水星 概要

水星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/13 23:59 UTC 版)

概要

太陽系で最小の惑星が、水星である。水星の赤道面での直径は4879.4 kmと、地球の38パーセントに過ぎない。木星の衛星の1つのガニメデや、土星の衛星の1つであるタイタンよりも小さい。なお、水星に衛星や環は無い。

地球から水星を観測する場合、水星は太陽に非常に近いため、日の出直前と日没直後のわずかな時間しか観測できない。また、地球と水星と太陽の位置関係によっては、たとえ望遠鏡を使っても観測は難しい。これは地球から見た太陽と水星との離角が、最大でも28.3度に過ぎないためである。なお、天球上での見かけの明るさは、−0.4等から5.5等まで変化し、暗く見える時期には、より観測が難しくなる。

1974年にNASAの探査機であるマリナー10号が初めて水星へ接近した。マリナー10号による観測によって、水星の地表の4割強の地図が作成できた。この際に撮影された写真から、水星の表面には多数のクレーターが有り、地球の衛星の月と類似した環境だろうと考えられた。地球からの直接観測だけでなく、地球から水星へと探査機を到達させる事も比較的難しいため、21世紀に入っても依然として判らない点の多い惑星ではあるものの、21世紀に入ってから再び探査機が水星へと送り込まれた事や、地球からの直接観測の技術の向上に伴って、次第に水星に関する知見が集積されつつある。

軌道

公転

水星の公転周期は約88日である。その軌道離心率の約0.21という値は、太陽系惑星の中で最大であり、近日点が 約0.31 au (46 ×106 km) で遠日点が 約0.47 au (70 ×106 km) という、太陽を焦点の1つとする楕円軌道を描いている[7][8]

(上)黄道から10度上方の位置から見下ろした水星の公転軌道。(下)黄道の真横から見た軌道。
太陽を回る水星(黄色い線)の動きを示したアニメーション。(地球は青色)

公転面は地球の公転面(黄道)に対して7度の傾きがある。その結果、水星の太陽面通過は黄道に水星があるタイミングに限られ、平均7年に1度しか観測されない[9]

この軌道の近日点は太陽の周りを周回する形でゆっくりと移動している(水星の近日点移動)。この現象の大部分は他の惑星からの摂動など古典力学で説明できる現象だったが、観測値は古典力学による計算値より100年当たり43大きく、この説明不可能だったずれは19世紀の天文学者を悩ませてきた。このため水星の内側にもう1つ惑星があるという説が現れた(バルカン参照)[10]。このニュートン力学では説明できなかった43秒は、後にアインシュタイン一般相対性理論によって「太陽の重力により時空が歪んだ結果」として説明づけられた。一般相対性理論による計算値が、誤差の範囲で観測値の43秒と非常によく一致していたのである[11][12][13]

自転

水星の公転と自転の関係 - 水星は2回公転する間に3回自転する。

水星の自転周期は58日である[7]1965年レーダー観測が行われるまで、水星の自転は地球の月や他の多くの衛星と同様に、太陽からの潮汐力によって公転と同期しており、常に太陽に同じ面を向けて1公転中に1回自転していると考えられていた。しかし実際には水星の自転と公転は 2:3 の共鳴関係にある[7][14][15]。すなわち、太陽の周囲を2回公転する間に3回自転する[16]。水星の公転軌道の離心率が比較的大きいため、この共鳴関係は安定して持続している。水星の自転と公転が同期していると考えられた元々の理由は、地球から見て水星が最も観測に適した位置にある時にはいつでも同じ面が見えたからであった。実際にはこれは 2:3 の共鳴の同じ位置にある時に観測していたためだった。この共鳴があるために、水星の恒星日(自転周期)は58.7日なのに対して、水星の太陽日(水星表面から見た太陽の子午線通過の間隔)は176日と、3倍になっている[17]。誕生直後の水星は8時間程度の速さで自転していたが、太陽の潮汐力によって段々と遅くなり現在の同期状態になったと考えられるが、なぜ2:3の比となったのかは分っていない[14]

水星表面の特定の場所では、水星の1日において日の出の途中で太陽が逆行して一度沈み、その後再び上るという現象が見られる。これは、水星が近日点を通過する約4日前に公転と自転の角速度がちょうど等しくなるため、水星表面から見て太陽固有運動が止まって見えることに起因する。近日点通過の前後4日間は、楕円軌道の尖った部分(円弧と長辺の交点)を水星が通り過ぎるために公転による角速度が自転のそれを上回り、太陽が逆に進むように見える。近日点通過の4日後には太陽は順行に戻る[17]

先述のとおり、水星は公転周期が約88日で、太陽日が約176日となっている。すなわち、「水星の1日」は「水星の2年」に等しい[18]。言いかえれば、水星のある地点での正午から次の正午まで(ここでは逆行は考慮しないとする)の間に、水星は太陽の周りを2回公転する。

水星の赤道傾斜角(自転軸の傾き)は惑星の中で最も小さく、わずか 0.027度以下でしかない[19]。これは2番目に傾斜が小さい木星の値(約3.1度)に比べても1/300と非常に小さい値である。このため、日の出の位置は2.1以上ぶれない[19]

物理的性質

内部構造から考えられる起源

水星の内部構造。1:核、2:マントル、3:地殻。
同縮尺の地球型惑星。左から、水星、金星、地球、火星。

水星には半径 1,800 km 程度のが存在する[7]。これは惑星半径の3/4に相当し、水星全体では質量の約 70 % がニッケル[20]金属、30 % がケイ酸塩で出来ている[17]

平均密度 5,430 kg/m3は地球と比べわずかに小さい[7][3]。核の比率が大きい割に密度がそれほど高くないのは、地球は自重によって惑星の体積が圧縮され密度が高くなるのに対し、小さな水星は圧縮される割合が低いためである。地球中心部の圧力は366万気圧に達するのに対し、水星中心部は約25から40万気圧にとどまる[20]。しかし、天体の大きさと平均密度の相関関係では、水星は唯一他の地球型惑星が示す傾向から60%程度重い方向に外れている[7]。自重による圧縮を除外して計算された平均密度は、水星が 5,300 kg/m3、地球が 4,000-4,100 kg/m3となり、水星のほうが有意に高い値をとる[20][21]

水星の体積は地球の 5.5 % に相当する。しかし地球の金属核は 17 % にすぎないのに対し、水星の金属核はその 42 % を占める[22][23][24]。核は地球の内核外核のように、固体と液体に分離していると見られている。2007年、電波観測によって水星の核に液体の部分が存在することを示す磁場が観測された[25]。2019年には、メッセンジャーの観測データとモデル計算から、核の中心に直径2,000kmにも及ぶ固体の核が存在することが示された[26][27]

核の周りは厚さ 600km 程度の岩石質マントルで覆われている[7][28][29]が、これは他の岩石惑星と比べごく薄いためマントルの対流が小規模となり、惑星表面に特有の影響を及ぼした可能性が指摘されている[7]。地殻は、マリナー10号の観測結果から厚さ 100-300km と推測されている[30]

水星は太陽系の他のどの天体よりも鉄の存在比が大きい。この高い金属存在量を説明するために、主に3つの理論が提唱されている。

  • 1つ目は、水星は元々ありふれたコンドライト隕石と同程度の金属-珪酸塩比を持ち、その質量が現在よりも約2.25倍大きかったが、太陽系形成の初期に水星の 1/6 程度の質量を持つ原始惑星と衝突した[15]ために元々の地殻マントルの大部分が吹き飛んで失われ、延性を持つ金属核は合体したために比率が高い現在の姿になったという理論である[31][15]。これは地球の月の形成を説明するジャイアント・インパクト理論と同様なメカニズムであり[15]、「巨大衝突説」と呼ばれる[32][33]。また、このような現象は原始惑星形成時から起こり、水星軌道では選択的に金属が集まりやすかったという「選択集積説」も有力な仮説として唱えられている[33][32]
  • 2つ目は、水星が原始太陽系星雲の歴史のごく初期の段階に形成され、その時には未だ太陽からのエネルギー放射が安定化していなかったことが原因という理論である[32]。この理論では、当初水星は現在の約2倍の質量を持っていたが、原始星段階の太陽が収縮するにつれて活動が活発化してプラズマを放出し[33]、このために水星付近の温度が 2,500 - 3,500 K、あるいは 10,000 K 近くにまで加熱された。表面の岩石がこの高温によって蒸発して岩石蒸気となり、これが原始太陽系星雲風によって吹き飛ばされたために地殻部分が痩せ細って薄くなったという[34]。これは「蒸発説」と呼ばれる[32][33]
  • 3つ目は、原始太陽系星雲からの太陽風が水星表面に付着していた軽い粒子に抗力を生じさせ、奪い去る現象が重なったという理論である[35]。他にも、水星は地殻部分がコアとマントルの冷却よりも先に形成されたため、これが影響したという説もある[36]

これらの各仮説では、水星表面の構成に異なった影響を与えると考えられている。 探査機メッセンジャーと水星に向けて航行中のベピ・コロンボは、この課題を観測する目的を担う予定である[37][38][33]

地形

カロリス盆地。内側の円が示すように、マリナー10号による観測で、直径は約1300 kmと見積もられていた。しかし、外側の円が示すように、メッセンジャーによる観測で、実際の直径は約1550 kmだったと判明した[39]

当初、水星の地形は望遠鏡によるアルベドの計測で予想された。地域によって反射率に差異があり、これは月の高地のようなリンクルリッジ山脈平野ルペス英語版(絶壁)、ヴァリス英語版()などがあるためと推測された[40][41]

1975年のマリナー10号による観測で得た情報から基本的な部分が明らかになった。水星の地表は月の地表と似ており、その特徴は、数十億年単位時間を経て形成される月の海のような滑らかな面や、全球を覆う多様な大きさのクレーターが数多く存在している点にある[42][43][24]。その中で最も大きな地形はカロリス盆地である。従来は、カロリス盆地の直径は1300 km程度と見積もられていたものの、探査機のメッセンジャーの観測により、実際の直径は約1550 kmだったと判明した[39]。これは水星の直径の1/4以上に相当する。この惑星のサイズに比して巨大な地形は、46億年前に水星が形成されて間もなく始まり38億年前まで続いた後期重爆撃期[44]彗星隕石が衝撃を和らげる大気が無い水星に[45]衝突を繰り返すことでクレーターを形成し[41]、当時まだ活発だった火山活動によって盆地マグマで埋まり形成されたと考えられる[42][46][47]

水星の表面は、おおまかに言って異なる時期に形成された2種類の地表面が見られる。新しい方の表面は溶岩が流れ出して形成された軽い地表であり、古い地表よりクレーターが少ない。このような二分化された地形は月の高地-海の関係に似ているが、水星に見られる新旧の地表の違いは月の場合ほど明確ではない[48]

水星の地表を特徴付けるもう1つの地形は、惑星の広い範囲に散在する高さ約2 km、長い物では500 km[49]に達する断崖(線構造)であり[42]、リンクルリッジと呼ばれる[49]。これは水星の内部が冷却され、半径が1-2kmほど縮む過程で形成された「しわ」であると考えられているが[49][50]、太陽の潮汐力の影響という異説も存在する[51]。断層のパターンについて詳細に分析できるようになれば、地形の正確な起源が明らかになると考えられている[48]。また、太陽の潮汐力は地球が月に与える力の約17倍と推測され[51]、そのために水星では赤道部分が膨らむ潮汐変形が起きている。

地殻物質

水星の表面には、鉄酸化物の存在量が他の地球型惑星と比較しても少なく重量比1-3%程度しか無い。これが反射率の高さに繋がっている。代わって、ナトリウム分が多い斜長石や鉄をあまり含まない輝石(頑火輝石)が主に占める[42]

大気

水星は重力が小さいため、長く大気を留めておくことは難しい。しかし、ごく薄く分子同士の衝突がほとんど無い無衝突大気の存在が確認されている[42][52][53]。水星の気圧は10-7 Pa (10−12気圧) 程度と推測され、その成分は水素ヘリウムの主成分[54]に加え、ナトリウムカリウムカルシウム酸素などが検出されている[42][6][55]

この大気組成は一定しておらず、絶えず供給と散逸を繰り返している。水素やヘリウムは太陽風の粒子を水星磁場が捕捉したものと考えられ、やがて宇宙空間に拡散されてゆく。地殻で生じる放射性崩壊もひとつのヘリウム供給源であり、ナトリウムやカリウムも地殻起源である。水蒸気も存在しており、これは水星の表面が崩壊して生じたものと、太陽風の水素と岩石由来の酸素がスパッタリングを起こして生成されるもの、永久影にある水の氷が昇華して発生するものがある。探査機メッセンジャーによる水の存在に関連するO+、OH、H2O+などのイオン発見は、驚きをもって受け止められた[56][57]。これら発見されたイオンの量から、科学者らは水星の表面は太陽風に吹き晒されている状態にあると推測した[58][59]

大気中にナトリウム・カリウム・カルシウムがあることは1980-1990年代に発見され、当初は隕石衝突による地殻の蒸発がこれらを供給していると考えられた[60]。さらに探査機メッセンジャーによってマグネシウムの存在が確認された[61]。その時点での研究の結果、ナトリウムの供給領域は惑星磁場に対応する部分に絞られた。これは水星の表面と磁場が相互作用を起こしていることを示す[62]

温度

表面の平均温度は 452K(179 ℃)であるが[3]、温度変化は 90-100 K から 700 K におよぶ[5][63]。水星は公転と自転が共鳴しているため、近日点において特定の2箇所が南中を迎え最高温度の700Kに達する。この場所は「熱極」と呼ばれ、カロリス盆地とその正反対側が当たる[7]遠日点では500K程度になる[64]。日陰部の最低温度は平均110Kほどである[65]。太陽光は地球の太陽定数の4.59-10.61倍に相当し[54]、エネルギー総計では 3,566 W/m2 となる[66]

このような高温に晒されながら、水星には(=固体の水

メッセンジャーの2008年の観測グラフ。ピークが水星磁場の存在を示している。

水星は59日という遅い自転速度であるにもかかわらず、地球の磁気圏の約1.1%に相当する比較的強い4.9×1012T磁気圏を持つことがマリナー10号の観測で発見された[7][73][74][75]。この磁場は、地球と同じく双極子である[7][62]が、地球にみられるような磁場の軸と自転軸とのずれはほとんど無い[76]。探査機マリナー10号とメッセンジャーの観測によって、この磁場は安定的なものであることが分かった[76]

詳しくは明らかにはなっていないが、この磁場は地球と同様に流体核の循環運動によるダイナモ効果で生まれている可能性がある[7][77][78]。水星の核は純粋なニッケルや鉄が融解するほどの高温を維持していないと考えられているが、硫黄などの不純物が 0.2 - 5 % ほど核に混入すると融点が適度に低下し、地球と同様に固体の内核と液体の外核に分離する可能性がある。仮にこのメカニズムで磁場が発生しているならば、液体の外核はおよそ 500 km の厚さを持つと推定される[7]。また、水星の公転軌道の離心率が高いことから、太陽が及ぼす潮汐力の影響も考えられる[79]。他にも、核とマントルの境界で生じる熱電作用や、過去に起きていたダイナモ効果が消えてしまった後も名残の磁場が固体の磁性体物質に「凍結」しているという理論もある[7]。後者では核が液体である必要はないが、水星磁場は現在も生み出されていると考えられているため、21世紀初頭の時点ではこの説はあまり支持されていない[48]

磁気圏

水星磁場は惑星の周囲で太陽風をそらして磁気圏をつくり[7]宇宙風化作用英語版に抵抗する程度には[76]強力だが、それは地球の大きさに収まる位の範囲でしかない[62]。マリナー10号の観測では、夜側の磁場圏でエネルギーが低いプラズマが観測され、高エネルギー粒子の噴出も見つかった。これは、惑星磁気圏の高い活動を示している[62]。2008年10月6日にメッセンジャーが2度目のフライバイを行った際、惑星磁場と繋がったまま水星半径の1/3に相当する800kmの長さに伸びた竜巻のようにねじれた磁気の束と遭遇した。これは、水星磁場が「漏れやすい」性質を持つことを示す。この竜巻は、太陽風が運んだ磁場と惑星磁場が接触した際に発生する。太陽風の通過とともに繋がった磁場は引き出され、渦のようなねじれ構造を持つ。このような、惑星磁場の磁力管が太陽風によって引っぱり出される現象(磁束輸送事象英語版)は、磁場の壁に穴を空けてしまい、そこから水星表面に影響を及ぼす太陽風が吹き込む事態を起こす[80]磁気再結合と呼ばれるこのような現象は珍しくなく、地球でも起こっている。ただし現在の観測では、これが生じる速度は地球よりも10倍も速く、水星が太陽に近いことでもこの速さの1/3程度しか説明できない[80]




注釈

  1. ^ 以前最小の惑星だった冥王星は2006年に準惑星へ分類変更された。
  2. ^ 楔形文字の翻訳には、「MUL」を伴った資料もある。ただしMULはシュメールにおいて「星」を意味し、固有名詞の一部とは考えられない。「4」は、シュメール語とアッカド語の翻訳法において、楔形文字の単語が持つ複数の音節のうちいずれかを指定するためにつけられた参照番号と考えられる。

出典

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