政府 政府の機能

政府

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政府の機能

政府は法や規則を策定するとともに、それを領域内において実施させる強制力を持ち、また社会の構成員に対しさまざまな公共サービスを提供する[32]

個人レベルで対応できない、いわゆる公共的な問題はしばしば政策問題とされ、公共政策として政府による対策が求められることが多い[33]。そのため、おおまかな政策領域に対応する形で各省庁が設置され、施策を行っている[34]。民主国家においては、問題が認識され社会からの要請が高まると、政府内の各省庁や部局により分析が行われ、法案が設計される[35]。こうした法案は、日本においては大半は行政により作成されるものの、議員により作成され提出される議員立法も存在する[36]。法案は立法府である国会によって審議され、可決されれば正式に成立して施行される[37]。こうした政策は担当省庁によって政令や省令、各種通達・通知が発出されることで下位機関や現場に指示される[38]。政府が政策を実行する手段としては、防衛警察病院教育などのように公共財を供給するものから、法案などで直接規制をかけるもの、補助金の提供や政策融資・減税などにより民間の積極的関与を促すもの、同じく民間が動きやすくするための情報提供、逆に課税や罰金などで民間の動きを抑制・禁止するものなどさまざまな手段が存在し、これを各種取り混ぜることで政策目的の達成を目指す[39]

歴史

古代国家における政府は国王の下に世襲の貴族と家臣団が付く形のものが多かったが、政府の機能は軍事や外交、裁判、治水街道整備などのわずかな分野に限定されていた。また中世ヨーロッパでは封建制のもとで国内に諸侯領が分立しており、中央政府の威令の届く範囲も小さなものに過ぎなかった。やがてヨーロッパで17世紀に絶対王政が確立すると常備軍や行政機構が拡大し政府の機能は拡大していったが、これを維持するための重税はフランス革命を引き起こし、変わって主流となった自由主義は政府の機能を制限する方向へと向かった[40]

19世紀には自由主義国家論による消極的な国家観が主流となっており、この国家間の下では政府の権能は国防や治安維持といった必要最小限のわずかな範囲にとどまることが望ましいとされ、政府の機能は非常に小さなものとなっていた。こうした政府は小さな政府、または安上がりな政府と呼ばれる[41]。一方で19世紀に入ると各国政府内で、資格任用制によって選抜された専門的な官僚がピラミッド型の階層構造の組織の中で明確な規則と文書による指示の下職務を遂行する近代官僚制が成立した[42]。また19世紀中期以降、衛生問題や貧富の格差、労働問題といった、民間の活動だけでは対応できない問題が噴出するようになり、これらの対応を政府が行うようになったことで、政府機能の拡大が始まった。さらに20世紀に入ると、先進国では参政権の拡大に伴って国家が国民の生存権の保障を志向するようになり、さまざまな社会保障が国民に提供される福祉国家化が進んだ。これに伴って政府の規模や権能は大幅に拡大し、多額の税収と多額の支出に支えられた大きな政府が主流となっていった。こうした国家では官僚が立法機能にも影響を持つようになり、いわゆる行政国家化も進行した[43]。しかし1970年代以降、先進国の経済が停滞すると大きな政府の維持が困難になり、行政改革などによる政府機能のスリム化によって再び小さな政府が目指されるようになった[44]

経済における政府の機能

政府の経済的役割は、資源配分の調整(公共財公共サービスの供給)、所得の再分配累進課税社会保障)、景気の安定化、の3つに分類される[45]

公共財は非競合性と非排除性という特徴を持ち、供給されればすべての人が利益を得られ排除することもできないため、料金を利用者から徴収することが困難であり、市場からの供給を期待することがむずかしい。このため、政府によって供給されることが一般的である。一方で公共財的性質を持つものでも民間によって供給されるものも存在し、どの公共財が政府によって供給されるかはさまざまである[46]。しかし、政府による経済活動は競争原理が働きにくいため民間企業に比べ非効率的で高コストな運営となりやすく、20世紀末からはこうした公的企業を民営化して政府活動を縮小させる動きが全世界的に広がっている[47]

政府の活動は、収入(歳入)面と支出(歳出)面の両方で構成されており、どちらも経済全体の資源配分・所得分配に大きな影響を及ぼす[48]。政府の支出は、教育・福祉などの政府消費と呼ばれるサービス道路・港湾などの公共施設を建設する公共投資から構成されている[49]

政府の財源には、1)税金、2)国債、3)貨幣発行益、の3つがある[50]。政府の収入の基本となるのは税収であり、政府は様々な税金を課すことにより、政府活動のための資金を確保する[48]経済学者岩田規久男は「政府の仕事とは公共事業を除けば、大部分が消費である。税金と国債の違いは、いま税金を払うか将来税金を払うかという点だけであり、それ以上の違いはない」と指摘している[51]


注釈

  1. ^ ただし、大陸法の源流ともいうべきドイツが英米法への移行を企図したように、戦後日本国憲法も英米法を指向したもので、警察制度や司法制度に特徴づけられる。このように地方の自治権を尊重する英米法を採用している。また、国家の下位に置かれる統治機構を指す「地方政府」という呼び名も、そういった地方自治を尊重する英米法を背景に派生したとされる[1]
  2. ^ 類似の事例の一つに、「香港での選挙を巡る2014年~2015年の出来事」もある。香港での選挙の候補者が、そもそも誰しもが立候補することができず、北京の中華人民共和国政府の承認した者しか候補者になれないようにされてしまい、香港の学生たちがこのような非民主的な圧力に抗議し、民主的な選挙を要求して座り込みを行った出来事である。この場合、選挙が形式的に行われたとしても、実態としては特定の勢力に支配されてしまっており「民主的」とは言えない事例の一つである。

出典

  1. ^ a b c d 内田 1994, pp. 567–568.
  2. ^ デジタル大辞泉「政府」
  3. ^ a b c d 小松進.
  4. ^ 広辞苑第7版「政府」
  5. ^ a b 日本国語大辞典第二版編集委員会 2001, pp. 1246–1247.
  6. ^ a b 新村 2018, p. 1616.
  7. ^ The Encyclopædia Britannica: A Dictionary of Arts, Sciences, Literature and General Information. Encyclopædia Britannica Company. (1911) 
  8. ^ 諸橋 1967, p. 488.
  9. ^ Lewellen, Ted C. Political Anthropology: An Introduction Third Edition. Praeger Publishers; 3rd edition (30 November 2003)
  10. ^ Comparative politics : interests, identities, and institutions in a changing global order, Jeffrey Kopstein, Mark Lichbach (eds.), 2nd ed, Cambridge University Press, 2005, ISBN 0521708400, p. 4
  11. ^ Leo P. Ribuffo, "20 Suggestions for Studying the Right now that Studying the Right is Trendy," Historically Speaking Jan 2011 v.12#1 pp 2–6, quote on p. 6
  12. ^ Kari Frederickson, The Dixiecrat Revolt and the End of the Solid South, 1932–1968, p. 12, "...conservative southern Democrats viewed warily the potential of New Deal programs to threaten the region's economic dependence on cheap labor while stirring the democratic ambitions of the disfranchised and undermining white supremacy.", The University of North Carolina Press, 2000, ISBN 978-0-8078-4910-1
  13. ^ "Plutocrats – The Rise of the New Global Super-Rich and the Fall of Everyone Else" Chrystia Freeland is Global Editor-at-Large at Reuters news agency, following years of service at the Financial Times both in New York and London. She was the deputy editor of Canada's Globe and Mail and has reported for the Financial Times, Economist, and Washington Post. She lives in New York City.
  14. ^ 「比較政治学」p90-91 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  15. ^ 「比較政治学」p141-149 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  16. ^ 「立憲君主制の現在 日本人は「象徴天皇」を維持できるか」p23-27 君塚直隆 新潮社 2018年2月25日発行
  17. ^ 片山正人「現代アフリカ・クーデター全史」叢文社 2005年、p24-25 ISBN 4-7947-0523-9
  18. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/somali/data.html 「ソマリア連邦共和国(Federal Republic of Somalia)基礎データ」日本国外務省 令和5年4月7日 2023年10月24日閲覧
  19. ^ 「現代政治学 第4版」p180 加茂利男・大西仁・石田徹・伊東恭彦著 有斐閣 2012年3月20日第4版第1刷
  20. ^ 「日本の地方政府」p3 曽我謙悟 中公新書 2019年4月25日発行
  21. ^ 「政治学・行政学の基礎知識 第3版」p38-39 堀江湛編 一藝社 2014年9月30日第3版1刷
  22. ^ 「比較政治学」p198-201 粕谷祐子 ミネルヴァ書房 2014年9月30日初版第1刷
  23. ^ 「代議制民主主義」p142-143 待鳥聡史 中公新書 2015年11月25日発行
  24. ^ 「政治学・行政学の基礎知識 第3版」p96-97 堀江湛編 一藝社 2014年9月30日第3版1刷
  25. ^ 「行政学 新版」p29-31 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  26. ^ 「行政学 新版」p103-108 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  27. ^ 「行政学 新版」p27-28 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  28. ^ 「行政学 新版」p109-112 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  29. ^ 「はじめての行政学」p93-95 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  30. ^ 「行政学 新版」p109-114 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  31. ^ 「行政学 新版」p110-112 曽我謙悟 有斐閣 2022年5月15日新版第1刷発行
  32. ^ 「はじめての行政学」p8-9 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  33. ^ 「入門 公共政策学」p5 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  34. ^ 「入門 公共政策学」p9 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  35. ^ 「入門 公共政策学」p67 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  36. ^ 「入門 公共政策学」p92 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  37. ^ 「入門 公共政策学」p130 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  38. ^ 「入門 公共政策学」p132-134 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  39. ^ 「入門 公共政策学」p76-82 秋吉貴雄 中公新書 2017年6月25日発行
  40. ^ 「はじめての行政学」p23-24 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  41. ^ 「はじめての行政学」p24 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  42. ^ 「はじめての行政学」p27-29 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  43. ^ 「はじめての行政学」p29-30 伊藤正次・出雲明子・手塚洋輔著 有斐閣 2016年10月10日初版第1刷発行
  44. ^ 「政治学・行政学の基礎知識 第3版」p228-231 堀江湛編 一藝社 2014年9月30日第3版第1刷
  45. ^ 大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、134-135頁。
  46. ^ 「はじめての経済学(下)」p27-30 伊藤元重 日本経済新聞出版社 2004年4月15日1版1刷
  47. ^ 「はじめての経済学(下)」p38-40 伊藤元重 日本経済新聞出版社 2004年4月15日1版1刷
  48. ^ a b 伊藤元重 『はじめての経済学〈下〉』 日本経済新聞出版社〈日経文庫〉、2004年、33頁。
  49. ^ 伊藤元重 『はじめての経済学〈下〉』 日本経済新聞出版社〈日経文庫〉、2004年、33-34頁。
  50. ^ オピニオン 政治経済 国の借金は減っている アベノミクスに増税は必要ない教育×WASEDA ONLINE 2014年12月22日
  51. ^ 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、178-179頁。
  52. ^ 「行政学 新版」p340-344 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  53. ^ 「行政学 新版」p345-346 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  54. ^ 「行政学 新版」p360-362 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  55. ^ 「行政学 新版」p376 曽我謙悟 有斐閣  2022年5月15日新版第1刷発行
  56. ^ あの日の公文書 | 国立公文書館ニュース Vol.13”. 国立公文書館. 2019年4月23日閲覧。
  57. ^ 知っていましたか? 近代日本のこんな歴史”. 国立公文書館アジア歴史資料センター. 2019年4月23日閲覧。
  58. ^ 「国際法 第5版」p85-87 松井芳郎・佐分晴夫・坂元茂樹・小畑郁・松田竹男・田中則夫・岡田泉・薬師寺公夫著 有斐閣 2007年3月20日第5版第1刷発行






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