洋上風力発電 洋上風力発電の概要

洋上風力発電

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 04:08 UTC 版)

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スウェーデンに建設中の Lillgrund Wind Farmの想像図

概要

洋上では山や建物や樹木などの障害物が無いことにより、乱気流が少なく安定的に大きな風力が得られるため、風力発電所を洋上に建造した場合、より大きな電力が供給できると考えられている。

洋上("offshore")とは言っても必ずしも海洋上を意味するのではなく、フィヨルド港湾内などに設置されたものも含めることに注意する必要がある。また発電機の形態に関しても、通常の風力発電と同様に基礎が海底などの地面に固定された着床式のものもあれば、海が深くて地面に基礎を設置できない場所でも利用可能なように浮体式の基礎を用いたものもある(浮体式洋上風力発電と呼ばれる)。

2015年頃までは、洋上風力発電が普及しているのはほぼヨーロッパのみであったが[1]、中国も国策として目覚ましい導入実績を挙げ、2020年末には総設置容量で世界3位につけている[2]

歴史

洋上風力発電の累積設備容量推移[3]

1991年に史上初めて洋上風力発電所が建設されたのは、ヨーロッパのデンマークであった。それ以来、ヨーロッパが洋上風力発電の歴史をリードしている[4]。2009年の10月の時点で、ヨーロッパで26箇所の洋上風力発電所が建設中であり、それらの発電所は平均して76MWの出力があった[5]。またヨーロッパで2010年に建設された風力発電の総発電量9.3GWのうち、0.9GW(9.6%)が洋上に建設された[6]。2010年現在の各国における洋上風力発電所の総発電能力においては、イギリスが1.3 GWとずば抜けており、ヨーロッパの残りの国の総発電能力を合わせた1.1 GWよりもはるかに高い数値となっている。[7] 以下、デンマーク(854 MW)、オランダ(249 MW)、ベルギー(195 MW)、スウェーデン(164 MW)、ドイツ(92 MW)、アイルランド(25 MW)、フィンランド(26 MW)、ノルウェー(2.3 MW)と続く[1]

2010年現在、洋上風力発電用のタービン(風力原動機)に関してはデンマークに拠点を置くシーメンス・ウィンド・パワー英語版社(シーメンス社の子会社)とベスタス社が市場シェアの 91.8%を担っている。導入実績に関してもエルステッド社(デンマーク)、バッテンフォール社(スウェーデン)、E.ON社(ドイツ)とヨーロッパの電力会社がリードしている[8]。2010年10月の時点で、北ヨーロッパを中心に3.16 GWの発電能力があるが、現在の発注状況からすると、2014年の終わりまでにさらに16GW以上の洋上風力発電が導入され、とりわけイギリスとドイツの2国がリーディングマーケットになるだろうと考えられている。全世界的な観点から見た場合、2020年までに全世界の洋上風力発電による電力の総計は75GWに達すると見られており、とりわけ中国とアメリカでの伸びが期待されている[8]

2017年、イギリススコットランド沖でノルウェーのエネルギー企業スタットオイルが世界初の浮体式商用洋上風力発電所を稼働させた[9]

技術

洋上風力発電の種類

2009年時点では、ヨーロッパで標準的なスペックの洋上風力発電用の原動機は1基あたり3MWの発電能力だった。将来的にこれを5MWにまで高めることが期待された[4]

洋上では安定性のため、水深によって異なったタイプの基礎が求められる。いくつか解決策があるが、一例を挙げると:

  • 水深30m未満では直径6mの円柱型の基礎を利用する。
  • 80mまでの水深では重力着底型構造物を利用する。
    • Tripod piled structuresを利用する。
    • Tripod suction caisson structuresを利用する。
    • 油田やガス田で見られるような鋼鉄製のジャケット工法を利用する。
  • さらに水深のあるところでは浮体式洋上風力発電を利用する[4]

洋上風力発電を行う際、タービンはアクセスがしづらい海洋上などの場所に設置されるため、通常の陸上風力発電に比べて信頼性が重視される。船を用いた定期的なアクセス手段が必要で、ギアボックスの交換などの重工業的な作業のためにジャッキアップ・リグ(海洋掘削装置)なども必要とされる[8]。設備の修理と維持をするためには、専門の管理チームを組織する必要がある。タービンへのアクセスは船かヘリコプターが用いられる。陸地からはるかに離れた場所に建設される風力発電所に関しては、管理チームのための居住スペースが必要とされる[10]

洋上風力発電の先進国である欧州においても、風力発電所の設計および建設許可を得る際には1000万ドルの出費と5年から7年の歳月がかかり、また当時は思ったような結果がでないリスクもあるのでは、と考える人もいたので、ゼネコン各社はこれを改良するように政府に要求した[11][12]。2010年時点ですでに洋上風力発電第2位のデンマークでは当局によって徐々にではあるが状況が改善され、ハードルがかなり下がった。[13]

洋上風力発電のデザインのガイドラインに関してはIEC 61400-3に記載がある[14][15]


  1. ^ a b Offshore Wind Booming in Europe”. Renewable Energy World (2011年1月20日). 2011年5月8日閲覧。
  2. ^ 中国、「洋上風力発電」の新設容量が世界最大に”. 東洋経済オンライン. 2021年3月15日閲覧。
  3. ^ Wind in Our Sails, EWEA, 2011, Figure 1.1
  4. ^ a b c d e Environmental and Energy Study Institute (2010年10月). “Offshore Wind Energy”. 2011年5月8日閲覧。
  5. ^ Offshore Wind Energy, The Windenergie-Agentur Bremerhaven/Bremen, 2009 Issue.
  6. ^ Wind in Our Sails, EWEA, 2011, Figure 1.3
  7. ^ UK reaches 5GW of installed wind landmark New Energy Focus / BWEA, 23 September 2010. Retrieved: 8 November 2010.
  8. ^ a b c Madsen & Krogsgaard. Offshore Wind Power 2010 BTM Consult, 22 November 2010. Retrieved: 22 November 2010.
  9. ^ 世界初「浮かぶ」風力発電所が稼働 英スコットランド沖 朝日新聞 2017年12月5日
  10. ^ Accommodation Platform DONG Energy, February 2010. Retrieved: 22 November 2010.
  11. ^ http://www.newjerseynewsroom.com/commentary/nj-must-make-wind-farm-permitting-process-as-quick-and-easy-as-possible
  12. ^ http://www.ieawind.org/Annex%20XXIII/Subtask1.html
  13. ^ Streamline Renewable Energy Policy and make Australia a World Leader Energy Matters, 11 August 2010. Retrieved: 6 November 2010.
  14. ^ International Standard IEC 61400-3 International Electrotechnical Commission, August 2005. Accessed: 12 March 2011.
  15. ^ Quarton, D.C. An international design standard for offshore wind turbines: IEC 61400-3 Garrad Hassan, 2005. Accessed: 12 March 2011.
  16. ^ Thanet”. The Engineer Online (2008年7月25日). 2008年11月26日閲覧。
  17. ^ Thanet offshore wind farm starts electricity production”. 2011年5月8日閲覧。
  18. ^ Horns Rev II turbines
  19. ^ E.ON finishes Rødsand II Business Week, 14 July 2010. Retrieved: 11 September 2010.
  20. ^ a b Operational offshore wind farms in Europe, end 2009 EWEA. Retrieved: 23 October 2010.
  21. ^ Interactive Map for Marine Estate
  22. ^ Interactive Map for Marine Estate
  23. ^ Wind farm's first turbines active
  24. ^ Interactive Map for Marine Estate
  25. ^ a b [1] UK Wind Energy Database
  26. ^ Interactive Map for Marine Estate
  27. ^ Christensen, Allan S. & Madsen, Morten. Supply Chain study on the Danish offshore wind industry page 33-42 Offshore Center Denmark, 29. august 2005. Retrieved: 23 October 2010.
  28. ^ Introduction to the (Nysted offshore) park”. 2010年8月19日閲覧。
  29. ^ Hamilton, Tyler (2008年1月15日). “Ontario to approve Great Lakes wind power”. The Star (Toronto). http://www.thestar.com/article/294044 2008年5月2日閲覧。 
  30. ^ Naikun Wind Development, Inc.”. 2008年5月21日閲覧。
  31. ^ Offshore Wind Outlook 2019 – Analysis”. IEA. 2021年3月15日閲覧。
  32. ^ https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/001_04_01.pdf
  33. ^ a b [2]
  34. ^ 洋上風力発電 脱炭素社会実現に向けて注目されている理由を解説”. www3.nhk.or.jp. NHK. 2021年3月15日閲覧。
  35. ^ 再エネ拡大の鍵握る「浮体式」発電、洋上風力の課題を超えるか”. 日経クロステック. 2021年9月12日閲覧。
  36. ^ “論プラス:日本の脱炭素シフト 再エネ拡大にかじを=論説委員・竹川”. 毎日新聞. (2020年8月20日) 
  37. ^ 福島沖風力発電2基撤去へ 国、民間引き継ぎ断念”. 河北新報オンラインニュース. 2021年9月12日閲覧。
  38. ^ 日経クロステック(xTECH). “北九州沖で浮体式洋上風力が稼働、国内初「バージ型」を実証” (日本語). 日経クロステック(xTECH). 2020年10月26日閲覧。
  39. ^ “洋上風力の整備港を初指定へ 国交省、秋田など4カ所”. 日経新聞. (2020年8月31日) 
  40. ^ 2021年末日本の風力発電の累積導入量:458.1万kW、2,574基日本風力発電協会2022年02月25日
  41. ^ http://www.eesi.org/files/offshore_wind_101310.pdf
  42. ^ 風間健太郎「洋上風力発電が海洋生態系におよぼす影響」『保全生態学研究』第17巻第1号、2012年、 107-122頁。


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