欧州連合の政治
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加盟国
2007年以降、欧州連合には27の加盟国があり、これらは欧州連合の諸機関に権限を委譲している。権限を委譲しているかわりに、加盟国は理事会の採決における票数、欧州議会における議席数、欧州委員会委員などが割り当てられている。加盟国の政体はそれぞれで異なっており、大統領制、君主制や連邦制、ミニ国家などがあるが、すべての加盟国はコペンハーゲン基準で言及される民主主義、人権の尊重、自由市場経済を有することを遵守しなければならない。加盟国は長い期間を経て増えていて、1958年の原加盟6か国に始まり、これからも増え続けることが見込まれている。
加盟国の中には特定の領域で欧州連合における統合の枠組みの外にある国があり、たとえばユーロ圏は全27か国中16か国のみで構成されていたり、またシェンゲン協定には欧州連合の加盟国では21か国が参加している。しかしながらこれらに参加していない加盟国もブロックに加わる手続が進められている。また欧州連合に加盟していない多くの国でも、ユーロ、シェンゲン協定、単一市場、防衛といった欧州連合の活動にかかわっている[3][4][5]。
機関
欧州連合の主要機関には、欧州議会、欧州理事会、欧州連合理事会(基本条約ではたんに「理事会」となっている)、欧州委員会がある。
通常立法手続はほぼすべての欧州連合の政策分野で適用される。この手続では、欧州委員会が欧州議会と理事会に法案を提出する。欧州議会と欧州委員会は理事会に対して修正案を送ることができ、理事会はその修正案を採択するか、「共通の立場」を送り返すことができる。理事会による「共通の立場」案に対して欧州議会は承認するか、修正を審議する。理事会が欧州議会の修正法案を承認しなかった場合は「調停委員会」が設置される。調停委員会は理事会と欧州議会のそれぞれから出される同数の代表者で構成され、立場の一致を模索する。両者の立場が一致すれば、法案はふたたび欧州議会において絶対過半数でもって承認されなければならない[6][7]。また通常立法手続以外にも、欧州議会の権限が制限されるような分野では特別な手続が適用される。
欧州議会
欧州議会は理事会と立法や予算に関する権限を共有している。736人の議員は5年ごとに普通選挙で選出され、議場では政治志向によって配置される。欧州連合における二院制の一翼を担っているものの、欧州議会は一部の分野において理事会よりも権限が押さえられており、また立法における発案権を持たない。しかしながら欧州議会は理事会が持たない、欧州委員会に対する権限を持っている[8]。
欧州理事会
欧州理事会は欧州連合加盟国の元首または政府の長による会議体である。毎年4度の会議で欧州連合の政策指針を定め、また統合への推進力を与えている。議長は欧州理事会の議事進行や任務遂行にあたる。欧州理事会は欧州連合における最高位の政治機関とされている[9]。
理事会
欧州連合理事会(閣僚理事会やたんに理事会ともいう)は立法権と、限定的ではあるが執行権を持ち、欧州連合の主要な政策決定機関となっている。その議長国は6か月ごとに持ちまわっている。理事会は加盟国の閣僚で構成される。ただし理事会は議題によってその構成が変わる。たとえば農業にかかわる案件について協議する場合には、理事会は各国の農業担当閣僚で構成されることになる。出席者は自国政府を代表し、自国の政治制度において説明責任を負う。採決では多数決または全会一致が採られ、多数決での各国の持ち票数はそれぞれの人口によって配分されている[10]。
欧州委員会
欧州委員会は加盟国から1人ずつ任命された委員で構成されているが、委員は出身国の利益から独立した立場であるものとされている。欧州委員会はすべての欧州連合の法令の草案を起草し、立法における発案権を独占している。また欧州委員会は欧州連合の日常業務を担い、欧州連合の法令や「基本条約の守護者」としての使命を負っている[11]。
欧州委員会は欧州理事会議長が指名し、欧州議会が承認した委員長を首班とする。ほかの委員は加盟国が委員長との協議のうえで指名し、委員長によってそれぞれの担当職域が割り当てられる。その後理事会は指名された委員の名簿を採択する。理事会による欧州委員会の採択では全会一致による決定を求める分野とはなっておらず、条件付き多数決によって承認される。欧州議会は委員候補に対して聴聞を行い、任命の採決を行う。各委員候補に対する聴聞は個別に行なわれるが、欧州議会としての承認の採決は欧州委員会の総体に対して行なわれ、個別の委員に対する任命の是非を決めることはできない。欧州議会から承認が得られれば、委員はただちにその任に就くことができる[11]。
選挙
欧州議会については5年ごとに直接選挙が実施されている。理事会と欧州理事会は加盟国で選任された人物で構成され、そのため国内における規定によって責任を負っている。欧州委員会は市民によって直接的に選任されていない。ただし欧州委員会委員長の指名にあたって、欧州理事会は直前の欧州議会議員選挙の結果を考慮しなければならないことになっている[12]。
欧州議会の選挙は欧州連合の市民による普通選挙でもって実施される。このときの選挙方法は比例代表制でなければならないが、選挙権年齢や有罪判決を受けたものの選挙権制限といった規定は各国の選挙制度に委ねられている。欧州議会議員選挙は1979年に初めて行なわれているが、2009年の選挙までにその投票率が下がり続けている。2009年の選挙の投票率は 43% にとどまっている。
政党
それぞれの加盟国における政党は、政治志向が近いほかの加盟国の政党と連携して欧州規模の政党を結成している。ほとんどの国内の政党は欧州規模の政党に参加しているが、11の欧州規模の政党が欧州連合に登録されており、欧州連合から資金を受け取っている。欧州規模の政党は国内の政党と似たような活動を行なっているが、欧州議会議員選挙ではとくに大きい政党である欧州人民党、欧州社会党、欧州自由民主改革党だけが統一的なマニフェストを掲げて運動を行なっている。
欧州規模の政党は理事会、欧州委員会、欧州議会といったすべての主要な機関において水平的にかかわっているが、もっとも活動が活発であるのは欧州議会においてであり、欧州議会では政治会派を形成している。欧州議会の任期の冒頭で各政党はほかの欧州規模の政党や国内政党、無所属議員と政治会派を結成する。これまでにいずれの政党も欧州議会において過半数の議席を得ておらず、また政権を樹立するというようなこともないため過半数を得たところで大きな影響はないのだが、欧州議会議長の選任に当たっては2大政党の間で連携がなされてきている[13][14]
会派 | 代表者 | イデオロギー | 議員数 | ||
---|---|---|---|---|---|
欧州人民党グループ (EPP) | マンフレート・ウェーバー | 自由保守主義(親EU) | 187 | ||
社会民主進歩同盟 (S&D) | イラトクセ・ガルシア | 社会民主主義 | 147 | ||
欧州刷新 (Renew、旧ALDE) | ダチアン・チョロシュ | 自由主義 | 98 | ||
欧州緑グループ・欧州自由連盟 (Greens-EFA) | フィリップ・ランバーツ スカ・ケラー |
緑の政治・地域主義 | 67 | ||
アイデンティティと民主主義 (ID) | マルコ・ザンニ | 極右・国家主義 | 76 | ||
欧州保守改革グループ (ECR) | ラファエロ・フィット リシャルト・レグツコ |
保守主義(欧州懐疑派) | 61 | ||
欧州統一左派・北方緑の左派同盟 (GUE/NGL) | ガブリエレ・ツィンマー | 社会主義・ユーロコミュニズム | 40 | ||
無所属 (NI) | N/A | 29 | |||
出典:2020年6月時点の欧州議会議員一覧[15] | 合計 | 705 |
- ^ “The EU at a glance > Treaties and law” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Glossary > Community legal instruments” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Introduction > Use of the euro” (英語). European Central Bank. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “The Schengen area and cooperation” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “The EU Battlegroups” (PDF) (英語). European Parliament (2006年9月12日). 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Parliament's powers and procedures” (英語). European Parliament. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Decision-making in the European Union” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Welcome to the European Parliament” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ van Grinsven, Peter (2003年). “The European Council under Construction 'Clingendael'” (PDF) (英語). Netherlands Institute of International Relations. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “The Council of the European Union” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ a b “The European Commission” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ^ 欧州連合条約第17条第7項
- ^ “European Political Parties & Groups in the European Parliament” (英語). EurActiv.com. 2010年3月28日閲覧。
- ^ Kreppel, Amie (2002年). “The European Parliament and Supranational Party System” (PDF) (英語). Cambridge University Press. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “MEPs Advanced Search” [欧州議会議員 (MEP) 詳細検索] (英語). 欧州議会. 2020年6月9日閲覧。 “閲覧時点 (2020年6月) でPolitical groups (政党) の絞り込み検索選択肢として、Group of the European People's Party (Christian Democrats): 欧州人民党グループ (EPP)、Group of the Progressive Alliance of Socialists and Democrats in the European Parliament: 社会民主進歩同盟 (S&D)、Renew Europe Group: 欧州刷新 (旧ALDE)、Group of the Greens/European Free Alliance: 欧州緑グループ・欧州自由連盟 (Greens-EFA)、Identity and Democracy Group: アイデンティティ・民主 (ID)、European Conservatives and Reformists Group: 欧州保守改革グループ (ECR)、Confederal Group of the European United Left - Nordic Green Left: 欧州統一左派・北方緑の左派同盟 (GUE-NGL)、Non-attached Members: 無所属が挙げられている。”
- ^ “Financial Perspective 2007?2013” (PDF) (英語). Council of the European Union (2005年12月17日). 2010年3月28日閲覧。
- ^ Kanter, James (2006年1月30日). “Poles block EU deal on lower VAT” (英語). The New York Times. 2010年3月28日閲覧。
- ^ Mulvey, Stephen (2005年6月1日). “Varied reasons behind Dutch 'No'” (英語). BBC NEWS. 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Draft report on division of powers” (PDF) (英語). European Parliament (2002年2月6日). 2010年3月28日閲覧。
- ^ “Q&A: EU enlargement” (英語). BBC NEWS (2007年1月1日). 2010年3月28日閲覧。
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