政府開発援助
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日本のODAの特色と昨今の傾向
日本のODAの特徴としては、以下の点が挙げられる[20][21]。
贈与比率の低さ
日本のODAは、贈与ではなく、被支援国が返済を要する円借款の比率が高い。これは、日本がODAの被支援国から支援国へと移行していくに際し、贈与を行うだけの財源がなかったことに加え、ハードインフラの整備へ向けた低利融資によって日本の輸出市場を拡大していくという政策目的も背景にあったとされる。また有償の円借款協力は「借りたものは必ず返す」という意味で、日本の援助哲学でもある「自助努力」を促すことになり、途上国の自立の精神を涵養するという一面を持っている。欧米の原則無償の援助は、「人道」を前面に出しているものの、往々にして依存心を産んで、自立の精神を阻んでいるとも指摘されている[22]。
ハード支援比率の高さ
日本のODAは、道路・橋・鉄道・発電所のインフラストラクチャー整備の占める割合が大きい。多くの日本人が『ODA』と聞いて連想するのも、こういった支援形態である。このようなハードインフラ整備を巡っては、多額の受注費を巡って政治家と日系企業が癒着し、仲介業者が不当に多額の報酬を取得しているとの指摘がある。ただ、2000年代以降は、請負企業を日本企業に限定する『タイド(いわゆる紐付き援助)案件』の割合は大幅に低下し、2001年時点で20%を下回っている上、日系企業の受注率も低下している。また、ハードインフラの整備自体は、被援助国の経済発展とそれに伴う貧困削減のために重要とされ、世界銀行や開発援助委員会(DAC:Development Assistance committee)も、こういったハードインフラ整備支援という手法を評価している。
一方、人材育成や法律・制度構築や教育を中心に、ソフト面での支援に力を注いでいく考え方が強まっている。これは、ハードインフラに偏向しているとの批判をかわすという側面もあるものの、日本国政府レベルではなく、各個人レベルに確実に援助を届けようという「人間の安全保障」や、被援助国に民主主義、法の支配、政府の透明性や公務員の汚職を撲滅しなければ、経済成長、貧困削減も十分に達成されないという「良い統治(Good governance)」といった、国際的な援助理念の登場も背景にある。
ソフトインフラ整備支援の代表例としては、経済発展や民主主義の基盤となる基本法や経済法の起草支援、裁判所などで、法令の運用・執行に関する支援を行う法整備支援が挙げられる。近年日本に限らず、世界各国が法整備支援に力を注いでいる。
アジア中心
日本のODAは、アジアに対するものが大きい。日本に限らず、どの援助国も、歴史的、地理的、経済的な理由で、援助対象国の地域的な偏りが見られ、日本の場合はアジアがそれに該当する。また、日本のODAが、アジアに対する第二次世界大戦の戦後賠償に端を発している、という特殊要因も挙げられる。
昨今のアジアは、世界経済の牽引役と言われるほどに経済発展を遂げつつあるが、その要因としては、アジア各国の勤労意欲、文化などに加え、日本のODAによる経済インフラ整備も挙げられる。また、未だ貧困率の高いアフリカに対し、日本のアジアでの援助経験を活用していこう、という考え方も強まっている。
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