海上自衛隊 人員及び教育

海上自衛隊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/11 18:40 UTC 版)

人員及び教育

海上自衛隊は、陸空自衛隊と同じ階級制を用いており、陸空とは階級名に「海」が入ることだけが異なる。最下級は2等海士であり、最高位の海将まで16階級となっている。また、階級章は陸空がほぼ同等の形状であるのに対し、特に幹部においては袖章が基本となっている等、全く別の系統となっている[38]

人員は、海上警備隊の定員が約6,000名であった[39] のに対し、逐次増員され、2019年時点で定員45,360名、充足率93.8%となっている[40]

幹部教育については、術科学校及び幹部学校を中心に行われている。また航空学生制度により操縦士戦術航空士の独自養成を行っている。

陸上自衛隊が新設を予定する海上輸送部隊の訓練に協力している[41]

留学生受入

平成23年度時点、幹部学校等にタイ王国シンガポールオーストラリア、韓国各1名、インド2名の全6名を受け入れている。

隊員の主な職域(職種)

海上自衛隊の各服装。左から、海曹(2人)、海士(2人)の通常礼装夏服、航空服装、立入検査服装、消防服装、艦艇戦闘服装、消防服装(火炎防護衣)、航空整備服装(航空誘導服)

職域とは、各職種区分(ジャンル)ごとの区切り、職種とは、職域内で細分された各人の専門職務種別を指す。

職種は教育隊入隊直後に数種類の心理・知能・性格・身体等の適性検査を実施し、本人の希望も考慮し決定されるが、適性検査の結果により就ける職種の絶対的選択肢が決まるため、適性外の職種については希望しても指定されない。なお、適性ありには「適」と「準適」があり、その詳細条件は不明なるも、特に心理的要素において大きく影響し「準適」職種を選ぶと離職率が高いようである。逆に「適」職種選択者は能力を発揮しやすいという。適性検査には潜水艦乗員や航空士等として勤務可能か見極めるものもあり、この適性がないと判定された場合、基本的な適性において配置可能職種であっても潜水艦乗員や航空士になることはできない。これらを勘案し、人事幹部により各人の職種が決定される。このプロセスを経て、教育隊での要員別教育前に職種が決定されることとなる。

さらに海上自衛隊では、特技(特定技能)の制度があり、これは職種ごとに付与される、一般社会でいうところの資格のようなものである。通称「マーク」。

教育隊修業後、各職種において数年間部隊勤務した後、術科学校に入校し、各職種別の基本的な専門内容を学ぶ課程を修業すると、各職種特技が付与される。職種と特技はよく混同されるが、職種は先述の通り「各人の専門職務種別」、特技はその職種ごとに付与される「資格」という違いがある。この混同が起きるのは、基本となる職種特技は通常であれば入隊後数年で付与され、かつ職種名称がそのまま特技名になっているため、実質的に職種と同列のものであるのが原因。

各職種ごと段階的に担当職務・機器・機体等に応じた多数の特技が存在し、これらの術科教育は術科学校等で行われ、その各課程を修業することで特技が付与される。これらを列挙すると膨大な量となるため、本節では各種特技のスタート地点かつ職種と対称になる「職種特技」についてのみ述べる。(本節全般出典[42][43][44])

主特技

各職種に付与される特技で、基本的に在職中は変わることはない(幹部に昇任した場合や能力の低下、心身の故障等により取り消される場合がある[45])。特に海曹士はこの主特技を軸に自衛官として勤務していくこととなる。なお、一部主特技は海曹に昇任しなければ取得できないものもあるため、海士のうちは別の主特技で勤務する場合がある。

攻撃要員

艦艇の武器・甲板作業に関する職務を担当する。攻撃要員共通の職務として、甲板作業の中核作業員となるほか、搭載艇の操縦、運航業務を行う。航海中は、艦橋やCIC、担当武器の管制室においても勤務する。

  • 射撃員 - 水上艦艇において砲こう(熕)武器CIWSを除く)、小火器ミサイル発射装置及び関係機器等の操作及び保守整備並びに弾火薬の取扱いに関する業務を担当する。また、基本教練・礼式指導も中核的に行う。
  • 射管員 - 水上艦艇において射撃指揮装置、CIWS等の操作及び保守整備に関する業務に従事する。砲・ミサイルを整備・給弾するのが射撃員、射撃管制室等において射撃指揮装置等を操作し、目標を捕捉・追尾・照準し、砲やミサイルの発射管制(引き金や発射ボタンの操作)をするのが射撃管制員である。
  • 運用員 - ボースンともよばれ、水上艦艇において甲板作業全般を取り仕切り、専門的な甲板作業は運用員専任で行う。主として錨作業、船体の保存手入れ、重量物の取扱い、防火・防水作業並びに関連器材の操作及び保守整備に関する業務に従事する。戦闘や非常時には応急工作員と並び防火防水作業の重要戦力となる。
  • 魚雷員 - 魚雷発射管アスロック発射機などの対潜攻撃武器や曳航具、各種対魚雷ジャマー等の操作及び保守整備並びに魚雷及び弾火薬の取扱いに関する業務に従事する。また、潜水艦にも乗り組むことができ、潜水艦には運用員と射撃員が配置されないため、甲板作業全般取り仕切りと小火器の取り扱い整備も魚雷員が行う。また、弾薬整備補給所において、魚雷の整備・調整を行う。
  • 水測員 - ソナー及び水雷戦関連機器の操作と整備を行う。噛み砕いて言えば、「対潜水艦電測兼射撃管制員」であり、ソナー室等において水測情報を収集し、敵潜水艦の捜索、識別、極限、捕捉、攻撃、効果判定までを一元的に行う。潜水艦にも乗り組むことができる。
  • 掃海機雷員 - 掃海艦艇で掃海具等を取り扱い、機雷の敷設・除去作業などを行う。多くの掃海艦艇には運用員と射撃員の配置がないため、甲板作業全般と機関砲や小火器の取り扱いも掃海機雷員が行う。また、弾薬整備補給所において、機雷の整備・調整を行う。

航海・船務要員

艦艇の運航・航法に関する職務を担当する。

  • 航海員 - 艦が航行する際に必要な海図の選定及び航海計画作成に始まり、航行中は航法を行うほか、操舵、旗流・手旗・発光などの視覚による通信なども担う。潜水艦にも乗り組むことができる。また、艦艇や陸上部隊における信号・礼式喇叭の吹奏も専門的に行う。
  • 電測員 - CICレーダーESMの操作、艦載機の作戦運用管制、作戦運用補佐、作戦通信等に任ずる。通常は艦艇運航業務、作戦時は各配置においてオペレーションを行う。また、視覚的情報収集も担当し、怪しい船舶や対象国艦艇との遭遇時における情報収集・分析を行う。潜水艦にも乗り組むことができる。略号OS:Operation Specialist
  • 通信員 - 暗号通信の作成、送受信、解読、隊内電報の接受、艦艇における衛星・短波等各種電波通信、基地内通信システムの構築・整備、PCの保守管理・システム構築・運用などを行う。潜水艦にも乗り組むことができる。
  • 気象海洋員 - 気象海洋観測、気象予報、天気図などの作成、気象・海洋関係の情報の伝達などを行う。気象予報士の資格取得も可能で、陸上部隊、航空基地、水上艦艇部隊と、幅広い部隊で活躍できる。
  • 電子整備員 - レーダーや電子戦機器、各種コンソールの整備、操作を行う。電測員との関係は、電子整備員は機器を整備するのが主な仕事で、電測員はその機器を使用しオペレーションを行う。潜水艦にも乗り組むことができる。略号ET:electronics technician

機関要員

艦艇の機関・被害対処に関する職務を担当する。扱う機器や職務内容から、ボイラ技士や危険物取扱者、高圧ガス取扱責任者等の公的資格が取得しやすい。

  • 機械員 - 主機関、発電機等の操作、整備、機関に付随する補機や艦内生活用ボイラ等の操作、整備、搭載艇運航時の機関員業務、燃料油や潤滑油の取り扱いの業務を行うほか、応急班員として機関室等の浸水・火災対処も担う。扱う機器により、以下に分類される。
    • 蒸気員(ボイラ員・汽機員) - 蒸気タービン主機の水上艦艇において、メインボイラ(罐)やタービン、復水器等の操作、整備、燃料油や潤滑油の取り扱いの業務を行う。2020年現在においては、蒸気タービン主機の艦艇は存在しないが、とわだ型補給艦には蒸気タービン動力貨油ポンプが使用されているほか、陸上基地には停泊艦艇への供給・基地内の熱源用として大型ボイラが備えられていることが多く、蒸気員の技能が必要とされる環境があるため、少数ながらそこに配置されている。しかしながら、今後新規での育成は行われないと考えられる。
    • ガスタービン員 - 水上艦艇において、ガスタービン主機、ガスタービン発電機の操作、整備、燃料油や潤滑油の取り扱いの業務を行う。
    • ディーゼル員 - 艦艇において、ディーゼル主機、ディーゼル発電機の操作、整備、燃料油や潤滑油の取り扱いの業務を行う。潜水艦にも乗り組むことができる。
  • 電機員 - 発電機の保守管理及び電機機器全般、艦内電線の整備、電気的修理・被害対処を担当する。蛍光灯や電池までも受け持っている。電子整備員との住み分けとして、動力や照明などの「電機」を主に担当し、他には武器に関連しない機器も担当する。潜水艦にも乗り組むことができる。
  • 応急工作員 - DC(ダメージコントロール)とも呼ばれ、攻撃を受けた際の艦体の被害極限(防火・防水・船体応急修理等)を担当しており、応急班員の分掌指揮を行うほか、工作作業(金属加工・木工加工・溶接作業など)や真水の管理も担っている。また、CBRNE対処も中核的に実施する。

航空要員

海上自衛隊で艦艇部隊と双璧を成す航空部隊の中核戦力である。

  • 操縦士 - 航空機の操縦を行う。幹部および飛行幹部候補生のみの配置。
  • 戦術航空士 - 固定翼哨戒機に搭乗し、戦術全般の指揮統制を行う。作戦行動・戦術面に関する権限は操縦士よりも上であり、作戦中は機長となる。幹部および飛行幹部候補生のみの配置。
  • 航空士 - 航空機に搭乗する、操縦士・戦術航空士以外の飛行要員。職務内容としては機上における戦術オペレーションから、降下救難まで幅広い細目があるが、これらは掛け持ちから専従まで配置・保有特技により様々である。主に一般隊員(海曹士)から選抜される。
  • 航空管制員 - 航空機管制・離着陸に際し、航空無線通信やレーダー管制、無線誘導等を行う。航空基地のほか、航空機搭載艦配置もある。また、一部航空基地では民間機の管制も行う。航空自衛隊第5術科学校に入校して教育を受ける。
  • 航空機整備員 - 航空発動機整備員航空電機計器整備員航空機体整備員航空電子整備員航空武器整備員を指す。選抜により、航空士として搭乗員配置がある。
  • 地上救難員 - 基地での航空機運用時における事故対処を主任務とし、基地火災時においては消火作業の中核を担うほか、消防車両の保守管理も行う。航空基地、陸上部隊における信号・礼式喇叭の吹奏も専門的に行う。多くは警備員の副特技(後述)を保有し、基地警備を担う航空基地警衛班の中核戦力ともなる。選抜により、航空士として搭乗員配置がある。また、航空機搭載艦に配置された場合は艦上救難員となり艦上での航空機運用時における事故対処を主任務とする。

経理・補給要員

海上自衛隊の根底を担う業務に従事し、幅広い部隊において勤務できる。

  • 経理員 - 給与・手当等計算に係る経理業務、物品の購入や工事等の契約業務、 総務、文書処理といった庶務業務全般を行う。陸上部隊、航空基地、水上艦艇部隊はもちろん潜水艦にも乗り組むことができ、基本的に海上自衛隊と名の付くすべての部隊で勤務できる。
  • 補給員 - コピー用紙からミサイルまで、部隊において必要な補給物品の請求・管理・事務手続きに関する業務を行う。一見楽そうだが、艦や基地をひっくり返して落ちてくるものは全て、補給員が管理していると言われ、その仕事は重要かつ膨大である。倉庫における受け払いも行うため、フォークリフトやクレーン、車両の資格を取得しやすい。陸上部隊、航空基地、水上艦艇部隊はもちろん潜水艦にも乗り組むことができ、基本的に海上自衛隊と名の付くすべての部隊で勤務できる。
  • 給養員 - 部隊の隊員に対し給食を行う。栄養士調理師免許も取得可能。陸上部隊、航空基地、水上艦艇部隊はもちろん潜水艦にも乗り組むことができ、特に特務艇「はしだて」の給養員は海上自衛隊給養員の最高峰といわれる、名誉高い配置である。海自では、艦上レセプション、士官室の昼食会や夕食会が催されるので、和食洋食中華料理和菓子洋菓子を作る。

その他陸上要員等

  • 衛生員 - 陸上部隊、航空基地、水上艦艇部隊はもちろん潜水艦にも乗り組むことができ、准看護師、救急救命士などの資格を持ち、部隊における隊員の健康管理・怪我等の応急処置等を行うほか、救難機の機上救護員としての勤務もある。
  • 施設員 - 主に各基地設備の維持管理・修繕、そのための設計図、積算資料の作成、土木工事を行う。降雪のある航空基地においては、除雪車の運用も行う。滑走路の応急修理や大規模施設作業を専門的に請け負い、全国に機動運用される機動施設隊も存在する。建設機械やクレーン、測量、建築関係の資格・免許が取得可能。
  • 情報員 - 情報資料の収集、分析、研究、処理及び情報の配布、秘密保全、映像技術及び関連器材整備などに関する業務を行う。
  • 警務員 - 部内の秩序を維持するための犯罪捜査、被疑者の逮捕等の司法警察業務を行う。
  • 音楽員 - 部隊の士気高揚や儀式・式典、および広報のために音楽の演奏を行う。資格は吹奏楽の技能を持つ者に限られていたが、近年ではピアノ奏者を技術海曹として受け入れる[46] など、多様化が進んでいる。

副特技

必要に応じ、主特技に重ねて保持する特技。基本的に適性さえあれば、どの主特技からでも取得可能である。要求・配置数が主特技に対して小規模であったり、主特技の付加要素的職務であったり、また主特技の知識が下地として必要である職種はこの形となっている。通称「サブマーク」。

  • 特別警備員 - 主に特別警備隊員が取得する。副特技だが、近年では主特技として持つ者もいる。
  • 体育員 - 教育隊や術科学校などで隊員の体育指導に当たる。自衛隊体育学校にて体育課程を修業する必要がある。
  • 警備員 - 各地方隊警備隊陸警隊や、航空基地の警衛班に所属する隊員を対象とした副特技。教育隊等の陸上警備教育を担当する教官も取得している。
  • 潜水員 - 開式スクーバ課程を修業した者に付与され、各部隊において主特技業務の傍ら潜水業務を行う(選抜されて機上救助員となる場合もある。)。この後、希望すれば特修科潜水課程に入校し、主特技とすることも可能。その場合、さらに「EOD」と呼ばれる爆発物水中処分員か、潜水艦救難作業等にあたる飽和潜水員の専修科に進み、それぞれ主特技を取得、専門部隊勤務となる。潜水士免許取得も可能である。
  • 車両員 - 各基地業務隊の車両科や航空基地の車両班などに所属し、主に車両による高官送迎や、部隊間の輸送を行う。近年のアウトソーシング化により民間人の起用が増え、各陸上部隊に必ず配置されるものの、少人数となっている。
  • 教官 - 教育隊や術科学校などで隊員の教育・指導に当たる。正式に特技として指定されるには、第1術科学校または第3術科学校に入校し、専修科教官課程を修業する必要がある。

これらを含めて50種類以上ある。手旗信号は入隊時に全員が学習する共通特技である。

女性自衛官の職域

  • 2018年(平成30年)12月、潜水艦への制限が解除され、すべての職域で勤務できる[47][48][49]
なお、2018年(平成30年)8月31日、潜水艦の乗組員に女性自衛官を起用する方向で検討を始めたと報道された。潜水艦教育訓練隊の施設を改修し、女性用の部屋やトイレを確保した上で教育・訓練をする[50]
2020年令和2年1月22日には女性自衛官初の潜水艦乗組員となる女性3等海尉が潜水艦教育訓練隊に入校した。1年半の実習などを経て、潜水艦に配属される予定[48]

歴史

海軍省の庁舎
警備隊の艦船
自衛艦旗(訓練支援艦ATS-4203「てんりゅう」)

1945年昭和20年)9月2日の第二次世界大戦における日本の降伏に伴って、陸海軍(日本軍)は武装解除・解体された。終戦直後より海軍大臣米内光政は解体される海軍の再建を軍務局長保科善四郎に託していた。海軍省内の終戦処理の会議の中で海軍再建の意見が出され、翌年1月には再建研究を行うことを申し合わせる。その中には軍務局第三課長だった吉田英三もいた[51]

旧海軍においては、軍令部門である軍令部は解体され、軍政部門である海軍省復員・航路啓開などの一部業務を引き継いだ第二復員省に縮小改編された。さらに復員の進展に伴って、翌1946年(昭和21年)には第一復員省(陸軍省)と統合され、内閣外局たる復員庁、のちには厚生省の一部局(第二復員局)となった。

一方、第二次世界大戦中に敷設された日米両軍の機雷に対する航路啓開の必要から、非武装化された日本政府においても、旧海軍から引き継がれた掃海部隊がその任にあたっていた。その後、旧海軍の消滅に伴う洋上治安の悪化が深刻化した[39] ことから、1946年(昭和21年)には旧海軍由来の掃海部隊も取り込む形で、運輸省傘下の法執行機関として海上保安庁が設置された。ただし創設当時は、武装した海上保安機構に対する極東委員会での反発を考慮したGHQ民政局の指示を受け、巡視船が軍事用ではないと明示するため、排水量・武装・速力に厳しい制限が課されていた[52]

1948年(昭和23年)1月から厚生省の所管となった第二復員局で吉田英三ら3人は密かに軍備再建の研究にあたる。1950年(昭和25年)10月、アメリカ極東海軍よりフリゲート(PF)貸与に関する非公式の打診を受けて、野村吉三郎(元海軍大将、元外務大臣、元駐米大使)・保科善四郎および第二復員局の吉田ら元海軍軍人を中心に、海軍再興の研究は本格化する。しかし、日本政府要人からは海軍再建の良い反応は得られなかったため[注釈 1]、研究グループの交渉対象はアメリカ政府に移っていった。野村はその立場を生かしアーレイ・バーク米海軍少将らと信頼関係を築いていった[53]

1951年(昭和26年)1月の講和全権大使ジョン・フォスター・ダレス来日を機に、同年2月頃から研究グループ・野村・バーク・GHQらによる海軍再建の話合いが進むようになる。日本政府や米国務省にも交渉の経緯は伝えられた。同年4月には研究グループによって新海軍の母体組織の制度的枠組みを示した特殊研究資料が作られる。この資料はY委員会における海上警備隊創設の基礎案となった[注釈 2][53]

1951年(昭和26年)10月19日吉田茂内閣総理大臣連合国軍最高司令官(SCAP)マシュー・リッジウェイ大将の会談において、フリゲート(PF)18隻、上陸支援艇(LSSL)50隻を貸与するとの提案が正式になされ、吉田首相はこれをその場で承諾した。そしてこれらの船艇受入れと運用体制確立のため、内閣直属の秘密組織としてY委員会が設置されて検討にあたった。Y委員会の委員は旧海軍軍人と海上保安庁職員より選任されており[39]、また、アメリカ側とも密に連携していた。Y委員会での検討の結果、これらの艦艇は、他の巡視船艇とは別個に、海上保安庁内に設置される専用の部局で集中運用されることとなり、サンフランシスコ平和条約発効直前である1952年(昭和27年)4月26日海上警備隊が設置された[39]

同年8月1日、総理府の外局として保安庁が創設された。海上警備隊と航路啓開本部(掃海部隊)は警備隊として統合のうえで海上保安庁から分離され、警察予備隊とともに保安庁の傘下に入った[54]。そして1954年(昭和29年)7月、保安庁が防衛庁に移行するとともに、警備隊も海上自衛隊に発展改編された。この過程で、旧海軍の港湾施設、航空基地等は、そのまま海上自衛隊が引き継ぐことになった。中でも護衛艦わかば」は、旧海軍の駆逐艦「梨(なし)」をそのまま海上自衛隊の護衛艦として運用し、旧海軍の伝統を継承する象徴となった。

海上自衛隊を管理する行政機関である防衛庁は、2007年(平成19年)1月9日防衛省へ昇格した。


注釈

  1. ^ 日本政府が当初において海軍再建に否定的であったのは、時の首相吉田茂が経済復興を優先させていたことと再軍備の動きが早期講和に不利になると考えていたからである。
  2. ^ 「(第二次)特殊研究資料」による制度的枠組の検討では、後述の通り海上保安庁の下に新海軍の母体組織を作りつつも、両者は実質的に分離されているという計画であった。
  3. ^ 帝国海軍では、「軍艦」(大佐が艦長〈所轄長である〉に補される)と「駆逐艦」「潜水艦」(所轄長たる駆逐隊司令〈潜水隊司令〉の指揮下にあり、中佐・少佐が駆逐艦長〈潜水艦長〉に補される)は区別されていた。
  4. ^ 女性自衛官が増える中、歌い出しが「男と生まれ… 」であった。

出典

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