抱朴子 テクスト

抱朴子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 15:39 UTC 版)

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敦煌文書の断簡が残る。遼寧省図書館に南宋紹興22年(1152年)刊本を蔵するが、完本ではない。明代の刊本は数種類が残るが、うち道蔵本がもっとも重要である[19]。道蔵を主として他に30種類ほどの本を参照した孫星衍本(平津館叢書所収)が優れた本として知られる[20]

王明『抱朴子内篇校釈』増訂本(中華書局1985)は、敦煌本や宋刊本も利用している。

日本への伝来と日本語訳

万葉集』巻5の山上憶良「沈痾自哀文」に『抱朴子』極言篇からの引用があり、早くから日本に伝わっていたことがわかる[21]。『日本国見在書目録』にも道家に抱朴子内篇21[22]、雑家に抱朴子外篇50が見えている。

和刻本としては元禄12年(1699年)、享保11年(1726年)、文化9年(1812年)のものがある。元禄12年本は明万暦12年(1584年)の慎懋官刊本をもとにして訓読を加えたものである。享保11年本も同様だが、元禄本には欠落があったため、修正を行っている[21]

近代の翻訳は『世界聖典全集』に内篇の翻訳(読み下し)を収めるのが古い。

戦時中の岩波文庫にも内篇の読み下しを収めるが、詳細な注がつけられており、現在も参照される。

  • 『抱朴子』石島快隆訳注、岩波文庫、1942年。(のち復刊)

外篇の訳注は御手洗勝『抱朴子外篇簡注』(油印、広島大学中国哲学研究室、1965-1970)にはじまる。

中国古典新書の翻訳は、抜粋の読み下しと本文を対照し、現代語による解説を加えている。

  • 『抱朴子』村上嘉実訳、明徳出版社〈中国古典新書〉、1967年。

現代日本語訳は本田済によるものが1969年に出版された。内篇については抄訳だったが、のちに平凡社東洋文庫に収められた版では完訳になっている。

角川書店(尾崎正治訳)のものは抜粋の本文・読み下し・口語訳・解説である。

  • 『抱朴子、列仙伝』尾崎正治・平木康平・大形徹訳、角川書店〈鑑賞 中国の古典 9〉、1988年。ISBN 4045909095

評価

道教の発達の上で『抱朴子』は一般に高く評価されている。道教が定まった教義をもった教団として成立するのは葛洪より後、三洞説の起きた5世紀であるが、その教義の要点はすでにその多くが『抱朴子』に見られる[23][16]。初期の神仙術は仙人から不死薬を得ることが中心だったが[24]、『抱朴子』では物理的に調合した金丹の服用によって普通の人間が仙人になることができると主張し、その一方で鬼神に対する祭祀のような他力本願を無意味として否定した。しかし、『抱朴子』の主張する神仙道はごく限定されたエリートにのみ可能な貴族主義的な修行であった[14]

ジョゼフ・ニーダムらの科学史家の評価も高いが、ネイサン・セビンは葛洪の重要性をわずかなものとし、『抱朴子』を「オカルト主義を上流階級に供する学者きどりの御用達の書きかた」と厳しく批判している[25]


  1. ^ 本田(1990) p.427
  2. ^ 大淵(1964) pp.68-69,117-118
  3. ^ 本田(1990) p.427-428
  4. ^ 『晋書』葛洪伝「大凡内外一百一十六篇」
  5. ^ 『芸文類聚』巻90・鳥「『抱朴子』軍術曰:衆鳥群飛、徘徊軍上、不過三日、有暴兵至。鳥聚軍中、将軍當賞功増秩。鳥集將軍之旗、将軍増官。鳥集軍中、莫知其名、軍敗。」
  6. ^ 本田(1990) p.429
  7. ^ 大淵(1967) p.68
  8. ^ 大淵(1964) p.184
  9. ^ 窪(1977) p.154
  10. ^ 導引は『史記』亀策列伝に見え、亀の動きを手本にした呼吸屈伸による養生法を言う
  11. ^ 本田(1990) p.432
  12. ^ 窪(1977) pp.159-160
  13. ^ 大淵(1964) pp.204-207
  14. ^ a b c 大淵(1967) p.69
  15. ^ 窪(1977) pp.158-159
  16. ^ a b 本田(1990) pp.440-441
  17. ^ 村上嘉実訳『抱朴子』(明徳出版社 1967)p.21
  18. ^ 大淵(1964) pp.136以下
  19. ^ 尾崎(1988) pp.17-19
  20. ^ 本田(1990) p.441
  21. ^ a b 尾崎(1988) pp.19-20
  22. ^ 隋書経籍志も同様
  23. ^ 尾崎(1988) pp.16-17
  24. ^ 大淵(1967) p.63
  25. ^ セビン(1985) pp.128-129,144-145


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