淀川 淀川・琵琶湖の環境問題

淀川

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/06 07:31 UTC 版)

淀川・琵琶湖の環境問題

琵琶湖の汚濁と対策

淀川の水源である琵琶湖1960年代以降周辺の宅地化が進んでいったが、下水道の整備がそれに追いつかず、生活排水はそのまま琵琶湖に流入する状況となっていた。これにより特に大津市や草津市沿岸を中心とした琵琶湖南部(南湖)の水質汚濁が激化、赤潮の発生や悪臭などが起こり漁業への影響が深刻となっていた。

滋賀県は下水道整備などで対応していたが、近畿最大の水源地でもある琵琶湖の汚染は関西全体に影響を及ぼしかねず、根本的な対策が求められていた。この中で合成洗剤に含まれる有機リン分が水質汚濁に大きく関わっているのではないかという指摘が多くなされるようになり、合成洗剤に対する規制も叫ばれるようになった。1980年(昭和55年)、滋賀県議会は『滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例』(通称:琵琶湖条例)を制定。有機リン分を含む合成洗剤の追放などを定め、琵琶湖のこれ以上の富栄養化を避けようとした。合成洗剤メーカーからは激しい反発があったが、湖沼の水質汚濁に悩む他地域からは大きな注目を持たれ、水質汚濁対策の一つの分岐点となった。

1984年(昭和59年)、水質汚濁防止法の特例措置として特定の湖沼に対する水質汚濁を防止するための諸対策が法制化された。これが『湖沼水質保全特別措置法』(略称:湖沼法)である。霞ヶ浦など全国10湖沼が現在指定されているが、琵琶湖は1985年(昭和60年)12月に法の指定を受け、これ以降水質保全に関する厳しい対策が施されるようになり、併せて琵琶湖流域の下水道の整備と下水処理場での窒素リンを除去する高度処理が行われ、これらにより水質は次第に改善されるに至った。

淀川の汚濁と対策

淀川水系の水質の悪化は昭和中期には問題になっており、昭和30年と昭和40年の水質調査ならびに比較が以下のようになる[注釈 5]

;淀川の水質汚濁の変遷[20]
地点 昭和30年当時 昭和40年当時
瀬田川から宇治川開始付近の本流 貧腐水性 貧腐水性
ただし山名川合流の手前でβ-中腐水性に悪化。
山名川 (宇治川右岸合流) 貧腐水性
ただし流入直前にα-中腐水性に悪化
α-中腐水性
琵琶湖疏水[注釈 6](宇治川右岸合流) 強腐水性 強腐水性
新高瀬川 (宇治川右岸合流) 強腐水性 強腐水性
八幡手前[注釈 7]までの宇治川本流 右岸・α-中腐水性
左岸・貧腐水性
八幡・山崎手前で両者混ざってβ-中腐水性
右岸・α-中腐水性から強腐水性
左岸・β-中腐水性からα-中腐水性
木津川(宇治川左岸合流) 貧腐水性 β-中腐水性
桂川(宇治川右岸合流) 強腐水性 強腐水性
八幡・山崎以後[注釈 8]以後の淀川本流 右岸・強腐水性(ただし枚方手前でα-中腐水性に回復)
左岸・β-中腐水性
右岸・強腐水性(以後鳥飼付近まで回復はせず)
左岸・β-中腐水性だが枚方手前でα-中腐水性に悪化
芥川(淀川右岸合流) α-中腐水性 強腐水性
枚方付近[注釈 9]以後の淀川本流 右岸:α-中腐水性
左岸・β-中腐水性
鳥飼付近で混ざってα-中腐水性になり、以後は感潮域まで同じ。
右岸・強腐水性
左岸・α-中腐水性
鳥飼付近で混ざってα-中腐水性になり、以後は感潮域まで同じ。

昭和30年時点で京都市から下水の流れ込む河川(桂川など)が汚いことや「(鳥飼から先の庭窪・柴島付近で)上水道の水源になっているが、両方とも上水道の水源としては好ましくない。」と指摘されていたが、昭和40年になると伏見平戸閘門から排出される琵琶湖疏水や新高瀬川が同じ強腐水性でも極めて汚くなり、合流後の右岸(前述の二河川の合流側)からかなりの距離が強腐水性になり、さらに下流でも三川(宇治川・木津川・桂川)合流点付近や御幸橋では昭和30年ではβ-中腐水性だったところが、α-中腐水性に悪化している。

さらに、三川合流点より下流では元々汚染がひどかった桂川の汚水を薄めていた宇治川と木津川の水質が悪化したため回復が進まず、山崎から柴島までの右岸には厚い汚水菌の被覆が見られ、比較的状態が良かった左岸も汚水菌が増加している状況になっていた[21]

こうしたこともあり、淀川水系中流域で最大の生活排水の発生地域、京都市は下水道を着実に整備し2019年度末には市街化区域の99.5%に達した。しかし初期に作られた下水道は雨水と汚水を一緒に流す合流式(約40%)のため集中豪雨発生時に汚水が未処理のまま川に流される、このため1980年代半ばから貯水幹線を順次整備して、堀川通りの下の直径6m長さ2.7 km 7万立方メートルを「堀川中央幹線」をはじめ、合計50万7千立方メートルの雨水を溜める貯水設備を整備。また4つある市営下水処理場に窒素リンを除去する高度処理設備を導入、さらに京都の伝統産業「友禅染」製造時に発生する色素が残った汚水を処理するために2箇所の下水処理場ではオゾン処理を導入している。この結果、処理水のBODは国の基準水1リットル当たり20ミリグラムに対して京都市では水1リットル当たり3ミリグラム前後に浄化される。また西日本最大の下水処理場『鳥羽水環境保全センター』では平成25年からメガソーラーを設置、令和3年度から汚泥を燃料に加工して火力発電することが予定されている[22]

京都府も桂川に南丹浄化センター・洛西浄化センターを建設、八幡市の宇治川・木津川の合流部付近に洛南浄化センターが1986年3月供用開始、精華町木津川上流浄化センターが1999年11月に供用開始するなど下水道の整備を進めている。

下流の大阪府下では上水道の取水口が複数あるため、淀川左岸の「渚水みらいセンター(枚方市)」では処理水を寝屋川へ排水、一部は京阪枚方市駅や周辺の公共施設で再利用されている。淀川右岸の「高槻水みらいセンター(高槻市)」「中央水みらいセンター(茨木市)」では処理水を安威川から神崎川へと流している。

漁業資源問題

湖沼法指定や琵琶湖条例などの施策で琵琶湖は次第に水質が改善された。漁業資源の豊富な琵琶湖は古くから「鮒寿司」をはじめ魚介類にまつわる特産品も多く、漁業も重要な産業の一つであった。ところが近年のバスフィッシングの広がりで、琵琶湖においても外来魚による漁業被害が深刻になっていった。特にブラックバスブルーギルといった獰猛な魚類は、在来生物への影響が大きく、琵琶湖在来の魚介類への生態系が破壊されるという漁業関係者の指摘が次第に大きくなった。「キャッチアンドリリース」という釣りのルールが、ブラックバスでは逆に問題を拡大するという指摘もあって、漁業協同組合による駆除が行われていたがいたちごっこであった。

こうした漁業資源の影響を危惧した滋賀県は、ブラックバスの放流禁止と罰則を明記した「琵琶湖のレジャー利用適正化条例」を2003年(平成15年)に制定。ブラックバス釣りに対して厳しい規制を掛けた。漁業関係者は大歓迎したがバスフィッシング愛好家は猛反発、清水国明等の愛好家タレントもマスコミなどを通じて条例反対を訴えた。現在琵琶湖においてブラックバスの放流は禁止され、持ち帰ることが義務化されている。一方1993年(平成5年)にラムサール条約の登録湿地に指定された琵琶湖は鳥類も多く生息するが、近年カワウの異常繁殖が新たな問題となっている。大群が夕刻河川や湖沼の魚類を捕獲することから漁業収穫高が減少したり、フンによる森林や建築物への被害が竹生島を中心に琵琶湖北部地域で深刻化。具体的な対策が取れていない状態である。

淀川下流域ではアシなどが繁茂していることから、絶滅危惧種であるイタセンパラアユモドキなどが生息する重要な地域となっていた。だが生活排水による淀川の水質汚濁によって個体数は激減。これに加え1984年淀川大堰が完成し、湛水によるアシ群生地の水没などによりイタセンパラの個体数は絶滅が危惧されるほど激減した。自然保護団体の指摘を受けた国土交通省近畿地方建設局は、淀川大堰上流部に人工のワンドを設けてイタセンパラの生息域を確保し、個体数の回復を図る対策を施した。一時期は効果があったものの、現状としては個体数の回復は絶望的との見方もある。アユモドキも鴨川・桂川の南丹市八木町付近では絶滅、亀岡市付近の生息域には京都府が京都スタジアムの建設を計画する、など危機的状況である。

ただ近年・淀川の水質改善により新淀川で天然ウナギが採れブランド化が図られたり、天然アユが淀川から桂川・鴨川へと遡上するのが確認される、など水質改善の効果の出ている部分もある。


注釈

  1. ^ 観月橋の南のたもとに淀川維持區域標の石柱が、大津市晴嵐1丁目の琵琶湖岸に琵琶湖と瀬田川(淀川)とを区別する河川管理境界標が建てられている。
  2. ^ 古代には淀川・大和川ともに河内湖(草香江、歴史をさらにさかのぼると河内湾)に流入していた。
  3. ^ ただし地名としての瀬田は、明治時代になって瀬田村が成立した際に初めて現れた。一般的には瀬田は瀬戸が転化したものであるとされ(世田谷区の瀬田も同様)、両側を山に挟まれていることから地形由来で瀬田の名前が付いたと推測される。
  4. ^ 大越のこの功績を讃え、1905年(明治38年)、石山寺境内に記念碑が建立されている。
  5. ^ なお、水質は「(きれい)貧腐水性・β-中腐水性・α-中腐水性・強腐水性(汚い)」となる。
  6. ^ 琵琶湖疏水の行先は複数あるが、ここでは旧高瀬川に流入するものを指して言っている。
  7. ^ 山名川・琵琶湖疏水・新高瀬川が合流
  8. ^ 桂川・木津川合流
  9. ^ 芥川合流
  10. ^ 山崎太郎とも呼ばれ、瀬田の唐橋(勢多次郎)、宇治橋(宇治三郎)とともに日本三古橋の一つに数えられる。

出典

  1. ^ 高時川のようす 淀川源流をたずねて|長浜市の自然の様子|わたしたちの市の様子|わたしたちの長浜”. 長浜市教育センター. 2020年3月24日閲覧。
  2. ^ 淀川 名前も流転(とことんサーチ) - 日本経済新聞”. www.nikkei.com. 2023年3月21日閲覧。
  3. ^ 小野芳朗『水の環境史「京の名水」はなぜ失われたか』(PHP新書)PHP研究所、2001年 p.183 ISBN 9784569616186
  4. ^ 小野芳朗『水の環境史「京の名水」はなぜ失われたか』(PHP新書)PHP研究所、2001年 p.184 ISBN 9784569616186
  5. ^ 尾藤徳行 (2013年7月27日). “淀城跡”. 第247回 京都市考古資料館文化財講座. 京都市埋蔵文化財研究所. 2019年9月7日閲覧。
  6. ^ 竹林 & 今井 1995, p. 410.
  7. ^ 新近江名所圖會 第260回 「大日山」の掘削 -大津市黒津町- | 公益財団法人滋賀県文化財保護協会”. 滋賀県文化財保護協会 (2017年10月4日). 2021年1月16日閲覧。
  8. ^ 治水の歴史”. 水のめぐみ館「アクア琵琶」. 2021年1月16日閲覧。
  9. ^ 古田 1965, pp. 41–42.
  10. ^ a b 竹林 & 今井 1995, pp. 410–411.
  11. ^ 竹林 & 今井 1995, pp. 411–412.
  12. ^ 暁鐘成「雲錦随筆」吉川弘文館(日本随筆大成 巻2)1927年(昭和2年)、44頁
  13. ^ a b 竹林 & 今井 1995, p. 412.
  14. ^ 国土交通省近畿地方整備局琵琶湖河川事務所、独立行政法人水資源機構琵琶湖開発総合管理所 (2014年1月). “瀬田川洗堰操作規則制定までの道のり”. 国土交通省近畿地方整備局. 2021年1月16日閲覧。
  15. ^ 今週の今昔館(155) 長柄三頭 20190319”. 2019年3月19日閲覧。
  16. ^ 大阪春秋第19号. 大阪春秋社. (1979-01-30) 
  17. ^ 淀川かわあるき=Guide Maps of Yodogawa:淀川ガイドマップ. 読売連合広告社. (2008-03-10) 
  18. ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年9月27日、33頁。ISBN 9784816922749 
  19. ^ 京阪、大阪・天満橋~枚方に定期観光船 9月から運航日本経済新聞』朝刊2017年7月26日(関西経済面)
  20. ^ 津田松苗「10-汚水と生物」『原色現代科学大事典 4-動物1』久米又三 著(代表)、学研、1967年、p.231「図2 淀川の水質汚濁の変遷」より抜粋。
  21. ^ 津田松苗「10-汚水と生物」『原色現代科学大事典 4-動物1』久米又三 著(代表)、学研、1967年、p.230-231「淀川の生物的水質判定」
  22. ^ 参考文献・京都新聞連載記事「潤いをとどけて・京都市水道100年」2012年8月21日掲載『8)返したい美しい水』京都市印刷物 第026021号『京の水だより Vol.12 京都市下水道90周年(2020年8月)』
  23. ^ 京都市広報「きょうと市民しんぶん」平成25年1月1日号3面掲載の「東部クリーンセンターの持ち込みゴミの受付終了」より
  24. ^ 淀川河川敷の違法グラウンド撤去へ 長年の「無法状態」動かしたきっかけとは 毎日新聞 2020年12月18日






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