木更津市
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/07 22:31 UTC 版)
経済
経済状況
木更津市の経済状況は、戦後の高度成長と共に成長し、物流拠点として最盛期には37万人の商圏人口を持つ商業都市として形成されていく。日本国内で1990年代初頭に起きたバブル崩壊[17]により好況から不況へと暗転するが、東京湾アクアラインを中心とした都市計画により、人口の増加や市郊外に大型商業施設が開業するなどの要因から経済状況は回復し、公示地価の上昇や木更津商圏の拡大により商業都市としての地位を取り戻しつつある。
経済推移
戦中 - 高度成長期
太平洋戦争中は軍関連の施設が存在したこともあり、その施設関係者と工員が移住したことによって人口が増加し、木更津は軍都として発展する。戦後の高度経済成長期には千葉県の内房地域が京葉工業地帯として発展する経緯の中、市の臨海部では埋立が行われ木更津港が工業港として整備され、隣の君津市には八幡製鐵(現日本製鉄)の 君津製鐵所が誘致される。君津市と接する波岡地区を中心に宅地整備が行われ、製鉄所関係者およびその家族が移住し人口が著しく増加する。人口増加を契機に経済活動が活発になり、木更津駅前には大手販売店であるそごうやダイエー、西友などが進出し、木更津市を中心とする木更津商圏が形成され、県南地域の商業都市として発展する。
安定成長期
1980年代に入ると、千葉県として千葉新産業三角構想が策定され、木更津市はかずさアカデミアパーク構想の母都市(他に君津市、袖ケ浦市、富津市を含む)に位置付けられる。この構想により鎌足地区の丘陵地帯は研究開発拠点の整備が行われ、民間を中心とする研究機関の誘致活動を開始する。また、国の政策として首都圏の大都市問題緩和を目的とする木更津業務核都市構想が計画される。歴史的経緯において、明治維新期に木更津県県庁が存在した事、県南部の経済の中心として認識されている事、かずさアカデミアパーク構想によって、木更津市は業務核都市として整備が行われる。
業務核都市構想の一環には東京湾横断道路(現・東京湾アクアライン)建設が計画に含まれる。東京湾横断道路建設にあたり、当初の事業計画では対岸の川崎市や横浜市、東京など京浜地区との交通の便が良くなる事で人の交流や物流が頻繁となって経済活動に好影響を与えると予想され、住宅購入者の増加や企業進出の増加などが見込まれていた。
バブル崩壊
1997年に東京湾アクアラインが開通。当初アクアラインの交通量は2万5千台/日と予想していたが、実際に開通した結果は1万台/日と予想を大きく下回る。期待されていたかずさアカデミアパークや宅地造成地の計画や東京のベッドタウンとしての需要がほとんど発生せず、むしろストロー効果が生じ流出面が顕著になった。商圏人口が37万人から12万人に減少、商圏の吸引力低下により商業中心都市から準商業中心都市に格下げられる。結果、木更津市は対岸の京浜地区と県南部の通過点となってしまう。
バブル崩壊による国内の景気低迷の影響により、東京湾横断道路完成を見越して上昇傾向にあった駅前商店街の地価は、1991年のピークを境に著しく下落。1999年から2003年にかけて東京圏における地価下落率の1位となる。また商業地域への影響は大きく、駅前からそごうやダイエー、西友等の大型店舗が相次いで撤退した事で、集客力を失った駅前商店街では閉店する店舗が続出する[注 6]。
そごう撤退後のアインスビル(現・スパークルシティ木更津)には、8階の空フロアに市民の企業活動支援を目的としたチャレンジセンター「Let's木更津」や、情報通信環境を備えた共同利用型のテレワークセンターを開設し地域活性化に向けた活動が行われ、2004年4月に「アクア木更津」という新名称で再オープンした。しかし、2009年にビルの運営・管理を行っていた日本総合企画が倒産したため、翌2010年に市はビルを有限会社金剛山に売却し、2015年9月に「スパークルシティ木更津」としてリニューアルオープンさせた。また、既存市街地の商業施設活性化を目的として、2018年からは電子地域通貨のアクアコインが導入されている[18]
東京湾アクアライン値下げ経済効果
2009年(平成21年)4月に千葉県知事に就任した森田健作の選挙公約に基づき、同年8月1日から千葉県側の負担をもとにETCによる通行料を普通車800円にする社会実験が開始された。千葉県商工労働部観光課が調査している『観光客の入込動向調査の報告(平成22年観光客の入込動向について)』によれば「平成22年(2010年)と実験開始前の平成20年(2008年)の観光入込客数を比較すると安房地域で+9.7 %(+1,078人)、君津地域で+18.1 %(+2,426人)増加した」と報告されており、アクアラインの値下げ効果があったという見解が示されている。2010年7月の「第57回九都県市首脳会議」および2010年6月の「平成22年度定例第一回(春)関東地方知事会議」それぞれの合意に基づき、内閣府、財務省、国土交通省に対して『東京湾アクアラインの料金に関する要望』が提出された。要望書では「実験開始以降のアクアライン交通量が1.5 - 2.0倍の増加が見られ、首都圏の人・物の動きが活発化し、経済活性化などの効果が出始めている。そのため、首都圏の高速道路の料金体制の見直し、特に2011年(平成23年)以降も国策としてアクアラインの料金引き下げを継続すること」を挙げている。
1998年(平成10年)千葉県およびUR都市機構による「金田地区土地区画整理事業(かずさアクアシティ)」が事業認可され、アクアライン着岸地である市北部の金田地区に、高速バスターミナル、商業、業務、流通、文化及びレジャーなどの施設や、多様なライフスタイルに対応した住宅地が調和した多機能複合型の都市として造成が進められた。2012年(平成24年)4月に大型ショッピングモールの三井アウトレットパーク 木更津が開業したのを皮切りに、ベイシア(2012年7月)、カインズホーム(2012年12月)、東京インテリア家具(2013年2月)、コストコ(2020年7月)と順次開業していった。
三井アウトレットパーク木更津は段階的に面積拡大と店舗数増加が行われ、2025年夏の第4期開発完成後には日本最大のアウトレットになる見通しである。また、コストコは2022年に日本法人の本社機能を木更津市に移転している。
また、市南西部の築地地区では2014年(平成26年)10月にはイオンモール木更津が開業し、市の商業中心地はJR木更津駅周辺から、東京湾アクアラインや館山自動車道へと接続する道路沿いのロードサイド型店舗へと変化している。
木更津商圏の拡大
相次ぐ大型商業施設やニュータウンの整備が行われ、バブル崩壊によって減少した地価は一気に上昇し、2013年(平成25年)から2018年(平成30年)の5年間で15.4 %の上昇を記録する[19]。人口流入、地価上昇が好調な地域となり、今後も更なる開発が進む。
2012年頃(平成24年)の木更津商圏は準商業中心都市であったが、2018年(平成30年)には商圏が拡大したことにより商業中心都市に格上げされ、バブル崩壊前の経済状況へと戻りつつある[1]。
産業
産業別就業者数の総数は60,940人であり、全体の比率の中では第3次産業が7割近くを占めている。また、分類別で就業者数上位5位を挙げると卸売業・小売業 9,139人(15.0 %)、製造業 8,324人(13.7 %)、建設業 6,310人(10.4 %)、医療・福祉 5,481人(9.0 %)、運輸・郵便 4,661人(7.6 %)の順に多い[20]。
市内の産業別事業社数上位5位は卸売・小売業 1,386所(25.8 %)、宿泊・飲食サービス業 842所(15.7 %)、建設業 674所(12.6 %)、生活関連サービス・娯楽業 538所(10.0 %)、医療・福祉業 294所(5.5 %)である[21]。
- 産業別従事者数(平成22年10月1日現在[22])
- 事業所数(個人、会社総数)(平成21年7月1日現在[23])
農業
木更津市の農業は稲作が中心であり、小櫃川流域を中心に水田が広がっている。一部では野菜や施設園芸といった都市近郊型農業に従事している農家も見られる。現在の農業情勢としては減少傾向にあり、消費者ニーズに対応した農業経営への転換、従事者の高齢化、後継者問題などの諸問題を抱えている状況である。
組合
- 農家数・耕地面積(平成22年2月1日現在[24])
- 農家数 1,669戸(農家人口 4,660人)
- 経営耕地面積 1,561 ha
- 田 1,292 ha
- 普通畑 213 ha
- 果樹園 56 ha
- 総農家戸数 推移(各年2月1日時点[25])
昭和60
平成7
平成12
平成17
平成22
水産業
東京湾内の海岸線が埋め立てられ工業地化する中、木更津市の海岸線では遠浅の砂泥干潟が形成されていることから、浅海漁場として海苔養殖や貝類養殖が行われている。市の水産業の状況として、水産資源の減少や漁業者の高齢化や後継者不足に伴い、年々減少傾向がみられる。
市の主要漁業生産物は海苔とあさりである。2007年(平成19年)、東京湾ではあさりの外敵生物(主にカイヤドリウミグモ)が大量発生したため漁獲量が激減し、平成19年以前は1,000 t以上であったのが、平成20年以降は500 t未満に落ち込んでいる。海苔の養殖はあさりほどではないが、漁業環境の変化と海苔の養殖業者の減少により生産数は減少に推移している。
- あさり・乾燥海苔生産状況(平成25年度[26])
- 乾燥海苔
- 共販枚数 26,561千枚
- 金額 254,955千円
- あさり
- 水揚げ量 142.9 t
- 金額 37,981千円
- 漁港
- 金田漁港(第一種漁港)
- 牛込漁港(第一種漁港)
工業
木更津市は京葉工業地帯[注 7]に含まれており、木更津港は重点港湾(重要港湾)に指定され工業港として発展する。隣接する君津市に日本製鉄の製鉄所が立地する関係で、市内には関連の企業が立地する。鎌足地区をかずさアカデミアパークとして研究開発型企業の誘致を進めている。
工業(製造業)統計(平成24年2月1日現在[27])
- 事業所数 84所(従業者数 3,448人)
- 製造品出荷額等 3,682億円
商業
商業統計(平成24年2月1日現在[28])
- 商店数 1,258件(従事者数 10,004人)
- 卸売業 店数 305件
- 小売業 店数 953件
- 年間総販売額 2,490億円
本社・本店を構える企業
- プライム (芸能プロダクション)
- かずさエフエム(コミュニティFM、83.40 MHz)
- 日東交通
- かずさ交通
- 君津信用組合
- 共栄運輸
- 共栄海運
- 房州物流
- 袖ヶ浦自動車教習所
- JID INVESTMENTS株式会社
- ソングバード (SONGBIRD)(地ビール)
- 綱島園(日本茶)
- 株式会社 一幸(寿司・創作料理)
- びびなび(地域情報ウェブサイト)
- 房総ファミリア(タウン情報誌)
- コストコホールセールジャパン[29]
- ローヴァーズ株式会社(房総ローヴァーズ木更津FC)
その他主な企業
- 製造業
- かずさDNA研究所
- 黒崎播磨:木更津不定形工場
- 日鉄ケミカル&マテリアル:木更津管理室、木更津総合研究所
- ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ:木更津サイト(事業所)
- トーヨーカネツ:千葉事業所
- ポルシェ:エクスペリエンスセンター東京
- 八天堂:八天堂きさらづ(菓子製造業)
|
金融機関
|
-
上総銀行の本店跡
-
千葉興業銀行木更津支店
-
千葉信用金庫木更津支店
神奈川県:川崎市 | 袖ケ浦市 | |||
(東京湾) | 市原市 | |||
木更津市 | ||||
君津市 |
注釈
- ^ 距離情報はGoogle Earth(Ver4.0.1565)のルーラー機能を用いて概算を求める
- ^ 旧上総国の台地の部分をテーマにする場合、共通の要素があまり無いので一括りにした呼び方ではなく、市原台地、袖ヶ浦台地、木更津台地のように個々の呼び方をする(参考:産総研-丸茂研究室-土壌・地質汚染評価基本図~5万分の1姉崎)。
- ^ ピーク時には工員数が17,000人に達する。
- ^ 源頼朝が安房に逃れてから鎌倉に至るまでの経路は定かとされておらず、木更津を通過したか否かは推測の域を出ない。
- ^ 文献に見られる頼朝の経路として、『吾妻鏡』によれば安房勝山から鴨川に出て、長狭街道を西に花立峠(木之根峠)を越えて上総国入りしたとされ、この経路を辿れば富津市に出ることになる(『木更津市史』頁1056より)『義経記』では富津市の地名の後「きさうとの浜(木更津と思われる)」「開発(貝淵と思われる)」と木更津市と関連するだろうと思しき地名が記述されている(『角川日本地名大辞典 12千葉県』頁1014より)
- ^ 平成6年次が商店数1,721件に対し、平成16年次には1,435件に減少それに伴い年間販売額も減少の傾向が見られる(『市政の概要平成18年度版』頁114より)
- ^ 木更津市は工業都市の性質よりも商業都市としての性質の方が高い。工業地域に含まれる他の近隣市町村では工場群立地による税収が見込まれ、財政力指数が地方交付税不交付団体の条件である1.00を越えているのに対し、木更津市は0.81である。
- ^ 個別記事が作成されているもの
- ^ 市の大字の中から『難読・異読辞典』を参考に抜粋
- ^ 羽田空港再拡張に伴い、飛行ルートの再検討が行われている(国土交通省提示『羽田再拡張後の飛行ルート案』 [1])
出典
- ^ a b 千葉県. “平成30年度消費者購買動向調査(千葉県の商圏)”. 千葉県. 2019年5月31日閲覧。
- ^ 『木更津市史』頁10「第一節地理」より
- ^ 『角川日本地名大辞典 12千葉県』頁1013「立地」より
- ^ 市域の延長は木更津市公式ホームページ「市のプロフィール」より
- ^ “木更津 過去の気象データ検索”. 気象庁. 2024年2月13日閲覧。
- ^ “合併のひみつ(後編)”. 君津市公式ホームページ (2021年10月30日). 2022年6月15日閲覧。
- ^ 木更津市 市政情報『国際会議』より
- ^ 8時間燃える 木更津で山火事『朝日新聞』1974年(昭和49年)1月21日朝刊、13版、19面
- ^ 木更津市 『おしらせ』より
- ^ きさポンの公式サイト
- ^ 市制施行70周年(平成24年)
- ^ “9月24日(木曜日)より市役所庁舎が移転しました”. 木更津市. 2015年11月10日閲覧。
- ^ 『木更津市史』頁1056 「木更津における源頼朝伝説」より
- ^ 『木更津市統計書 2016年度版』頁7「7.人口と世帯の推移」よりグラフ化
- ^ 木更津市 「市政情報」の『業務核都市』より
- ^ a b 木更津市 『木更津市 財政事情(各年11月告示分)』より
- ^ 『Newsweek 日本版 2002年11月6日版』のSpecial Report(頁22-25)において「バブルと銀行破綻の傷跡に苦しむ木更津市は日本経済の未来の縮図」と表現して紹介されている
- ^ 木更津市地域再生計画 (PDF) - 内閣府地方創生推進事務局(2019年の第51回地域再生計画認定を受けた「電子地域通貨『アクアコイン』 普及推進プロジェクト ~官民連携×地域一体による普及率向上へのチャレンジ~」の説明資料)
- ^ albert (2019年2月20日). “木更津市の土地価格|上昇・下落した理由|今後の見通し”. イエ&ライフ. 2019年5月22日閲覧。
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁12より抽出
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁37より、平成21年度の情報から算出
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁12、"12.産業(大分類)年齢別就業者数"より
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁37、"46.事業所の推移"より
- ^ 木更津市『木更津市統計書(2014年版)』頁24、"23.経営耕地の種類別農家数及び面積"より
- ^ 木更津市『木更津市統計書(2014年版)』頁23、"21.農家の推移"より
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁36、"44.年度別海苔養殖状況"、"45.年度別アサリ生産状況"による
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁44-45 "52.工業の産業(中分類)別概況(4人以上の事業所)"より
- ^ 木更津市『木更津市統計書 2014年版』頁46、"53.商業の推移"より
- ^ “コストコホールセールジャパン株式会社の情報”. 国税庁法人番号公表サイト (2022年8月30日). 2022年9月2日閲覧。
- ^ 千葉県『千葉県市町村別大規模小売店舗名簿(平成27年12月末)』より。大規模小売店舗立地法で、大規模小売店に該当する店舗をアイウエオ順に並べたもの
- ^ 千葉県総務部市町村課ホームページ「市町村合併支援室」より
- ^ a b 千葉県. “千葉県保健医療計画(平成30年度~平成35年度)”. 千葉県. 2019年6月14日閲覧。
- ^ 千葉県. “災害拠点病院の指定について”. 千葉県. 2019年6月14日閲覧。
- ^ “クルーズ・オブ・ザ・イヤー2018 国土交通大臣賞決定” (pdf). 国土交通省. 2020年9月24日閲覧。
- ^ “千葉)木更津港にクルーズ船入港 和太鼓・吹奏楽で歓迎”. 朝日新聞デジタル. 2019年2月27日閲覧。
- ^ 千葉県. “木更津市の国・県指定および国登録文化財”. 千葉県. 2019年6月21日閲覧。
- ^ タレントキャスティング>大坪奈津子 - ホリプロ公式サイト。2024年5月17日閲覧。
- ^ “博物館資料のなかの『富士山』: 山梨県立博物館 -Yamanashi Prefectural Museum-”. www.museum.pref.yamanashi.jp. 2020年12月24日閲覧。
- ^ “ヤツルギが木更津ご当地ヒーローに認定!”. 『鳳神ヤツルギ』公式サイト (2011年4月1日). 2011年4月4日閲覧。
固有名詞の分類
- 木更津市のページへのリンク