水泳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/14 09:27 UTC 版)
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動物同様に、人類も昔から河川・池・湖・海などで泳いでいた。中世の日本では、水の中を泳ぐ技術は「水術」と呼ばれ、武術の1つともされた[2]。現代では水泳は、落水時などに身を守るために教えられており、またレクリエーションやスポーツとして行われている。
目的
人類は古来から楽しんだり、暑気を凌いだりするために泳いでいる。主に夏に、海や川で人々は泳ぎを楽しんでいる。また、人類が橋のない川を渡る際、舟を作成する時間・費用をかけられない場合は、泳いで渡ることになる。古代でも中世でも世界各地で兵士たちは戦時にはしばしば武具を身につけたまま川を泳いで渡らなければならなかった。また落水事故や転覆事故(海難事故)に遭った際、水面に浮き続け、生き延びるための泳ぎができるかは自分の生死に直結する。たとえば漁師は泳ぎを身につける。集団での漁では皆自分の仕事に精一杯で仲間のことにまで気が回らなくなりがちであり漁師の落水はしばしば見落とされるので、漁師は溺死しないために泳ぎを身につける。現代では世界各地で、自分の身を守るための水泳や落水した人を救助するための水泳の教育が行われている。
水泳は、全身の筋肉と総合的な身体能力を養える運動であり、水圧によるマッサージ効果によって全身の血行が促進されるので、健康の維持に有効である。水泳は水中で行うので浮力のおかげで下肢や膝などの関節に負担がかかりにくく、これらの部分に問題のある患者のための有酸素運動として優れており、リハビリテーションでも積極的に活用されている[3]。熱中症の危険が低いので「暑い日に好適な運動」としても選ばれるが、脱水症にならないように水泳においてもあらかじめ水分補給はしっかりしておくことが望ましい[4]。
競技としての水泳を競泳という。初期[いつ?]には、川・池・湖・海などの水面をロープなどで区切って簡易なコースをつくり行われることが一般的であったが、次第に人工的なプールでの競技が普及した。初めはプールには屋根がなかったが、屋外の塵や枯葉などによる水質悪化を防ぐため、屋内プールが普及した。さらに、水温も調節されるようになった。現在、水泳の競技大会はプールで行われている。一方、プールでない水面つまり海や湖など自然の水面(オープンウォーター)で長距離を泳ぐ競技が「オープンウォータースイミング」やトライアスロンの「スイム」である。
水泳は人気のあるスポーツであり、プロ選手だけでなく一般市民もレクリエーションとして、また健康を目的として水泳を楽しんでいる。自ら行う運動としての水泳は、特に設備の整った先進諸国において人気が高く[注釈 1]、ウォーキングやエアロビクスに次ぐ競技人口を持っている[5]。日本でも水泳をする人は多く、2012年の調査では日本で1年以内に水泳を行った人数は1200万人を数え、ウォーキングとボウリングに次いで実施人口が多かった[6]。
歴史
全ての動物は泳ぐ動物から進化したので、多くの動物が生まれつき泳げる。いわゆる恐竜の子孫だとされ、飛翔するようになった鳥類ですら泳げる。地表の70%が海であり、陸にも川・湖・池が多くあるため動物は地表を移動すればしばしば泳ぐことにもなる。なお樹上の進化の歴史が長くなった霊長類は他の動物よりは泳ぎが苦手な傾向がある。
人類は地表を移動するために川や湖を泳いだだけでなく、さまざまな目的で泳いできた。泳いでいる人を描いた約9000年前の壁画がある。古代ギリシア時代には水泳が盛んであったことも当時の絵画や彫刻からわかる。古代ギリシア・古代ローマ時代の身体訓練では水泳が重要で、「文化人の条件」としても、文字が読めることと並んで水泳ができることが必要とされていた。アッシリア王国の旧地から発掘されたレリーフには、泳いで川を渡っている兵士が描かれている。記録としては、古代エジプトのパピルス文書(紀元前2000年)、アッシリアのニムルド出土の兵士の図(紀元前9世紀)、古代中国の荘子、列子、淮南子などがある[7]。中世までの泳ぎは動物の模倣で、犬掻きや平泳ぎに似ていた。19世紀に入り、スポーツの近代化とブルジョワジーが「賭けレース」をするようになったことを背景として泳ぎにスピードが求められるようになった。「速く泳ぐための泳ぎ」がつくられてゆき、もっとも原始的な泳ぎの形であるとともに平泳ぎの原型となる「両手で同時に水を掻き、両足で同時に水を後方に押しやる泳ぎ」から「両手で同時に水を掻き、両足を左右に開いたのち勢いよく水を挟んで前進力を得るウェッジキック」が考案され、現在の平泳ぎが完成した[7]。19世紀には西欧において水泳の一般化と競技化が進み[8]、1837年にはイギリスにおいて初の水泳競技大会が開催されている[9]。1875年にはマシュー・ウェッブが世界初のドーバー海峡横断泳を成功させ、水泳人気はさらに高まった[10]。20世紀に入ると女性の水泳参加も徐々に進んでいき、1912年のストックホルムオリンピックからは水泳女子種目が開始された[11]。
アメリカ合衆国などではコーチと母親が一緒になって乳幼児をプールに浮かべて泳がせる教室もあり、吸収の速い乳幼児に水に触れさせることで簡単に泳ぎを習得させている。その時期を過ぎると、逆に人は訓練無しには泳げなくなってしまう。一方で、一度習得すると長い間泳いでいなくても忘れることはなく、最も忘れ難い運動とも言われている。特に泳ぎが下手な人間のことを俗に「カナヅチ」という。
注
出典
- ^ 広辞苑【水泳】
- ^ a b https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202108/202108_05_jp.html 「日本の伝統的な泳法」Public Relations Office of the Government of Japan 2021年8月 2022年3月22日閲覧
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p69-76 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 水泳の水分補給「熱中症、熱射病、日射病のHP」)
- ^ a b 「スポーツの世界地図」p82 Alan Tomlinson著 阿部生雄・寺島善一・森川貞夫監訳 丸善出版 平成24年5月30日
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p20 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ a b 水泳の歴史[リンク切れ]
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p45-47 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ a b 「泳ぐことの科学」p49 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p47-48 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html 「スポーツにおける女性の活躍」男女共同参画白書 平成30年版 日本国内閣府男女共同参画局 2022年3月29日閲覧
- ^ MD, Claire McCarthy (2018年6月15日). “Swimming lessons save lives: What parents should know” (英語). Harvard Health. 2022年6月10日閲覧。
- ^ a b 水上安全法
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p185 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 三 学校体育施設の充実 学制百二十年史編集委員会、2022年1月23日閲覧
- ^ 水泳
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p21-22 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p23-28 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 参考資料① (17645kbyte) - 富山市
- ^ 平成 26 年度 七ヶ浜中学校プール改築工事基本設計及び実施設計業務委託 実施設計仕様書
- ^ 初の学校プール完成 | 大磯・二宮・中井 | タウンニュース
- ^ 体育・スポーツ施設現況調査の概要 文部科学省
- ^ 多摩区で水泳の授業に温水プール利用、天候に左右されず水道代削減も/川崎 神奈川新聞
- ^ "Drowning Happens Quickly– Learn How to Reduce Your Risk". 疾病予防管理センター。 2014年8月18日閲覧。
- ^ Swimming Lessons Information from the Canadian Red Cross – Canadian Red Cross. カナダ赤十字。 2016年6月12日閲覧。
- ^ 「泳ぐことの科学」p37-38 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ a b 「泳ぐことの科学」p41 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p90 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ 「泳ぐことの科学」p39-40 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p84-89 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p93-94 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p94-95 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
- ^ 「泳ぐことの科学」p57-58 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ 「泳ぐことの科学」p69 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
- ^ https://www.joc.or.jp/sports/waterpolo.html 「水泳・水球」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
- ^ https://www.joc.or.jp/sports/artisticswimming.html 「水泳・アーティスティックスイミング」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
- ^ https://www.joc.or.jp/sports/swimming.html 「水泳・競泳」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p170 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p170-171 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p171-183 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
- ^ https://news.yahoo.co.jp/articles/84710a8194d8afda061929168f415aa901e330f1?page=2 「スラップスケートOKで高速水着禁止の過去…ナイキ厚底シューズは“技術ドーピング”なのか、それとも技術革新なのか?」THE PAGE 2020/1/17 2022年3月29日閲覧
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