わなくなっていった。

全生物を対象にした系統樹。3つのドメインを3色で表している。青が真正細菌、赤が真核生物、緑が古細菌、真ん中付近が共通祖先

1977年カール・ウーズらによって第3のドメインとして古細菌が提案されると、これを含めた好熱菌極限環境微生物の研究が進行した。これらの研究から、生命の起源に近いとされる生物群の傾向が明らかになってきた。これにより、生物進化をさかのぼる方向で生命の起源を探る、というアプローチが可能となった。

生命誕生以降の生物進化から生命の起源を探る試みは、化学進化説とは異なり非常に多くの生命のサンプルを要した。多くのサンプルを用いながら、真正細菌、古細菌、真核生物系統樹を描くことから、そうした試みが始まったと言える。進化系統樹を描く試みは従来、低分子のタンパク質アミノ酸配列(フェレドキシンシトクロムcなど)を元にしたものが多かったが、DNAシークエンシング法やPCR法の確立などにより、より大きなデータを取り扱うことが可能になってきた。16S rRNA系統解析によれば、共通祖先に近い原始的な生物は好熱性を示すものが多く見られることがわかった[要出典]。 しかし、最初の生物がどのようなものであったかが明らかになるには、なお研究中である。

「深海熱水孔での独立栄養生物」が最初の生命とする説

そもそも、生命の起源を考察するなかでは「最初の生命は独立栄養だったのか、従属栄養的だったのか(炭素源は無機化合物であるかどうか)」という論争も絶えない。

1970年代深海熱水孔熱水噴出孔)がアルビン号によって発見されて以降、「最初の生命は独立栄養生物だった」とする説を支持するような説がいくつか提唱されるようになっている。 深海熱水孔の発見は、「深海はほとんど生物の存在しない世界である」とする当時の一般的な通説、学説を一変させるものであった。太陽エネルギーの存在しない深海で、原核生物や多細胞生物を含めた真核生物が独自の生態系を形成している様子は、多くの学者を驚かせた。地上の生態系は、植物が「一次生産者」となり、動物が「消費者」、細菌や菌を「分解者」とする、太陽エネルギーに依存した物質の流れが基本である。しかしながら深海熱水孔においては、熱水孔から排出される還元物質を酸化しながら炭酸固定をしている化学合成独立栄養生物(硫黄酸化細菌など)が一次生産者であった。こうした、太陽エネルギーに依存しない生態系を発見したことから、「生命の起源は、還元的物質が地球内部から発生する深海熱水孔に由来するのではないか」という説が現れた。

1970年代に深海底の熱水噴出孔が発見されて以降、生命はこのような熱水噴出孔で生まれた、とする仮説も唱えられるようになった。

ロンドン大学UCLの研究チームは、『ネイチャー2017年3月2日号において、カナダケベック州で採取した岩石中にある微細な筒状・繊維状構造物が、熱水噴出孔により活動していた生命の痕跡である可能性がある、と発表した。生命の痕跡としては最古級(42億8000万年前 - 37億7000万年前)と推定しているが、これら構造物の成因や年代については異論もある[21]

日本の海洋研究開発機構理化学研究所は、「深海熱水孔の周囲で微弱な電流を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性がある」との研究結果を2017年5月に発表した[22]

地下で発生したとする説

また、深部炭素を研究テーマとして世界52カ国1000名以上の研究者で構成される深部炭素観測所は、2009年の創設以来10年をかけた調査の結果、深海熱水孔のみならず、海底あるいは地上を掘削すると地下5km程度まで化学合成独立栄養細菌群の支配的な生物圏が存在することを明らかにした。「地下生物圏」(deep biosphere)の発見である。「地球の深部には、まるでガラパゴスのようにさまざまな生命体が無数に存在し、その生物量(バイオマス)は全人類の245倍から385倍に相当する」ことや「数千年にわたって存在しつづける生物がある」ことも明らかにした[23]。これにより「地下数kmで発生した化学合成独立栄養生物が生命の起源」とする新たな説も現れている。

細胞膜と脂質

生物の細胞膜を構成する一つは脂質である。脂質は比較的容易に集合するため原始の海の脂質の集合を細胞膜の起源とする説がある。特にリン脂質界面活性剤として自己組織化し内側にスペースを持つ脂質二重層小胞を作る。

脚注


注釈

  1. ^ ちなみに、2009年に全米科学振興協会に所属する科学者たちに対して調査を行ったところ、科学者のちょうど半数ほど(51%)が、神あるいは何らかの超越的な力を信じている、と回答した。

出典

  1. ^ a b 『岩波生物学事典』 第四版 p.766「生命の起源」
  2. ^ 東京化学同人『生化学辞典』「生命の起源」
  3. ^ ウィキソース版『創世記』で、その内容を読むことができる。
  4. ^ a b c d 野田春彦『生命の起源』培風館、1996年、「第二章」
  5. ^ a b c d 『岩波生物学事典』 第四版 p.575「自然発生」
  6. ^ 『世界大百科事典』平凡社、1988「自然発生説」
  7. ^ 『岩波生物学事典』 第四版 p.575
  8. ^ J. F. Kasting, Earth's early atmosphere,Science 12 February 1993: Vol. 259 no. 5097 pp. 920-926
  9. ^ Schoph, J. W., ed. Major Events in the History of Life. Boston, Jones and Bartlett Publishers, 1992. p.12
  10. ^ Furukawa et al., Biomolecule formation by oceanic impacts on early Earth. Nature Geoscience, 2 (2009), 62-66
  11. ^ http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/853
  12. ^ http://www.newscientist.com/article/dn24199-crack-a-comet-to-spawn-the-ingredients-of-life.html#.VN62LsIcSHt
  13. ^ 池谷仙之、北里洋『地球生物学―地球と生命の進化』東京大学出版会、2004年、81頁。ISBN 978-4-130627-11-5 
  14. ^ http://www.nasa.gov/mission_pages/stardust/news/stardust_amino_acid.html
  15. ^ http://www.cnn.co.jp/fringe/30003666.html
  16. ^ Callahan et al., PANS vol. 108 no. 34, 13995–13998
  17. ^ Furukawa, Yoshihiro; Chikaraishi, Yoshito; Ohkouchi, Naohiko; Ogawa, Nanako O.; Glavin, Daniel P.; Dworkin, Jason P.; Abe, Chiaki; Nakamura, Tomoki (2019-12-03). “Extraterrestrial ribose and other sugars in primitive meteorites” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 116 (49): 24440–24445. doi:10.1073/pnas.1907169116. ISSN 0027-8424. http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.1907169116. 
  18. ^ 長沼毅井田茂『地球外生命 われわれは孤独か』岩波書店、2014年、51頁。ISBN 978-4-00-431469-1 
  19. ^ Sreedhara, A., Li, Y. & Breaker, R. R. J. Am. Chem. Soc. 126, 3454-3460
  20. ^ JAXA ISASニュース 2017年12月号など、様々な資料で活動実績や予定が説明されている。
  21. ^ “約40億年前の生命か 地球最古の化石発見に異論も”. 『ナショナルジオグラフィック日本版』、日本経済新聞電子版. (2017年3月20日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO13811130Y7A300C1000000/ 
  22. ^ “熱水噴出孔 周囲で電流確認 有機物に影響、生命誕生か”. 毎日新聞朝刊. (2017年5月7日). https://mainichi.jp/articles/20170507/k00/00m/040/113000c 
  23. ^ NEWS WEEK 2018年12月13日「地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される」松岡由起子 執筆担当





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