活荷重
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/04 06:24 UTC 版)
概要
定義
構造物の設計を行う場合、これに作用する荷重、すなわち重量や力のあらゆるものを想定しなければならない。道路橋を例に考えた場合、橋を渡る自動車の重量のほか、橋桁そのものの自重、地震によって橋に働く慣性力などが挙げられる。このうち自動車は、乗用車から大型トラックまで様々な重量・大きさが存在するほか、橋の上を走行することにより、重量の作用する位置が時間によって変化する性質のものである。このように、荷重の大きさが一定ではないもの、その作用位置が変化するものを、活荷重あるいは動荷重と呼ぶ。
一方、橋桁本体の自重や、舗装や高欄(欄干)などの重量について考えてみると、これらは時間によってその大きさが変わったり、位置が動いたりしない性質のものと言える。このような荷重は、活荷重に対し死荷重、または動荷重に対し固定荷重と呼ばれる。
このほか構造物の設計にあたって考慮すべき荷重として、天候によって作用する風による力や雪の重さ、温度変化の影響などが挙げられる。これらは活荷重と同様にその大きさや作用位置などが変化する性質ではあるものの、特殊な荷重として位置付けられ、活荷重には含めないことが多い。活荷重は、動的な荷重のうち主たる荷重、すなわち道路橋であれば自動車の荷重や群集荷重(人など)、鉄道橋であれば列車の荷重を対象とするのが一般的である。
設計に用いる活荷重は、走行する車両の条件によって適切な値を用いるべきものであることから、走行路線を管轄する行政機関・団体などによりその大きさや載荷方法が定められている。
活荷重の特性
ある部位を設計しようとするときは、その部位に対して最も不利となるような荷重状態を考慮しなければならない。活荷重は、載荷位置が一定していないことから、その載荷状態の想定には注意が必要である。一般に、活荷重をすべての部位に載せられるだけ載荷するときが、最も大きな断面力を生じる状態となることが多い。
しかし、右の図に示すように、左側の径間に着目すると、両方の径間に活荷重を載荷した場合より、左側のみに活荷重を載荷した場合の方が、「たわみ」や断面力も大きくなることがある。これは着目する部位により異なるため、活荷重の載荷にあたっては、各部位に対して影響度を算定し、各部位ごとに最も不利となる載荷状態を考慮できる「影響線載荷」の手法が一般的に用いられる。
輪荷重・軸重・分布荷重
一般に車両の荷重は、車輪・タイヤを介して構造物に作用する。この作用をミクロ的に捉える方法、もしくはマクロ的に考える方法があり、設計・検討を行う部位によって使い分けられる。これらをミクロ的な順に示すと以下のとおりとなる。
- 車輪の接地圧 - 車輪からの荷重を接地面積で割り、接地圧力とした荷重。活荷重をもっともミクロ的に捉えた荷重であり、舗装や路床への影響を考慮する場合に用いられる。
- 輪荷重 - 車輪の荷重が一点に集中的に作用するとした荷重。道路橋における床版の設計に用いられる。
- 軸重 - 左右二つの輪荷重を一組にまとめた荷重であり、主桁の設計に用いられる。また、鉄道では個々の輪荷重が枕木や道床(バラストなど)により分散されるため、輪荷重の代わりに床版や軌道構造への影響を考慮するためにも用いられる。
- 連行荷重 - 複数の軸重を所定の間隔(軸距)で配置した荷重。自動車や鉄道車両の車輪・輪軸は、一組ではなく複数の輪軸が連なっていることから、この状態をモデル化したものである。鉄道橋の設計には主として連行荷重が用いられる。
- 分布荷重 - 多数の車両による荷重をマクロ的に捉え、単位面積または単位長さあたりの荷重に換算したもの。道路橋における主桁の設計に用いられるほか、鉄道橋においても副次的な荷重は分布荷重として扱われる。
衝撃荷重
活荷重はその対象が動く性質のものであることから、その動きにより振動を起こすことが想定される。設計にあたっては、これを衝撃荷重として別途考慮するのが一般的である。
衝撃荷重は、一般に走行する車両の速度や、橋の支間によって影響を受ける。このことから、走行速度をそのパラメータとして衝撃荷重を算定する場合や、支間をパラメータとして活荷重を割増す場合などがある。一般に走行速度が高いほど、支間が短いほど、衝撃荷重は大きくなる傾向にある。
日本の自動車荷重
現行の自動車荷重
日本の道路橋における活荷重は、国土交通省が定める技術基準「道路橋示方書」にてその大きさや載荷方法が定められている。
A活荷重とB活荷重
現行の活荷重は、道路の重要度や大型車の交通量に応じ「A活荷重」および「B活荷重」の二種類が使い分けられる。これらの活荷重は、1993年(平成5年)に車両制限令の改訂により、車両総重量が25tに引き上げられたことにともない規定されたものであり、総重量245kN[1] (25t) の大型トラックを基本に定めている。
このうち、B活荷重は重要な路線、大型車交通量の多い路線を対象としており、同示方書では、
をその対象として挙げている。さらに、その他の道路については、大型車の交通量に応じて、A活荷重とB活荷重を選定することとしている。A活荷重は大型車交通量の少ない道路を想定しており、B活荷重に比べ荷重条件が緩和されている。
T荷重とL荷重
A活荷重・B活荷重ともに、その載荷方法として、「T荷重」および「L荷重」がそれぞれ規定されている。
T荷重は、車両総重量25t(245kN)の大型トラックにおける後輪荷重をモデル化したものである。前後輪の荷重比率を1:4とし、後輪は軸重で200kN、輪荷重で100kNと規定している。右図上段は、小規模支間の橋桁に軸重(200kN)を載荷した例であるが、支間Lが大きくなった場合、実際には後輪のみならず前輪の荷重も作用する。したがって、以下の式により支間Lに応じた割増係数kを求め、発生断面力の補正を行うこととしている。
- k = 1.0 (L ≦ 4m)
- k = L / 32 + 7 / 8 (4m < L )
- ただし、k ≦ 1.5
この割増係数の規程はB活荷重のみに適用され、大型車通行量の少ないA活荷重に対しては割増しを行わない。
一般に、T荷重は床版の設計に用いられることが多く、この場合、右図下段のように1.75mの間隔をもって100kNの輪荷重(載荷面積-幅500mm×長さ200mm)を載荷する。また、橋の幅員が広い場合には、幅方向に複数組の輪荷重群を載荷することとしている。
一方のL荷重は交通荷重群をモデル化したものである。すなわち、T荷重が大型トラック単体を想定しているのに対し、L荷重は多数の自動車からなる荷重をモデル化したもので、主桁や主構など橋全体の設計に用いられる。多数の自動車を個々にモデル化するのは煩雑であることから、L荷重は単位面積あたり一様な荷重を載荷する等分布荷重として定められている。
橋の長手方向には3.5kN/m2(1m2あたり約350kgf)を全面に載荷し、さらにもっとも不利となる区間10m(A活荷重にあっては6m)に10kN/m2(1m2あたり約1tf)を載荷するのが、L荷重の基本である。前者は比較的軽量の自動車が多数連なっている状態をモデル化したものであり、後者はそれに加えて重量の大きい大型車が混載することを想定したものである。また、幅員が広い場合には、幅方向に5.5mをこれらの荷重を載荷し、他の部分にはその二分の一を載荷することとしている。
橋の等級と活荷重の変遷
以前の日本の道路橋は、等級により区分がなされていた。
1926年(大正15年)に「道路構造に関する細則案」が内務省土木局によって制定され、以下の3区分が等級および活荷重として定義された。
- 一等橋 - 12t
- 二等橋 - 8t
- 三等橋 - 6t
それぞれに示した重量は、活荷重として用いる車両の総重量を示している。
1939年(昭和14年)には「鋼道路橋設計示方書案」が制定され、橋の等級は一等橋および二等橋の二種類に改められた。
- 一等橋 - 13t (国道橋)
- 二等橋 - 9t (府県道橋)
この時代では、道路の管轄により一義的に等級の区分をすることとしていた。
さらに、1956年(昭和31年)には「鋼道路橋設計示方書」が建設省(現・国土交通省)により制定され、等級と活荷重は以下のとおりとなった。
- 一等橋 - 20t (TL-20)
- 二等橋 - 14t (TL-14)
この時点において、橋の等級は現在のA・B活荷重の区分と同様に定められることとなり、主要な道路は一等橋、その他の道路は大型車交通量により一等橋と二等橋を別途区分することとなった。その後、自動車交通が急激に増加する中で、以下の荷重を想定することとなった。
後者の荷重は、高速道路を建設する日本道路公団が独自に定めたものであったが、港湾付近など大型車がとくに多い一般道路にも適用された。これらの荷重条件は、A活荷重・B活荷重の定めにより撤廃された。
- 1 活荷重とは
- 2 活荷重の概要
- 3 世界の自動車荷重
- 4 関連項目
活荷重と同じ種類の言葉
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