現代仮名遣い 現代仮名遣いの概要

現代仮名遣い

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 10:10 UTC 版)

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狭義では、1986年7月1日昭和61年内閣告示第1号「現代仮名遣い」として公布されたものを指す。これは1946年に昭和21年内閣告示第33号として公布された「現代かなづかい」を改定したものである。よって「現代かなづかい」についてもこの項で扱う。

概要

「現代かなづかい」(1946年)の「現代語をかなで書き表す場合の準則」という表現を「現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころ」と改め、制限的な色彩を薄めたものが「現代仮名遣い」(1986年)である。

本項では、一般的な仮名による正書法の意味では「仮名遣」、思想の異なる二系統を「歴史的仮名遣」「現代仮名遣い」として、表記を統一する。「現代かなづかい」とする場合は「現代仮名遣い」以前のものである。

改定前の「現代かなづかい」は表音表記を目指しながら、一部に歴史的仮名遣と妥協したものであり、それを改定した「現代仮名遣い」もまたその姿勢は変わらない。歴史的仮名遣の表語部分を含むために正書法であるとされ、それが現代仮名遣いにおける準則である。これら仮名遣の準則による表音的ではない表記を認めることについては「妥協」「許容」の表現があり、「許容」の場合は原則が表音である違いがある。[要出典]

内閣訓令と告示

1946年(昭和21年)11月16日、内閣総理大臣吉田茂により、「当用漢字表の実施」(昭和21年内閣訓令第7号)とともに「現代かなづかいの実施」が告示訓令された。

内閣訓令第八号 - 「現代かなづかい」の実施の関する件 - 各官廳[1]
  國語を書きあらわす上に、從來のかなづかいは、はなはだ複雑であって、使用上の困難が大きい。これを現代語音にもとづいて整理することは、教育の負担を軽くするばかりでなく、國民の生活能率を上げ、文化水準を高める上に資するところが大きい。それ故に、政府は、今回國語審議会の決定した現代かなづかいを採択して、本日内閣告示第三十三号をもって、これを告示した。今後、各官廳については、このかなづかいを使用するとともに、廣く各方面にこの使用を勧めて、現代かなづかい制定の趣旨の徹底するように務めることを希望する。
 - 昭和二十一年十一月十六日 - 内閣総理大臣 吉田茂
内閣告示第三十三号 - 現代國語の口語文を書きあらわすかなづかいを、次の表のように定める[2]現代かなづかい
一、このかなづかいは、大体、現代語音にもとづいて、現代語をかなであらわす場合の準則を示したものである。 
一、このかなづかいは、主として現代文のうち口語体のものに適用する。
一、原文のかなづかいによる必要のあるもの、またはこれを変更しがたいものは除く。 - 本表(省略)
 - 昭和二十一年十一月十六日 - 内閣総理大臣 吉田茂

1986年(昭和61年)7月1日、第二次中曽根内閣により、昭和21年内閣告示第33号が廃止され、現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)が告示、訓令された。以下、重複部を除いた冒頭部を掲載する。

内閣告示第一号 - 現代仮名遣い 
一般の社会生活において現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを、次のように定める。
なお、昭和二十一年内閣告示第三十三号は、廃止する。[3]
1. この仮名遣いは、語を現代語の音韻に従つて書き表すことを原則とし、一方、表記の慣習を尊重して一定の特例を設けるものである。
2. 法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを示すものである。
3. 科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。
4. 主として現代文のうち口語体のものに適用する。原文の仮名遣いによる必要のあるもの、固有名詞などでこれによりがたいものは除く。
5. 擬声・擬態的描写や嘆声、特殊な方言音、外来語・外来音などの書き表し方を対象とするものではない。
6. 「ホオ・ホホ(頰)」「テキカク・テッカク(的確)」のような発音にゆれのある語について、その発音をどちらかに決めようとするものではない。
7. 点字、ローマ字などを用いて国語を書き表す場合のきまりとは必ずしも対応するものではない。 
8. 歴史的仮名遣いは、明治以降、「現代かなづかい」(昭和21年内閣告示第33号)の行われる以前には、社会一般の基準として行われていたものであり、今日においても、歴史的仮名遣いで書かれた文献などを読む機会は多い。歴史的仮名遣いが、我が国の歴史や文化に深いかかわりをもつものとして、尊重されるべきことは言うまでもない。また、この仮名遣いにも歴史的仮名遣いを受け継いでいるところがあり、この仮名遣いの理解を深める上で、歴史的仮名遣いを知ることは有用である。付表において、この仮名遣いと歴史的仮名遣いとの対照を示すのはそのためである。 - 以下本文(省略)
 - 昭和六十一年七月一日- 内閣総理大臣 中曽根康弘

歴史

仮名遣歴史的仮名遣も参照。

  • 平安時代後期以降、表記の混乱に際して、長らく藤原定家行阿定家仮名遣を行う。
  • 仮名遣の歴史は、この表記の合理性を古典に求め、その語彙を収集して辞書としたことに発するが、依然として混乱は続く。明治以降に教育が普及して、表記が統一する。
  • 江戸時代になり、国学者らの契沖楫取魚彦本居宣長が初めて仮名遣の表記理念や実証的研究を行う。
  • 明治時代以降、教育の普及とともに契沖仮名遣及び字音仮名遣を基にした歴史的仮名遣が行われる。その表記の理念は契沖により「語義の書き分け」とされた。
  • 1900年明治33年)になり表音式かなづかい、続いて漢字制限の論が起こるが、反対されて頓挫する。三十三年式とも呼ばれる。臨時仮名遣調査委員会
  • 明治から大正期にかけて、何度か国語改良論が起こる。当時の表音式仮名遣は徹底した表音主義であったが、のちの「現代かなづかい」では歴史的仮名遣と妥協した。
  • 昭和になり橋本進吉時枝誠記らの国語学者が歴史的仮名遣の理念を「語に基づく(表意、表語主義)」と定め、契沖の理念はその結果として否定される。
  • 1941年(昭和16年)に陸軍の「兵器に関する仮名遣要領」が、新仮名遣を採用する。
  • 1946年(昭和21年)に第11回国語審議会の答申に従い「現代かなづかい」を告示する。理念は、歴史的仮名遣は「古代語音に基づく」ものであるから、現代かなづかいは「現代語音に基づく」と改めた、とした。
  • 同じくして「当用漢字」の漢字制限およびローマ字教育など一連の国語改革を推進する。
  • 1981年(昭和56年)に「当用漢字」を「常用漢字」に改め、漢字制限は緩やかなものとなる。
  • 1986年(昭和61年)に「現代かなづかい」を「現代仮名遣い」に改定する。

現在では現代仮名遣いが常用されるが、歴史的仮名遣を支持する者もいる。

三十三年式と臨時仮名遣調査委員会

ここでは明治大正における歴史的仮名遣と表音的仮名遣の流れを記述する。

1900年(明治33年)「小學校令施行規則」で、漢語は表音式、和語は歴史的仮名遣の手法を採用した。ここでは、これを指して「三十三年式」と呼ぶ。これに対して異論や反対が多く、従来通り歴史的仮名遣と字音仮名遣を引き続き教育で用いることとした。

この紛糾を受けて、1906年(明治41年)に文部省臨時仮名遣調査委員会を設けた。臨時仮名遣調査委員会では森鷗外の假名遣意見など歴史的仮名遣を支持する論や、大槻文彦芳賀矢一など表音的仮名遣を支持する論があった。この時の経緯は山田孝雄が「森林太郎博士苦心の事」[4]で、森鷗外の假名遣意見を挙げ、「文部省をして議案を撤囘せしむるの止を得ざるに到らしめるものなり」と述べている。帝国議会の反対もあり、臨時仮名遣調査委員会は廃止された。

国語調査会と森鷗外

1921年大正10年)に新しく設けられた臨時国語調査会[5]は、「当用漢字」や「現代かなづかい」に似たものを大正13年(1924年)12月24日に満場一致で可決した。

対して山田孝雄1925年(大正14年)2月にこれに反対する論を書き上げた。鷗外はこの時の国語調査会の会長であったが、1922年(大正11年)6月に辞職した。鷗外は危篤(1922年〈大正11年〉 7月9日死去)に際して、再三濱野知三郎を通じ山田と面会しようとした。山田の私用でかなわなかったが、7月8日に鷗外の危篤と遺志が伝えられる。約1か月前、6月上旬の辞職前にも山田と濱野は面会しており、その時は「同問題の將來をいたく憂慮し、慷慨淋漓たるものあり、終に旨を濱野に含めて不肖に傳へらるる所ありき」とのことであった。臨終に際しての鷗外の苦心、憂慮を取り上げ、山田は以下のような文面で調査会を非難した。「森博士の名にかりて私見を逞くせむの卑劣なる考あらむや。ただ同博士の生死の際に國語問題に非常なる憂慮を費やされしその誠意は後進たる余が責務として何の時かこれを世に公に傳へおかざるべからざる責任を深く感ずる」。以上は「森林太郎博士苦心の事」によるが、これは假名遣意見と同じ明星に掲載された。

この掲載を受けて、芥川龍之介藤村作美濃部達吉・松尾捨治郎・高田保馬本間久雄木下杢太郎などにより次々と反対論が発表され、国語問題は社会問題となった。この問題は帝国議会で取り上げられ、再びの議員の反対を受けて、戦前における表音的仮名遣の論は表舞台から消え、表音主義は戦後に再び台頭する。

表音主義の台頭

歴史的仮名遣の表音化、さらにはローマ字化国語外国語化など、多くの国語改良論があった。戦前にこれらは実施されなかったが、戦後に表音的表記を本則とする「現代かなづかい」が告示された。経緯は仮名遣歴史的仮名遣国語国字問題に詳述がある。


  1. ^ 文部省教科書局国語課『五十音順当用漢字音訓表』 文部省、P41
  2. ^ 文部省教科書局国語課『五十音順当用漢字音訓表』 文部省、P42
  3. ^ 現代仮名遣い 訓令,告示制定文(文化庁)
  4. ^ 「森林太郎」は鷗外の本名
  5. ^ のちの国語審議会は臨時国語調査会を継承した。


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