特定元方事業者 特定元方事業者の概要

特定元方事業者

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/24 23:22 UTC 版)

概要

一般的な建設工事建築工事の請負の場合、元請負業者が該当する。総合建設業者や建築JVが特定元方事業者となる。下請負業者への指導など、現場の労働災害を防止するうえにおいて重要な役割を担う事業者。

講ずべき措置

  1. 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者[注釈 1]が、当該仕事に関し、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。(労働安全衛生法第29条第1項)
  2. 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者[注釈 1]が、当該仕事に関し、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。(労働安全衛生法第29条第2項)
  3. 建設業に属する事業の元方事業者は、以下の場所において関係請負人の労働者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならない。(労働安全衛生法第29条の2、労働安全衛生規則第634条の2)
    1. 土砂等が崩壊するおそれのある場所(労働安全衛生規則第361条、第534条)
    2. 土石流が発生するおそれのある場所(労働安全衛生規則第575条の9から第575条の16まで)
    3. 機械等が転倒するおそれのある場所(労働安全衛生規則第175条、第173条、第349条、クレーン等安全規則第70条の3、第70条の4)
    4. 架空電線充電電路に近接する場所であって、当該充電電路に労働者の身体等が接触し、又は接近することにより感電の危険が生ずるおそれのあるもの(労働安全衛生規則第349条)
    5. 埋設物等又はれんが壁、コンクリートブロック塀、擁壁等の建設物が損壊する等のおそれのある場所(労働安全衛生規則第362条)
  4. 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため[注釈 2]、次の事項の必要な措置を講じなければならない。(労働安全衛生法第30条、第120条第1項、第122条及び、労働安全衛生規則第635条から第642条の3まで)
    1. 協議組織[注釈 3]の設置及び運営を行うこと。
    2. 作業間の連絡及び調整を行うこと。
    3. 作業場所を巡視すること。
    4. 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助[注釈 4]を行うこと。
    5. 建設業に属する事業の元方事業者にあつては、工程表等[注釈 5]の仕事の工程に関する計画[注釈 6]及び作業場所における主要な機械[1]、設備[注釈 7]及び作業用の仮設の建設物[注釈 8]の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導[注釈 9]を行うこと。
    6. 前各号に掲げるもののほか、当該労働災害を防止するため必要な事項。
      1. クレーン等[注釈 10]の運転についての合図の統一
      2. 事故現場等[注釈 11]の標識の統一等
      3. 有機溶剤等の容器の集積箇所の統一
      4. 警報の統一等
      5. 避難等の訓練の実施方法等の統一等[注釈 12]
      6. 周知のための資料の提供等[注釈 13][注釈 14]

労働安全衛生法第15条第1項の「一の場所」の範囲の例(労働安全衛生法および同法施行令の施行について 昭和47年09月18日 基発第602号)

建設業関係
建築工事関係
ビル建設工事 当該工事の作業場の全域
鉄塔建設工事 当該工事の作業場の全域
送配電線電気工事 当該工事の工区ごと
変電所又は火力発電所建設工事 当該工事の作業場の全域
土木工事関係
地下鉄道建設工事 当該工事の工区ごと
道路建設工事 当該工事の工区ごと
ずい道建設工事 当該工事の工区ごと
橋りよう建設工事 当該工事の作業場の全域
水力発電所建設工事
堰堤工事の作業場の全域水路ずい道工事の工区ごと
発電所建設工事の作業場の全域
造船業関係
船殻作業場の全域、艤装又は修理作業場の全域、造機作業場の全域、又は造船所の全域

事業開始報告

特定元方事業者(下請負人を使用する建設業、造船業に属する事業の元請負人)及び労働安全衛生法第30条第2項後段の定めにより指名された事業者(特定事業を行わない特定元方事業者[注釈 15]仕事をしない元請負人)から主要部分を請負った下請負人)は、特定元方事業者の労働者及び関係請負人の労働者が、同一の場所において作業が行われるとき(元請負人が下請負人を使用するとき)は、当該作業の開始後、遅滞なく、当該場所を管轄する労働基準監督署長特定元方事業者の事業開始報告[2]を提出しなければならない。(労働安全衛生法第100条第1項、第120条第5項、第122条、労働安全衛生規則第664条)


出典

  1. ^ クレーン、工事用エレベーター、主要な移動式クレーン、建設機械等の工事用の機械
  2. ^ 特定元方事業者の事業開始報告”. 手続情報表示|e-Gov電子申請. 2022年2月20日閲覧。

注釈

  1. ^ a b 労働安全衛生法に基づいて行われる安全確保のために必要な指導・指示は、元方事業者から関係請負人の労働者に対し直接行われても、労働者派遣事業(偽装請負)の成立要件である「業務の遂行に関する指示」には該当しない旨が厚生労働省により示されている。 厚生労働省. “労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集(第2集)”. 2023年12月25日閲覧。
  2. ^ 民法第623条、第632条、労働基準法第6条、第24条、職業安定法第44条、労働者派遣法第4条第1項との調整
  3. ^ 安全衛生協議会、災害防止協議会、労働災害防止協議会など
  4. ^ 教育を行なう場所の提供、当該教育に使用する資料の提供等
  5. ^ 「工程表等」の「等」には、機械等の搬入、搬出の予定についての計画があること。
  6. ^ 計画については、施工計画書において示されていれば足りるものであること。
  7. ^ 足場型枠支保工土止め支保工、架設通路、作業構台、軌道装置、仮設電気設備等の工事用の設備及び事務所
  8. ^ 寄宿舎等の作業用の仮設の建設物
  9. ^ 特定元方事業者が車両系建設機械又は移動式クレーンを用いて作業を行う関係請負人の作成する作業計画(労働安全衛生規則第155条第1項の作業計画、第380条第1項の施工計画、第517条の6の作業計画、第517条の20の作業計画及びクレーン則第66条の2第1項の作業の方法)等について、周囲の請負人の労働者に危害を及ぼさないよう労働安全衛生規則第638条の3の計画に基づき必要な指導を行わなければならない趣旨であり、具体的な指導の内容としては、機械の種類及び能力、運行経路、作業方法、設置位置等についての指導があること。
  10. ^ クレーン、移動式クレーン、デリック、簡易リフト又は建設用リフトで、クレーン則の適用を受けるもの
  11. ^ 有機溶剤中毒予防規則(有機則)第27条第2項の事故現場、高気圧作業安全衛生規則(高圧則)第1条第3号の作業室又は同条第4号の気閘室電離放射線障害防止規則(電離則)第3条第1項の区域、電離則第15条第1項の室、電離則第18条第1項本文の規定により労働者を立ち入らせてはならない場所又は電離則第42条第1項の区域、酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)第9条第1項の酸素欠乏危険場所又は酸欠則第14条第1項の規定により労働者を退避させなければならない場所
  12. ^ 本規定は、土石流危険渓流において建設工事の作業を行う場合についても準用
  13. ^ 「資料の提供等」の「等」には、視聴覚機材の提供があること。
  14. ^ いわゆる新規入場者教育等が行われる際に、特定元方事業者が必要な場所、資料の提供等の援助を行うべきことを規定したものであること。
  15. ^ 工事の施工管理のみを行なう場合にも当該発注者等は「特定事業を行なうもの」に含まれる。ただし、工事の設計監理のみを行なつているにすぎない場合には、当該発注者等は、「特定事業を行なうもの」に含まれない。


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