演歌 現在

演歌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/15 22:30 UTC 版)

現在

2015年度、日本レコード協会による『よく聞く音楽ジャンル』調査では、60代の25.3%、50代の18.7%が「演歌・歌謡曲」を愛聴しており、それ以下の世代は10パーセントに満たない。(調査対象者は69歳までのため、70代以上は不明。)[42] 個性と実力を兼ね備え、演歌という新ジャンルの土台を築いた、春日八郎三橋美智也三波春夫村田英雄らの男性歌手や、「演歌(歌謡界)の女王」と称された美空ひばり島倉千代子らの女性歌手が、平成時代に入った後それぞれ亡くなった。また、歌手本人はおろか作詞・作曲家などの共同製作者が鬼籍に入るケースも増加している。

有線などでの小ヒットはあるものの、大泉逸郎『孫』、氷川きよし『箱根八里の半次郎』、ジェロ海雪』以来世間を揺るがす程の大ヒットはなく、少なくとも2010年代以降は花井美春『おんなの道は星の道』がヒットしたのみで[要出典]、全体的な低迷が続いている。あわせて、「日本レコード大賞」においても、2006年の氷川きよし『一剣』が大賞を受賞して以来、大賞受賞者が永らく遠ざかり、2022年まで演歌界は氷川による『一強の大横綱』状態が続く[43]。2010年代以降はJ-POPにおいてもCD不況が著しい状況にあり、演歌においては更にヒット曲が出にくい状況となっている。坂本冬美、氷川きよし、島津亜矢[44]といった有名演歌歌手が非演歌のシングルを出すケースも増加している。

また、ものまねブームによる、これら個性的な歌手のものまねも知名度の向上に貢献した。しかしながら2010年代以降では、ものまね番組を含め、『紅白歌合戦』、『にっぽんの歌』(テレビ東京)、『あなたが聴きたい歌のスペシャル』(TBSテレビ)といった演歌を見聞きする機会が得られる番組は、いずれも年数回の特別番組ばかりであり、かつ往年の名曲ばかりが紹介・ものまねされるため、新曲に触れる機会がこれらでは得られない。その他の音楽番組で演歌歌手が出演する際も、自身の新曲を披露する機会自体少なく、歌唱力などを活かした他の歌手の曲の(J-POPや洋楽を含めた)カバーを披露することが多い。

その一方で、千葉テレビ放送テレビ埼玉とちぎテレビ群馬テレビといった一部の独立局では、主にシニア層の視聴が多い平日午前中を中心にほぼ毎日、演歌のレギュラー番組を自社制作などで放送している。これらの番組では、往年の名曲から新曲・ベテランから若手演歌歌手まで幅広く扱っている。この4局ではいずれも、長年放送が続いている視聴者参加型のカラオケ番組があり、主に中高年層の視聴者により演歌が多く歌われている。一方同じ独立局でもエフエム東京系列のTOKYO MXや、開局以来、J-POPや洋楽を番組編成の柱の一つとするテレビ神奈川(tvk)などでは演歌番組・視聴者参加型カラオケ番組の自社制作番組がないため[注釈 9]、千葉・埼玉・栃木・群馬は極稀な例と言える。NHKを含むBSではシニア層をターゲットにゴールデンタイムにも関連番組が放送されている。

こうして演歌に触れる機会が少ないことなどもあり、10代・20代の若者の中には代表的なヒット曲や、氷川きよしなどの有名歌手を除き、歌手の存在自体をも認知していない者も少なくなく、曲や歌手以前に「演歌」という語句すら敬遠されるケースさえある。ただし、生活環境によっては若者の中にも一部には熱烈な演歌ファンが存在することも事実であるが、ファン層は60歳代後半以上が概ね8割以上で、「20歳代以下は1割以下」である[要出典]。しかし、高齢化社会となり逆にシニア層の人口が増大している現状を逆手に取り視聴者(聴取者)獲得のために演歌に偏重した番組編成を取る放送局(例えば、前述の関東独立局の他では東海ラジオなど)も存在する。

ただし、演歌が完全に衰退したとは言えない側面もあり、一部の演歌歌手への熱狂的ファンが多いことも事実である。お笑い第七世代になぞらえた「演歌第7世代」(辰巳ゆうと新浜レオン等、主に2010年代にデビューした演歌歌手)のファンも多く、前述の他の歌手の曲のカバー等でテレビ出演する機会も多い[45][46]

また、ニコニコ動画にて「ラスボス」の愛称で若い世代から親しまれる小林幸子[47]や、YouTubeにて海外人気を博した三田りょう[48]アメリカフェスに出演した神野美伽[49]フランスにて「ル・サロン」永久会員の称号を得るなど画家としても活躍し、2022年にはパリ公演を開催した八代亜紀[50]など、デジタルトランスフォーメーションの活用や、海外へと積極的に活躍の場を展開し、既存路線に囚われない新たな道を模索する演歌歌手も増加している。2022年には韓国人DJナイト・テンポによる細川たかしの「北酒場」のリエディット[注釈 10][51] [52]版が発売されるなど、国境を越えた演歌ファンの新規獲得も期待されている。


注釈

  1. ^ 1968年の水前寺清子の歌に「艶歌」がある(作詞五木寛之、作曲安藤実親)。
  2. ^ 藤圭子など。
  3. ^ 「ド」は弩級戦艦の「ド」にちなむ。
  4. ^
    軍歌はもちろんだけど演歌も大嫌い。情けなくなるの。狭い穴の中に入っていくようで望みがなくなるのよ。私は美空ひばりは大嫌い。人のモノマネして出て来たのよ。戦後のデビューの頃、私のステージの前に出演させてくれっていうの。私はアルゼンチン・タンゴを歌っているのに笠置シヅ子のモノマネなんてこまちゃくれたのを歌われて、私のステージはめちゃくちゃよ。汚くってかわいそうだから一緒に楽屋風呂に入れて洗ってやったの。スターになったら、そんな思い出ないやっていうの。 — 西村建男「余白を語る――淡谷のり子さん」朝日新聞1990年3月2日
  5. ^ 直接的には米国由来の戦後の音楽文化、広くは戦前以来のプチ・ブルジョア文化としてのレコード歌謡を指している。
  6. ^ 朝日新聞1964年12月13日付では、オリンピック不況の世相から、翌年は「演歌」ブームがやってくる、と予測している。日本調の曲について「演歌」という表現が用いられている初例である。
  7. ^ もっとも演歌の場合はキャンペーンなどでの手売りの割合が大きく、レコード店での売上を対象とするオリコン等のチャートに反映されない売上が相当あるという指摘もある。[38]
  8. ^ オリコン調べによると演歌のシェアは2000年頃は3%程度だったが、2003年は7.7%、2004年上半期は8.6%[40]
  9. ^ 2020年代では、TOKYO MX・tvkでは演歌のレギュラー番組は自社制作・他社制作番組のネットいずれも存在しないが、シニア向けの音楽番組として『童謡コーラス♪ 名曲大合唱』がある。tvkでは視聴者参加型カラオケ企画の『歌で100チャレ』(千葉テレビ放送制作の、『ちば朝ライブ モーニングこんぱす』内コーナー)がネットされているが、大多数がJ-POPでの挑戦である。
  10. ^ 曲のパートが再編成され、修正を目的として明瞭なドラムビートなどの目立たない程度の演奏が追加されるが、全体的な音色はそのまま残すよう編集したもの。

出典

  1. ^ a b 輪島裕介『創られた「日本の心」神話 ― 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』光文社〈光文社新書〉、2010年10月15日。ISBN 978-4-334-03590-7 
  2. ^ 永嶺 重敏. “歌う大衆と関東大震災「船頭小唄」「籠の鳥」はなぜ流行したのか、永嶺 重敏(著)”. 青弓社. 2022年2月4日閲覧。
  3. ^ 永嶺 重敏. “歌う大衆と関東大震災「船頭小唄」「籠の鳥」はなぜ流行したのか、永嶺 重敏(著)”. 青弓社. 2022年2月4日閲覧。
  4. ^ 演歌・歌謡曲の定番曲 昭和のヒット曲から新曲まで”. 株式会社USEN (2022年6月17日). 2023年6月6日閲覧。
  5. ^ a b 演歌・歌謡曲とはなにか~ラップとの音楽的共通性~”. 中将タカノリ (2013年4月9日). 2023年6月6日閲覧。
  6. ^ 加波山事件と富松正安「思想」の一考察”. 飯塚彬 法政大学史学会 (2013年6月24日). 2023年6月6日閲覧。
  7. ^ 輪島, pp. 50–53.
  8. ^ 輪島, pp. 53–56.
  9. ^ 輪島, pp. 59–61.
  10. ^ 輪島, pp. 61–64.
  11. ^ 輪島, pp. 70–72.
  12. ^ 輪島, pp. 72–74.
  13. ^ 輪島, pp. 74–75.
  14. ^ 輪島, pp. 189–195.
  15. ^ 輪島, pp. 82–92, 195–197.
  16. ^ 都はるみと阿久悠の演歌ルネサンス” (PDF). 平山朝治 (2016年1月1日). 2023年6月2日閲覧。
  17. ^ 輪島, pp. 76–84.
  18. ^ 輪島, pp. 103–108.
  19. ^ 輪島, pp. 111–121.
  20. ^ 輪島, pp. 123–142.
  21. ^ 輪島, pp. 174–176.
  22. ^ 輪島, pp. 199–207.
  23. ^ 輪島, pp. 208–219.
  24. ^ 五木寛之 (1972), “艶歌”, 蒼ざめた馬を見よ, 文芸春秋 
  25. ^ 輪島, pp. 221–239.
  26. ^ 絓秀実氏との対談(2015年3月3日)・その5|外山恒一|note
  27. ^ 輪島, pp. 239–241.
  28. ^ 輪島, pp. 143–148.
  29. ^ 『怨歌の誕生』初出:オール讀物(文藝春秋)1970年10月、1971年『 四月の海賊たち』で単行本化
  30. ^ 輪島, pp. 252–263.
  31. ^ 輪島, pp. 271–272.
  32. ^ 輪島, pp. 275, 286.
  33. ^ 輪島, pp. 298–300.
  34. ^ 輪島, pp. 294–295.
  35. ^ 輪島, pp. 304–308.
  36. ^ 輪島, pp. 308–316.
  37. ^ 『オリコン年鑑 1997年版』オリコン、1997年、5頁。(但し該当ページにはノンブル表記なし)
  38. ^ 「演歌は死んだのか レコード会社は前向き」『日本経済新聞』1991年3月9日付朝刊、39頁。
  39. ^ オーロラ人気は「演歌も売り方次第」の時代、ZAKZAK、1997年4月15日。(インターネットアーカイブのキャッシュ)
  40. ^ a b 「演歌、存在感じわり回復 話題と地道さ両面でPR(トレンド)」『朝日新聞』2004年7月29日付朝刊、27頁。
  41. ^ 関ジャニ∞(エイト)、演歌としては17年ぶりの1位に!!”. オリコンニュース (2004年9月28日). 2023年6月6日閲覧。
  42. ^ 他の年代とは大きく異なる、「60代」の音楽傾向”. 株式会社インプレス (2016年4月12日). 2023年6月6日閲覧。
  43. ^ “一強”氷川きよしの活動休止 新時代を担う演歌「四天王」とは”. 太田サトル (2023年1月2日). 2023年6月6日閲覧。
  44. ^ 島津亜矢「いつかやってみたかった」初のポップスコンサート 邦楽、洋楽のヒット曲17曲歌い上げる”. 中日スポーツ (2023年6月10日). 2023年8月9日閲覧。
  45. ^ “歌謡界にも「第7世代」注目理由はSNS駆使、個性派ぞろい、共通した目標”. 日刊スポーツ. (2021年10月11日). https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202110110000144.html 2021年11月30日閲覧。 
  46. ^ 【演歌第7世代とは?】令和の演歌界をけん引する歌手の特徴と第1~第6世代の歴史”. うたびと (2021年11月8日). 2021年11月30日閲覧。
  47. ^ 設定どういうこと!? 小林幸子、 マジの“ラスボス”になるマンガ『異世界小林幸子』が連載スタート”. ITmedia.inc (2023年5月6日). 2023年6月6日閲覧。
  48. ^ a b 『日本人のおじさんがなぜか海外で大人気!youtubeの再生回数もあっという間に100万回突破!』”. 株式会社テイチクエンタテインメント (2014年5月17日). 2023年6月6日閲覧。
  49. ^ 演歌歌手 神野美伽「40周年」 昭和歌謡のスケール感じて”. 大阪日日新聞 (2023年2月12日). 2023年6月6日閲覧。
  50. ^ 明日の「八代亜紀いい歌いい話」新春2時間SPで八代亜紀のパリスペシャルコンサートに密着”. 全日本歌謡情報センター (2023年1月4日). 2023年6月6日閲覧。
  51. ^ Re-Edit(リエディット)とは – 音楽用語”. 洋楽データバンク (2023年5月13日). 2023年6月6日閲覧。
  52. ^ 細川たかし Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ”. 日本コロムビア株式会社 (2022年7月1日). 2023年6月6日閲覧。
  53. ^ 트로트” (朝鮮語). 한국민족문화대백화사전. 2022年5月20日閲覧。
  54. ^ RZA SUING PIANIST MEIKO KAJI OVER SAMPLE INFRINGEMENT ALLEGATIONS”. HipHopDX (2013年3月1日). 2023年6月6日閲覧。
  55. ^ ポルトガル音楽のファドってなに?楽しみ方から有名歌手も紹介!”. ポルトガルトラベル (2021年7月6日). 2023年6月6日閲覧。
  56. ^ まるで日本! 演歌?歌謡曲? 驚愕のゴアのローカルミュージック!”. 軽刈田 凡平 (2018年12月10日). 2023年6月6日閲覧。






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