歯学 歴史

歯学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/05 09:51 UTC 版)

歴史

古代

古代においては、医学同様、歯学についても、各文明においてそれぞれに発達した。

古代エジプトにおいて、エーベルス・パピルスエドウィン・スミス・パピルスには、それぞれ歯痛歯肉炎についての薬物治療法、顎関節脱臼に対する治療法が記載として残されている[14]

メソポタミア文明や、中国文明においては、虫歯の原因は虫であるという概念が広まった[14]

インドではスシュルタ本典(英語: Sushruta Samhitaにおいて、口腔清掃の必要性、歯ブラシ歯磨剤歯石除去について記載されている[15]

古代ギリシアでは、ヒポクラテス全集に、幾つかの歯科疾患に関する記載のほか、長寿の人ほどの残存歯数が多い事がすでに記載されていたが、治療法は抜歯や焼灼などであった[14]

ローマ帝国においては、ケルルスがう蝕の治療法として、歯の黒い部分をこすり落とすことが必要であることや、矯正歯科についての記載を行ったほか、ガレノス全集には歯の解剖や髄腔穿通法、歯の漂白に関する記載もされていた[14]

中国では歯学の扱いは安定していなかった。において、医学の1分科とされた歯科口腔領域は春秋戦国時代では内科の中の消化器科の一分野とされ、秦漢にて再び独立した扱いとなった[16]。杉本は、中国では歯科疾患は一部の王侯貴族の病気であり庶民の歯科疾患は少ないことから、疾病としての認識が少なく、そのために歯科疾患に用いられる漢字にもが用いられなかった と報告している[16]

中世

この時期、歯学を含めた医学分野は東ヨーロッパイスラム世界において発達した[17]。この時期の医学書には虫歯により空いた穴に乳香ミョウバンを混ぜたセメントを詰めることや歯の清掃歯石除去、歯の再植術、歯の欠損部位にウシで作った人工歯を入れる等の治療方が記載されていたが、モンゴルの侵入や内部崩壊などの結果、発達は止まることとなる[17]

ヨーロッパでは、16世紀に至るまで千年以上に渡り、ヒポクラテス医学、ガレノス医学、アビセンナ医学を信奉する各学派が絶対的権威として君臨しており[18]、停滞が続いていた。ルネサンスの影響により医学も近代化が進む事となるが[18]、歯学の近代化は18世紀、ピエール・フォシャールの登場を待つことになる。

ピエール・フォシャール以降

ピエール・フォシャール1728年に出版した歯科外科医、もしくは歯の概論は歯学の分野における最初の包括的な医書である[19]。この書により、門外不出の秘術を売り物としていた歯学を公にし、誰もが学べる学問とした[20][21]。これ以降、多くの高名な医師、歯科医師がその診断・治療などを公開するようになり、歯学を大きく発達させることとなる[21]19世紀に入ると、フランス革命の混乱やアメリカ合衆国の発展から有能な歯科医師のアメリカへの移住が進み、歯学の中心はアメリカへと移り変わった[21]。その流れの中、1840年ボルチモアに世界で最初の歯学教育機関であるボルチモア歯科医学校が、1841年にはアメリカ歯科医師会が設立された[8]。これ以降、ボルチモア歯科医学校を始めとする歯学教育機関により歯学は学問として体系化され、各分科の基礎が作られることとなった[8]


  1. ^ a b Gambhir RS (2015). “Primary care in dentistry – an untapped potential”. Journal of Family Medicine and Primary Care 4 (1): 13–18. doi:10.4103/2249-4863.152239. PMC 4366984. PMID 25810982. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4366984/. 
  2. ^ What is the burden of oral disease?”. WHO. 2004年6月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年6月6日閲覧。
  3. ^ American Academy of Cosmetic Dentistry | Dental CE Courses”. aacd.com. 2019年10月21日閲覧。
  4. ^ Diagnosis of Celiac Disease”. National Institute of Health (NIH). 2017年5月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年6月6日閲覧。
  5. ^ “General dentistry's role in the care for children with special needs: a review”. Gen Dent 58 (3): 222–29. (2010). PMID 20478802. 
  6. ^ da Fonseca MA (2010). “Dental and oral care for chronically ill children and adolescents”. Gen Dent 58 (3): 204–09; quiz 210–11. PMID 20478800. 
  7. ^ Owen, Lorrie K., ed. Dictionary of Ohio Historic Places. Vol. 2. St. Clair Shores: Somerset, 1999, 1217–1218.
  8. ^ a b c 中原 (1996) pp.105-108 (歯科医学の分科の始まり(19-20世紀))
  9. ^ Zadik Yehuda; Levin Liran (January 2008). “Clinical decision making in restorative dentistry, endodontics, and antibiotic prescription”. J Dent Educ 72 (1): 81–6. PMID 18172239. 
  10. ^ Zadik Yehuda; Levin Liran (April 2006). “Decision making of Hebrew University and Tel Aviv University Dental Schools graduates in every day dentistry—is there a difference?”. J Isr Dent Assoc 23 (2): 19–23. PMID 16886872. 
  11. ^ Zadik Yehuda; Levin Liran (April 2007). “Decision making of Israeli, East European, and South American dental school graduates in third molar surgery: is there a difference?”. J Oral Maxillofac Surg 65 (4): 658–62. doi:10.1016/j.joms.2006.09.002. PMID 17368360. http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6WKF-4N8JDW3-J&_user=10&_rdoc=1&_fmt=&_orig=search&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=734474d0fe654970b56c219106722fb6 2008年7月16日閲覧。. 
  12. ^ 平井ら(2008) pp.2-3
  13. ^ 前田ら (2013) p.1
  14. ^ a b c d 石井ら (2011) pp.2-7 (古代の歯科医学史)
  15. ^ 松田ら (2012)
  16. ^ a b 杉本 (1978)
  17. ^ a b 石井ら (2011) pp.8-13 (中世の歯科医学史)
  18. ^ a b 中原 (1996) pp.1-3 (近代医学の始まり(16世紀))
  19. ^ ワインバーガー (1941) p.56
  20. ^ 中原 (1996) pp.27-36 (近代歯科医学の祖 フォシャール)
  21. ^ a b c 石井ら (2011) pp.26-33 (フォシャールとアメリカの歯科)


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