最低賃金 代替案

最低賃金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/12 19:08 UTC 版)

代替案

いくらかの経済学者は最低賃金に代わる制度を提案している。大竹文雄は「賃金規制という強硬手段で失業という歪みをもたらすのではなく、税・社会保障を用いた所得再配分政策で貧困問題には対応するべきである」と指摘している[76]

また、川口大司によれば、貧困対策の選択肢として給付付き税額控除である勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)を提案しており、生活保護と比べて、就労意欲を促し、低賃金労働者の就業率を向上させる利点があるとしている。一方で、制度設計を慎重に行わないと、企業の賃上げが行わなくなり、却って労働者の賃金を下げてしまう恐れがあること、そして対象を限定してしまうと、対象外の労働者の就労意欲が無くなってしまう欠点があることを指摘している[77]

『法と立法と自由』を著したフリードリヒ・ハイエクのように労働市場への不介入の原則と法の支配による個人の生存権の保護を両立させるために『ベーシックインカム』を主唱する経済学者もいる[78]

各国の状況

OECD各国の実質最低賃金(時給,PPPUSD)

以下は、各国の法定最低賃金及びその推移である。なおデフレーションなど、物価変動の調整は行われていない。

欧米

  •  ルクセンブルク - 月2,570.93ユーロ※18歳以上(18歳以上の熟練工等、一部の労働者は、20%加算され3,085.11ユーロ)[2024年1月現在][79]
  •  アイルランド - 時給12.70ユーロ(2024年1月現在) ※20歳以上(2018年雇用雑則法より簡素化され、勤続年数や研修中か関係なく年齢のみとなった。20歳未満は減額適用され、19歳は最低賃金額の90%、18歳は80%、18歳未満は70%となっている。)[80]
  •  オランダ - 時給13.27ユーロ(2024年1月現在)※21歳以上(見習いは除く)[38]
  •  ベルギー - 月2,000.93ユーロ(2023年11月現在)※18歳以上。ただし、18歳未満と交互職業訓練からの利益を受けない職務経験の無い18歳以上20歳以下の研修生は若年者減額適用を受ける。また、勤続月数による加算制度があり、勤続12ヵ月以上24ヵ月未満は20歳以上の労働者が、勤続24ヵ月以上は22歳以上の労働者が加算される。20歳以上で勤続12カ月で2,014.35ユーロ。22歳以上で勤続24カ月で月2,033.22 ユーロ、勤続36カ月で月2,039.30ユーロ[81][82]ただし、公共部門の雇用者、見習労働者、訓練生は除く。
  •  フランス - 月1,766.92ユーロ、時給11.65ユーロ(2024年1月現在)[83][84][85][86]
  •  ドイツ -時給12.41ユーロ(2024年1月~2024年12月)、2025年1月1日以降は12.82ユーロ[87][88]
  •  スペイン -日給37.8ユーロ、月1,134ユーロ、年1万5,876ユーロ(賞与2カ月を足した14カ月分)(2024年1月~2024年12月)[89]
  •  チェコ -月1万8,900コルナ(指示により厳密に範囲が規定された単純作業[例:掃除人、配達人、器具の単純な組立工など]。仕事内容によって、最低賃金額が異なり、単純作業以外に7つのカテゴリーで分けられており、最低月給は1万8,900~3万7,800コルナである。)(2024年1月現在)[90][91]
  •  ハンガリー -月26万6,800フォリント(高卒以上で資格を持つ熟練労働者は18歳以上の熟練労働者は、32万6,000フォリント)[2023年12月現在][92]
  •  トルコ-月給17,002.12リラ社会保険料所得税控除後の手取り額) [2024年1月現在][93][94]

オセアニア

アジア

  •  大韓民国 -全国一律時給9,860ウォン(2024年1月現在)[100][101]
  •  中華人民共和国の場合は地域により、最低賃金が異なる。(最高:上海[月額2,690元]~最低:新疆ウイグル自治区3類と吉林省3類[月額1,540元]、2024年7月1日時点)[102]
  •  香港- 時給40.0香港ドル(2023年5月-2025年4月) [108][109][110][111]
    また、外国人家政婦の場合は、月給4,870香港ドル(ただし最低月給とは別に、食費手当も1,236香港ドル支給する義務がある。)(2023年9月30日現在)[112]
  •  中華民国 - 時給183ニュー台湾ドル、月27,470ニュー台湾ドル(2024年1月1日現在)[113][114]
  •  モンゴル - 月55万トゥグルク(2023年1月1日現在)[115]
  •  朝鮮民主主義人民共和国 - アメリカ国務省の2021年国別人権報告書[116]によれば、最低賃金制度はない。ただし、開城工業地区では定められていた。
  •  インドの場合は、複雑な最低賃金システムを用いており、2014年末時点で、中央政府は45職種、州政府は延べ1,822職種について最低賃金を定め、随時改定していた[118]。その後、2019年8月に1948年最低賃金法・1936年賃金支払法・1965年賞与支払法・1976年均等報酬法の4つの法律を統合し再編して成立した2019年賃金法典[119]より今まで中央政府及び州政府にも定められなかった業種も含め全ての業種が対象となり、最低でも5年に1度は必ず改定することと中央政府が定めた最低賃金基準(floor wage)を下回ってはならないと定められている。
    しかし、インド憲法の定めにより労働分野に関する法制度は中央連邦政府と州政府の共同管轄になっており、連邦法の改正を施行するためには各州が施行規則を発行する必要があるが、一部の州ではその発効がなされていないこと、そして労働組合による大規模なストライキにより経済に悪影響が出るのを恐れ慎重になり労働組合とインド労働雇用省による協議が滞っているため、一部条文が即時施行された以外は、ほとんどの主要規定が2024年5月時点でまだ施行されていない。また、モディ政権は2025年4月1日施行を目指している[120][121]
    • 全国最低賃金水準(National Floor Level Minimum Wage) - 日額178ルピー(2019年7月現在)[122]
    • 中央政府(未熟練農業労働者) - A地区:日額497ルピー B地区:日額454ルピー C地区:日額449ルピー(2024年4月時点)[123]
    • デリー(未熟練労働者) - 月収17,234.00ルピー(日額673ルピー)(2023年10月時点)[123]
    • ウッタル・プラデーシュ州(未熟練労働者) - 月収10,648ルピー(2024年4月~2024年9月)[123]
    • マハーラーシュトラ州 (ホテル・レストランで働く未熟練労働者) - Ⅰ地区:月収13,528ルピー、Ⅱ地区:月収13,228ルピー、Ⅲ地区:月収13,028ルピー(2024年1月~同年6月)[123]
    • ビハール州(未熟練農業労働者) - 日額390ルピー(ただし、トラクターなどの収穫作業をした場合を除く。)(2024年4月現在)[123]
    • チャッティースガル州(未熟練労働者) - A地区:日額419.23ルピー B地区:日額409.23ルピー C地区:日額399.23ルピー(ただし、農業は、地区問わず日額294.00ルピー)(2024年4月~同年9月)[123]
    • ナガランド州 (未熟練労働者)- 日額176ルピー(ただし、荷物の積み込みと積み下ろし作業は重量による出来高制であり、トラックの積み込みは、木材の大きさによる。)(2019年6月現在)[123]
    • ハリヤーナー州 (未熟練労働者)-日額420.16ルピー(2024年1月現在)[123]
  •  シンガポール 一部の業界や職種に適用されている。それぞれの最低月給は以下のとおりである[124]
  •  タイ
  •  ベトナム
    • ホーチミン - 月496万ドン(時間額2万3,800ドン)(2024年7月現在)[129][130][2022年6月まで職業訓練を受けた労働者に対してはこの最低賃金より少なくとも7%上乗せした給与[131]。2022年7月以降は、上乗せの規定はなかったが、労働者の同意がない限り、引き下げることは出来ない[132]。]
  •  フィリピン
  •  インドネシア
  •  ミャンマー - 日給5,800チャット(2023年10月5日現在)[136]
  •  マレーシア - 月1,500リンギ(2023年1月現在)最低賃金額は、基本給のみであり、その他の手当は含まれていない[137][138]
  •  カンボジア - 月額204ドル(2か月の試用期間中は202ドル)[2024年1月現在] 対象は縫製製靴業に従事する労働者のみであるが、慣習により他分野の製造業はこの最低値賃金額に基づいて適用されている[139][140][141]。また、最低賃金に加えて10ドルの皆勤手当、7ドルの居住・通勤手当、その他の福利厚生については引き続き受け取ることができる[142]
    2021年から出来高制の給与体系の企業では労働職業訓練省が出した省令の限りではないが、支払金額が最低賃金を下回らないことと明記された[143]
  •  ラオス - 月額160万キープ(2023年10月現在。2023年8月16日時点のアメリカドル換算で、約82.10ドル)[144]。なお、時給換算で約7,629キープであると同時に未経験労働者の基本給がベースである。また食事宿泊送迎などの手当時間外勤務は含まれていない[145]
  •  バングラデシュ - 月額1万2,500タカ(2023年12月現在)。対象は縫製業に従事する労働者のみで、熟練度に応じて4区分で分けられ、最高はグレード1の15,035タカ。なお、輸出加工区内(EPZ)で働いている場合は別途グレード別の賃金が定められている[146]

各国間の格差

EUでも加盟国間における最低水準の格差が指摘されている。

EU加盟国

GDPの場合

2006年1月時点:約11.7倍(最高: ルクセンブルク[月額1,503ユーロ] 最低: ラトビア[月額129ユーロ])[147]

2009年1月時点:約13.3倍(最高: ルクセンブルク[月額1,642ユーロ] 最低: ブルガリア[月額123ユーロ])[148]

2020年2月時点:約6.9倍(最高: ルクセンブルク[月額2,141.99ユーロ] 最低: ブルガリア[月額311.89ユーロ])[149]

2024年1月時点:約5.4倍(最高: ルクセンブルク[月額2,570.93ユーロ] 最低: ブルガリア[月額477.04ユーロ])[149]

購買力平価で換算した場合

2006年1月時点:約5.9倍(最高: ルクセンブルク[月額1,417ユーロ] 最低: ラトビア[月額240ユーロ])[147]

2009年1月時点:約5.9倍(最高: ルクセンブルク[月額1,413ユーロ] 最低: ブルガリア[月額240ユーロ])[148]

2020年1月時点:約2.9倍(最高: ルクセンブルク[月給1,562.37ユーロ] 最低: ラトビア[月給538.35ユーロ])[150]

2024年1月時点:約2.3倍(最高: ルクセンブルク[月給1,638.41ユーロ] 最低: ブルガリア[月給713.59ユーロ])[151]

フルタイム労働者賃金に対する法定最低賃金の比率(EU)[151]

中央賃金の場合(2022年時点) 最高: ポルトガル(0.663) 最低: ラトビア(0.389)

平均賃金の場合(2022年時点) 最高: スロベニア(0.516) 最低: ラトビア(0.319)

OECD加盟国

OECD加盟国間内の実質最低賃金格差(ドル換算)[1] GDP(2022年実質為替レート)の場合

2000年:約22.4倍(最高: オーストラリア[時給12.85ドル] 最低: メキシコ[時給0.57ドル])

2010年:約23.3倍(最高: オーストラリア[時給13.47ドル] 最低: メキシコ[時給0.58ドル])

2020年:約17.1倍(最高: オーストラリア[時給14.96ドル] 最低: メキシコ[時給0.87ドル])

2022年:約13.5倍(最高: オーストラリア[時給14.47ドル] 最低: メキシコ[時給1.07ドル])


購買力平価(2022年基準)で換算した場合

2000年:約12.6倍(最高: ベルギー[時給12.52ドル] 最低: メキシコ[時給0.99ドル])

2010年:約13.4倍(最高: フランス[時給13.31ドル] 最低: メキシコ[時給0.99ドル])

2020年:約9.4倍(最高: オーストラリア[時給14.07ドル] 最低: メキシコ[時給1.50ドル])

2022年:約7.5倍(最高: フランス[時給13.82ドル] 最低: メキシコ[時給1.84ドル])

※メキシコの最低賃金(一般向け)は、2024年1月時点で日給248.93ペソ(14.46ドル)、北部国境地域は日給374.89ペソ(21.77ドル)である[152]。2022年は、日給172.87ペソ、北部国境地域は日給260.34ペソであり、2024年は2022年に比べてどちらも約1.44倍である[153]。なお、2022年が2010年に比べて格差が縮まった理由は、メキシコ大統領2018年12月1日AMLO大統領へと政権交代したことで、全国最賃評議会(CONASAMI)会長を27年間務めた守旧派のバシリオ・ゴンサレスが大統領就任して13日後に解任されたことによるもの[154]

フルタイム労働者賃金に対する法定最低賃金の比率(OECD)[155]

中央賃金の場合(2022年時点)
最高: コロンビア(0.899)月給130万ペソ(米ドル換算で約330ドル。月収が最低賃金の2倍を下回る労働者には、別途交通費補助16万2,000ペソ/月を支給) [2024年1月現在][156]
最低: アメリカ合衆国(0.274)

平均賃金の場合(2022年時点)
最高: コスタリカ(0.694)日給11,953.65コロン(特定産業の単純労働者の場合)、日給358,609.50コロン(特定産業以外の単純労働者)[2024年1月現在] 資格の有無や仕事のレベル、学歴により最低賃金額が異なる[157]
最低: アメリカ合衆国(0.191)

世界

1人当たりGDPに対する法定最低賃金の比率(2019年時点)[158]

最高: パレスチナ(1.00)(最低月給1,880シェケル 最低時給:10.5シェケル。但し、ガザ地区の最低月給未満の労働者[ガザ地区で働く全労働者の約93%で約12万6,000人]の平均月給は736シェケル、ヨルダン川西岸地区[ヨルダン川西岸地区で働く全労働者の約12%で約3万6,000人]は1,432シェケル[2023年9月時点][159][160]

最低:
 ジョージア(0.01)(2016年時点で、公的部門労働者は最低月給135ラリ、民間部門労働者で20ラリ。但し、民間部門労働者の最低賃金は適用されていない。公式の最低収入レベルは、個人で月額156ラリ、4人家族で277ラリ[161]))
 ルワンダ(0.01)(2016年時点で、最低日給100ルワンダフラン産業労働者最低日給:500〜1,000ルワンダフラン、建設業労働者最低日給:スキルレベルに応じて1,500〜5,000ルワンダフラン[162]

最貧国の一部ではGDPが比較的低いため、最低賃金の比率が高くなることがあることに留意する。また、最低賃金制度や団体交渉に基づく産業別労働協約などで規定された最低賃金が導入されなかったり、特定分野にしか適用されていないため、比率が0となっている国(カンボジアシンガポールトンガ等)は除く。


注釈

  1. ^ 日本においては、法律上の略称として定義されていないが、上場企業等をはじめとした法人組織内や新聞記事の見出し、労働組合等では用いられており、労働基準監督署でも最賃について問い合わせれば、最低賃金のこととして解される
  2. ^ 原文:yearly wage sufficient to maintain the worker in the hightst state of industrial efficiengy and to afford him adequete leisure to diacharge the duties of citizenship
  3. ^ 以下は、大橋勇雄の「特集:最低賃金 日本の最低賃金制度について 欧米の実態と議論を踏まえて[33]」を転載した内容である
  4. ^ 、これは労働市場が実際には完全競争ではないことに起因している。雇用者は労働市場の不完全情報性により、労働者の良し悪しを完全には把握できない。したがって労働の良し悪しとは無関係な所でインセンティブを生み出す必要が生じるのである。
  5. ^ 市場に買い手が1人しか存在しない状況のことを指す。しかしながら、情報の不完全性により売り手(労働者)には職探しのコストが掛かり、使用者側の場合、採用活動におけるコストが発生している場合、使用者側は純粋な需要独占の状況と同様、右上がりの労働の供給曲線に直面することになる。

出典

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