測定 歴史

測定

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歴史

単位の歴史

測定がいつどこで始められたかははっきりしないが、が発明され、その「1」を単位に数えるという行為が測定の始まりとも言える[34]。その後、生活や産業にかかわる単位が定められたが、これらは小国家・地域など限定された範囲でのみ通用するものだった[35]

古代中国の戦国時代でも、度量衡はおろか三進法や十進法など位取り記数法もばらばらだった。これを最初に統一したのが始皇帝(即位:紀元前246年)だった[36]。西欧での統一は、五賢帝時代のローマ帝国(1世紀 - 2世紀)などで行われた。11世紀イギリスヘンリー1世時代に現在でも用いられる長さの単位ヤードが制定された[37]

1960年まで使用されていた白金イリジウム合金メートル原器

1790年にフランスシャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールが提唱した普遍的な物理量基準の必要性に応じ、メートルキログラム白金製基準器が製作され、1799年にパリの国立公文書館に収蔵された。この仕事は何度も見直しや変更が加えられ、1954年に採択された国際単位系へ繋がった[37]

測定と自然科学の発展

17世紀に、自然科学は測定を基礎に発展した。ガリレオ・ガリレイは『偽金鑑識官』の中で、宇宙書物に喩え、その言語は数学で書かれており、手段をもってしか知ることができないと述べた。この知の手段こそ「測定」を指した。ガリレオ自身は敬虔なキリスト教徒であり、この言はの存在否定を意図してはいなかった。しかし、18世紀には神を介さずに人間が自然と直接向き合うことが意識され、その手段として測定が知の技法として認識されるようになった[38]オーギュスト・コントはこれら厳密な測定や実験などを重視する「科学」を実証主義の段階に達したものとみなし、それ以前の学問は「非科学」として区分した[39]物理学者ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)は「測定をする事ができない人物の知識は貧弱である」と述べ[2- 3]、測定は知に到達する上で必須な方法論となった[38]

さらに誤差の問題についても、カール・フリードリヒ・ガウスピエール=シモン・ラプラスらが天文観測において確率論を用いた対策に取り組み、アドルフ・ケトレーが近代統計学を開闢することで対応と測定結果の説明法を立ち上げた。これらを含む測定方法の向上は近代科学を進歩させる原動力のひとつとなった[38]

社会科学における測定と「科学」の変革

ケトレーは、天文学における測定結果から誤差を確率論的に処理し客観的な法則を導く手法は、人間集団の行動など社会科学にも適用できると考えた。この思考の結実は1835年に刊行された『人間に就いて』であり、人間に関する法則を測定で導き出す試みとなり、「社会物理学」へ数値化の手法を持ち込んだ。チャールズ・ブースの貧困層の研究もまた同様の手法を社会へ向けた測定の成果と言える[38]

19世紀に興ったこのような自然科学に続く社会科学の動きは、12世紀以来のヨーロッパにおける従来のキリスト教的枠組みの中で思索を重ね、哲学を基本に神学医学法学などを修める「科学」とは大きく異なるものであった[38]。また、従来の「科学者」とは神の召命によって選ばれた特別な人間という認識にも変革を与えた[38][2- 4]

量子力学における測定

20世紀に入ってから構築された量子力学は、それまでの測定の考え方に変更を要請した。古典物理学では不可能な素粒子など微細な世界を高い精度で説明する量子力学は、物理量には状態による確率振幅があり、一様ではなく常に変動すると定めている。つまり、物理量の実在値(固有状態の物理量)はどのような観測をもってしても確認は不可能なものとしている[40]。この解釈は「量子力学の観測問題」として、現代でも論争が起こる課題である[41]


脚注

  1. ^ a b c d 今井(2007)、p1-3 はじめに
  2. ^ a b 松原隆彦. “物理学基礎Ⅰ【総合】2009年度第2回” (PDF). 名古屋大学医学部保険学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b c 中原恒. “地球物理学学生実験 誤差について” (PDF). 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座. 2022年1月11日閲覧。
  4. ^ a b c d 芳賀宏. “電気電子計測 第1講 計測の基礎” (PDF). 摂南大学工学部電気電子工学科光波工学研究室. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  5. ^ a b c 千野直仁. “データ解析演習C” (PDF). 愛知学院大学心身科学部. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  6. ^ 清水哲雄「会計における測定について」『彦根論叢』第189号、滋賀大学経済学会、1978年3月、19-37頁、ISSN 03875989NAID 110004521042 
  7. ^ 中善宏「管理会計情報による組織の可視化について:個人から活動へ(1)」『商学討究』第54巻第1号、小樽商科大学、2003年7月、13-42頁、ISSN 04748638NAID 110000232077 
  8. ^ 計量社会学研究室”. 同志社大学. 2022年1月11日閲覧。
  9. ^ 小塩真司. “心理データ解析A”. 中部大学人文学部心理学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  10. ^ a b c d e f g ステファニー・ベル. “不確かさの入門ガイド” (PDF). 独立行政法人 製品評価技術基盤機構. 2022年1月11日閲覧。
  11. ^ 西宮信夫. “電気計測 13 演習問題”. 東京工芸大学電気工学科. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  12. ^ 付録Ⅱ国際計量基本用語集(日本語版)” (PDF). 独立行政法人 製品評価技術基盤機構. 2012年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月31日閲覧。
  13. ^ 菅雄三. “授業科目名:測量情報処理論 目的と他の科目との関連”. 広島工業大学環境学部自然環境系地球環境学科シラバス. 2010年10月31日閲覧。
  14. ^ a b c 石井一暢. “計測制御工学入門” (PDF). 北海道大学生物生産応用光学研究室. 2010年10月31日閲覧。
  15. ^ a b c d e 森敏彦. “計測工学1章の2” (PDF). 名古屋大学大学院情報科学研究室. 2010年10月31日閲覧。
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  17. ^ a b c 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p14-15
  18. ^ a b c d 根岸利一郎、三橋渉. “計測工学02” (PDF). 電気通信大学情報通信工学科. 2010年10月31日閲覧。
  19. ^ a b 矢澤孝哲. “精密計測法演習 演習プリント1解答”. 長崎大学工学部加工システム学研究室. 2010年10月31日閲覧。
  20. ^ a b 三橋渉. “情報通信工学科・計測工学・夜間主コース宿題02の解答” (PDF). 電気通信大学情報通信工学科. 2010年10月31日閲覧。
  21. ^ 山崎耕造『トコトンやさしい太陽の本』(第1刷)日刊工業新聞社、2007年、14-15頁。ISBN 978-4-526-05935-3 
  22. ^ a b 齋藤成昭. “正しい知識が捏造を防ぐ データを正確に解釈するための6つのポイント No.3” (PDF). 国立情報学研究所/特定非営利活動法人 日本分子生物学会. 2010年10月31日閲覧。
  23. ^ 岩見徳雄、宮脇健太郎、伊藤、大島. “環境基礎実験(第2回講義)” (PDF). 明星大学環境・生態学系. 2010年10月31日閲覧。
  24. ^ a b 齋藤成昭. “測定値の取扱い”. 国立沼津工業高等専門学校物理学教室. 2010年10月31日閲覧。
  25. ^ a b c JMAQA JISQ9001:2008 (ISO9001:2008) 規格解釈” (PDF). 社団法人日本能率協会審査登録センター. 2010年10月31日閲覧。
  26. ^ a b 松浦執. “有効数字の表現”. 東京学芸大学基礎自然科学講座理科教育分野. 2010年10月31日閲覧。
  27. ^ a b c 新JISたより 不確かさの考え方(4)” (PDF). 財団法人建材試験センター. 2010年10月31日閲覧。
  28. ^ a b 日本物理学会編物理データ事典、PP.547-549. “A.9不確かさ” (PDF). 独立行政法人産業技術総合研究所. 2010年10月31日閲覧。
  29. ^ わかりやすい試験シリーズ 不確かさ” (PDF). 財団法人日本建築総合試験所. 2010年10月31日閲覧。
  30. ^ a b 今井(2007)、第5章 計量トレーサビリティが世界をつなぐ、p134-135
  31. ^ a b ISO/IEC17025規格の適用に伴う試験における測定の不確かさ概念の導入” (PDF). 独立行政法人製品評価技術基盤機構. 2011年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月31日閲覧。
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  33. ^ a b 半場滋. “測定値の取扱いと実験データ解析”. 琉球大学工学部電気電子工学科電子システム工学講座. 2022年1月11日閲覧。
  34. ^ 伊藤(2005)、1.単位とは、12-15
  35. ^ 伊藤(2005)、1.単位とは、20-21
  36. ^ 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p22-23
  37. ^ a b 今井(2007)、第1章 計るって何だろう、p24-25
  38. ^ a b c d e f 小池利彦, 平野亮「<測定>の社会学 : ケトレーとブース(1)」『鶴山論叢』第10号、鶴山論叢刊行会、2010年3月、91-115頁、doi:10.24546/81002084ISSN 13463888NAID 110007558326 
  39. ^ 池田心豪. “社会学史”. 東京工業大学社会理工学学研究科価値システム専攻. 2010年10月31日閲覧。
  40. ^ 木村元. “量子情報科学ウィンタースクール2010スライド” (PDF). 電気通信大学大学院情報システム学研究科. 2010年10月31日閲覧。
  41. ^ 松原隆彦. “量子力学の観測問題について”. 名古屋大学理学部物理学科. 2010年10月31日閲覧。
  42. ^ a b 今井(2007)、第2章 進化する計量、p34-35
  43. ^ 兼岡一郎. “兼岡 (1998) による〔『年代測定概論』 (1-11p) による〕、財団法人東京大学出版会 ISBN 4-13-060722-7”. 広島大学地球資源研究室. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]
  44. ^ 徳賀芳弘「会計測定値の比較可能性 (<特集>ビジネスの国際化と財務会計)」『国民経済雑誌』第178巻第1号、神戸大学経済経営学会、1998年7月、49-61頁、doi:10.24546/00176259ISSN 0387-3129NAID 120000943651 
  45. ^ 小西範幸, 藤原華絵「国際会計基準審議会の公正価値測定に関する予備的見解の分析:米国財務会計基準ステートメントとの比較を通して」『岡山大学経済学会雑誌』第40巻第1号、岡山大学経済学会、2008年6月、31-61頁、doi:10.18926/OER/13154ISSN 03863069NAID 120002310679 
  46. ^ 事例で学ぶ一般検診・特殊検診マニュアル”. 国立国会図書館リサーチナビ. 2010年10月31日閲覧。
  47. ^ 宮本和樹. “基礎知識‐知っておきたい統計用語”. 北海道大学大学院地球環境科学院植物生態学. 2010年10月31日閲覧。[リンク切れ]

脚注2

  1. ^ JIS Z 8103「計測用語」日本産業標準調査会経済産業省
  2. ^ Amey,L.R.,A.ConceptualApproachtoManagement.NewYork:Prager,1986, p.130.
  3. ^ トマス・クーン、安孫子誠也・佐野正博訳『科学革命における本質的緊張』「近代物理学における測定の機能」、みすず書房、1998年、p223
  4. ^ 村上陽一郎、『文明のなかの科学』青土社、1994年、p27






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