日本の宇宙開発 開発状況

日本の宇宙開発

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/05 06:44 UTC 版)

開発状況

日本のロケットは平和利用の目的のため完全に軍事技術と切り離されて発展し、弾道ミサイル技術につながるとされる再突入も1994年に打ち上げられたりゅうせいまで控えられており、2000年代初頭までは偵察衛星も開発されなかった。このためロケットや衛星の多くが科学目的か商用目的を持ったものである。初期は観測衛星が多かったが、徐々に通信衛星や惑星探査機などが増えてきており、特に1990年の日米衛星調達合意[注釈 4]以降はコストの面から実用衛星の商業受注も難しい状態に陥ったため、工学的な面で先進的な技術試験衛星が多数打ち上げられた。

JAXAなどの計画管理は、NASAで行われていたPPP(Phased Project Planning、段階的計画立案)を取り入れたものになっている。これは研究で仕様と計画を策定する「研究」、それを詳細に検討し実現可能な計画に変える「開発研究」、実際に実機を作り試験を行う「開発」、実際に運用する「運用」に分かれており、実際に決定され、作成されるのは開発からである[30]。また、評価のためにさらに細かい分類がある[31]

日本の宇宙開発費は比較的低コストで行われている。H-IIAまでのロケットの開発費用は3900億円であり、アリアンVの開発費用80億ユーロに比べ安くなっている[32]。衛星でも開発費が少ないため他国に比べ試験機が少なく、衛星の場合一つの衛星で多くの実験を行っている。また、壊れても次々と打ち上げられる状況ではないため、故障しても実験継続の可能性があれば続け、失敗しても他の用途に利用できる場合は利用し使う。

ロケット

日本の人工衛星打ち上げ用ロケットの開発の特徴は、固体ロケット系列と液体ロケット系列が並行して進められていることであり、最初の人工衛星打ち上げ用ロケットの打ち上げとなった1966年のL-4Sロケット1号機の打ち上げから2013年9月末時点までに、累計94機の人工衛星打ち上げ用ロケットが打ち上げられ、このうち82機が成功している。成功率は87.23%(ロケット側の成功率。人工衛星の成否は勘案しない)[33]

人工衛星打ち上げ用ロケット以外の小型の試験ロケットや観測ロケットも換算すれば日本のロケットの多くが固体ロケットである。固体ロケットはペンシルロケットからつながる系譜であり、最新機種はイプシロンロケットである。また固体ロケット技術は液体燃料ロケットの固体燃料ブースターのSRBSRB-Aにも活用されている。

一方液体ロケットは水素と酸素を利用する二段燃焼サイクルのLE-7Aエンジンが主力大型ロケットH-IIAとH-IIBに利用されている。このエンジンは現在まで打ち上げ失敗につながるほどの大きな異常は生じていない。2013年にエキスパンダーブリードサイクルエンジンを利用するH3ロケットを開発することが決定された。また、液化天然ガスを燃料に利用するLNG推進系についてはGXロケットの開発は中止されたが同系統の研究は継続している[34]

ロケットの技術試験のために観測ロケットを利用する例があるほか、H-IIの開発途中では小型のH-IIロケットであるTR-Iロケットを作って打ち上げている。現在観測ロケット用の小型ロケットでは再使用ロケットを利用する案が出ている[35]

人工衛星

ひまわり1号

気象衛星ひまわりは非常に有名である。当時の日本のロケットは可載量が低かったためひまわり1号は1977年にアメリカのデルタロケットによって打ち上げられた。以来小修正と機能の高度化を進めながら5号機までが打ち上げられており、2014年にはひまわり8号が、2016年にはひまわり9号が打ち上げられた[36]

X線での天文学を行っていた学者たちによって打ち上げが祈念されたX線天文衛星は一度目は打ち上げに失敗したが、再び打ち上げられはくちょうと名づけられた。この衛星が中性子星などの観測で多くの発見を生んで以降X線天文衛星は途絶えることのないように打ち上げられている[37]。太陽観測衛星や電波天文衛星も打ち上げられている。また、地上の天文台や他国の天文衛星などと協力している。現在はひのでひさきあらせなどが運用されており、2016年にはひとみが打ち上げられた。

でんぱを初めとする地球観測衛星はきょっこうじきけんなどの地磁気観測につながり、大気観測にもつながっていった。一方で地上を観測するための衛星も気象衛星と同じく発展していった。現在ではだいち2号が陸域観測以外にも災害監視に役立っているほかいぶきが二酸化炭素測定に利用されている[38]

放送衛星は多くが海外製であり海外のロケットで打ち上げた物を利用している。通信衛星のではきずなを開発し、高速インターネット通信などの研究を行っている。2010年には東京小笠原間で遠隔医療に利用する実証実験を行った[39]

準天頂衛星みちびきは2010年9月11日に打ち上げられ、衛星測位システムの構築を目指しており、政府は7機体制を目指すとしている[40]

三菱電機は海外での販売なども可能な衛星バスDS2000を開発しており、現在まで12機の人工衛星に利用されている。

宇宙探査機

近年では遠隔操作による惑星探査に重点がおかれている。2010年にははやぶさの帰還が話題となった。はやぶさは小惑星のかけらのサンプルリターンに成功し、国民の目を惑星探査に向けることになった[41]。一方で火星探査機のぞみ、金星探査機あかつきなどの軌道投入には失敗している。重力の強い惑星に対して投入する際に使用する小型、強力なエンジンに難があるとされる。

有人宇宙飛行

日本は有人打ち上げを行っておらず、他国の有人打ち上げに参加するしか方法がない。一方で、1990年代からNASAとの協力の下、多くの宇宙飛行士が宇宙へ向かっている。国際宇宙ステーション計画では実験棟きぼうを製作しており、日本人が宇宙に滞在することは稀なことではなくなっている。

日本は2020年までに独自で有人宇宙飛行を行いたいとしている。宇宙ステーション補給機などの技術を応用すれば有人宇宙飛行を達成することは不可能ではない[42]。しかしながら、確実な安全性を求められること、威信のためになどという予算的、政治的な余裕がないこと、現状での宇宙へ人間を輸送する必要性の少なさなどから、計画はあっても優先順位は低くなっている。

開発中の計画

  • SOLAR-C
    • ひので後継の国際共同太陽観測衛星計画。2020年代前半の太陽活動期での観測を目指す。
  • ベピ・コロンボ
    • 欧州宇宙機関と共同で行っている水星探査計画。水星周回軌道へ投入しての探査を目標としている[43]
  • SLIM
    • イプシロンで打ち上げる予定の小型月着陸機[44]。目標地点への高い精度での着陸を目指す。
  • H3ロケット
    • H-IIAH-IIBの後継機として開発が決定されたロケット[45]

研究中の計画

  • 火星衛星探査計画(MMX)
    • 火星衛星に探査機を送り込み試料を回収する計画。はやぶさの技術の応用などが考えられている。
  • LiteBIRD
    • 宇宙インフレーション次期の原始重力波の探索を行う計画。
  • 木星圏探査用ソーラー電力セイル
    • IKAROSなどの技術を応用し、木星圏を探査する計画。
  • SELENE-2
    • かぐやの後継機計画。早ければ2014年頃の予定とされていたが[35]、計画の先行きは不透明である。月面に着陸船を降下させ、無人探査機を走行させる計画。
  • SPICA
    • あかり後継の国際共同赤外線天文衛星計画。2020年半ばほどの完成を目指している。
  • だいち3号
    • だいちの後継として計画されていた地球観測衛星。ASNARO情報収集衛星などと競合していた。2015年度からは先進光学衛星として計画が進められている。



注釈

  1. ^ 2003年から保有している事実上の偵察衛星
  2. ^ なお、宇宙開発事業団(NASDA)の時代から、NASAの10分の1、欧州の2分の1であった[2]
  3. ^ 欧州は各国独自の衛星開発なども行っている。
  4. ^ 実用衛星の国際競争入札化

参照

  1. ^ 的川泰宣 (2001年2月). “戦前の日本のロケット研究”. ISASニュース. 宇宙科学研究所. 2015年6月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 五代富文 『国産ロケット「H-II」宇宙への挑戦』 徳間書店、1994年4月30日ISBN 4-19-860100-3
  3. ^ 国分寺市からロケット発射”. 国分寺市. 2011年1月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月17日閲覧。
  4. ^ ある新聞記事”. ISAS. 2011年1月30日閲覧。
  5. ^ 日本発のロケット発射実験”. 由利本荘市?. 2011年1月17日閲覧。
  6. ^ 六ヶ所村のミニ地球”. 宙の会. 2013年1月11日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月25日閲覧。
  7. ^ 栄光のラムダ”. ISAS. 2011年1月17日閲覧。
  8. ^ 2月7日に国立科学博物館で「おおすみ」40周年記念シンポジウム”. Astro Arts. 2011年1月17日閲覧。
  9. ^ N-Iロケット”. 宇宙航空研究開発機構. 2011年1月17日閲覧。
  10. ^ a b 第051回国会 科学技術振興対策特別委員会宇宙開発に関する小委員会 第2号”. 国会. 2011年1月25日閲覧。
  11. ^ a b c d e 野田昌宏 『ロケットの世紀』 NTT出版、2000年3月27日ISBN 4-7571-6004-6
  12. ^ 原島 省. “衛星「みどり」による海洋観測”. 国立環境研究所. 2011年1月25日閲覧。
  13. ^ a b 宇宙3機関の統合について”. 文部科学省研究開発局 (2003年6月14日). 2013年1月27日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月25日閲覧。
  14. ^ SPRINT(小型科学衛星)シリーズの計画概要”. 宇宙航空研究開発機構 (2010年7月21日). 2011年1月26日閲覧。
  15. ^ 「はやぶさ」帰還”. 日本経済新聞. 2011年1月17日閲覧。
  16. ^ Spacecraft Successfully Returns Asteroid Dust”. science. 2010年11月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月29日閲覧。
  17. ^ a b 宇宙基本法の成立で日本の宇宙利用はどう変わる?”. webR25 (2008年6月19日). 2011年1月25日閲覧。
  18. ^ JAXA2025/長期ビジョン”. 宇宙航空研究開発機構. 2011年1月17日閲覧。
  19. ^ 平成27年度概算要求における宇宙開発利用関係予算について(省庁別集計)”. 内閣府宇宙戦略室. 2016年3月5日閲覧。
  20. ^ 平成28年度概算要求における宇宙開発利用関係予算について(省庁別集計)”. 内閣府宇宙戦略室. 2016年3月5日閲覧。
  21. ^ 「こうのとり」宇宙へ H2B2号機の打ち上げ成功”. asahi.com (2011年1月22日). 2011年1月23日閲覧。
  22. ^ 職員数と予算の推移”. JAXA. 2016年3月5日閲覧。
  23. ^ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の事業と今後の課題について”. JAXA (2010年3月16日). 2011年1月29日閲覧。
  24. ^ 参考資料”. JAXA2025. JAXA (2005年3月31日). 2011年1月29日閲覧。
  25. ^ 松井孝典 (2010年4月20日). “今後の宇宙政策の在り方に関する 有識者会議 提言書”. 首相官邸. 2011年2月1日閲覧。
  26. ^ 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構における平成26年度に係る業務の実績概要”. p. 20. 2011年1月29日閲覧。
  27. ^ JAXAi閉館 宇宙情報を発信したが仕分けで廃止”. asahi.com (2010年12月29日). 2011年1月29日閲覧。
  28. ^ ほっとするニュース:種子島 ロケット特需で「街に活気」来年度は4機打ち上げ”. 毎日jp (2011年1月22日). 2012年7月14日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月29日閲覧。
  29. ^ 宇宙開発3機関 統合へ 文部科学省15年度めど 効率重視,30年ぶり”. 奈良県高等学校理化学会物理部会. 産経新聞 (2003年6月14日). 2011年1月25日閲覧。
  30. ^ 宇宙開発に関するプロジェクトの評価指針 評価実施のための原則”. 文部科学省. 2011年1月31日閲覧。
  31. ^ 檜原弘樹 (2006年3月28日). “設計品質確保の思想 ――航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」”. tech village. 2011年1月31日閲覧。
  32. ^ 世界におけるロケットの現状”. JAXA (2004年3月25日). 2011年1月31日閲覧。
  33. ^ 平成23年 世界の宇宙インフラデータブック ロケット編 社団法人 日本航空宇宙工業会 Archived 2014年8月14日, at the Wayback Machine.に更新分を換算した。
  34. ^ LNG推進系の研究開発について”. 宇宙航空研究開発機構 (2010年3月31日). 2011年1月31日閲覧。
  35. ^ a b 現在進行中のプロジェクト/プリ・プロジェクト”. 宇宙理学委員会. 2011年1月19日閲覧。
  36. ^ 気象庁から「静止地球環境観測衛星(ひまわり8号及び9号)」を落札”. 三菱電機. 2011年1月24日閲覧。
  37. ^ 日本のX線天文衛星の歴史”. JAXA. 2011年1月23日閲覧。
  38. ^ 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測データの解析結果(二酸化炭素・メタン濃度等)の一般提供開始について”. JAXA. 2010年2月16日閲覧。
  39. ^ JAXA、衛星「きずな」を利用した遠隔医療の実証実験”. TechTargetジャパン (2010年12月2日). 2011年1月25日閲覧。
  40. ^ 日本版GPS、衛星7機体制へ…精度10倍に”. 読売新聞 (2011年1月5日). 2011年1月7日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月17日閲覧。
  41. ^ 「はやぶさ」カプセル公開に1.3万人 最長3時間待ち”. asahi.com (2010年7月30日). 2010年8月3日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2011年1月23日閲覧。
  42. ^ 回収機能付加型宇宙ステーション補給機(HTV-R)検討状況”. 宇宙航空研究開発機構 (2010年8月11日). 2011年1月31日閲覧。
  43. ^ 水星探査計画「BepiColombo」”. JAXA. 2011年1月20日閲覧。
  44. ^ 日本初の月面着陸機、30年度に打ち上げへ”. 産経ニュース (2015年4月19日). 2015年4月19日閲覧。
  45. ^ 「H3」ロケット開発を正式決定、三菱重工中心に効率も追求 産経ニュース 2013年5月30日
  46. ^ 資料14 わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議、1969年(昭和44年)5月9日衆議院本会議、平成2年版防衛白書
  47. ^ 浜田防衛相、早期警戒衛星の保有を検討”. 日テレ24news (2003年4月9日). 2011年1月31日閲覧。
  48. ^ 松浦晋也 (2006年5月31日). “低コスト化で岐路に立つM-V”. nikkeiBPnet. 2011年1月26日閲覧。
  49. ^ 松浦晋也 (2003年3月14日). “解説:情報収集衛星、宇宙開発事業に甚大な悪影響”. ISASニュース. nikkeiBPnet. 2011年1月31日閲覧。
  50. ^ 前田憲一 (1983年6月). “IGYの頃”. ISASニュース. ISAS. 2011年1月25日閲覧。
  51. ^ 虎野吉彦. “宇宙ステーション補給機技術実証機(HTV1)プロジェクトに係る事後評価について”. JAXA. 2011年1月25日閲覧。
  52. ^ 輸送機「こうのとり」、宇宙基地にドッキング成功”. 日本経済新聞 (2011年1月28日). 2011年1月30日閲覧。
  53. ^ テレサット社(本社カナダ)の通信放送衛星打上げ輸送サービスを受注 商業衛星の打上げ受注は初めて 三菱重工プレスリリース 2013年9月26日
  54. ^ “日本の衛星、地デジ導入を=野田首相提案、タイも検討”. 時事通信. (2012年3月7日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201203/2012030701006 




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「日本の宇宙開発」の関連用語

日本の宇宙開発のお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   
検索ランキング



日本の宇宙開発のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの日本の宇宙開発 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2019 Weblio RSS