手紙
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日本と手紙
日本の手紙の歴史
日本では古くは木簡を文字による通信伝達の手段として用いた。薄い細長い木の板に、墨をつけた筆で文字を記したものを離れたところに届けさせたものである。紙の製法はおそらく6 - 7世紀ごろ(曇徴以前)、紙自体はそれ以前より早く日本に入ってきていたが、木簡は依然として使われ続けた。
平安時代になると、紙漉きが各地で行われるようになり、都の平安貴族の間では木の板に代わって和紙に文字を書いて送ることが盛んに行われるようになった。こうして木簡から書簡へと通信伝達手段が移り変わっていくのであるが、屋外で用いる荷札や高札には耐久性などの理由もあって江戸時代になっても木の板が文字のキャンバスとして依然として用いられた。
江戸時代には経済取引の活性化と広範化や飛脚の普及により書簡のやりとりも多くなり、当事者の在所の遠近、初対面や既知などの間柄、内容などにより多様な書式・書札礼が存在し、それらの手本となる文例集も出現した。飛脚は近代以降の郵便制度と比較して費用も高額であったため、一般に書簡内容は案件をまとめて記されることが多い。
簡素な内容の場合は切紙などを用い封書を行わないウハ書や奥ウハ書の形態で送付され、長大な内容の書簡は継紙が用いられ、機密性の高いものは封書により送付される。書簡は飛脚などの配達運送業者を用いて送付されるが、経済的や儀礼上の理由で私的な使用人を用いて伝達されることもあった。
明治期には欧米に倣った郵便制度が導入され、はがきの普及などにより手紙がさらにさかんに使われるようになった。同時に電報も普及した。電話も普及したので、電話で済ませてしまうことも増えた。
昭和時代はさかんに手紙のやりとりがされた。親と子の間で、兄弟の間で、学生と恩師の間で、先輩と後輩の間で、男性と女性の間でなどと、人々はさかんに手紙のやりとりをしていた。
1985年の話だが、日本ではそれまで電電公社の指定の電話機しか使用できなかったが、この1985年になってはじめて、電話機を始めとする端末設備の接続が自由化され(端末の自由化)、まずは中小企業や商店などで急速にファクス(ファクシミリ)が普及し始め、その後1990年代あたりに一般家庭にFAXと電話機が一体化したものが普及した。 これにより、郵便を使わず、紙に手紙を書いてそれをファクシミリ装置に差し込んで電話番号を指定して電送するということが行われるようになった。
携帯電話は1980年代まで大きな弁当箱のようなサイズで全然普及していなかったが、1990年代半ばごろから小型化が進み、一般に普及するようになり、電話で済ませられることは済ませてしまうようになった。1995年ころにマイクロソフト社からWindows 95が発表されてパソコンでインターネットに簡単に接続できる環境が得られるようになると、ようやく一般の人々の間で徐々に電子メールが普及するようになり、それにより紙の手紙が使われる頻度が少しづつ減ってゆくことになった。商社などそれまでテレックスやFAXでやりとりしていた企業間でも、e-mailで済ませるようになっていった。1990年代後半から2000年代前半にかけて、一般企業や中小企業でも、手紙を避けてe-mailのやりとりで済ませる傾向が生じた。
特に2010年代に世界各地でスマートフォンを個人が所有することが普及するにつれ、家族・友人間のほとんどの要件はSNSなどのメッセージで済ませてしまう、ということまで行われるようになり、手紙の削減にますます拍車がかかっている。 とはいえ、(多くの国で)役所からの文書類は今でも旧態然と紙の文書が送られてきており、デジタル化が遅れがちであるし、契約関連の文書は今も封筒に入れてやりとりされることは多い。特に重要な手紙・文書などは内容証明郵便などの送達手段が用いられる。
手紙の構成
戦国時代の構成
- 袖(手紙冒頭)
- 本文
- 行間(追伸のようなもので本文と本文の間に書かれているため見た目は本文・行間・本文・行間…と書かれている)
- 花押
読む順番は本文→袖→行間となる。
郵便料金の移り変わり
施行日[注釈 5] | 料金 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1871年4月20日 <明治4年3月1日> |
100文(5匁まで。以降、5匁ごとに48文加算) | |||||
1872年1月14日 <明治4年12月5日> |
25里以内 100文 |
50里以内 200文 |
100里以内 300文 |
200里以内 400文 |
200里超え 500文 |
4匁までの料金 |
1873年(明治6年)4月1日 | 基本料金 | 市内 1銭 | 市外 2銭 | 2匁ごとの料金 | ||
1883年(明治16年)1月1日 | 2銭(2匁ごと) | |||||
1899年(明治32年)4月1日 | 3銭(4匁ごと) | |||||
1931年(昭和6年)8月1日 | 3銭(15gごと) | |||||
1937年(昭和12年)4月1日 | 4銭(20gごと) | |||||
1942年(昭和17年)4月1日 | 5銭(20gごと) | |||||
1944年(昭和19年)4月1日 | 7銭(20gごと) | |||||
1945年(昭和20年)4月1日 | 10銭(20gごと) | |||||
1946年(昭和21年)7月25日 | 30銭(20gごと) | |||||
1947年(昭和22年)4月1日 | 1円20銭(20gごと) | |||||
1948年(昭和23年)7月10日 | 5円(20gごと) | |||||
1949年(昭和24年)5月1日 | 8円(20gごと) | |||||
1951年(昭和26年)11月1日 | 10円(20gごと) | |||||
施行日 | 定型 | 定型外 | 備考 | |||
25g以内 | 50g以内 | 50g以内 | 75g以内 | 100g以内 | ||
1966年(昭和41年)7月1日 | 15円 | 20円 | 25円 | 35円 | 郵便法改正 | |
1972年(昭和47年)2月1日 | 20円 | 25円 | 40円 | 55円 | ||
1976年(昭和51年)1月25日 | 50円 | 60円 | 100円 | 140円 | ||
1981年(昭和56年)1月20日 | 60円 | 70円 | 120円 | 170円 | ||
1989年(平成元年)4月1日 | 62円 | 72円 | 120円 | 175円 | 消費税導入(3%) | |
1994年(平成6年)1月24日 | 80円 | 90円 | 130円 | 190円 | ||
1997年(平成9年)12月1日 | 80円 | 90円 | 120円 | 140円 | 160円 | |
2003年(平成15年)10月1日 | 80円 | 90円 | 120円 | 140円 | ||
2014年(平成26年)4月1日 | 82円 | 92円 | 120円 | 140円 | 消費税増税(8%) | |
2019年(令和元年)10月1日 | 84円 | 94円 | 120円 | 140円 | 消費税増税(10%)[8] |
郵便法における信書
![]() | この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
- 郵便法での定義
日本において、郵便法における信書は、第4条2項で『特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書』[9]と定められている。また、総務省は[いつ?]「信書のガイドライン」を定め、区分を行なうための基準を示している[10]。
信書の送達
日本では信書の送達は、郵便法により日本郵便株式会社が、あまねく全国に郵送する「ユニバーサルサービス」として指定されている。また、日本郵便会社のほか、民間事業者による信書の送達に関する法律により、一般信書便事業への参入が許可された民間事業者も、信書便を送達できる(なお、2018年現在、新規参入した一般信書便事業者は存在しない)。
よって、それ以外の総務大臣の許可を受けていない宅配便・メール便業者が、信書を配達することはできない。一般の宅配便、ゆうパック、メール便・ゆうメールは、貨物自動車運送事業法の「宅配便貨物」となり、郵便事業・信書便事業には該当しない
また、日本郵便のサービスであっても、「第一種郵便物」および「第二種郵便物」扱いではない方法(「第三種郵便物」および「第四種郵便物」に信書を同封しての送付、「エクスパック500」[注釈 6]や「ゆうパック」「ゆうメール」等の荷物扱いによる送付)にて信書を送達することはできない。なお、「第三種郵便物」、「第四種郵便物」、「ゆうパック」、「ゆうメール」等の日本郵便が扱う荷物と共に信書を送りたい時は「同時配達」[11]の制度を利用する事もできる。
ただし以上の例外として、「貨物の送付と密接に関連し、その貨物を送付するために従として添付される無封の添え状・送り状」は、荷物(貨物)に添付して送ることができる。例として次のような文書であって封をしておらず、荷物に従として添えられる簡単な通信文は添付することができる[12]。
- 「添え状」
- 貨物の送付、授受やその代金につき、その処理や送付の目的、送付に関して添えられる挨拶、その他貨物に密接に関連し従として添えられる簡単な通信文
- 「送り状」
- 一般の宅配便の宛名ラベルのような、種類、重量、容積、荷造りの種類、個数、記号、代価、受取人並びに差出人の住所及び氏名など、運送に関する各種情報が記載されたもの
以上の事項に違反する行為は、郵便法で禁止されている。違反した場合には、郵便法第4条4項により、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金(同法第76条)に処される。
- 参考
- 「信書に該当する文書に関する指針」Q&A集 - 総務省
- 「信書に該当する文書に関する指針」 (PDF, 総務省)
信書の秘密
大日本帝国憲法26条では法律に定められた場合を除いて信書の秘密が保障されていたが、日露戦争の後、内務省は逓信省に通牒して極秘の内に検閲を始めた[13]。
更に1941年10月4日には、緊急勅令として臨時郵便取締令(昭和16年勅令第891号)が制定されて法令上の根拠に基づくものとなった。また連合国軍占領下の日本では、GHQが郵送された信書の検閲を秘密裏に且つ大規模に行った。
手紙のバリエーション
注釈
- ^ 英語のletterも同じ。封筒に入れて届けるもの。封筒に入れないものは「card カード(日本語で葉書)」と呼び分ける。
- ^ 日本における郵便ポストの2つの差し入れ口は、左「手紙・はがき」 /右「その他の郵便」などと表記されているものが大半である。この場合、「手紙」は「はがき」以外の封書を意味して用いられている。
- ^ 直接会える場合は、口頭で伝えてしまうことが一般的である。直接会えるのに、便利な会話で伝えず、わざわざ手間をかけて文字にして渡すのは、一般論として言えば、特殊な事情がある場合である。
- ^ 20世紀初頭、オーレル・スタインによる中央アジアの探検によってその実物が発掘されている(二玄社編(書道辞典) p.150)。
- ^ 1872年以前は旧暦(天保暦)併記。
- ^ エクスパックと異なり、レターパック(500/350/プラス/ライト)は第一種郵便物扱いであり信書送達できる。
出典
- ^ 『大辞泉』、手紙
- ^ https://english.stackexchange.com/questions/231429/is-it-okay-to-use-the-word-letter-instead-of-e-mail-regarding-to-e-mail-corr
- ^ https://www.lexico.com/definition/letter
- ^ 『ルミナス和英辞典第2版』研究社、2005年、146頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l 『日本大百科全書』(ニッポニカ)、手紙。
- ^ 書簡文学
- ^ 二玄社編(書道辞典) p.150
- ^ 2019年10月1日(火)から郵便料金などが変わりました。
- ^ 郵便法第4条、2020年1月20日閲覧
- ^ 信書のガイドライン、2017年10月19日閲覧
- ^ (詳細は「内国郵便約款」第81条『同時配達の扱い』を参照)
- ^ 郵便法第4条第3項、「信書に該当する文書に関する指針」
- ^ 郵政省『続逓信事業史』1961年、ほか。
- ^ a b “特別展「ニッポンノテガミ」の開催”. 日本郵政株式会社 郵政資料館. 2020年8月18日閲覧。
手紙と同じ種類の言葉
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