日本のダム 日本のダムの概要

日本のダム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 07:19 UTC 版)

黒部ダム黒部川富山県

(個々のダムの一覧は「日本のダム一覧」も参照。)

定義

法的定義

現在日本において定められているダムの定義は、1964年(昭和39年)に改定された河川法と、同法の規定により1976年(昭和51年)に制定された政令である河川管理施設等構造令を根拠としている。

まず、河川法の第2章(河川の管理)-第3節(河川の使用及び河川に関する規制)-第3款(ダムに関する特則)の第44条第1項では、

河川の流水を貯留し、又は取水するため第26条1項の許可[注釈 1]を受けて設置するダムで、基礎地盤から堤頂までの高さが15メートル以上のもの

をダムと定義している(利水ダム)。このため高さ15メートル未満のダムについては、「ダムに関する特則」の適用対象とならず、「」(せき)として扱われる[注釈 2]

次に、河川管理施設等構造令は、

河川管理施設又は河川法第26条第1項の許可を受けて設置される工作物のうち、ダム、堤防その他の主要なもの

の構造について河川管理上必要とされる一般的技術的基準を定めているが、第2章(ダム)の第3条で以下の条件を除外したダムについて規定を適用するとしている。すなわち、

  1. 土砂の流出を防止し、及び調節するため設けるダム
  2. 基礎地盤から堤頂までの高さが15メートル未満のダム

以外のダムで、ここでも高さ15メートル以上という河川法第44条第1項と同様の定義がされている。ここで言う河川管理施設のダムとは、河川管理者自らが洪水調節など治水目的で設置するダム(治水を主目的とした多目的ダム治水ダム)であり、河川法では定義がされていない。また、「土砂の流出を防止し、及び調節するため設けるダム」は「砂防堰堤」と呼ばれるものである。

世界的なダム基準は、世界88カ国が加盟[1] する非政府組織の国際大ダム会議(ICOLD、1928年創立)において堤高5メートル以上または貯水容量300万立方メートル以上のものをダムと定義しており、そのうち堤高15メートル以上のものをハイダム、それ以下をローダムと定義している。日本のダム基準はこのうち「ハイダム」のカテゴリーに属するものを指している。

なお、ダムの定義自体は1935年(昭和10年)5月27日に当時河川行政を管轄していた内務省省令第36号として発令した河川堰堤規則において、既に定められている。この規則におけるダムの定義は第一条において、土堰堤については基礎地盤からの高さが10メートル以上、それ以外については基礎地盤から15メートル以上を堰堤、すなわちダムと規定しており、この時点で高さ15メートル以上の基準が登場している。ただし現行の基準と異なるのは型式によってダムの基準を変えている点である[2]。同年6月15日に当時電力行政を司っていた逓信省が省令第18号として発令した発電用高堰堤規則においても、規則が適用されるダムの基準が基礎地盤から15メートル以上と定められている[3]。しかし、この時期は多目的ダムなど治水目的のダムがまだ完成・運用していなかったことや、太平洋戦争後に河川行政が激変したこともあり、河川関連法規を改定してダムの基準を明確化する必要が生じた。このため1964年の河川法改正、1976年の河川管理施設等管理令制定によってダムの基準が統一化されている(詳細は河川法を参照)。

除外規定

一般に「ダム」と呼称される河川工作物としては河川法や河川管理施設等構造令で定める「ダム」のほか、砂防堰堤治山ダムおよび鉱滓ダムがある。しかし、いずれも積極的に河水を貯留する目的を持たないため(砂防ダムの一部ではかんがい目的や水力発電目的を果たすものもあるが、例外的)河川法上のダムとは見なされない。

このうち砂防ダムについては砂防法によって「堤高7.0メートル以上のもの」が砂防ダムと規定されており、目的も土石流の抑止に特化されている。管轄部署は国土交通省河川局砂防部であり、河川法に基づくダムを管轄する河川局治水課(施工担当)や河川環境課(管理担当)とは部署が異なる。各都道府県においても同様である。保安林の維持を目的とする治山ダムに関しては森林法に基づく施設であり、農林水産省が管轄しているためこれもまた異なる。鉱滓ダムに関しては、廃棄物処理が目的であるため似て非なるものである。

以下、本項目全般において「ダム」と記したものについては、特に断らない限り河川法第44条第1項または河川管理施設等構造令第3条の定義に基づくダムを指すこととし、それ以外のダムと呼ばれる施設については「」「砂防堰堤」「治山ダム」「鉱滓ダム」の各該当項目を参照されたい。

概説

日本において建設されるダムの目的は多岐にわたるが、主なものとしては治水目的(洪水調節や農地防災[注釈 3]不特定利水および河川維持用水)と利水目的(かんがい上水道供給、工業用水供給、水力発電、消流雪用水、レクリエーション)に大別される。単独の目的を持つダムもあれば、複数の機能を併設するダムもある。前者は「治水ダム」「かんがい用ダム」「発電ダム」等とそれぞれの目的を冠した呼ばれ方をするが、後者は一般に「多目的ダム」と呼ばれる。

ダムは様々な事業者によって計画・調査・建設・管理などが実施されている。日本においては、政府直轄事業者(国土交通省農林水産省独立行政法人水資源機構)、地方自治体都道府県または市町村)、電気事業者(各電力会社)および一部の民間企業からなる。戦前は大日本帝国海軍が所管していたダム[注釈 4] も存在していた。多目的ダムについては、政府直轄のダムを「特定多目的ダム」(別名「直ダム」)、地方自治体管理のダムを建設費の国庫補助を受けることから「補助多目的ダム」「補助治水ダム」(略して「補助ダム」)と呼ぶ。1988年(昭和63年)には限られた小地域に対する治水・利水を目的にした小規模な都道府県管理ダムに対して建設費の国庫補助が受けられる制度も導入された。このようにダムを「小規模生活貯水池」と呼び、湛水面積も小規模なことから水没補償を最小限に抑制可能として最近多く建設されている。

現在、日本におけるダムの総数は完成・施工中を合わせたものとして2つの統計がある。一つは一般財団法人日本ダム協会が集計したもので完成2,699箇所、施工中193箇所の合計2,892箇所。もう一つは一般社団法人日本大ダム会議が国際大ダム会議ダム台帳・文書委員会に提出した3,045箇所である[4]


注釈

  1. ^ 「河川区域内の土地における工作物の新築等に対する河川管理者の許可」のことであり、国土交通大臣または都道府県知事が河川管理者である。
  2. ^ 西大滝ダム信濃川)や上麻生ダム飛騨川)などがこれに当たる。
  3. ^ 国土交通省が管轄する多目的ダム治水ダムでは洪水調節農林水産省が管轄する土地改良事業では農地防災と呼称するが、目的内容は同一である。
  4. ^ 広島県にある三高ダムと本庄ダムがこれに当たる。海軍基地への上水道供給を目的としていたもので、戦後海軍の解体後、軍港市転換法によって三高ダムは広島県に、本庄ダムは呉市に管理および承継され、現在に至っている。
  5. ^ かつては災害復旧事業のうち、改良復旧事業の一つである河川等災害助成事業で造られたダムもある(山口県の御庄川ダムなど)。制度としては残されているものの、制度上の問題(事業費が原則として被災額の倍額まで、被災年から5年以内での完成、など)や手続き上の問題もあって、現在はこの手法の代わりに1968年(昭和43年)に制度化された「補助治水ダム事業」が適用されている。
  6. ^ 1982年(昭和57年)の長崎大水害を機に治水機能を兼備した多目的ダムとして現在施工中である。
  7. ^ a b c いずれも貯水池の四方を堤体で囲んだダム。河川を横断して建設されたダムでは美利河ダム後志利別川。北海道)の1,480.0mが最も長い。
  8. ^ 遊水池などの河川施設を除く。全河川施設では利根川河口堰利根川千葉県茨城県)の13,340.0km2が最も広い。
  9. ^ 土地改良事業、農業水利事業、かんがい排水事業など農林水産省・地方自治体農政関係部局またはそれらに委託された土地改良区の事業。
  10. ^ 財団法人日本ダム協会調べ。長沼ダム2012年完成予定だが、武庫川ダムは事業凍結中。
  11. ^ 湛水区域内に存する湛水前の河川の延長の総和をいう。以下記されているものは全て同じ意味である。
  12. ^ 沖縄総合事務局内閣府の管掌だが、開発建設部のダムについては特定多目的ダム法によって建設されるため国土交通大臣が管理する。
  13. ^ a b 北海道開発局自体は国土交通省の地方機関だが、農業水産部の事業については農林水産省が所管している。沖縄総合事務局においても同様である。
  14. ^ 治水機能を有しているので、国土交通省が所管している。
  15. ^ 農林水産省かんがい事業所管)・厚生労働省上水道事業所管)・経済産業省工業用水道事業所管)の三省が所管している。
  16. ^ 各自治体、及びダムの目的による所管で呼称は異なる。
  17. ^ 関西電力の前身の一つである日本電力の子会社。1917年大正5年に浅野総一郎によって設立されたが、1924年大正12年に日本電力に売却され事件当時は浅野は名目的に社長の座に留まっただけで庄川水力電気の経営の実権は日本電力のもとにあった。
  18. ^ 小牧ダムの上流にほぼ同時期に建設中であった祖山ダムの事業主体である。大同電力の子会社。
  19. ^ 大同電力系の子会社。飛州木材は神岡水電との間にも流木争議を抱えていた
  20. ^ 大同電力は訴訟の前面には出てこなかったが、飛州木材に対する利害関係において日本電力と立場を共有していたので、中央政官界・地元政財界への工作や反対住民の切り崩しなど裁判外の活動においては積極的に共同戦線を張った。
  21. ^ 関西電力の前身。
  22. ^ 南会津郡只見町
  23. ^ 当時は水資源開発公団
  24. ^ 対象は国土交通省直轄ダムおよび水資源機構管理ダムであり、黒部ダムなど発電用ダム小河内ダムなど国土交通省専管外のダムは調査対象にはなっていない。
  25. ^ ダムからの投身自殺者が増加したため、2009年現在自殺予防対策のため立入禁止措置を取っている。
  26. ^ モーターボートの湖面利用やダム本体付近での釣りなど。

出典

  1. ^ 参加国数は2008年時点。参加国メンバー(国際大ダム会議サイト)を参照。
  2. ^ 『日本大堰堤台帳』p305。
  3. ^ 『日本大堰堤台帳』p323。
  4. ^ 一般社団法人日本大ダム会議 ウェブサイト。ただし2007年3月31日時点のものなので、それ以降に中止したダム事業が掲載されているものも数点ある。
  5. ^ 財団法人日本ダム協会『ダム便覧』 ダム集計表
  6. ^ 独立行政法人水資源機構思川開発建設所 南摩ダム諸元 2013年10月23日閲覧
  7. ^ 『信濃川百年史』pp.1162-1165
  8. ^ ダム・堰管理業務における創意工夫事例データベース 大町ダム 2013年4月6日閲覧
  9. ^ 「新造ダムの水門吹き飛ぶ 濁流襲い避難警報」『朝日新聞』昭和42年7月3日朝刊、12版、15面
  10. ^ 長沼の藤沼湖決壊、死亡5人に 福島放送2011年3月14日配信
  11. ^ 行政裁判所昭和7年12月21日判決、行政裁判所判決録43輯1105頁、法律新聞3540号7頁。
  12. ^ 大阪地裁昭和8年3月7日判決、法律新聞3528号4頁。
  13. ^ 「ダム再生ビジョン」の策定~頻発する洪水・渇水の被害軽減や再生可能エネルギー導入に向けた既設ダムの有効活用~ 国土交通省(2017年6月27日)2018年4月20日閲覧
  14. ^ 【深層断面】進むダム再生/豪雨災害・水不足防ぐ『日刊工業新聞』2017年7月21日
  15. ^ 眼下に絶景 堤体登山 奥州・胆沢ダム『岩手日日新聞』2017年8月12日(2018年4月20日閲覧)
  16. ^ メモリアルマーチで阿木川ダム堤体登山に挑戦 岐阜県恵那市ウェブサイト(2017年11月7日)2018年4月20日閲覧
  17. ^ 天然ワインセラーで新茶熟成 浜松の相津トンネル|静岡新聞アットエス - 静岡新聞
  18. ^ トンネル保管のワインのお味は? 豊平峡ダム | どうしんウェブ/電子版(暮らし・話題) - 北海道新聞






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