日本の冠 各要素の変遷

日本の冠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 15:46 UTC 版)

各要素の変遷

懸緒について

懸緒は鎌倉時代には蹴鞠の時に限って使用した。懸緒には馬の毛の紐や楽器の絃などが用いられたが、中でも紫の組紐である「紫組懸緒」が重視された。紫組懸緒は飛鳥井雅有の『内外三時抄』には飛鳥井家の家説と主張されており、二条家の『遊庭秘抄』によると二条家の家説と主張されている。『実隆公記』によれば室町後期には蹴鞠でないにもかかわらず、参内に組懸緒を用いる例が見られ、このころよりは単なる飾りのとなって、通常も組懸を用いることが一般化した。

こうして懸緒は、室町中期には、和紙製の紙縒(こびねり)が正式で、束帯には必ずこれを用い、組懸(くみかけ。組懸緒の略称)は鞠の家の許可を得たもののみ略式に使われるようになった。
永正三年、後柏原天皇が三条西実隆に組懸緒を下賜しようとして飛鳥井雅俊の抗議を受けた。天皇は飛鳥井家が許可を「自専」する根拠の提出を雅俊に求めた。この件に関しては将軍の関与も無く、天皇に対立する形になった雅俊はやむなく「天皇による下賜は認めるが、事前に飛鳥井家に諮問してほしい」という条件で妥協した。さらに時代が下ると飛鳥井家による組懸緒許可に際しても勅許を要するようになり、近世には、公家の場合天皇より下賜されることで勅許を得る(天皇より飛鳥井家に諮問があるが、下賜された者の同家への謝礼は不要)者と、飛鳥井もしくは難波家の門弟になってから両家の執奏により勅許を得る者の二通りがあった。一方、武家では四位侍従以上の上流武家のみがこれを使用したが、もっぱら飛鳥井家の執奏によってのみ組懸緒の勅許を得たため、徳川御三家・御三卿および大大名は形式的に飛鳥井家の鞠の弟子となるのが慣例となり、執奏時の礼金のみならず、入門料以下の謝礼が同家に富をもたらした。

神社本庁系の神職の懸緒は白色の紙捻を使用する事になっているが、出雲大社の国造と管長は紫色を用いる[5]

文様について

神職の着用例(挿頭をしている)。纓に四つ菱模様が見られる

元来五位以上の冠は羅であった。羅は菱の文様が織り出されたが、室町時代になると有文羅の織成技術が断絶した。その後は巾子に三つ盛りの俵菱、纓の先端近くに三つ盛りの一直線(カスミ)を縫うことがおこなわれた。また、喪中の無文冠と区別するために、六位以下もこれを用いた。

江戸中期に摂家主導で「繁文冠」が再興され、以前からの冠は遠文冠と呼ばれるようになった。繁文冠は、近衛・鷹司家が俵菱、九条・二条家が四つ目菱、一条家が四つ菱となる。摂家に従属する門流の堂上公家は、元服時に摂家の冠の拝領の形をとり(実際は自弁)同じ文様の冠を使用した。天皇の冠の文様は、冠親である五摂家いずれか固有のものを使うが、大正天皇以降は十六菊に固定されている。また即位礼では皇族は俵菱を使用、勅任・奏任官・高等官(奏任以上の待遇)は四つ目菱を使用し、判任官以下は遠文冠を用いた。大正五年以降、皇室成年式に下賜される「賜冠」は十六弁裏菊となったが、即位礼では皇族も俵菱を用いる。

江戸時代の武家では遠文冠が用いられたが、文政年間に徳川家が「かつみ」という文様を復興、宗家と御三家・御三卿が使用した。

戦前より、神職の菱の形式に指定は無いが、近年は四つ菱がほとんどである。

なお、纓は俵菱とかつみは横長、四つ目菱と四つ菱は縦長に配するのが江戸時代以来の伝統であるが、近年は四つ菱でも横長のものが多い。


  1. ^ 『出雲大社教教規』出雲大社教教務本庁昭和58年6月9日発行全31頁中18頁
  2. ^ 時野谷, 滋 (1996-01). “魏志倭人伝の史料批判”. 古事記年報 = Transactions of the Kojiki Academy (古事記学会) (38): 1-28. doi:10.11501/4413890. https://dl.ndl.go.jp/pid/4413890/1/17. 
  3. ^ 増田, 美子「冠位十二階から大化以降の位階制への移行――虎尾達哉氏の批判に答えて」『服飾美学』第24号、服飾美学会、1995年3月、75-92頁、doi:10.11501/1837481 
  4. ^ 黒板, pp. 213–219.
  5. ^ 『出雲大社教布教師養成講習会』発行出雲大社教教務本庁平成元年9月1日全428頁中84頁
  6. ^ 神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中72頁





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