植物 植物の概要

植物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/22 20:23 UTC 版)

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植物界
異なる種と特性のいくつかの植物
分類
ドメ
イン
: 真核生物 Eukaryota
上界 : バイコンタ Bikonta
: 植物界 Plantae
学名
Plantae Haeckel
シノニム

Plantae sensu lato = Archaeplastida
Plantae sensu stricto = Viridiplantae
Plantae sensu Margulis 1981 = Embryophyta

下位分類

アーケプラスチダ Archeplastida
(広義の植物)

それに対し生物学では科学的知見が増えるにつれ、植物という語が指し示す範囲は歴史的に変遷してきた。2012年現在は陸上植物を含む単系統群として植物を定義するが、どの単系統を選ぶかにより複数の定義が並立している。狭い定義では陸上植物のみを植物として認めるが、より広い定義では緑色植物全体を植物としたり、紅色植物灰色植物をも植物に含めたりする。

一方、二界説ないし五界説のような古い学説では植物とみなされていた菌類(キノコやカビ)、褐藻ワカメなど)は系統が異なるため、2012年現在は植物とみなされていない。

「植物」を分類群としては認めなかったり、別の名前を採用し「植物」はシノニムとしたりする動きもある。分類群としての名称は植物界となる。

現在の植物の定義

本節では、2012年現在における植物の複数の定義と、それらの定義が提案されるに至った背景を説明する。

背景

かつて「植物」という単語は、広く光合成をする生物一般、すなわち光合成生物全般を指していたが、生物に関する科学的知見が深まるにつれ、この素朴な定義は大きく修正されることになった。その理由は主に3つある。第一の理由として、生物全体が細菌古細菌真核生物の3つのドメインに分かれることが分子系統解析によりわかったことが挙げられる。これは細菌に属する光合成細菌真核生物である陸上植物とは異なる系統であることを意味する。したがって陸上植物を含む単系統群として植物を定義するのであれば、植物を真核生物に属するものに限定しなければならない。

第二の理由は真核生物がいくつかのスーパーグループに分類できることが分子系統解析によりわかったことである。この分類に真核光合成生物を当てはめてみると、下記のように多系統であることがわかる:

真核生物の系統樹[2][3]
スーパーグループ 具体例
オピストコンタ (後生)動物襟鞭毛虫菌類
アメーボゾア 粘菌アメーバ
エクスカバータ ユーグレノゾアディプロモナス
アーケプラスチダ 緑色植物紅色植物灰色植物
SAR ストラメノパイル 不等毛植物褐藻珪藻黄金色藻

ラフィド藻黄緑藻等)、卵菌

ラビリンチュラ類

アルベオラータ 渦鞭毛植物アピコンプレクサ繊毛虫
リザリア 放散虫有孔虫
ハクロビア[注釈 1] ハプト植物太陽虫

第三の理由は葉緑体の起源がわかったことである。真核光合成生物は、シアノバクテリアに類似した原核生物を真核生物が取り込んだことにより誕生した[6]。そしてこのようにして誕生した真核光合成生物をさらに別の真核生物が取り込むことで新たな真核光合成生物も誕生した[6]。二次共生は生物の歴史で何度も起こった事が知られており[6]、これが真核生物の様々なスーパーグループに光合成生物が属している理由である。それに対し、一次共生が起こり二次共生が起こっていない生物群はスーパーグループのアーケプラスチダと一致する事が知られている[6]

したがって何を持って植物と呼ぶべきかという問いに対する一つの答えは「アーケプラスチダに属すること」という事になる。2012年現在提案されている植物の定義の多くは、アーケプラスチダもしくはそこに属する単系統部分群である。

アルベオラータやエクスカパーダに属する生物もかつては色素体を持っていて、それを二次的に失ったという仮説を元に、これらの生物を含めた「超植物界」という概念が提唱されているが[7]、2012年現在主流の説にはなっていない。

そこで以下、アーケプラスチダに焦点をあてて、議論を進める。アーケプラスチダの系統樹は以下のようになる:

アーケプラスチダの系統樹[8]
灰色植物 Glaucophyta
紅色植物 Rhodophyta
緑色植物 Viridi-plantae

クロロフィルbの獲得)

プラシノ藻綱[注釈 2]
緑藻植物 Chlorophyta
緑藻綱  Chlorophyceae
トレボウクシア藻綱  Trebouxiophyceae
アオサ藻綱 Ulvophyceae
ストレプト植物 Streptophyta
(多細胞化)
コレオケーテ類
シャジクモ類 Charophyceae
陸上植物 Embryophyta 
胞子体の獲得)

定義

2012年現在植物の定義として以下のものが提案されている:

アーケプラスチダ
緑色植物、紅色植物灰色植物からなる単系統群。葉緑体膜が2重である。シアノバクテリアを細胞内に共生させた生物を共通祖先とする単系統群であるという仮説に基づき、トーマス・キャバリエ=スミスがこの系統を植物と定義した。単に「広義の植物」と言った場合、これを意味することが多い。ただし、より広義の意味と対比させ、「狭義の植物界」と呼ぶこともある。[9][10]
緑色植物
葉緑体クロロフィル a/b をもつ事で特徴づけられる単系統群で[11]、葉緑体膜が2重である。単に「狭義の植物」と言った場合、これを意味することが多い。
ストレプト植物
多細胞化した緑色植物の単系統群。
陸上植物
コケ植物シダ植物種子植物からなる単系統群。古くは後生植物ともいい、陸上で進化し、高度な多細胞体制を持つ。この群を植物界とする分類はリン・マーギュリスが唱え、マーギュリスにより改訂された五界説と共に広まった。

分類学以外の用語

植物という語には、現代でもアリストテレスが意図したような「動かない生物が植物」という意味合いがあり、植物状態という表現もある。

動物の中にも植物的な性質を認める、植物性器官、植物極などの語がある。

生物学のうち植物を研究対象とする分野を植物学と呼ぶ。これは本来は、分類学的な植物を研究対象とするものではない。具体的には、陸上植物および全ての藻類を対象とする。植物の学名の命名規約は以前は国際植物命名規約であったが、これも正確に訳せば国際「植物学」命名規約で、分類学的な植物ではなく、植物学の対象を指していた。現在は国際藻類・菌類・植物命名規約 となって、「植物学」の語はなくなった。




注釈

  1. ^ 2012年2月時点で、このグループが単系統群であるか否かは分かっていないが[4][5]、本項では伊藤12に従い、ハクロビアを分類群として記述した
  2. ^ この綱は多系統である事が知られている(伊藤12 p10)

出典

  1. ^ 広辞苑第五版
  2. ^ 伊藤12 p7
  3. ^ Adl, Sina M.; Simpson, Alastair G. B.; et al. (2012), “The Revised Classification of Eukaryotes”, J. Eukaryot. Microbiol. 59 (5): 429–493, http://www.paru.cas.cz/docs/documents/93-Adl-JEM-2012.pdf 
  4. ^ Burki, F.; Okamoto, N.; Pombert, J.F. & Keeling, P.J. (2012). “The evolutionary history of haptophytes and cryptophytes: phylogenomic evidence for separate origins”. Proc. Biol. Sci.. doi:10.1098/rspb.2011.2301. 
  5. ^ Zhao, Sen; Burki, Fabien; Bråte, Jon; Keeling, Patrick J.; Klaveness, Dag; Shalchian-Tabrizi, Kamran (2012). “Collodictyon—An Ancient Lineage in the Tree of Eukaryotes”. Molecular Biology and Evolution 29 (6): 1557–68. doi:10.1093/molbev/mss001. PMC: 3351787. PMID 22319147. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3351787/ 2012年3月2日閲覧。. 
  6. ^ a b c d 伊藤12 pp. 6-8
  7. ^ 野崎久義 (2007年6月12日). “植物の出生20億年の秘密を解き明かす “超”植物界 (“Super” Plant Kingdom) の復権”. 東京大学東京大学大学院理学系研究科. 2018年8月1日閲覧。
  8. ^ 伊藤12 p26
  9. ^ 井上勲著『藻類30億年の自然史 第2版』、東海大学出版会、ISBN 978-4-486-01777-6
  10. ^ 渡邉信 ・西村和子等編『微生物の事典』、朝倉書店、ISBN 978-4-254-17136-5 C3545
  11. ^ 伊藤12 p 9.
  12. ^ 岩波『生物学事典』【植物】


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