日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約 日本国内の認識

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/06 09:06 UTC 版)

日本国内の認識

極東の範囲(昭和35年2月26日政府統一見解)

以下、外務省公式サイト掲載の「極東の範囲(昭和35年2月26日政府統一見解)[33]

「新条約の条約区域は、『日本国の施政の下にある領域』と明確に定められている。他方同条約は、『極東における国際の平和及び安全』ということも言っている。一般的な用語としてつかわれる『極東』は、別に地理学上正確に画定されたものではない。しかし、日米両国が、条約にいうとおり共通の関心をもっているのは、極東における国際の平和及び安全の維持ということである。この意味で実際問題として両国共通の関心の的となる極東の区域は、この条約に関する限り、在日米軍が日本の施設及び区域を使用して武力攻撃に対する防衛に寄与しうる区域である。かかる区域は、大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている。(「中華民国の支配下にある地域」は「台湾地域」と読替えている。)

新(安保)条約の基本的な考え方は右の通りであるが、この区域に対して武力攻撃が行われ、あるいはこの区域の安全が周辺地域に起こった事情のため脅威されるような場合、アメリカがこれに対処するため執ることのある行動の範囲は、その攻撃又は脅威の性質如何にかかるのであって、必ずしも前記の区域に局限される訳では無い。   しかしながらアメリカの行動には、基本的な制約がある。すなわちアメリカの行動は常に国際連合憲章の認める個別的又は集団的自衛権の行使として、侵略に抵抗するためにのみ執られることになっているからである。またかかるアメリカの行動が戦闘行為を伴うときはそのための日本の施設の使用には、当然に日本政府との事前協議が必要となっている。そして、この点については、アイゼンハウァー大統領が岸総理大臣に対し、アメリカは事前協議に際して表明された日本政府の意思に反して行動する意図の無いことを保証しているのである。」

沖縄県

沖縄県の在日アメリカ軍基地が日本の国土面積に占める割合は1割以下だが、在日アメリカ軍基地面積の7割以上(ただし自衛隊との共用地を除いたアメリカ軍専用地の割合)が沖縄県に集中している事で、本土(沖縄県を除く他の46都道府県全体)と比べて不公平だとする意見や、在日アメリカ軍基地の必要性についても疑問視する意見が沖縄県には多数ある。また、在日アメリカ軍基地近隣の騒音問題がある。

2010年(平成22年)5月毎日新聞琉球新報が沖縄県民を対象に行ったアンケートによると、同条約を「平和友好条約に改めるべき」が55パーセント・「破棄すべき」が14パーセント・「維持すべき」は7パーセントだった[34]

識者

時事通信社解説委員の田崎史郎は、2017年2月10日に行われた日米首脳会談のニュースに触れ、中国が領有権を主張する尖閣諸島を巡っては、安倍晋三首相が首脳会談後の記者会見で、日米安保条約5条の適用対象であると首脳間で確認したと説明した。トランプ氏が会談でどのように発言したかは不明だが、共同声明に「日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記したことに対して、日本の防衛において日米安保は無くてはならない条約。日米関係に隙間を空けてはならないと答えた[35]

評論家の大井篤1960年(昭和35年)の条約改定に当たり、「日米安全保障条約の持つ抑止効果を積極的に追求するべきである」と結論付けた[6]

元外務省局長の孫崎享は、「日米安保は日本の利益を守るためにあるのではなく、存在意義は全く無い」と述べている[36]。また孫崎は、集団的自衛権について「アメリカが日本を戦闘に巻き込むのが狙い」と述べている。

世論調査

内閣府が2010年(平成22年)1月に実施した世論調査では、同条約が日本の平和と安全に「役立っている」との回答が76.4パーセント・「役立っていない」との回答が16.2パーセントとなった。また「日本の安全を守るためにはどのような方法をとるべきだと思うか」との問いには「現状通り日米の安全保障体制と自衛隊で日本の安全を守る」との回答が77.3パーセント・「日米安全保障条約をやめて、自衛隊だけで日本の安全を守る」が9.9パーセント・「日米安全保障条約をやめて、自衛隊も縮小または廃止する」が4.2パーセントとなった[6]

集団的自衛権との関係

従来の日本国憲法第9条解釈と日米安全保障条約では、安保条約第5条で米国に日本防衛のために米軍兵士に出動してもらうのを借りとして、第6条で日本国内に米軍基地の土地を提供することで返す事を前提に、1960年の安保条約改定時では「人(米軍)と物(日本)とのバーター」取引と言われた。安保条約は第5条と6条によって対等な関係とされた。

在日アメリカ軍が日本を防衛するのに、日本の自衛隊はアメリカ軍を守れないから集団的自衛権を行使するという第2次安倍内閣の憲法新解釈を、民主党江崎孝参議院議員は2014年6月の参議院決算委員会で「集団的自衛権を容認するなら(従来と比べて日本側にとっては)在日米軍の分だけ負担が重くなる」と基地提供を認める安保条約6条の削除を迫ったが、安倍晋三首相は「条約を変える考えは毛頭無い。」と応えた。[37]


注釈

  1. ^ 日本において日米関係を「同盟」と表現するのが一般化したのは、1980年代になってからのことである。2021年から政府は思いやり予算の通称を「同盟強靱化予算」とするなど[2]、政府の公式見解化している。
  2. ^ 日本側の外務大臣と防衛庁長官、米国側の国務長官と国防長官により構成される会合。いわゆる「2プラス2」。条約署名時の往復書簡の基づき設置[10]
  3. ^ ソ連を含まない単独講和と旧安保条約の締結に反対していた松野鶴平に対して、吉田茂は「このご時世、番犬くらい飼ってるだろう?」と持ちかけ、「それがどうした」と返されると、「犬とえさ代は向こう持ちなんだよ」と発言したとされる。

出典

  1. ^ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約及び関係文書 (日本法令索引)
  2. ^ “「思いやり予算」は時代遅れ? 「同盟強靱化」に込めた政府の意図は”. 朝日新聞. (2021年12月21日). https://www.asahi.com/articles/ASPDP5F9LPDPUTFK00N.html 
  3. ^ 第六条(a) 連合国のすべての占領軍は、この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一または二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国間の協定に基く、又はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない。
  4. ^ 旧条約前文「日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は、武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よつて、日本国は平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合衆国との安全保障条約を希望する。平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。」
  5. ^ 参議院会議録情報 第156回国会 憲法調査会 第9号”. kokkai.ndl.go.jp. 国会会議議事録検索システム. 2019年1月17日閲覧。
  6. ^ a b c 三浦信行「日米安全保障条約改定50周年に寄せて : 第34回国会「日米安全保障条約等特別委員会」公聴会公述人の意見陳述を中心に」(PDF)『国士舘大学政治研究』第2号、国士舘大学政経学部附属政治研究所、2011年3月、137-192頁、ISSN 1884-6963 
  7. ^ a b 【安保改定の真実(7)】先鋭化する社会党「米帝は日中の敵!」 5・19強行採決で事態一転…牧歌的デモじわり過激化 そして犠牲者が”. 産経ニュース (2015年9月22日). 2019年1月19日閲覧。
  8. ^ 身代わり出馬でトップ当選(政客列伝 金丸信)”. 日本経済新聞 電子版 (2011年8月7日). 2019年1月22日閲覧。
  9. ^ 【安保改定の真実(8)完】岸信介の退陣 佐藤栄作との兄弟酒「ここで二人で死のう」 吉田茂と密かに決めた人事とは…”. 産経ニュース (2015年9月23日). 2019年1月19日閲覧。
  10. ^ 安全保障協議委員会の設置に関する往復書簡 - データベース「世界と日本」
  11. ^ 五百旗頭真 編、中西寛「自律的協調の模索」『戦後日本外交史[新版]』有斐閣、185頁、2007年。 
  12. ^ a b 五百旗頭真 編; 村田晃嗣「「国際国家」の使命と苦悩」 (2007). 戦後日本外交史[新版]. 有斐閣、198頁・202頁 
  13. ^ 外務省: 日米関係 2.日米安全保障関係”. 外務省 (2009年(平成21年)10月). 2013年6月1日閲覧。
  14. ^ “日米安保条約改定50年 オバマ大統領談話全文”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2010年1月20日). オリジナルの2010年1月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100123210001/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100120-OYT1T00631.htm 2013年6月1日閲覧。 
  15. ^ 野口武則・仙石恭 (2010年1月19日). “安保改定50周年:日米の外務・防衛担当閣僚が共同声明”. 毎日jp (毎日新聞社). オリジナルの2010年1月20日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100120072039/http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100120k0000m010072000c.html 2013年6月1日閲覧。 
  16. ^ トランプ大統領、日米安保めぐり不満 「日本は米国を助ける必要ない」 CNN 2019年6月27日配信 2021年10月6日閲覧。
  17. ^ 安保条約見直し必要、安倍首相に伝えた=トランプ米大統領 朝日新聞デジタル 2019年6月29日配信 2021年10月6日閲覧。
  18. ^ 国分良成、高原明生 (2013). 日中関係史. 有斐閣 
  19. ^ 等雄一郎「専守防衛論議の現段階――憲法第9条、日米同盟、そして国際安全保障の間に揺れる原則」(PDF)『レファレンス』第56巻(5)(通号 664)、国立国会図書館調査及び立法考査局、2006年5月、19-38頁、ISSN 0034-29122013年6月1日閲覧 
  20. ^ 小熊英二 (2004年5月12日). “第9条の歴史的経緯について” (PDF). 衆議院憲法調査会. 2013年6月1日閲覧。
  21. ^ 朝日新聞. “日米安全保障条約第5条とは”. コトバンク. 2019年6月12日閲覧。
  22. ^ 日米安全保障条約(主要規定の解説)”. 外務省. 2015年7月15日閲覧。
  23. ^ 佐藤内閣総理大臣 (1968-08-10), 第59回国会 参議院 予算委員会会議録第2号 
  24. ^ 林内閣法制局長官 (1960-02-13), 第34回国会 衆議院 予算委員会議録第9号 
  25. ^ 谷川防衛庁長官 (1983-03-08), 第98回国会 衆議院 予算委員会議録第18号 
  26. ^ ワシントン時事 (2013年1月3日). “尖閣防衛義務を再確認=国防権限法が成立-米”. 時事ドットコム (時事通信社). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201301/2013010300169 2013年6月1日閲覧。 
  27. ^ 山口香子 (2012年11月30日). “米上院「尖閣に安保適用」全会一致…中国けん制”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社): p. 2012年12月1日夕刊13S版1面. https://web.archive.org/web/20121203035132/http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20121130-OYT1T01080.htm 2012年12月1日閲覧。 [リンク切れ]
  28. ^ 読売新聞2012年12月23日13S版2面及び2013年1月4日13S版2面
  29. ^ 共同 (2013年1月3日). “グアム移転費復活に署名 尖閣への安保適用も明記”. MSN産経ニュース (産経新聞). オリジナルの2013年1月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130103201713/http://sankei.jp.msn.com/world/news/130103/amr13010316200004-n1.htm 2013年6月1日閲覧。 
  30. ^ 日本共産党中央委員会 (2004年10月22日). “参院予算委 市田書記局長の総括質問(大要)”. しんぶん赤旗 (日本共産党). https://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-10-22/25_01.html 2013年6月1日閲覧。 
  31. ^ 伊藤 (2006)参考。
  32. ^ 第155回国会 内閣委員会 第2号(平成14年10月30日(水曜日))”. 衆議院 (2002年10月30日). 2013年6月1日閲覧。
  33. ^ 日米安保体制Q&A 極東の範囲(昭和35年2月26日政府統一見解)- 外務省
  34. ^ “「辺野古」反対84% 琉球新報・毎日新聞 県民世論調査”. 琉球新報. (2010年5月31日). http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-162838-storytopic-1.html 2011年6月20日閲覧。 
  35. ^ TBS「ひるおび!」 2017年2月13日
  36. ^ 環球時報 (2012年7月27日). “日本外務省元局長:日米同盟の存在意義はまったくない_中国網_日本語” (日本語). 中国網日本語版(チャイナネット) (中国網). http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2012-07/27/content_26036576_2.htm 2013年6月1日閲覧。 
  37. ^ 2014年8月27日中日新聞朝刊11面






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