氷 氷利用の歴史

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 02:20 UTC 版)

氷利用の歴史

人為的に冷却効果を得る技術が登場するまで、氷自身が唯一の冷却材であったため、冬季や寒冷地にて得られた天然氷を融かさないよう保管する努力が講じられた。保管方法として、地下や洞窟の奥などに空間を作り、冷却効果を得ようと大量に氷を保管した。また、断熱効果を得るためオガクズなども用いられた。

日本ではこれを氷室(ひむろ)、英語ではアイスハウスと呼ぶ。歴史的には紀元前1780年頃のメソポタミア北部のテルカで使われた記録がある[9]

昨今では、に降った大量の氷雪を保管しておいて夏期の冷房に利用しようとする試みや、気温が低く電力需要も少ない(そのため電力料金も安くなる)夜間に製氷しておき、昼間の冷房に役立てようとするサービスなどが普及しつつある。

函館氷

日本において、冬以外に氷で冷やした飲み物が飲めるようになるのは、明治になってからになる。中川嘉兵衛という実業家が、明治4年、北海道函館市で初めて天然氷の採氷事業に成功したことに始まる。嘉兵衛はまず、富士山の山麓に500の採氷池を掘り、そこから約2000個の天然氷を得ることに成功する。しかしこの氷は、江尻港静岡市)までの8里(約31km)は馬で、その後は帆船を借りて一般貨物の2倍の運賃で横浜まで運んだものの、横浜到着時には全て溶けて水になってしまっていた。この後2年間休業したのち、諏訪湖日光釜山青森からと、毎年場所を変えて氷を採り、横浜へと運搬したがいずれも失敗に終わった。しかし、嘉兵衛は諦めることなく、函館に渡り、6回目の採氷に挑戦した。この年は温暖であったため、僅かな氷しか採れず、250トンの氷を横浜に輸送することが出来たものの、採算は取れなかった。しかしこれに手応えを感じ、明治2年、函館の五稜郭の外濠を借り受け、亀田川の水を引き入れて7回目の採氷を行った。この7度目の挑戦にしてやっと事業が成功。明治5年(1872年)の『新聞雑誌』には、「製氷界の恩人――中川嘉兵衛」の見出しで、

昨夏横浜の氷会社より氷を売り出し、其価甚だ安く衆人の賞美大方ならず。(中略)文政天保の際に、奢侈を極めし貴人富豪と誰も知らざる所の一味を、一貧生にして飽まで消受すること、明代の余沢ならずや。

と述べられ、その事業が称賛されている。これまで簡単に手に入れられなかった夏場の氷が、安く手に入るようになり、人々が夏場に冷たいものにふれる始まりになった。また明治7年(1874年)の『東京日日新聞』においても、函館の天然氷採取が取り上げられ、功績が称賛されている。

氷の世に大功ある事は、第一熱病には必要の薬品にて、氷室ありし以来、炎症を助けしこと少なからず。第二暑中人意を快くし、第三我国の一産物を開けり

製氷事業は病人の熱さましとして、また暑い夏の飲食用として、人々に歓迎された。

近年の需要動向

1980年代から1990年代にかけて、飲食店で業務用の自動製氷機が普及したため、食用氷純氷を扱う業者は販売不振に陥っていた[10]。しかし、2013年コンビニエンスストアの挽きたてコーヒーが登場したことによって、再び食用氷の需要が上昇している[10]。 近年のかき氷ブームによる需要でふわふわ感が楽しめる氷として、またウイスキーオン・ザ・ロックで飲む際に用いられる、高品質でほとんど無味無臭の氷として、製氷工場で作られた純氷が求められるようになってきた。


注釈

  1. ^ 星野リゾート トマム(北海道占冠村)が厳冬期に設営する。「クールな夢 見られそう」朝日新聞』夕刊2019年1月22日(1面)2019年1月24日閲覧。

出典 

  1. ^ a b Yamane, Ryo; Komatsu, Kazuki; Gouchi, Jun; Uwatoko, Yoshiya; Machida, Shinichi; Hattori, Takanori; Ito, Hayate; Kagi, Hiroyuki (2021-2-18). “Experimental evidence for the existence of a second partially-ordered phase of ice VI”. Nature Communications 12 (1): 1129. doi:10.1038/s41467-021-21351-9. ISSN 2041-1723. 
  2. ^ a b 低温高圧下で新しい氷の相(氷XIX)を発見』(プレスリリース)東京大学大学院理学系研究科・理学部、2021年2月19日https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/7238/2021年2月22日閲覧 
  3. ^ Weber, Bart; Nagata, Yuki; Ketzetzi, Stefania; Tang, Fujie; Smit, Wilbert J.; Bakker, Huib J.; Backus, Ellen H. G.; Bonn, Mischa et al. (2018-06-07). “Molecular Insight into the Slipperiness of Ice”. The Journal of Physical Chemistry Letters 9 (11): 2838–2842. doi:10.1021/acs.jpclett.8b01188. https://doi.org/10.1021/acs.jpclett.8b01188. 
  4. ^ チコちゃんに叱られる!「拡大版SP!イチョウ並木・氷の謎・イラスト一挙公開!」”. TVでた蔵 (2019年12月27日). 2019年12月30日閲覧。
  5. ^ a b 製氷機を発明した人を動かした、熱い意志”. WIRED Japan. 2016年2月5日閲覧。
  6. ^ a b 溶けゆく氷を使っていた大正・昭和の冷蔵庫 変わるキッチン(第15回)~冷やす(後篇)”. 2016年2月5日閲覧。
  7. ^ "Unique ice pier provides harbor for ships," Antarctic Sun. 8 January 2006; McMurdo Station, Antarctica.
  8. ^ Makkonen, L. (1994) "Ice and Construction". E & FN Spon, London. ISBN 0-203-62726-1
  9. ^ Stephanie Dalley (1 January 2002). Mari and Karana: Two Old Babylonian Cities. Gorgias Press LLC. p. 91. ISBN 978-1-931956-02-4. https://books.google.com/books?id=_oTh51M5XF4C&pg=PA91 
  10. ^ a b “コンビニ「氷特需」 コーヒー用カップ入り増産、札幌の工場フル稼働”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年8月7日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/sapporo/555554.html 
  11. ^ International Equations for the Pressure along the Melting and along the Sublimation Curve of Ordinary Water Substance W. Wagner, A. Saul and A. Pruss (1994), J. Phys. Chem. Ref. Data, 23, 515.
  12. ^ Review of the vapour pressures of ice and supercooled water for atmospheric applications. D. M. Murphy and T. Koop (2005) Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, 131, 1539.
  13. ^ National Snow and Data Ice Center, "The Life of a Glacier"
  14. ^ Chang, Kenneth (2004年12月9日). “Astronomers Contemplate Icy Volcanoes in Far Places”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2004/12/09/science/09ice.html 2012年7月30日閲覧。 
  15. ^ Tschauner, O.; Huang, S.; Greenberg, E.; Prakapenka, V. B.; Ma, C.; Rossman, G. R.; Shen, A. H.; Zhang, D. et al. (2018-03-09). “Ice-VII inclusions in diamonds: Evidence for aqueous fluid in Earth’s deep mantle” (英語). Science 359 (6380): 1136–1139. doi:10.1126/science.aao3030. ISSN 0036-8075. PMID 29590042. https://science.sciencemag.org/content/359/6380/1136. 



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/09 00:00 UTC 版)

(ひょう)は、漢姓の一つ。


注釈

  1. ^ a b 日本では「」が公的な字体として指定されているので、異体字として扱われるが、中国・台湾などでは、「」が公的な字体で、はその略字であり、異体字ということになる。実際、ウィクショナリーでも、「」が「氷」よりも古い字形(古字)であることが説明されている。が本来「」の象形文字であり、「」は会意文字なのである。事実、後述の#朝鮮の姓にあるように、朝鮮総督府による1930年の国勢調査で初めてこの姓が明確に記録されたとき、「冰」ではなく「」の字体が用いられている[2]

出典

  1. ^ a b c d e f g h 袁義達・邱家儒(2010) 中国姓氏大辞典, 365頁「冰 bīng」。
  2. ^ 朝鮮総督府 『朝鮮の姓』(1930), p55,56,57,59,72 ほか。
  3. ^ a b c 『韓国人の姓氏と族譜』, (2004), p.318
  4. ^ a b c d e f 金鎮禹 『韓国人の歴史』, (2009), p.368
  5. ^ a b 빙 [冰]” [冰] (朝鮮語). NAVER 지식백과 (ネイバー知識百科). ネイバー. 2019年9月10日閲覧。
  6. ^ a b c KOSIS”. kosis.kr. 2022年11月20日閲覧。


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