炎上 (ネット用語) 文化的考察

炎上 (ネット用語)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/11 23:59 UTC 版)

文化的考察

北田暁大は、日本のインターネット上のコミュニティではしばしば、内容そのものよりも形式的な作法や感情の盛り上がりに従ってコミュニケーションを連鎖させていくこと自体を重視する「つながりの社会性」という現象がみられると論じている。炎上についても、当初は内容面だった対立が次第に語り口などの形式面への批判へスライドしていくという傾向が見られ、この枠組みで捉えることができるといえると論する[64]。2004年から2年間にわたって開催されたised(情報社会の倫理と設計についての学際的研究)の倫理研では、日本ではインターネット・携帯電話などの情報技術の発展が新たな民主主義の可能性や電子公共圏の構築には寄与せず、炎上・コメントスクラムを含むつながりの社会性による無内容コミュニケーションを増幅させるにすぎないのではないか、という問題意識から様々な議論を行っている[65]

伊地知晋一は、大手メディアが取り上げなくとも炎上がきっかけとなって政治家や大企業が公式に謝罪発表するというような事例はインターネットの台頭以前には考えられなかったことであるとし、ネット上で個人が意見を発表して問題点を共有するネットデモクラシーの動きの象徴として炎上を捉えている[66]

評論家荻上チキは、炎上を含むサイバーカスケード現象について考察する中でイラク日本人人質事件後のネット上でのバッシングや自作自演説の発生の社会的背景などについて考察した。

ライターの中川淳一郎は、荻上のこの考察や前述の伊地知晋一について2007年頃まではほぼ同意していた。しかし、自身もネットニュースの編集に携わる中で炎上をウォッチしたり炎上予防に神経をすり減らしたりしているうちに、やがてそれらの意見に疑問を持つようになったと述べており、その背景を分析する立場はとるのは困難であるとしている[67]。2015年には「インターネットを甘く見るな」ということに尽きると強調している[45]

山本一郎は、劇場型の炎上が増えていく中で、炎上する「神輿」一人に問題を叩きつけるだけでなく、問題の原因となったそもそもの仕組みを発掘し「正しく」騒がなければならないと論じ、「炎上が楽しいのはわかるけどやり過ぎないようにね」とコメントしている[44]

CMC研究では、1980年代にはキースラーによって、炎上は匿名性に加え、表情やしぐさといった身体的手がかり情報や、性別や身分といった社会的・文脈的手がかり情報といった、対面場面にあるはずの情報が欠如するために生じるという主張である「手がかり濾過」アプローチが提唱された[10]。この説は直感的で理解しやすく関心を集めたが、主張を支持する直接的証拠が見いだされなかった。1990年代にスピアーズとリーは「手がかり濾過」アプローチを批判し、「没個性化の影響に関する社会的アイデンティティ(SIDE)」モデルを提唱した[10]。SIDEモデルでは、炎上は特定の集団で発生しやすく、それらの集団では参加者間の相互作用により規範が確立されている。オンラインの匿名性は自己覚醒を低下させ、没個性化を引き起こす。集団において攻撃的な規範が優勢な場合、炎上を起こした集団との同一視が強い、没個性化した参加者が規範に同調してエスカレートするというメカニズムである。このモデルには攻撃的な規範が発生するメカニズムを直接的に説明しておらず、循環論であるという批判がある。




  1. ^ 田中 & 山口 2016, p. 5.
  2. ^ 田中 & 山口 2016, pp. 12-13.
  3. ^ 「ネット公共圏と炎上をめぐる問題」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』238頁
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  5. ^ 『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』34-36頁
  6. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』84頁
  7. ^ 「ネット公共圏と炎上をめぐる問題」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』245頁
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  9. ^ 「ネット公共圏と炎上をめぐる問題」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』245-246頁
  10. ^ a b c 五十嵐祐 吉田俊和、橋本剛、小川一美(編)「メディアコミュニケーションの普及は、私たちに何をもたらしたか?」『対人関係の社会心理学』ナカニシヤ出版 2012 ISBN 9784779506932 pp.193-197.
  11. ^ a b 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』47頁
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  14. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』28頁
  15. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』136頁
  16. ^ 『ソーシャルメディア炎上事件簿』18頁・60頁など
  17. ^ 「ポストised、変化したことは何か1」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』472頁
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  19. ^ SNS炎上、供養します 住職も批判経験「仏教の大義」 - 朝日新聞
  20. ^ [1]
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  23. ^ ネット炎上、参加者わずか2.8% それなのに拡散するのはなぜ?
  24. ^ 「ブログ炎上」『学びとコンピュータハンドブック』68-72頁
  25. ^ 蜷川真夫 『ネットの炎上力』 文藝春秋、2010年、128頁 ISBN 978-4166607396
  26. ^ 『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』165頁
  27. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』102-105頁
  28. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』107-108頁
  29. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』17頁・20-22頁
  30. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』67-68頁
  31. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』46-47頁
  32. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』65-66頁
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  37. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』98-101頁
  38. ^ 『ソーシャルメディア炎上事件簿』148-149頁
  39. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』110-116頁、『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』134頁を参照
  40. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』81頁
  41. ^ 「ブログ炎上」『学びとコンピュータハンドブック』71頁
  42. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』45頁
  43. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』19-20頁
  44. ^ a b 『GQ』でボツになった「五輪エンブレム」佐野研二郎さんのネット炎上関連の原稿と経緯について”. Yahoo!ニュース (2015年9月10日). 2015年9月10日閲覧。
  45. ^ a b 五輪エンブレム問題 声あげない業界、陰謀論に憤り 中川淳一郎氏”. withnews (2015年9月2日). 2015年9月2日閲覧。
  46. ^ 「ブログ炎上」『学びとコンピュータハンドブック』69-71頁
  47. ^ 『ソーシャルメディア炎上事件簿』第2章
  48. ^ いわゆるバイトテロ
  49. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』18-20頁
  50. ^ 『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』145-150頁
  51. ^ 「祭られた人々」(晋遊舎) 20頁
  52. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』20頁
  53. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』19-20頁・61頁・79頁・113頁
  54. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』などで使用されている
  55. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』66-68頁
  56. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』70-71頁
  57. ^ 『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』40-41頁
  58. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』63頁
  59. ^ 『ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性』41頁
  60. ^ 『ネット炎上であなたの会社が潰れる!―ウェブ上の攻撃から身を守る危機管理バイブル』94-96頁
  61. ^ 『ソーシャルメディア炎上事件簿』166-167頁
  62. ^ 藤代裕之 (2011年9月1日). “まんべくん騒動にみる「炎上マーケティング」の教訓”. 日本経済新聞. 2012年2月9日閲覧。
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  65. ^ 濱野智史「まえがき」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』4頁
  66. ^ 『ブログ炎上 〜Web2.0時代のリスクとチャンス』146-148頁
  67. ^ 『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』64-70頁




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