民族音楽
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/05 21:42 UTC 版)
「民族音楽」の意味
この節の出典は、学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「民族音楽」の項[2]
(1)西洋の古典音楽と大衆音楽以外の伝統的な音楽
もともとethnicには「異民族・異教徒」という意味があり、ethnic musicは「異民族・異教徒のエキゾチックで野蛮な音楽」というニュアンスがあった。歴史的にこの語は欧米で内外の異民族、特に異教徒や少数民族の音楽の特異な響きを指して用いられることが多く、ヨーロッパ人が自民族の音楽を指す言葉としては使わなかった。
(2)西洋と日本の古典音楽と大衆音楽以外の伝統的な音楽
日本に移入されたこの語は、(1)の意味から自国である日本を除外して「日本以外の非欧米の伝統的な音楽」の意味でつかわれた。近年は当たり前になったが、以前は例えば「フランスの民族音楽」などのような言い方はしなかった。伝統的な音楽への志向はまだ残っており、例えば「中国の民族音楽」と言った場合、京劇や民謡がすぐ思い浮かぶが、女子十二楽坊やラン・ランは通常含まない。
(3)特定の民族・地域・国で行われている音楽全て
(1)(2)に含まれる西欧中心主義や自民族中心主義、および伝統的な音楽とそれ以外のジャンルを峻別する考え方への批判から、例えば「日本の民族音楽」といった場合、古典音楽・民謡・民俗芸能・歌謡曲やポピュラー音楽、日本人が作曲・演奏する西洋クラシック音楽に至るまでのあらゆる音楽を指すような用法が近年見られる。この立場を推し進めると「民族音楽」という語が不要になり、単に「○○の音楽」と言えばよいことになる。
(4)「○○の音楽」と言った場合に見落とされやすい音楽を特に示す
基本的には(3)の立場に立つが、「○○の音楽」と言った場合に想起されにくい音楽を示すためにあえて「○○の民族音楽」という語を使う用法。近年はこうした用法が主流になって来ている[注 1]。例えば「ドイツの音楽」と言った場合、どうしてもクラシックが思い浮かびがちだが、「ドイツの民族音楽」と言われれば民謡や民族舞踊の存在を意識する。
(5)自民族の伝統的な音楽およびそれに基づいて新たに創作された音楽
ロシア・中国・朝鮮などでは民族音楽という語をそのような意味で使っている。中国の用法では女子十二楽坊は立派に民族音楽である。中国・朝鮮では「民族楽器」「民族舞踊」と言う際の「民族」もほぼこれに準じる[1]。
(6)エキゾチックな感じを与える音楽
「民族音楽」というより「エスニック・ミュージック」と呼ぶ場合が多い。民族衣装や民族料理を楽しむような気軽さで異民族の音楽のエキゾチックさを楽しむ際にこの用法が使われる場合があるが、エキゾチックさを強調することは(1)の用法に近い部分があり、注意を要する。
類義語との違い
- 民俗音楽/フォークミュージック(Folk music)その民族の伝統的な音楽のうち、上層階級の芸術音楽を除いた、基層社会が口頭で伝承している音楽[3]。「民謡Folk song」に意味が近いが、楽器による音楽や民俗舞踊まで確実に含めるためにこの言葉を使う[3]。「民族音楽」と言った場合、多くは芸術音楽を含むので、意味は一致しない。またその民族の社会が階級を持たない場合や、階級があってもそれぞれの音楽のジャンルが分かれていない場合はこの語自体を使わない[4]。
- 伝統音楽/トラディショナルミュージック/トラッド(Traditional music) 伝統的な音楽を指す語だが、学術用語ではないため明快な定義はない。日本語の伝統音楽は芸術音楽を含むが、英語版ウィキペディアではFolk musicにリダイレクトされており、民俗音楽に意味が近いようである。
- 世界音楽/ワールドミュージック(World music) 世界中の音楽を総称する意味と、非西欧諸国のポピュラー音楽という意味と二通りの意味が存在する[5]。前者は「民族音楽」という語に含まれる西洋中心主義を避けるために民族音楽学の研究対象を「世界音楽」と呼んだのが始まりであり、後者は民族音楽学が非伝統的という理由で対象外とした新しい融合音楽を示すために使われ始めた用法であり[6]、どちらにしても民族音楽という語と差別化して使われた経緯があり、意味は一致しない。
- ルーツミュージック(Roots music)
注釈
- ^ 平凡社の『音と映像による世界民族音楽体系』では、アジア・アフリカ地域については伝統的な芸術音楽と民俗音楽や民俗芸能を取り上げ、ヨーロッパ地域(ヨーロッパロシアを含む)については芸術音楽は全く取り上げずに民俗音楽や民俗芸能だけを取り上げ、シベリアと北米地域については先住民の音楽だけを取り上げ、中南米地域についてはいわゆるラテン音楽のうち著しい商業化がされていないものを取り上げ、オセアニアについてはヨーロッパの影響を指摘しつつ現存する芸能を取り上げている。そして日本が含まれていない。「自国以外の各国の見えにくい音楽を示す」という、民族音楽と言う語の(4)の意味に忠実な例である。
出典
- ^ a b c 平凡社『世界大百科事典』の「民族音楽」の項。
- ^ 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「民族音楽」の項。
- ^ a b 平凡社『世界大百科事典』の「民俗音楽」の項。
- ^ 平凡社『世界大百科事典』の「民謡」の項。
- ^ 音楽之友社『新編 音楽中辞典』およびMicrosoft『Encarta2005』の「ワールド・ミュージック」の項。
- ^ 音楽之友社『新編 音楽中辞典』の「民族音楽学」の項。
- ^ ジョン・ブラッキング『人間の音楽性』岩波書店、1978年
- ^ 木村晴美・市田泰弘「ろう文化宣言」、現代思想編集部編『ろう文化』青土社、1999年
- ^ Darrow, Alice-Ann. "The Role of Music in Deaf Culture: Implications for Music Educators." Journal of Research in Music Education, Volume41, No2, 1993.
民族音楽と同じ種類の言葉
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