狭軌 概要

狭軌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 04:56 UTC 版)

概要

標準軌(青)と狭軌(赤)の幅の比較

元々「狭軌」はより広い軌間に対する相対的な言い方であり、現在「標準軌」と呼ばれる4 ft8+12 in(1,435 mm)軌間も、イギリス1846年に勅裁された「鉄道のゲージ規制に関する法律」ができる前は、2 m以上あるブルネルの軌間に比べて狭く「標準」ではなかったため、法律が適用される以前はもちろん、適用後の1850年代頃までは狭軌と呼ばれていた。1870年頃においても、現在の標準軌を狭軌と呼ぶことが残っていたと言われる[1]

現在でも旧大英帝国領(植民地)等の3 ft6 in(1,067 mm)軌間を使用する地域では、その地域でこれよりも広い軌間が存在しないため、これを狭軌と呼ばずに標準軌と呼ぶことがある。これは1,000 mm軌間(メーターゲージ)についても同様である。このような事情により、今日では「1,000 mm未満は確実に狭軌」とみなされているが、これ以上は状況によっては狭軌に入れない場合もある[2]

日本国内での呼び方

日本の場合、かつての日本国有鉄道(国鉄)の軌間は1,067 mmが標準であったためこれを「狭軌」と呼ぶことは少なく、新幹線やいくつかの私鉄で使用されている1,435 mm軌間(標準軌)の方を誤って「広軌」と呼ぶ人が多かったという[3][注 1]。国鉄の中で買収・国有化路線の中に存在した762 mm軌間の路線(ナローゲージ)については特殊狭軌線と呼称され、同じく日本の私鉄でも、三岐鉄道北勢線四日市あすなろう鉄道などの現存する該当路線に対して、同様の呼び方をする。

なお、特殊狭軌線と軽便鉄道は混同されやすいが、特殊狭軌線は軌間が762 mmの線路を意味し、軽便鉄道法に従って敷設された鉄道という意味である。軽便鉄道法もまた軌間を762 mm以上と定めているため、軽便鉄道の大半は特殊狭軌線ではあるが、西大寺鉄道(914 mm)や新宮軽便鉄道(1,435 mm)などの例もあり、必ずしも一致するものではない。

狭軌の特性と採用されやすい場所

意図的に狭い軌間を選択する鉄道は、元々機関車さえもない時代の人力や家畜動力のトロッコのような路線から生まれた。こうした鉄道で使用される車両はホイールベースや軌間が小さくても不安定ではなく、むしろ急カーブ(障害物を避けられるのでトンネルなどの施設費用を抑えられる)を曲がりやすくなって好都合であったため、機関車が開発されてからも鉱山鉄道[4]、線路施設が簡易的なもので済むことから木材の伐採が終わったら線路を移動しなくてはならない森林鉄道に採用例が多い。

また、枕木および砂利などの道床にかかるコストも最低限軌間分の幅が必要となるため、標準軌であれば「1,435mm+レールの厚み」の枕木が必要となるところ、狭軌であればそれだけ短縮でき[注 2]、より低規格かつ低コストの路線を作ることが可能である。そのため第一次世界大戦時には、同盟国連合国の双方とも前線(en:front line)での輸送用に狭軌の鉄道を盛んに建設した。第一次世界戦後(en:Aftermath of World War I)のヨーロッパでは、その資材を流用した狭軌鉄道が一時流行した。


注釈

  1. ^ 「弾丸鉄道計画」など
  2. ^ 逆に狭軌で広い道床を使うことも可能である。
  3. ^ 1846年の法整備によってブリテン島の軌間が標準軌に統一されたため、スコットランドに1,372mm軌間の実用鉄道は現存していない。
  4. ^ 既存の客車や貨車は大きすぎて重量過多なため小型化した方がよく、技術革新によって狭軌でもこれに十分な機関車は製造できるようになっていた。
  5. ^ 国有鉄道建設規定(大正十年十月十四日)には、第十三条「本線における曲線の最小半径は三百メートル以上たることを要す」、同じく第十四条「本線路における勾配は千分の二十五より急ならざることを要す」とある。(『官報1921年10月14日』P.2)国立国会図書館デジタルコレクションより
  6. ^ 『蒸気機関車200年史』P148では「簡易線の最小半径が300m」とあるが「甲線」の誤記か直径と半径の誤りと判断。
  7. ^ この制限は、後で政府が私鉄を買い上げて国有鉄道に一体化することを前提としていたからである。また、国有鉄道が狭軌であることから、貨物輸送を行う場合は貨車の直通が不可能になることを避ける目的もある。この法律そのものは1900年(明治33年)施行だが、1887年(明治20年)の私設鉄道条例にすでに私鉄の軌間も三尺六寸規定の説明がある
  8. ^ 短期間で広げた例としては、南満州鉄道(満鉄)の最初期に1年間で3ft6inを4ft8inにした事はあるが、これは元々ロシアが5ft軌間で敷いた広軌を日露戦争中に日本の機関車を使えるように軌間が3ft6inになるようにレールを中央にずらして敷き直したのをまたずらしたものであり、元をたどるとむしろ狭軌化である。
  9. ^ 島が改軌論争の際に描いた標準軌機関車の計画はイギリスの車両限界を参考にしていたらしく、アメリカどころかヨーロッパ大陸の機関車と比べても一回り小さく、軸重に至っては14.37 tと、強度狭軌後の日本の機関車と比べても低い。

出典

  1. ^ 齋藤(2007) p.70・117
  2. ^ (ウェストウッド2010) p.288-290「狭軌鉄道」
  3. ^ 小学館『日本大百科全書』(ニッポニカ)「鉄道」
  4. ^ 齋藤(2007) p.118
  5. ^ Whitehouse, Patrick; Snell, John B. (1984). Narrow Gauge Railways of the British Isles. ISBN 0-7153-0196-9 
  6. ^ Rixke Rail's Archives”. 2020年6月13日閲覧。
  7. ^ Quine, Dan (2013年). “The George England locomotives of the Ffestiniog Railway” (英語). 2020年6月13日閲覧。
  8. ^ Quine, Dan (March 2019). “F.C. Blake and the Mortlake Tramways”. Industrial Railway Record (the Industrial Railway Society) (236). 
  9. ^ Dunn, Richard (1 January 1990). Narrow gauge to no man's land: U.S. Army 60 cm gauge railways of the First World War in France. Benchmark Publications 
  10. ^ Westwood, J. N. (1980). Railways at War. Howell-North Books 
  11. ^ Spooner, Charles Easton (1879). Narrow Gauge Railways. p. 71. https://books.google.com/books?id=3pUpAAAAYAAJ&pg=PA71 
  12. ^ Irish Railways including Light Railways (Vice-Regal Commission. XLVII. London): House of Commons. (1908). p. 200. https://books.google.com/books?id=8OVGAQAAMAAJ&pg=RA1-PA200 
  13. ^ 車両軽量化・ボルスタレス台車と尼崎事故 №3”. www.doro-chiba.org. 日刊 動労千葉 (2005年8月11日). 2020年6月13日閲覧。
  14. ^ 齋藤晃『蒸気機関車200年史』NTT出版、2007年、ISBN 978-4-7571-4151-3、p.146。
  15. ^ 宮田寛之「762mm軌間では世界最大級のミカド形とプレーリー形テンダー機関車(その2)」『鉄道模型趣味2021年2月号(No.949・雑誌コード06455-02)』、株式会社機芸出版社、2021年2月、p.60 。
  16. ^ クイーンズランド鉄道 (2013年). “Annual Report(1998-1999)” (pdf) (英語). 2009年9月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月13日閲覧。
  17. ^ Speed Record Club”. Speed Record Club. 2012年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月13日閲覧。
  18. ^ Class 5E/6E Electric”. 2008年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年6月15日閲覧。
  19. ^ Pantograph testing in South Africa”. Traintesting.com. 2020年6月13日閲覧。
  20. ^ Shaw, Frederic J. (1958). Little Railways of the World. Howell-North 
  21. ^ 加藤新一「『東京ゲージ』をめぐる鉄道史」『地理』第41巻11号(通巻491号)、古今書院、1996年11月、48-53頁、NAID 40002447064 
  22. ^ 宮田道一、広岡友紀『東急電鉄まるごと探見 歴史・路線・運転・ステンレスカーJTBパブリッシング、2014年3月、155頁。ISBN 978-4-533-09630-3 
  23. ^ 齋藤(2007) p.142-144
  24. ^ 齋藤(2007) p.148
  25. ^ 鉄道技術発達史 第4篇 第1 P273
  26. ^ 鉄道技術発達史 第4篇 第1 P273
  27. ^ 鉄道ジャーナル P24
  28. ^ NOP法人「旧狩勝線を楽しむ会」旧狩勝線の近代化遺産
  29. ^ 狩勝高原エコトロッコ鉄道」根室本線旧線 大カーブ(狩勝信号場~新内駅間)その1
  30. ^ 鉄道技術発達史 第2篇 第1施設 P37
  31. ^ 齋藤(2007) p.247-248
  32. ^ 齋藤(2007) p.248-249





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