機動戦士ガンダムF91 デザイン

機動戦士ガンダムF91

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/19 06:13 UTC 版)

デザイン

サンライズから「F91は(機動戦士ガンダムの)旧スタッフで作って欲しい」という要望が出ていたこともあり、メカニックデザイナーには大河原邦男、キャラクターデザイナーには安彦良和が選ばれた[6][11]。富野由悠季とともに『ガンダム』の象徴的存在とも言える両名が久々に顔を揃えている[注 5]

メカに関しては、時代設定が一新されて全く新しいMS観を築く必要が出てきたので、新シリーズの第1章であるということも含め、「その時代のベースになるデザインを作ってもらうならやはり大河原邦男だろう」ということになった[10]。キャラクターに関しても、元はTVシリーズということもあってとにかく登場人物が多いため、「これだけ多くの人物を描き分け、しかも魅力的に見せてくれるのは安彦しかいない」ということで安彦良和に決まった[10]。安彦は当初、あまり乗り気でなかったが、きちんと打ち合わせをして話作りに関われるのなら、という条件付きで引き受けた[注 6][11]。また安彦は、本作を最後にアニメ製作の仕事から退いた[11][注 7]

本作品では、MSのデザインにはモビルスーツの小型化など、新たな要素が数多く投入されている[8]。MSの全高は15メートルにダウンサイジングされ、人とモビルスーツの芝居をより緊密にする取り組みがなされている[17][18]。また、新しいガンダムのデザインには「分身」や「人の顔」というテーマがあり、そのギミックも取り入れられている[8][19]

主人公機であるガンダムF91は、「原点回帰」であったνガンダムに対し、いかにもガンダムらしい頭部と白を基調とした赤青黄のトリコロールのカラーリング以外、ガンダム的な記号を極力廃したデザインとなっている[8]。当初のデザインはあまりに「ガンダムらしい」イメージだったため、富野監督から「もっとチャレンジングなものにしたい」という要望が出た[8]。そこで大河原は、当時注目を集めていたF1レースなどのフォーミュラカーのようなイメージでデザインを描き、そのデザインがガンダムF91となった[11]。一方、それまで進めていたデザインは模型企画の『機動戦士ガンダムF90』という形でプラモデルで展開することになった[11]

敵方のクロスボーン・バンガードのMSは、「コスモ・バビロニアのMS」ということから富野監督に「古代バビロニア」をモチーフとすることを提案された[10]。大河原は、歴史上バビロンがあったチグリスユーフラテス川周辺の民族衣装などを全て調べ、そこからインスピレーションを得て「モノアイ」に代わるデザインとして「ゴーグル」にたどり着いた[6][20]。TVシリーズ化も視野に入れていたので敵MSに関してもキッチリと作り込もうという方針だったため、偵察型、格闘型、攻撃型の3種類を作り、そしてそれを指揮官用と一般用に分けて全部で6種類のデザインを完成させた[6]

カラーリングに関しては、スタッフの共通認識として「ガンダムは白い機体にしよう」というのがあり、大河原もそのイメージでデザインを進めた。最終的にはバンダイからの要望で青が入ったが、「白を基調に」というのは変わらなかった[6]。クロスボーン・バンガードの機体色は色指定担当が決めたが、機体のイメージカラーの延長で単色になった[注 8][6]。また当時はデジタルペインティングではなく手塗りだったので、多数の色を揃えたり塗り分けたりするのが大変だったということもある[6]

大河原は通常作画の手間を考えて線を少なくすることに注意しているが、本作では劇場作品ということもあり、サンライズ側から「線減らしはあとでやるから、敵味方すべて出来るだけ細かくディテールを入れてくれ」との指定があった[6][21]。大河原は細かいディテールを書き込む一方で、シルエットだけで機体の違いが見分けられるようにもデザインしている[6]

デザイン作業の終盤に大河原が髄膜炎を患って入院してしまい、当時サンライズ企画室所属だった石垣純哉ジェガンのリメイクやバグとラフレシアのラフ案を描き、後者2点は退院した大河原がクリンナップした[10]

新たにメカをデザインする人手も時間も足りないため、艦船などは旧来のものを流用し、細部のすり合わせのためにディテーラーとしてサンライズ所属の中沢数宣が参加した[10]


注釈

  1. ^ SDガンダムを除く。
  2. ^ いわゆる「貧乏ビスタ」。
  3. ^ 厳密には派生機である。
  4. ^ 劇場作品になった理由の一つとして、同じく劇場版の『逆襲のシャア』のプラモデルのセールスが好調だったこともあった[6]
  5. ^ 安彦は『機動戦士Ζガンダム』のキャラクターデザイン以来、大河原は『機動戦士ガンダムΖΖ』以来の参加。
  6. ^ 前回参加の『Ζガンダム』では一切打ち合わせすることなく、キャラクターだけを描かされた。
  7. ^ これでアニメの仕事は辞めると決めた自身の監督作品『ヴイナス戦記』は1989年3月公開、『F91』への参加が正式に決まったのは同年8月。その後、2015年2月公開の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』で総監督を務め、約24年ぶりにアニメの現場に復帰した[16]
  8. ^ シャアのサザビーなども黒が入っていても印象は真紅というのと同じ。

出典

  1. ^ 映画販促用ポスターより。
  2. ^ MG ガンダムF91 Ver.2.0 & RE/100 ビギナ・ギナ 開発ドキュメント第1回”. バンダイホビーサイト. 2020年2月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月29日閲覧。 アーカイブ 2020年2月29日 - ウェイバックマシン
  3. ^ ガンダム映像新体験TOUR『ガンダムF91 完全版』&『ガンダムW Endless Waltz 特別篇』4DX上映、本日よりスタート!”. GUNDAM.INFO. 2021年1月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月23日閲覧。 アーカイブ 2021年1月29日 - ウェイバックマシン
  4. ^ 機動戦士ガンダムF91”. GUNDAM.INFO. 2020年5月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月29日閲覧。 アーカイブ 2020年5月13日 - ウェイバックマシン
  5. ^ 機動戦士ガンダムF91”. バンダイチャンネル. 2013年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月29日閲覧。 アーカイブ 2013年4月4日 - ウェイバックマシン
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n 『グレートメカニックG 2018WINTER』双葉社、2018年12月、38-42頁。ISBN 978-4-575-46513-6 
  7. ^ 吉岡哲臣 編「「サンライズの80年代」 矢立肇インタビュー」『Great Mechanics』 21巻、双葉社〈好奇心ブック107号〉、2006年7月15日、68頁。ISBN 4-575-46431-7 
  8. ^ a b c d e 『グレートメカニックG 2020WINTER』双葉社、2020年12月、28頁。ISBN 978-4-575-46525-9 
  9. ^ a b 『Great Mechanics』 8巻、双葉社、2003年、[要ページ番号]頁。ISBN 4-575-46412-0 
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『機動戦士ガンダムF91 オフィシャルエディション (B‐CLUB SPECIAL)』バンダイ、1991年5月、48-58頁。ISBN 978-4-89189-155-8 
  11. ^ a b c d e f 封入特典「F91 ドキュメントコレクション」収録インタビュー冒頭公開”. 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』公式サイト. 株式会社サンライズ (2018年5月25日). 2021年5月8日閲覧。 アーカイブ 2020年2月7日 - ウェイバックマシン
  12. ^ 「富野由悠季の宇宙世紀」『機動戦士ガンダムF91 パーフェクトファイル』講談社〈講談社ヒットブックス(17)〉、1991年5月12日、90-91頁。ISBN 4-06-177717-3 
  13. ^ 『グレートメカニックG 2018WINTER』双葉社、2018年12月18日、[要ページ番号]頁。ISBN 978-4-575-46513-6 
  14. ^ 機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別編』『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』『∀ガンダム 地球光・月光蝶』など。
  15. ^ 久々ガンダム映画は人対宇宙人の最終戦争 - シネマニュース”. nikkansports.com. 2021年10月13日閲覧。 アーカイブ 2021年10月29日 - ウェイバックマシン
  16. ^ “シャアとセイラの生い立ち、アニメ化 安彦良和総監督”. 朝日新聞デジタル. (2015年2月28日). オリジナルの2019年5月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190523102453/https://www.asahi.com/articles/ASH2P5JQBH2PUCVL00H.html 2015年3月24日閲覧。 
  17. ^ 『グレートメカニックG 2018WINTER』双葉社、2018年12月、16-17頁。ISBN 978-4-575-46513-6 
  18. ^ 『グレートメカニックG 2019AUTUMN』双葉社、2019年9月、21頁。ISBN 978-4-575-46517-4 
  19. ^ 『グレートメカニックG 2020WINTER』双葉社、2020年12月、45頁。ISBN 978-4-575-46525-9 
  20. ^ 『グレートメカニックG 2019AUTUMN』双葉社、2019年9月、38頁。ISBN 978-4575465174 
  21. ^ 『ガンダムエースSELECTION ガンプラA』角川書店、2002年、[要ページ番号]頁。ISBN 4-04-853565-X 
  22. ^ 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』、1993年12月30日発行、庵野秀明・編、ハッピー興行新社、P37、70、81
  23. ^ 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』、1993年12月30日発行、庵野秀明・編、ハッピー興行新社、P81~82
  24. ^ 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』、1993年12月30日発行、庵野秀明・編、ハッピー興行新社、P64
  25. ^ 酒井征勇 編「特別企画 富野由悠季監督インタビュー」『機動戦士ガンダムF91大百科』勁文社〈ケイブンシャの大百科〉、1991年5月17日、209頁。雑誌コード 63549-61。 
  26. ^ a b 『Great Mechanics』 14巻、双葉社、2004年、[要ページ番号]頁。ISBN 4-575-46424-4 
  27. ^ 氷川竜介(構成・監修) 著「COLUMN モビルスーツは何故小型化したか」、小牧雅伸 編『機動戦士ガンダム宇宙世紀』 vol.4(総括編)、ラポート、1999年4月25日、175頁。ISBN 4-89799-390-3 
  28. ^ 「機動戦士ガンダムF91」本日21時から無料配信、主題歌担当・森口博子も登場”. 映画ナタリー (2020年5月22日). 2020年5月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月19日閲覧。 アーカイブ 2020年5月23日 - ウェイバックマシン
  29. ^ 『機動戦士ガンダムF91』の48時間限定無料配信が決定!「METAL BUILD ガンダムF91 CHRONICLE WHITE Ver.」の商品化記念として”. 電撃ホビーウェブ. アスキー・メディアワークス (2020年11月6日). 2020年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月19日閲覧。 アーカイブ 2020年11月6日 - ウェイバックマシン
  30. ^ 2020年3月号”. 月刊ガンダムエース. 2020年10月10日閲覧。 アーカイブ 2020年9月24日 - ウェイバックマシン
  31. ^ 「月刊ガンダムエース 2020年3月号」本日発売!”. GUNDAM.INFO. 2020年10月12日閲覧。 アーカイブ 2020年2月26日 - ウェイバックマシン
  32. ^ 機動戦士ガンダムF91 プリクエル”. 月刊ガンダムエース. 2020年10月10日閲覧。 アーカイブ 2021年5月31日 - ウェイバックマシン
  33. ^ 機動戦士ガンダムF91プリクエル 1”. KADOKAWA. 2021年4月1日閲覧。 アーカイブ 2021年5月15日 - ウェイバックマシン
  34. ^ 機動戦士ガンダムF91プリクエル 2”. KADOKAWA. 2021年4月1日閲覧。 アーカイブ 2021年5月14日 - ウェイバックマシン
  35. ^ 機動戦士ガンダムF91プリクエル 3”. KADOKAWA. 2021年11月26日閲覧。 アーカイブ 2021年5月14日 - ウェイバックマシン
  36. ^ 機動戦士ガンダムF91プリクエル 4”. KADOKAWA. 2022年10月26日閲覧。 アーカイブ 2022年10月25日 - ウェイバックマシン
  37. ^ 機動戦士ガンダムF91プリクエル 5”. KADOKAWA. 2023年8月25日閲覧。






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