暦 紀年法

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紀年法

2019年5月1日、日本の元号は平成から令和へと改元された

暦法によって定められた年の記し方を紀年法と呼び、ある起点から期間を区切らず無限に年数が加算されていく紀元[43]、君主や統治者、政体の統治期間などによって期限を区切られる元号[44]、一定の期間で循環する周期によって年を表わす方法[45]が存在する。

紀年法についても、「西暦」「主体暦」のように接尾語として「」が用いられることがあるが、暦法と混同してはならない。

紀元の例としては、セレウコス朝ではセレウコス1世のメソポタミア占領を紀元とするセレウコス紀元を用いていた[46]。キリスト教徒の間では、まずローマ皇帝ディオクレティアヌスの即位した284年を紀元とするディオクレティアヌス紀元が広まり、さらに6世紀にはディオニュシウス・エクシグウスによってイエス・キリストが生誕したとされる年を紀元1年とするキリスト紀元(AD)が導入された[47]。このキリスト紀元は世界で広く使われているが、その起源や名称から非キリスト教信者や世俗主義者の批判を浴びることがある[48]。このほか日本の皇紀中華民国台湾)の民国紀元北朝鮮主体年号などいくつかの紀元法が存在する[49]

古代ギリシアでは、当該年の統治者の名を用いて年を表わすことが広く行われていた。しかしギリシアは多数の都市が存在していたため、複数の都市にまたがる事柄を記録する際には、当該都市の氏名と統治者を全て列記する必要があった。この方法は古代ローマにおいても踏襲され、当該年のコンスル2名の名をもって年を表わしていた[50]

古代オリエントでは王の治世期間で年を表記する紀年法が広く使われた[51]。この即位紀元は古代中国においても広く使用されたが、前漢の時代に在位中に紀元を改める改元が始まり、武帝の時代に入るとこれに名前をつけ、元号が創始された[52]。改元は君主の代替わりだけではなく、吉事や天変地異などさまざまな理由で行われ、本来は君主の統治期間と連動しているわけではなかったが[53]代に一世一元の制が始まって君主の統治期間と元号が一本化された[54]

周期を用いる紀年法としては、古代ギリシアでは4年に1度開催される古代オリンピックを1周期とし、「第○オリンピア紀第×年目」のように年を表わすオリンピアード(オリンピア紀元)が用いられた[55]。また中国では、十干十二支を組み合わせ60を1周期とする干支が紀年法に用いられ、日本でも長く使用された[56]

日本で暦が用いられだした当初は干支を年の表記として使用していたが[57]645年に日本最初の年号である大化が制定され[58]和暦がはじまった。その後は幾度かの空白を挟みながら断続的に年号が制定されていたが、701年大宝の元号が定められ、あわせて以後の公文書には必ず元号表記を用いることが定められたため、以後元号制度は固定化され、中断することはなくなった[59]明治天皇の即位した1868年には一世一元の詔が発せられ、日本でも一世一元制が施行された[60]。その後、旧皇室典範の失効により一時元号の法的根拠が不明確なものとなったが、1979年に元号法が定められて元号の法的根拠および改元の要綱が定まった[61]


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