有明海 沿岸の産業

有明海

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/28 06:23 UTC 版)

沿岸の産業

潮が引いた干潟では、桶を乗せた押し板(ガタスキー)を漕ぐ伝統的な方法でハゼ類・カニ・貝などを採る。
押し板(ガタスキー)・押し桶。これら「有明海漁撈用具」は重要有形民俗文化財、「有明海漁撈習俗」は重要無形民俗文化財に指定されている。
有明海に注ぐ筑後川下流の新田漁港(福岡県大川市

有明海は干満差が大きく、湾奥には広大な平野が広がる。沿岸の低標高の干拓地においては、高潮に備えた防潮堤が各地に設置されている。それでも台風で潮位が上がった時には海水が堤防を越えて干拓地に流れ込むことがあった。干拓造成時にもこのような海水の流入があったため、干拓には長い時間と労力がかかり、塩分を含む土地の改良にも苦労があった。

また、逆流防止のため多くの中小河川は水門を設置しているが、大河川では水門を設置できないため、有明海の干潮・満潮に合わせて川面が大きく上下し、満潮前には大規模な逆流も発生する。この干満差を利用して、満潮時に船を出し、引き潮の流れに乗って沖へ出て、帰りは満ち潮に乗って海岸に戻るという航法が、古くから伝えられている。

港湾

遠浅で干満差が大きいことから大型船用の港湾整備には工夫を要すため、三池港は日本では珍しい閘門式、熊本港は沖合の人工島形式を採用している。

このほか漁港が30か所ほどある。有明海北部では、接続する河川下流の川岸に漁港が発達している。

主な航路

有明海苔

有明海で生産される海苔は日本全体の約4割を占める。主な用途は贈答用となっている[16]。海苔産業は、太平洋戦争後の高度経済成長そして贈答品市場の歴史と重なる。工場用地確保のために、浅草海苔などの海苔の名産地が埋め立てられていく中で、質が良く、機械化等により生産体制を整えた有明海苔は主に贈答品市場でシェアを伸ばしていった[17]。海苔産業は、生産量を増やすための設備投資のコストが増える一方で、流通サイドからは価格競争力を理由に買い取り価格を上げてもらえなかったという問題点を抱えている[17]

海苔養殖面積の増加とともに、色付けをよくするための酸の大量ばらまきが有明海の環境破壊を招いている(後述)。

2000年代に入ると、赤潮などにより海苔の不作が続くようになる。不作の要因の一つとして、諫早湾干拓事業を挙げる意見もある[17]。2022年の不作は少雨による河川からの栄養塩の流入不足が原因という推計もあり、佐賀県有明海漁業協同組合は、栄養塩不足対策としては肥料を、赤潮対策としては原因となる植物プランクトンを餌とするカキをそれぞれ有明海に投入する対策を試みている[18]

小長井カキ

諫早市小長井町ではカキの養殖が行われているが、フジツボなどの付着生物による被害、不作が続いている。


  1. ^ a b c d e f g h 環境省「閉鎖性海域ネット」59.有明海 および 島原湾(2023年2月9日閲覧)
  2. ^ a b c d 福岡博. “有明海の歴史と文化 -日本の文化はここから始まった-”. 特定非営利活動法人有明海再生機構. 2021年8月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e 3.有明海及び諫早湾の概要”. 農林水産省. 2021年8月14日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 日本歴史地名大系 41 福岡県の地名』平凡社、2004年、65頁。 
  5. ^ a b 小田巻実、大庭幸広、柴田宣昭. “有明海の潮流新旧比較観測結果について”. 海上保安庁海洋情報部. 2021年8月16日閲覧。
  6. ^ a b 第2章 有明海・八代海干潟等沿岸海域の現状と変遷・課題[リンク切れ] 熊本県「有明海・八代海再生に向けた熊本県計画」2007年5月9日
  7. ^ 先史時代の鯨・捕鯨図など”. 2015年10月2日閲覧。
  8. ^ 志佐 喜栄: “多久物語 六角川の迷い鯨”. 佐賀新聞 LIVE、多久市郷土資料館. 2017年11月3日閲覧。
  9. ^ 山田 格: “熊本県天草市でセミクジラ迷入”. 国立科学博物館 - 海棲哺乳類情報データベース. 2015年10月2日閲覧。
  10. ^ 有明海の2カ所の干潟が「ラムサール条約」登録湿地にWWFジャパン(2015年6月24日)2022年6月6日閲覧
  11. ^ 西尾[1985:11]
  12. ^ 西尾[1985:11-12]
  13. ^ a b c 佐賀県 嘉瀬川農業水利事業 農民によって造られた平野”. 水土の礎. 農業農村整備情報総合センター. 2014年5月30日閲覧。
  14. ^ 1は約0.99ヘクタール
  15. ^ 諫早湾干拓事業「有明海と諫早湾の干拓の歴史」農林水産省九州農政局
  16. ^ 「海苔不漁―有明海以外も」『毎日新聞』2001年5月22日
  17. ^ a b c 有明の海・ノリの現場「かさむ機械費」朝日新聞(2001年12月19日配信)
  18. ^ 有明ノリ 異例の不作:季節外れの赤潮■少雨で栄養塩不足/肥料やカキ投入 試行錯誤」『朝日新聞』朝刊2023年2月9日(経済面)同日閲覧
  19. ^ a b c d e 有明海で続々「奇形魚」『読売ウイークリー』2008年4月6日号
  20. ^ 「ノリ養殖の酸処理剤で海が死ぬ」有明海漁業者らが国提訴 産経ニュース(2015年3月6日)2016年12月9日閲覧






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