液体燃料ロケット 二液系推進剤の組み合わせ

液体燃料ロケット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/07/03 14:03 UTC 版)

二液系推進剤の組み合わせ

代表的な液体推進剤は以下のものが挙げられる。第二次世界大戦で使用されたV2ロケットは酸化剤として液体酸素 (LOX) が、燃料としてエタノール75%と25%の混合物を使用していた。戦後のミサイルでは、燃料はケロシンヒドラジン系に置き換わり、酸化剤は硝酸系に置き換わっている。液体フッ素の使用やリチウムの添加、などの現行のものより比推力の良い推進剤も提案されているが、毒性や取り扱いの観点から現実的ではない。

これらの燃料と酸化剤とを適宜組み合わせて使用するが、性能や取り扱いの上から、あるいはノウハウや経験の蓄積、といった点から、現在の主要な液体ロケットの多くは以下の3種の組み合わせである。

ヒドラジン系

推進剤として硝酸類もしくは四酸化二窒素を酸化剤とし、ヒドラジン類の燃料を用いる場合、比推力は液体酸素/ケロシン系より劣るものの、ロケットの燃料タンク内に常温で長期間貯蔵が可能であるうえ、自己着火性(ハイパーゴリック)を持ち推進剤を混合するだけで点火するため点火器が不要になり確実性に優れ、再着火も容易である。このため即応性が必要とされる弾道ミサイルや確実性の必要な人工衛星宇宙船姿勢制御用のスラスター、複数回の着火を行い複数の衛星を軌道投入する上段ロケットなどに使用される。欠点としては、硝酸や四酸化二窒素、ヒドラジンも腐食性や毒性が強く、タンクの腐食や発生する毒性ガスに留意する必要が挙げられる。燃料の漏洩による重大事故は過去何度も発生しており、1980年9月18日のアメリカのアーカンソー州リトルロック空軍基地での事故では、点検中のタイタンIIサイロ内に不注意で取り落とした工具がミサイルに当り、燃料タンクが破れてガス漏れから爆発に至り、核弾頭を空中高く吹き飛ばす事態となった。タイタンIIはこの他にもいくつかの重大事故を起こしており、結果的に退役が早まる事となり、タイタンの退役によって米空軍からは液体燃料の弾道ミサイルが無くなった。また1986年10月3日には、後にピーター・ハクソーゼンの「敵対水域」で有名になる旧ソ連のヤンキー1型戦略ミサイル原子力潜水艦K-219での RSM-25 (SS-N-6 Serb) 潜水艦発射弾道ミサイルからの燃料漏れ事故が発生しており、火災によって同艦が沈没したほか死傷者多数を出す事態となっている。

また、火星探査機マーズ・オブザーバーにおいては、この酸化剤と燃料が混ざると着火するハイパーゴリック性があだとなり、燃料、もしくは酸化剤が逆流して他方と混ざったために爆発したといわれている。

旧ソ連ロシアでは現在でも四酸化二窒素/ヒドラジン系の液体燃料を用いたミサイルが多用されている。これは、旧ソ連では性能の良い固体燃料ロケットの開発が遅れた影響もあるが、旧ソ連が貯蔵可能な液体燃料ロケットを独自に安定的に運用する技術を獲得した成果だととらえることもできる。

液体酸素/ケロシン

液体酸素/ケロシンの組み合せのみを用いるA-2ロケットによる宇宙船ソユーズの打ち上げ。

液体酸素を酸化剤、ケロシンを燃料とするロケットは、燃料の調達も取り扱いも容易であるという理由から古くから用いられてきた。低温の液体酸素を使うため燃料をタンクに貯蔵したまま保存することはできず、比推力はヒドラジン系に勝り後述の液体酸素/液体水素系より劣る。しかし液体酸素/液体水素系より推進剤の密度が大きいために、推力が大きくて寸法が小さく、構造効率の良いロケットを製作できることから、衛星打ち上げロケットの第1段として単体で使用することに向いている。

液体酸素/液体水素

液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン単独での打ち上げ(デルタIVミディアム)。
液体酸素/液体水素の組み合せを用いるRS-68エンジン3基だけによる、デルタIVヘヴィーの打ち上げ。

液体酸素を酸化剤、液体水素を燃料とするロケットは、現在実用されている液体燃料の推進剤の組み合わせでは最高の比推力を持ち、そのために、特に衛星打ち上げロケットの2段目や3段目にこれを用いた場合、他の液体燃料よりもペイロードを増大させることが出来る。しかし、液体水素の密度は水の1/14ときわめて小さく、それを収めるタンクは極めて大きなものとなって構造効率は大きくなる。また、沸点が-252.6℃と極低温の燃料であり、燃料タンクには断熱を施さねばならず、極低温による金属の収縮、脆化を考慮しなければならない。燃料ポンプ(ターボポンプ)は極低温で動作しなければならないうえに、二段燃焼式の場合、駆動タービン側は高温になるため、極端な温度差に加えて猛烈な震動の環境下で確実に動作する高度な信頼性が求められる。ロケットへ燃料を注入した後は、タンク内で蒸発した燃料ガスの圧力を逃がすために外部へガスを排出しており、またロケット本体の断熱が完全ではないため空気中の水分がロケットの外部に少しずつ氷結してゆく。このため時間と共に燃料が目減りし、ロケットが重くなってゆくことになる。加えてターボポンプの流量や回転数の問題から、液体酸素/ケロシン系のエンジンに比べて大推力のエンジンを製作することが難しいので、衛星打ち上げロケットの第1段にこれを用いる場合、重力損失を軽減するため固体ロケットブースタを付加して推力を増強し、液体酸素/液体水素エンジンそのものは固体ブースタで高空に持ち上げた後の加速を主眼において設計する、などの手法が必要となる可能性がある。

代表的なLOX/LH2エンジンには、第1段用としてはNASAスペースシャトルのメインエンジン (SSME)、ESAヴァルカンJAXALE-7A、上段用としてはのNASAのJ-2RL-10、JAXAのLE-5Bなどがある。

スペースシャトル種子島宇宙センターのロケット打ち上げ時に出る大きな雲状のものは燃焼ガスと注水の水(音響と熱による発射設備の損傷防止用)の「湯気」の霧の混合物である。打ち上げの写真を注意深く見ると固体燃料燃焼ガスの茶色い雲(塩酸霧が主)と真っ白の水の霧の二種類が分かる。水霧の一部は液体酸素-液体水素メインエンジンの燃焼による水蒸気由来である。

液体酸素/液化天然ガス (LNG推進系)

液化天然ガスを推進剤として1970年10月23日に1014.513 km/hの世界記録を樹立したブルー・フレーム

メタンを推進剤として使用した場合、液体酸素/ケロシン推進系と比較して比推力が10秒高く、沸点が91Kの液体酸素と近い110Kであるため、タンクの推進剤間の断熱が不要である。また液体酸素/液体水素推進系と比較して液体水素よりも密度が大きい為、タンクを小型化でき、液体水素よりも沸点が高い為、断熱が容易である。また、推進剤を供給するターボポンプの液体酸素ポンプとの断熱が不要で同軸上に配置する事が可能になり小型化が可能である。また、液体水素よりも入手が容易で廉価で充填時に気化する量が減り、扱いが容易である。また、マーズ・ダイレクトにて提案されたように火星二酸化炭素が主成分の大気と水素からサバティエ反応によりメタンを生成することも可能である。

液体酸素と液化天然ガス (LNG) をロケットの燃料として使用する例はかつて1970年代に速度記録を樹立したブルー・フレーム等があった。一時期、LNG推進系の開発は滞っていたが、近年、各国で新たなLNG推進系の開発が進みつつある。日本ではGXロケットの上段ロケットとして開発が進められ、2009年7月にLE-8の燃焼試験が成功裡に完了した。アメリカでも計画が中止されたコンステレーション計画において当初、月面着陸機にメタンを燃料とするエンジンの搭載が検討され、2007年にはNASAの支援を受けたXCOR社で燃焼試験に成功した[2]スペースX社では現在フルフロー二段燃焼サイクルラプターを開発中である。ブルーオリジン社ではBE-4を開発中である。 ロシアとヨーロッパでもVOLGAエンジンを共同開発中である。韓国では2008年にC&Space社がロシアとの技術協力のもと推力10トンのLNGエンジンであるCHASE-10の開発に成功した[3][4]

リチウム/フッ素

これまでに燃焼試験された化学系推進剤の中で最も比推力が高いのは、リチウムと、比推力を向上させるフッ素水素を加えた組み合わせである。それぞれの推進剤はそれぞれのタンクに貯蔵される三液推進系である。この組み合わせにより真空中での比推力は542秒を得られ噴出速度は5320m/sである。

これほど優れた推進剤が一般的に使用されない理由は、3種類のそれぞれの液体推進剤を水素は-252°C (1K)、リチウムは180°C (453K)で液状に保つ必要があるからである。リチウムとフッ素は両方とも腐食性が強くリチウムは空気と触れるだけで発火し、フッ素は大半の燃料と接触するだけで点火し、水素は自己着火性ではないが爆発の危険がある。排気ガスに含まれるフッ素とフッ化水素(HF)は強い毒性を持ち発射台周辺で作業する事を困難にさせ、環境に悪影響を及ぼし打ち上げの許可を得ることが困難である。ロケットの排気も同様にイオン化されロケットとの無線による通信を妨げる。リチウムとフッ素は高価で希少であり、実際にこのような用途には十分に問題である。この組み合わせで打ち上げられたことはない。




  1. ^ 大澤弘之 監修『新版 日本ロケット物語』p.33–36 2003年9月29日発行
  2. ^ アルタイル 月面着陸機には実績のあるハイパーゴリック推進剤を使用したエンジンが搭載される予定だった。
  3. ^ 開発動向
  4. ^ 開発経緯
  5. ^ 開口比40のノズルスカートを未装着時の推力は48.52kN (4.9 tf)
  6. ^ 開口比40のノズルスカートを未装着時の推力は66.64kN (6.8 tf)
  7. ^ 開口比40のノズルスカートを未装着時の比推力は286.8
  8. ^ 開口比40のノズルスカートを未装着時の比推力は291.6
  9. ^ 計算値
  10. ^ ミサイルの本 久保田浪之介 2004年9月30日 初版1刷 日刊工業所新聞発行 ISBN 4-526-05350-3






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