懐疑主義
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近世におけるピュロン主義の再発見
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1562年、セクストス『ピュロン主義哲学の概要』のラテン語訳によってピュロン主義が学問的に再発見されることになった。この再発見は、モンテーニュ、デカルト、ヒューム、カントなどの近世哲学に、「きみは何ごとを知りうるか?」という問いを提起し、認識論を中心とする近世的な懐疑論を形成した[31]。
デカルトの懐疑論と「我思う、ゆえに我あり」
再発見されたピュロン主義に対抗し、新たな確実性を求めたデカルトは、アウグスティヌスの自己の確実性を近世的な形で発展させた。彼は様々な感覚的事物を疑うことから初め、そして最後に、次のような確実性を発見したと述べる。
「私は考える、ゆえに私はある」というこの真理は、懐疑論者のどのような法外な想定によってもゆり動かしえぬほど、堅固な確実なものであることを、私は認めたから、私はこの真理を、私の求めていた哲学の第一原理として、もはや安心して受け入れることができる、と判断した。
— デカルト『方法序説』、野田又夫訳『世界の名著22 デカルト〔第3版〕』中央公論社、昭和42年、p.198.
ヒュームの懐疑論と心理主義
デイヴィッド・ヒュームは、古代懐疑論と同じように感覚的事物の存在を承認し[38]、デカルト的懐疑に見られるところの、まず感覚を疑ってみるという立場とは全く逆のアプローチを行った。ヒュームが疑うのは、経験的事実ではなく、そこに設定される因果関係と帰納によるその正当化である。ヒュームによれば、「初めて存在するものには、すべて存在の原因がなければならぬということは、哲学で一般的な基本原則となっている」が、「よく調べてみれば、原因の必然性を証明するためにこれまで提出されてきた論証はどれも誤っており、こじつけである」[39]。
このように、新しい生成にはすべて原因が必要だという考えは知識から引き出されるのではなく、またいかなる学問的推論からも引き出されないのだから、どうしても観察と経験とから生じるものでなければならない。そこで、当然、次に問題となるのは、いかにして経験はそのような原理を生じさせるのか、ということである。しかし、私はこの問題を次のような問題にはめ込むほうがもっと都合がよいと思うので、それをこれから研究の主題にしよう。それは、われわれはなぜ、しかじかの特定の原因は必然的にしかじかの特定の結果を伴わねばならないと断定するのか、また、なぜ、一方から他方へ推理を行うのか、という問題である。
— ヒューム『人性論』第1編3部3節、大槻春彦訳『世界の名著27 ロック ヒューム〔第3版〕』中央公論社、昭和45年、p.433.
このような問題に対する最も簡潔で常識的な解答は、因果的推論が帰納によって正当化されるからである。ところが、ヒュームの考えによれば、観察と経験から因果関係が帰納によって正当化されるということはありえない。なぜなら、帰納の根拠となる自然の斉一性の原理は実際に観察も経験もされず、論証されることもないからである[40]。かくして、ヒュームの徹底された経験主義は、次のような結論に至る。
このようにして、理性によっては原因と結果の究極的な結合を見出し得ないだけではなく、さらに経験がそれらの恒常的な相伴を知らせたあとでさえも、なぜわれわれはその経験をすでに観察された個々の実例以上に拡げるのかという点について、理性によっては納得が得られないのである。したがって、心が一つの対象の観念もしくは印象から、他の対象の観念もしくは信念へと移るときに、心は理性によって規定されるのではなく、想像においてこれらの対象の観念を連合し、結び合わせるようなある原理によって規定されるのである。
— ヒューム『人性論』第1編3部6節、大槻春彦訳『世界の名著27 ロック ヒューム〔第3版〕』中央公論社、昭和45年、p.438.
では、対象の観念を連合し、それらを結び合わせるような原理とはいったいなんなのか。このような設問に対して、ヒュームは真理に関する心理主義、すなわち客観的な真理に代わる主観的な尤もらしさという規則を採用する。
そういうわけで、こんなに念入りにその仮想の一派の議論を私が示してみせる意図は、私が立てた仮説の真理を、すなわち、原因と結果に関するすべての推論は習慣にのみ起因すること、また、信念はわれわれの本性の知的部分の働きというよりもむしろ情的部分の働きであること、これらの真理を読者に気づかせることにほかならない。
— ヒューム『人性論』第1編4部2節、大槻春彦訳『世界の名著27 ロック ヒューム〔第3版〕』中央公論社、昭和45年、p.460.
- ^ 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.446.
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- ^ 田中龍山『セクストス・エンペイリコスの懐疑主義思想』東海大学出版会、2004年、p.5.
- ^ 田中龍山『セクストス・エンペイリコスの懐疑主義思想』東海大学出版会、2004年、p.5-6.
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- ^ 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.433.
- ^ a b c 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.450.
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- ^ 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.450-451.
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- ^ 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.120-121.
- ^ a b c 金山弥平=金山万里子訳『ピュロン主義哲学の概要』京都大学学術出版会、1998年、p.434.
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- ^ バートランド・ラッセル著、市井三郎訳『西洋哲学史』みすず書房、昭和36年、p.234-235.
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- ^ K. リーゼンフーバー『西洋古代・中世哲学史』平凡社、2000年、p.206-207.
- ^ K. リーゼンフーバー『西洋古代・中世哲学史』平凡社、2000年、p.207.
- ^ 斉藤繁雄[他]編『イギリス思想研究業書6 デイヴィッド・ヒューム研究』お茶の水書房、1987年、p.22.
- ^ 大槻春彦訳『世界の名著27 ロック ヒューム〔第3版〕』中央公論社、昭和45年、p.433.
- ^ 大槻春彦訳『世界の名著27 ロック ヒューム〔第3版〕』中央公論社、昭和45年、p.437.
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