火山 火山島

火山

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 11:29 UTC 版)

火山島

海底火山が噴火を繰り返し頂上部分が水面から上に出た場合、その部分は島となる。火山島である。小規模な火山島は噴火を繰り返す火口部分のみが海面上に出ており居住は不可能であるが、大規模な火山島の場合、火口から離れた海岸部分を中心に人が居住することが多い。火山島は養分に恵まれた肥沃な土質をしており、標高が高いため雨も降りやすく[10]ポリネシア人の入植した島々においては火山島の方がサンゴ礁島に比べタロイモなどの農耕がおこないやすく豊かな文明を築くことが多かった。ただし、火山島は海底火山の火口部分が海面上に出たものに過ぎず、いったん噴火が起きた際には逃げ場が存在しないため、被害が拡大する傾向がある。

また、海底火山が噴火して新たに島を作ったり面積を大幅に広げることは、珍しいことではない。近年においては、1973年2013年小笠原諸島西之島近傍において海底火山が噴火して新島ができ、西之島とつながった「西之島新島」などが知られる。ただし、こうした島の多くは火山活動が収まると付近の潮流に削られて面積を縮小させ、再び海中に没することも多い。イタリアシチリア島の沖合に存在する海底火山は1831年に噴火し、フェルディナンデアと呼ばれる島を形成した。この島は地中海の交通の要衝にあったためにイギリス、フランス、スペイン両シチリア王国の4か国が領有権を主張する事態となったが、島はその年のうちに波に削られ再び海中に没した[11]

噴火と火山災害

地下のマグマが火道を通って噴出することを噴火と呼ぶ。噴火はマグマの組成によって変化し、粘性の低い玄武岩が主体となっているマグマの場合は火口から溶岩流が流れ出すのに対し、粘性の高い流紋岩が主体となっている場合は大規模な爆発を起こすことが多く、爆発しない場合は溶岩ドームを形成する。粘性が玄武岩と流紋岩の中間程度である安山岩を主体としている場合は噴火タイプも両者の中間であり、溶岩流が流れ出すこともあれば爆発を起こしたり溶岩ドームを形成することもある[12]

いったん噴火が起きると、火口からはさまざまな火山噴出物が噴出する。マグマがそのまま液体として流れ出したものが溶岩であり、冷え固まって固体となると火山灰火山弾軽石スコリアなどの火山砕屑物となり、また火山ガスなどの気体も噴出する。これらの噴出物は非常に高温であり、いったん噴火すると周囲の土地に多大な被害をもたらす。溶岩流は流速が遅く人が直接飲み込まれることはそれほど多くないが、周囲の土地を飲み込んだ場合そのまま固化して岩石となるため、農地や住宅地が呑み込まれた場合使用不能となる[13]。火山ガスは高温の上二酸化炭素二酸化硫黄硫化水素などの有毒な気体が多く含まれ、また酸素が少ないため、有毒成分の吸入や酸欠によって人間が死亡することも珍しくない。火山ガスは密度が高いため特にくぼ地にたまりやすく、風向きや火山活動の活発さによっては特に大噴火となっていなくともガスにまかれて死亡することがまれにある[14]

火山砕屑物が火山ガスや水蒸気などの気体とともに流れ下る火砕流は高温の上非常に速度が速く、発生した場合多数の人々が死亡することが多い。火砕流による大災害の例としては、79年に起きてポンペイの街を飲み込んだヴェスヴィオ火山噴火や、1902年西インド諸島フランスマルティニーク島にあるプレー山で発生し、島の首都であるサンピエール市を飲み込んで28000~30000人の死者を出したものなどがある。噴火により積もった灰が雨などと一緒に一気に流れる火山泥流も同様に直接的な被害が大きく、非常に危険である[15]

こうした直接の噴出物のほか、噴火によって火山の山体そのものが損傷し、衝撃によって崩壊することがある。山体崩壊と呼ばれるこの大規模な山崩れが起こった場合、多数の人命が失われることが多い。さらにこの山体崩壊が海の近くで起こった場合には大量の土砂がそのまま津波を起こし、対岸にも巨大な被害を与える。この山体崩壊による津波としては、1792年雲仙岳の噴火によって眉山が山体崩壊を起こし、対岸の肥後を大津波が襲った島原大変肥後迷惑などが知られている[16]。また、周囲に大量に降り積もった火山灰は安定しておらず、降雨があった場合土石流を起こして流れ下り、やはり多大な被害をもたらす[17]

また、大気中に放出された火山灰は飛行機の運行に対して重大な影響をもたらす。噴煙や火山灰は飛行機の視界を遮るほか、火山灰が機体に当たれば損傷を起こすし、なによりエンジンに火山灰が吸いこまれた場合、最悪の場合にはエンジンが停止してしまう場合もある。こうしたことから大規模な火山噴火が起きた場合、火山周辺のみならず周囲の広い範囲にわたって飛行が禁止となり、交通や経済に重大な損害をもたらす。2010年アイスランドエイヤフィヤトラヨークトルで起こった噴火においては、アイスランドのみならずヨーロッパ大陸の広い範囲において飛行が禁止され、数十万人の足に影響が出た(2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火による交通麻痺[18]

海底火山の噴火の際は通常被害がもたらされることはないが、噴火の際に火口の直上を船舶が航行していた場合、噴火によって船舶が吹き飛ばされ遭難することがまれにある。こうした事故の例としては、1952年明神礁の噴火の際に海上保安庁測量船「第五海洋丸」が巻き込まれ、職員31名が殉職した事故などがある(第五海洋丸の遭難[19]

火山活動が人口集中地域の近くで起き活動が沈静化しない場合、その土地の住民は移住を余儀なくされる。近年では1994年パプアニューギニアの主要港のひとつだった東ニューブリテン州都のラバウルにおいて近傍のタブルブル山とブルカン火山が同時噴火し[20]、5m以上の降灰によって町が埋め尽くされ、州都が20km離れたココポの街に移転された例や、1997年に西インド諸島にあるイギリスモントセラトスーフリエール・ヒルズにおいて大噴火が発生し、首都プリマスを含む同島の南半分が立ち入り禁止区域となって、首都を北部の小村であるブレイズへと移転せざるを得なくなった例などがある。

こうした一般的な噴火被害のほか、破局噴火と呼ばれる非常に大規模な噴火の場合、火山灰が大気圏に広がって太陽光を遮り、火山の冬と呼ばれる低温期を数年にわたってもたらすことがある。約74000年前に起きたインドネシア・トバ火山の大噴火は気温を急降下させ黎明期の人類に大きな影響を与えたとする、いわゆるトバ・カタストロフ理論が存在するほか[21]1815年のタンボラ山噴火や1991年のフィリピン・ピナトゥボ山噴火においては地球の気温低下が起きたことが確認されている[22]

火山の恩恵

鉱山地域の地形・地質図。

火山は被害をもたらすばかりではなく、人類の生活に密接につながり、さまざまな恩恵を与えている。火山はカルデラ湖や火山活動により形成された美しい山容、変化にとんだ地形、噴煙を上げる火山活動そのものなどを目的とした観光客が多く訪れ、その地域の観光の目玉となっていることがある。日本のシンボルともされる富士山も火山であり、噴火を繰り返したことによる成層火山特有の秀麗な山容から大観光地となっており、登山客も多く訪れる。このほか、雲仙岳阿蘇山なども活発な火山であると同時に大観光地ともなっている。草津白根山のように火山ガスの成分が溶け込んだ美しい火口湖を持ち、観光名所となっているところもある(ただし、2014年以降、噴火警戒レベル上昇によって草津白根山湯釜火口の観光はできなくなっている)。

観光地としての火山は風景そのもののほか、地下のマグマによって熱せられた温泉が周囲に多く湧出するため、より価値の高いものとなっている。草津温泉別府温泉をはじめ、火山性の温泉は日本にも世界各地にも存在する。中でも日本は火山が多いためそれにつれて温泉も多くなり、世界有数の温泉数を誇る[23]。また、火山は透水性が高いため、山麓は多量の湧水に恵まれ、市民の生活や工業用水などに使用される[24]

火山はエネルギー源としても利用可能である。火山周辺の高い地熱を生かし、地下の熱水によってタービンを回し発電することを地熱発電と呼び、新エネルギーの重要な一角を占めている。日本においては地熱発電は国定公園などの規制や温泉地の反発、発電自体の非効率性などによって総発電量に占める割合は非常に低く、世界でもそれほど利用率は高くないが、顕著な例外がアイスランドである。アイスランドの総発電量の54.9%(2005年)が地熱発電によってまかなわれており、これは世界でも際立って高い[25]。さらに発電以外にも、アイスランドの地熱利用の半分以上を占める暖房利用のほか、魚の養殖温水プール用など、アイスランドの地熱利用は多彩なものである[25]。アイスランドの地熱利用がさかんなのは、国土自体が海嶺の陸上部分にあり火山が非常に多いこと、人口が少なく、人口に比して火山のエネルギー量がきわめて豊富であることがあげられる。

火山の火口付近にはしばしば硫黄が露出しており、20世紀半ばに石油精製の際の脱硫によって大量に硫黄が供給されるようになるまでは盛んに採掘が行われていた[26]。また火山のマグマには有用な鉱物も多く含まれており、何らかの理由で集積を起こすことで鉱床となることがある。火山性の鉱床としては、熱水鉱床海底熱水鉱床、噴気鉱床などがある。


  1. ^ 複成火山と単成火山”. 静岡大学小山研究室. 2014年10月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月9日閲覧。
  2. ^ 久野久 1954.
  3. ^ 最近一万年間の火山活動に基づく火山活動度指数による日本の活火山のランク分けについて 林豊・宇平幸一 気象庁 験震時報71巻 pp.59-78
  4. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p105 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  5. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p123-124 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  6. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p156-158 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  7. ^ 「山はどうしてできるのか ダイナミックな地球科学入門」p192-194 藤岡換太郎 講談社 2012年1月20日第1刷
  8. ^ 「島の地理学 小さな島々の島嶼性」p40-42 スティーブン・A・ロイル 中俣均訳 法政大学出版局 2018年8月30日初版第1刷発行
  9. ^ 平野直人 (2006年8月17日). “新種の火山を発見〜プチスポット火山〜”. 火山学最前線レポート. 日本火山の会. 2012年4月13日閲覧。
  10. ^ 「南太平洋を知るための58章 メラネシア ポリネシア」p25 吉岡正徳・石森大知編著 明石書店 2010年9月25日初版第1刷
  11. ^ 図説 火山と人間の歴史 2013, p. 107-108.
  12. ^ 火山に強くなる本 2003, p. 35.
  13. ^ 基礎地球科学 2010, p. 186.
  14. ^ https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/rovdm/Miyakejima_rovdm/miyakejima_gas.html 「火山ガス」気象庁三宅島火山防災連絡事務所 2022年1月19日閲覧
  15. ^ 基礎地球科学 2010, p. 185.
  16. ^ 基礎地球科学 2010, p. 187.
  17. ^ http://www.sabopc.or.jp/library/volcanic_disaster/ 「火山災害」土砂災害防止広報センター 2022年1月19日閲覧
  18. ^ “アイスランドの噴火で欧州の空に混乱、英国では全飛行を禁止”. AFPBB News. (2010年4月15日). https://www.afpbb.com/articles/-/2718762 2016年5月9日閲覧。 
  19. ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130822/362219/ 「海底火山が生んだ幻の新島」ナショナルジオグラフィック日本版 2013.08.28 2022年1月19日閲覧
  20. ^ “パプアニューギニアで火山が噴火、航空機は迂回”. AFPBB News. (2014年8月29日). https://www.afpbb.com/articles/-/3024489 2016年5月9日閲覧。 
  21. ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/031400115/?P=1 「古代の超巨大噴火、人類はこうして生き延びた」ナショナルジオグラフィック 2018.03.14 2020年9月8日閲覧
  22. ^ https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/041500050/ 「史上最大の噴火は世界をこれだけ変えた 200年前のタンボラ山噴火から現代の被害を想像する」ナショナルジオグラフィック 2015.04.16 2020年9月8日閲覧
  23. ^ https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-volcano-horiki/ 「観光地と災害について考える」堀木美告 日本交通公社 2015年12月4日 2022年1月19日閲覧
  24. ^ https://izugeopark.org/maps/category-c04/ 「湧き水・温泉」伊豆半島ジオパーク 2022年1月19日閲覧
  25. ^ a b 火山工学入門 2009, p. 199.
  26. ^ 「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p374-375 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷
  27. ^ https://www.city.date.hokkaido.jp/hotnews/detail/00001026.html 「有珠山噴火に備えて」伊達市 2022年1月19日閲覧
  28. ^ 「2020-2021 日経キーワード」p149 日経HR編集部編著 日経HR社 2019年12月4日第1刷
  29. ^ 御嶽山の噴火災害を踏まえた火山情報の見直しについて~「火山の状況に関する解説情報」等の変更~」気象庁、2015年5月12日付、2016年5月9日閲覧
  30. ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 5.
  31. ^ 太陽系のすべて 2006, p. 42.
  32. ^ 太陽系のすべて 2006, p. 20.
  33. ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 177-180.
  34. ^ 太陽系探検ガイド 2012, p. 9.






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