明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/16 11:39 UTC 版)
文化
洪武帝により文人に対しての大弾圧が行われ、明初は知識層が打撃を被った。しかし同時にその国子監をはじめと州県に至るまで全国に国立学校を設立する政策、北は万里の長城から南は広東に至るまで全国で郷試を実施して科挙による人材登用の機会を広げる政策は文化の全国化をもたらす意味も有していた。永楽帝の命により『四書大全』『五経大全』『性理大全』が撰され、全国の学校に科挙の教科書として配布された点も同様である。三田村泰助はこれを国民文化の成立であるとして評している。一般民衆の間に文化が広まったゆえんはそれである。それまでの文人=官僚だった図式が崩れて多くの大衆文化が生まれている。しかしその一方でそれまで高尚とされていた漢詩・歴史の分野ではあまり見るべきものが無い。
思想
洪武帝は劉基ら朱子学者を重用し、永楽帝の教科書政策もあって、朱子学は国定学問としての地位を保持していた。しかし、朱子以降の朱子学にはあまり思想的な進展は見られないとの指摘がある。これについて国定になり、思想が固定化されたせいだとも朱子による学問の体系化があまりにも完璧なものであったためにそれ以後の朱子に到底及ばない学者にとっては進展が無いのだとも言う。
しかし、明代の思想において最も特筆すべきはなんと言っても王陽明による陽明学(中国では王学と呼ばれる。陽明学は日本において付けられた名である)の成立である。陽明学では心即理・知行合一・致良知を唱え、明代を通して思想的発展を遂げる。明代後期、陽明学的土壌の中で三教一致説が隆盛し、中国思想界はかつてのような進展を見せる。
その一方で、1582年にイエズス会員マテオ・リッチらによってキリスト教カトリックがもたらされる。明政府高官の中には、キリスト教に興味を示した者も多数存在したが、それはマテオ・リッチの布教態度に負うところが大きい。明人では、代表的なキリスト教信者として徐光啓の名を挙げることができる。また、マテオ・リッチは坤輿万国全図(中国を中心とした世界地図)を作成した。
文学
明初には古文辞運動が起こる。宋詩を批判して漢代の文・唐代の漢詩がもてはやされるようになり、『唐詩選』が刊行されている。しかしこの時代の詩文はどうかと言うと多くが単なる懐古趣味的な模倣に堕した感がある。
その中で文の分野で特筆するべきが李卓吾である。陽明学左派の思想を元にそれまでの朱子学的な文観を引っくり返した過激な文章を次々と発表して、明政府に危険視されて捕縛され、最後は獄死した人物である。彼の思想は後世に影響を与えて五・四運動に於いて開放思想として評価された。
その一方で民間における小説の分野では『金瓶梅』など数々の名作が誕生した。『三国志演義』・『水滸伝』・『西遊記』はこの時期に完成したとされる。また戯曲の分野も発展し、「牡丹亭還魂記(ぼたんていかんこんき)」などの名作が作られている。
また永楽帝の命により百科事典『永楽大典』が編纂されて、古今の書物の中から重要と思われる文章が抜き出されて収録された。
美術
元末期、戦乱に明け暮れる他の地方に比べて江南蘇州は張士誠政権の下で繁栄を謳歌していた。ここでは毎日のように文学サロンにおいて漢詩の大会が開かれたり、著名な画人達が腕を競っていた。この中でも黄公望・呉鎮・倪瓚・王蒙の4人の優れた画家を「元末四大家」と呼んでいる。
この流れを引き継いだのが呉派と呼ばれる文人画(民間画壇による絵画)の流派である。この派の代表としては沈周と文徴明がいる。
陶磁器の分野は明代に大きく隆盛し、元から引き継いだ染付や新しい赤絵の技法が開発され、景徳鎮の窯からは大量の製品が生み出され、国内だけは無く海外にも輸出された。特に万暦期の『万暦赤絵』は名品中の名品とされ、現在でも好事家の垂涎の的となっている。ただしこの時期には陶磁器は技術であって美術ではないと見なされていたようである。
永楽帝期には後の清でも皇宮として使われる紫禁城が完成し、現在は故宮博物院として使われており、北京と瀋陽の明・清王朝皇宮として世界遺産に登録されている。
科学技術
明末清初になると、経世致用の学としての考証学が盛んになるなど、実学への関心が高まり多くの実用書が書かれている。前述した徐光啓はマテオ・リッチと協力し、農学書である『農政全書』や、古代ギリシアのユークリッド幾何学の訳書として『幾何原本』などの編著に活躍した。また、アダム・シャールに協力し、西洋暦法(グレゴリウス暦)を取り入れた『崇禎暦書』をまとめる上でも助けとなった。(ただし完成時には徐光啓は死去)。その他、薬学者李時珍による1871種類の薬草・漢方薬を集めた『本草綱目』、地方官宋応星による工芸技術本『天工開物』などが発表された。
注釈
出典
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