政府開発援助 日本のODAの特色と昨今の傾向

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 政府開発援助の解説 > 日本のODAの特色と昨今の傾向 

政府開発援助

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 04:55 UTC 版)

日本のODAの特色と昨今の傾向

日本のODAの特徴としては、以下の点が挙げられる[20][21]

贈与比率の低さ

日本のODAは、贈与ではなく、被支援国が返済を要する円借款の比率が高い。これは、日本がODAの被支援国から支援国へと移行していくに際し、贈与を行うだけの財源がなかったことに加え、ハードインフラの整備へ向けた低利融資によって日本の輸出市場を拡大していくという政策目的も背景にあったとされる。また有償の円借款協力は「借りたものは必ず返す」という意味で、日本の援助哲学でもある「自助努力」を促すことになり、途上国の自立の精神を涵養するという一面を持っている。欧米の原則無償の援助は、「人道」を前面に出しているものの、往々にして依存心を産んで、自立の精神を阻んでいるとも指摘されている[22]

ハード支援比率の高さ

日本のODAは、道路鉄道発電所インフラストラクチャー整備の占める割合が大きい。多くの日本人が『ODA』と聞いて連想するのも、こういった支援形態である。このようなハードインフラ整備を巡っては、多額の受注費を巡って政治家と日系企業が癒着し、仲介業者が不当に多額の報酬を取得しているとの指摘がある。ただ、2000年代以降は、請負企業を日本企業に限定する『タイド(いわゆる紐付き援助)案件』の割合は大幅に低下し、2001年時点で20%を下回っている上、日系企業の受注率も低下している。また、ハードインフラの整備自体は、被援助国の経済発展とそれに伴う貧困削減のために重要とされ、世界銀行や開発援助委員会DAC:Development Assistance committee)も、こういったハードインフラ整備支援という手法を評価している。

一方、人材育成や法律・制度構築や教育を中心に、ソフト面での支援に力を注いでいく考え方が強まっている。これは、ハードインフラに偏向しているとの批判をかわすという側面もあるものの、日本国政府レベルではなく、各個人レベルに確実に援助を届けようという「人間の安全保障」や、被援助国に民主主義法の支配、政府の透明性や公務員の汚職を撲滅しなければ、経済成長、貧困削減も十分に達成されないという「良い統治Good governance)」といった、国際的な援助理念の登場も背景にある。

ソフトインフラ整備支援の代表例としては、経済発展や民主主義の基盤となる基本法や経済法の起草支援、裁判所などで、法令の運用・執行に関する支援を行う法整備支援が挙げられる。近年日本に限らず、世界各国が法整備支援に力を注いでいる。

アジア中心

日本のODAは、アジアに対するものが大きい。日本に限らず、どの援助国も、歴史的、地理的、経済的な理由で、援助対象国の地域的な偏りが見られ、日本の場合はアジアがそれに該当する。また、日本のODAが、アジアに対する第二次世界大戦の戦後賠償に端を発している、という特殊要因も挙げられる。

昨今のアジアは、世界経済の牽引役と言われるほどに経済発展を遂げつつあるが、その要因としては、アジア各国の勤労意欲、文化などに加え、日本のODAによる経済インフラ整備も挙げられる。また、未だ貧困率の高いアフリカに対し、日本のアジアでの援助経験を活用していこう、という考え方も強まっている。


  1. ^ 対中で重要性増すODA 減額圧力に外務省反論躍起”. 産経ニュース (2021年12月5日). 2021年12月5日閲覧。
  2. ^ a b OECD, "DAC Members' Net Official Development Assistance in 2009", 2011-08-06
  3. ^ 国際貢献のイリュージョン”. Virgil Hawkins, Global News View (GNV). 2019年5月29日閲覧。
  4. ^ OECD, Aid statistics: Statistics on resource flows to developing countries.
  5. ^ 小川秀樹「世界のODAの趨勢と日本」『立法と調査』第266号、東京 : 参議院事務局、2007年4月、103-115頁、CRID 1520854805605397248ISSN 09151338NDLJP:1003863 
  6. ^ 日本のODA、世界4位 2018年は1兆5千億円”. 朝日新聞デジタル (2019年4月11日). 2022年11月21日閲覧。
  7. ^ 日本のODA、22年2.3兆円 円安で目減りしたが米独に次ぐ3位:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞. 2023年4月14日閲覧。
  8. ^ 中華人民共和国国別データブック(国際協力機構公式サイト p54)
  9. ^ 李肇星外相「中国国民は自分の智恵、力と決意で、国を発展させて行くことができる。もちろん、友人からの助けに感謝しています」2004年東南アジア諸国連合会議でのインタビュー
    武大偉外務次官「日本が供与してきた政府開発援助に感謝しています。」新華社2004年11月31日[要検証]
  10. ^ 丹羽大使の対中ODA増額要求 経済・軍事大国への支援 国民理解は困難 (1/2ページ) - MSN産経ニュース Archived 2010年12月22日, at the Wayback Machine.
  11. ^ http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101219/plc1012190129002-n1.htm Archived 2010年12月20日, at the Wayback Machine.
  12. ^ “中国へのODA終了へ 40年で3兆円、近代化支える”. 朝日新聞. (2018年10月23日). https://www.asahi.com/sp/articles/ASLBR33GYLBRUTFK004.html 2018年10月23日閲覧。 
  13. ^ “政府、対中ODAを終了へ 第三国支援で会議新設”. 日本経済新聞. (2018年10月23日). https://r.nikkei.com/article/DGXMZO36797300T21C18A0MM0000 2018年10月23日閲覧。 
  14. ^ 対中国ODAに関する基礎資料
  15. ^ a b 2012年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力 p.193
  16. ^ ODAの定義(英語版)、OECD。
  17. ^ 日本が比軍に自衛隊機を貸与へ、ロイター(2016年5月2日)
  18. ^ 滝田賢治「国際社会とアメリカの占領期対日経済援助― ガリオア・エロア援助を中心として―」『法学新報』第121巻9・10、法学新報編集委員会、2015年3月、315-348頁、CRID 1050001202715771904ISSN 0009-6296 
  19. ^ ECD/DACにおけるODA実績
  20. ^ 渡辺利夫、三浦有史『ODA(政府開発援助)』中公新書(2003)、36頁、108頁、151頁
  21. ^ 『日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか』, p. 60.
  22. ^ a b 荒木光弥 (2011年6月13日). “「恩義を返される国」が揺らいでいる 大震災で「好意のリアクション」が起きたわけ”. 日経ビジネス (日経BP). http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110609/220634/?P=1 2017年1月31日閲覧。 
  23. ^ [1]
  24. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/h19/10/1175721_814.html
  25. ^ a b c 高田正幸 (2022年3月31日). “対中ODAが今月末で終了 「日本の支援、中国で知られず」批判も”. 朝日新聞. オリジナルの2022年3月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220331075846/https://www.asahi.com/articles/ASQ3Y6X5YQ3YUHBI028.html 
  26. ^ 派遣議員団としての所見』(PDF)参議院〈参議院政府開発援助(ODA)調査 : 派遣報告書〉、2004年11月、78頁https://www.sangiin.go.jp/japanese/kokusai_kankei/oda_chousa/h16/pdf/2-4.pdf2022年4月3日閲覧 
  27. ^ 岩城成幸 2005, p. 5.
  28. ^ “海外主要メディアの日本関連報道(9月21日~9月27日)”. 外務省. (2012年9月27日). オリジナルの2012年11月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20121102032758/http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/sekai/2012/0927.html 
  29. ^ 岩城成幸 2005, p. 3.
  30. ^ 『日本はなぜ地球の裏側まで援助するのか』, p. 71.
  31. ^ がんばれ日本!世界は日本と共にある
  32. ^ みずほ総合研究所アジア調査部長・平塚宏和「東日本大震災後の日本とアジアの関係-難局が生んだ連帯感を絶やすべきでない-」
  33. ^ a b 第3回国家戦略会議議事要旨
  34. ^ a b 日本再生の基本戦略~危機の克服とフロンティアへの挑戦~
  35. ^ 第1回国家戦略会議議事要旨 - 6頁





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「政府開発援助」の関連用語

政府開発援助のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



政府開発援助のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの政府開発援助 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS