東北地方太平洋沖地震 余震・誘発地震活動

東北地方太平洋沖地震

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 06:56 UTC 版)

余震・誘発地震活動

余震

余震の多発

余震活動は極めて活発で[153]、本震から1時間足らずの間にM7以上の強い地震が立て続けに3回発生した[154]。このうち、本震30分後の15時15分には茨城県沖を震源とするM7.6の最大余震が発生し、茨城県鉾田市当間で震度6強を観測した[12] [140][155][注 22]。本震の直後、東北大学地震・噴火予知研究観測センターが設置していた地震計の3割が破壊されたり、通信回線が途絶したりするなどしてセンターは余震の観測データを受け取れなくなり、気象庁が発する地震情報や緊急地震速報に支障が生じる事態となった[156]

一連の余震は、岩手県沖から茨城県沖までの幅約200 km、長さ約500kmの範囲を震源としている[6]。3月中にM5以上の余震は479回、震度1以上の余震は3,016回発生した。2021年3月6日までに観測されたものでは、M5以上が990回、M6以上が135回、M7以上が11回、最大震度4以上のものは429回、最大震度1以上のものは14,710回あった[157]。M5以上の余震の回数は日本観測史上最大であった1994年北海道東方沖地震の4 - 5倍の記録的なペースで推移しており[34]2004年スマトラ島沖地震 (Mw9.1) や2010年チリ地震 (Mw8.8) の余震活動と比べても活発である[157]。特に福島県浜通りから茨城県北部にかけては、4月11日の地震を最大として活発な地震活動がみられ、M3以上の地震は2012年8月までに1600回を超えた[158]

また発生数もさることながら、単独で被害をもたらすような大きな余震が時間を経て度々発生するのも本地震の特徴である。本震から1ヶ月近く経過した4月7日には宮城県沖を震源とするM7.2、最大震度6強の余震が発生し4人が死亡した[12][159][160]。また、4月11日には福島県浜通りを震源とするM7.0、最大震度6弱[注 23]の余震(福島県浜通り地震)が発生し4人が死亡した[161][160]。本震から1年経過後も活発な余震活動が続き、2012年3月14日には千葉県東方沖を震源とするM6.1、最大震度5強の余震が発生し1人が死亡した[162]。2012年12月7日には三陸沖を震源とするM7.3、最大震度5弱の余震[163]が発生し最大98 cmの津波を観測し3人が死亡した[164]。2016年11月22日には福島県沖を震源とするM7.4、最大震度5弱の余震が発生し最大1.4mの津波を観測した[165]。2021年2月13日には福島県沖を震源とするM7.3、最大震度6強の余震が発生し1人が死亡した。このほか、2011年7月10日[166]、2013年10月26日[167]、2014年7月12日[168]にもM7以上の余震が発生している。

気象庁は3月13日から4月21日にかけて、M7.0以上の地震が3日以内に発生する「余震の発生確率」を発表、当初は70%と高かったが次第に低下していった[6][169]余震の発生確率を参照のこと)。その後4月28日には、減少がみられることから発生確率の発表を行わなくなり「今後もまれに大きな余震が起こることもある」とした[170]。一方同年4月時点で、東京大学准教授の井出哲は「M7レベルの地震は10回以上は起きる」、当時東京大学地震研究所の大木聖子は「最大余震が1年後に発生することもありうる」、との指摘をしている[171]。また、同年11月18日に気象庁は地震予知連絡会で、同月15日から12月14日までの1か月間に本震域や周辺においては15%の確率でM7以上の余震が発生するとの分析結果を報告した。これは発生したM5以上の余震の傾向から得たもの。また余震は減少傾向にはあるものの3月11日以前の7倍の確率であり、大きな余震への警戒を要するとしている[172]。2016年3月、政府の地震調査委員会の委員長・本蔵義守は、「(本震から5年以上経った今でも)M8を超えるような規模の余震が起きてもおかしくない。」と述べた[173]

余震の広域性

一連の余震は、本震の震源域に当たる岩手県沖から茨城県沖までの幅約200 km・長さ約500 kmの範囲と、そこに隣接する海溝軸の東側(アウターライズ)を震源としている[6][174]。多くは本震と同種の「海溝型地震」(プレート境界地震)であるが、震源域西側の地殻の浅い所では「内陸地殻内地震」(内陸直下型地震:大陸プレート内地震)、震源域西側の地殻の深い所では「スラブ内地震」(深発地震:海洋プレート内地震の一種)、海溝軸東側では「アウターライズ地震」(海洋プレート内地震の一種)も発生している。特に日本海溝東側の海溝外縁隆起帯(アウターライズ)では本震による地殻変動の影響で、余震が発生した場合に後述のようにより規模が大きくなる可能性が高まったことも指摘されている。このほか、次節で述べるように震源域から数百kmも離れた所でM6以上の比較的大きな地震が多数発生しており、巨大地震による地殻変動の影響が考えられることもこの地震で特徴的とされる。

余震の表現を取りやめ

2021年2月16日、気象庁は今後は本地震の震源域で発生した地震を余震と表現しないことを検討していると発表した[175]。同年4月1日、それ以降は余震と表現しないことを決定した[176]。その理由として、本地震前の発生頻度に近づいており、余震域での地震の回数が減少していること、10年以上が経過し本震の影響により発生したかどうかの判断が難しくなったことなどを挙げている[177][178]。また、余震という表現では大地震は起きないという印象を与えかねず、防災意識の低下を防止するためでもあるという[179]。ただし、本地震の余震活動が終わっているわけではなく、震源域での1年あたりの地震活動は本地震発生前よりも多い状況が続いていることから、気象庁は引き続き注意するよう呼びかけている[180]

誘発地震

この地震では震源域から離れたところでも被害地震(下記に其各を詳細記載している遠隔誘発地震。1つは長野県下水内郡栄村で発生。JR飯山線の夜間ラッセルモーターカーが単線である為に行き違いで、震源地間近のJR森宮野原駅へ停車中に発生し、ラッセルモーターカーの進行方向の道床崩落した。軌道は宙吊りとなった為に時刻がずれて、ラッセルモーターカーが通過中であれば大事故に成る処[181]であった。2つ目として、静岡県御殿場市付近でも発生[182]した。)が発生している。これらも大きな視点では、一連の地震活動の中に含まれると考えられており、震源域で発生する余震と区別して「誘発地震」や「広義の余震」[183]と呼ばれている。複数の専門家が、本地震によって東日本を中心に地殻変動や応力の変化が生じ、地震の発生が促進された地域があるとの見解を発表している[184][185]

表面波による動的誘発

神奈川県箱根町の箱根火山地下浅部では、本震の揺れが継続中であった14時49分から50分にかけてM3.8 - 4.2の地震が4回立て続けに発生し、本震の地震動と重なって局地的に最大で震度6弱の揺れを観測したことが、神奈川県温泉地学研究所が独自に設置した地震計の地震波解析で判明した。震源は駒ケ岳大涌谷の深さ2 - 6 km地点、M4規模であったため強い揺れは0.5秒程であった。箱根の断層が本震の影響を受けやすい向きであったために、本震による長周期の地震動(表面波)に誘発されたものとみられている。この地震は箱根に本震の表面波が到達した頃から発生しており、本震の地震波に伴う地盤の動的応力変化によって発生した動的な誘発地震と考えられている[186][187][188]

また、京都大学防災研究所の宮沢理稔が行った、気象庁や研究機関など日本各地約1500箇所の地震計のデータから本震や余震による直接の地震波を取り除く手法による解析では、本震後約15分間に関東から伊豆諸島、四国、九州までの広い範囲で約80 - 100回以上、M5未満の誘発地震が発生していたことが判明した。以前より活動が活発な飛騨や北伊豆で顕著に増加した。さらに誘発地震は本震の震源域から南西方向に秒速3.1 - 3.3 kmで広がっており、これは表面波の伝達速度と一致する。本震のLg波 Rg波などの表面波により起励され、「火山近傍」「プレート境界付近」「近年の規模の大きな地震が発生した余震域」[189]などの地震が起きやすい地域で誘発されたとみられていて、動的誘発作用(ダイナミックトリガリング)によるものと推察されている。動的誘発作用が広がっていく過程が確認されたのは初めてとされる[190][191][192]

本震後の陸側プレート内部での誘発地震

3月12日未明には長野県北部でM6.7、最大震度6強の地震が発生し、引き続いて震度6弱を観測する地震が2回発生するなど長野県北部から新潟県中越地方で活発な地震活動がみられた。さらに15日夜には静岡県東部でM6.4、最大震度6強の地震が発生した。これらの地震は内陸の活断層における地震であり、気象庁は3月12日に「太平洋沖での地震と直接関係はないが、地殻変動などにより誘発された可能性は否定できない」と述べ[193]、今後も震度6弱の余震が連続して起こる可能性があると注意を呼びかけた[6]

この他には、秋田県内陸北部、福島県浜通り、茨城県南部、長野県中部、栃木県北部でも震度5強以上の地震が発生している[174][194]。気象庁精密地震観測室では、6月30日に長野県中部の地震 (M5.4) が発生した震源域付近において、本地震後から震度1以上の有感地震の増加を観測しており、本地震による地殻変動が影響した可能性があるとの見解を示している。震源域の付近に位置し本震後に発生確率が上がったとされた牛伏寺断層との関連については、「震源の状況から別の断層によるものとみられる」との見解を示している[194]。また、福島県会津地方から山形県置賜地方にかけては本震以降に群発地震が発生し、2011年5月7日のM4.6を最大として2011年12月末までに体に感じない微小地震を含め、16000回を越える地震を観測している。

本震後には東日本全体で地殻変動が観測されていることから、これらの地震は東日本内陸部の地殻に加わっていた応力が大きく変化した事が引き金になって発生したものと考えられている[195]。このような地震は特殊な例ではなく、過去の海溝型の大地震後にも余震域周辺および震源域とは離れた場所で、数年間に渡って誘発地震が発生したケースがある[196]

本震後のプレート境界での誘発地震

関東地方南方沖では北アメリカプレートと太平洋プレートに加えてその下にフィリピン海プレートが沈み込んでいて、沈みこんだプレートが地下50 - 100 km程度に位置する茨城県南部は以前より地震が多発している地帯だが、本震後も誘発地震が多数発生した。3月24日 (M4.8) と4月2日 (M5.0) の地震は沈み込んだフィリピン海プレートと上盤側の北アメリカプレートとの境界付近で発生しているが[197]、4月16日 (M5.9) と7月15日 (M5.4) の地震はフィリピン海プレートの下にさらに沈み込んでいる太平洋プレートとのプレート境界付近で発生しており[198][199]、震源となるプレート境界が異なっている。いずれも震源地としては内陸部であるが、プレート境界で発生する海溝型地震に分類されている(詳細は「東北地方太平洋沖地震の前震・本震・余震の記録」を参照)。

その他の地域では本震における未破壊領域となっている、南北に長い日本海溝にある本震の震源域の南端(房総沖および千葉県東方沖)や北端(三陸沖北部、1994年の三陸はるか沖地震の震源域)での波及地震の発生が懸念されている[注 24]。さらに、この他にも同海溝の北隣にある千島海溝十勝沖及び根室半島沖)、北アメリカプレート内の他の境界部(糸魚川静岡構造線および日本海東縁変動帯)での波及地震に注意する必要があるという指摘がある[200]

加えて、産業技術総合研究所の石川有三招聘研究員は関東南部におけるフィリピン海プレートの境界部でも地震活動が活発化していると指摘している[201]南関東直下地震の確率が上昇したとの報道が2011年9月以降にされているほか、調査により関東地方地下のフィリピン海プレートの深さが従来の想定よりも浅い所にあることが判明したことを受けて2012年3月には同地震の見直した震度推定が公表される[202]など、関東地方でも被害地震の発生が懸念されている。

東北太平洋沖で早ければ2011年4 - 5月中にも再びM8級の巨大地震が発生する可能性が高いと見る専門家もおり、これが4月に報道されていた[203]。当時京都大学防災研究所准教授の遠田晋次は、M8級の誘発地震が発生した場合、仙台市に10 mの津波が襲来すると計算している[203]。文部科学省の地震調査委員会(地震調査研究推進本部)は、「三陸沖から房総沖の海溝寄り」の領域で発生すると予測されていた津波地震の想定Mt(津波マグニチュード)を従来の8.2前後から8.6 - 9.0前後に更新し、誘発される可能性があると発表した[204][205]。また、同じくM9規模の超巨大地震である2004年のスマトラ島沖地震のように、数年かけて周辺で大地震が続発する可能性があるという指摘[206]もなされている。

スロースリップ現象の誘発

千葉県房総半島沖では、明瞭な振動を伴わないスロースリップが誘発され、従来は平均6年間隔で発生していたが前回の発生から4年目で発生した[207](「千葉県東方沖地震 (1987年)#千葉県東方沖のスロースリップ現象」も参照)。この活動の総放出エネルギー量は、モーメントマグニチュードMw6.5と推定されている[208]







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