数理モデル 遅い変数の存在と発展方程式の縮約可能性

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数理モデル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/21 14:11 UTC 版)

遅い変数の存在と発展方程式の縮約可能性

前項と関係することでもあるが、系の発展を少数の本質を表す変数によって記述できることの正当性は、その系に変化が速い変数と遅い変数が共存することによることが多い。 物理学ではこれは断熱近似[4]、隷属原理[5][6] などとよばれ、数学的にいえばこれは中心多様体上での発展方程式をみいだすことに対応する。前項との関係においては、しばし様々な系において系のミクロな現象がマクロな状態よりも速く変化することが多いことによって、ミクロを無視したマクロな変数のモデルをたてられることが対応する。

コンピュータシミュレーション

対象となる現象が大規模で人手による解析が困難、あるいはナビエ-ストークス方程式のようにモデルの解を解析的に得られない場合は、コンピュータによるシミュレーションによって解を求める。代表的なアルゴリズムとして、オイラー法ルンゲ=クッタ法有限要素法モンテカルロ法等がある。コンピュータの性能向上によって、扱える数理モデルの幅が大変広まった。

利点

現象の理解

上述したように、数理モデルを構築することによって得られることは、まずは現象の理解があげられる。また、数学的に表現することによって、扱いが容易になったり、数学の知見を活用することができる。

実験をしないで現象のふるまいを予測する

適切な数理モデルが得られれば、様々な条件化における現象を定量的に予測できるようになる場合が多い。現実のシステムを用いて観測を行う必要がなくなれば、そのために必要な労力・損失を省くことができる。感染症のパンデミックに対して、交通規制、隔離、ワクチン配布などの様々な戦略をどう用いればいいのか、といったシミュレーションも行われている。臨界前核実験では、実際に核爆発を起こさず、数理モデルのパラメータ決定のみが目的とされる。

近年はコンピュータの進化によって、莫大な変数を持つような複雑な数理モデルに対しても、シミュレーションにより解の振る舞いを実用的な時間内に求めることが可能になりつつある。例として、IBMによる大脳皮質コラムのシミュレーションBlue Brainプロジェクトや、地球シミュレータによる温暖化の予測などが挙げられる。

評価基準

本質の抽出

一般的には、対象とするシステムの本質的な特徴を表すことができて、かつできるだけ少ない変数を抽出したものがよいモデルとされる。

予測可能性

これまでの観測結果から構築した数理モデルによる、今後の観測データの予測能力はその数理モデルの評価基準になる。どのような数理モデルも、その数理モデル内の自由なパラメータをもつものである。パラメータを推定したのちに、未知のデータに対する予測の正確性を評価すればそのモデルの評価基準となる。

実験データとの照合

実験データとの定量的な一致・予測能力があるものは優れたモデルとされる。

数学的扱いやすさ

数理モデルの場合は、数学的な扱いやすさが重要になる。例えば、ある方程式によりモデル化を行った場合に、その解が解析的に得られるようなものは、数学的に大変性質がよいものだといえる。方程式が非線型の場合は一般にはこれは困難だが、具体例としては、非線型なリズムを持つものが多く同期しあう現象を扱った蔵本モデルは要素数無限大の極限において解が解析的に得られる。解析的に得られない場合は数値解析によって近似解を求める。


注釈

  1. ^ 生物においては数理モデルは全く使えない」ということではない。例えばホジキンハクスレイ方程式英語版のような華々しい例外は存在する。

出典

  1. ^ 『情報 : 東京大学教養学部テキスト』 川合慧編、東京大学出版会、2006年。ISBN 4-13-062451-2
  2. ^ 小形正男 『振動・波動』 阿部龍蔵・川村清監修、裳華房〈裳華房テキストシリーズ : 物理学〉、1999年。ISBN 4-7853-2088-5
  3. ^ 大野克嗣『非線形な世界』東京大学出版会、2009年、127頁。ISBN 978-4-13-063352-9 
  4. ^ 蔵本由紀・蔵本由紀『散逸構造とカオス』岩波書店 (2000) ISBN 978-4000067508
  5. ^ 牧島邦夫・小森尚志訳 『協同現象の数理 — 物理,生物,化学的系における自律形成』 東海大学出版会 (1981) ISBN 4486005228, Synergetics: An Introduction Nonequilibrium Phase Transitions and Self-organization in Physics, Chemistry and Biology
  6. ^ 高木隆司訳 『自然の造形と社会の秩序』 東海大学出版会 (1987) ISBN 4486008464, Erfolgsgeheimnisse der Natur: Synergetik, die Lehre vom Zusammenwirken.


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