急性アルコール中毒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 23:20 UTC 版)
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エタノールの急性中毒に解毒薬はない。したがって、病院では対症療法として強制利尿(輸液と利尿)を施して、エタノールを体外に排出させることを目的とした治療法が行われていることが多い。しかし、輸液によって、エタノールの対外排出が早まることはないし、急性アルコール中毒からの回復が早まることもない[注釈 2][4]。
日本中毒学会の公式ウェブサイトにも、急性アルコール中毒での強制利尿の安全性と有効性が確立されていないことが記載されている[注釈 3][5]。
応急処置
時間の経過以外、病院内外での効果的な対処法はほとんどないため、頭と体を横にする回復体位をとらせ目を離さず様子をみることが第一である[6][7]。その際、呼吸の確保と体温の維持が留意点である。吐瀉物で窒息する危険があるので“応急処置の目的”で嘔吐させてはならない。
- つねっても起きず、呼吸に異常(浅く速い呼吸、あまりにもゆっくりした呼吸)がある場合には危険性が高い為、即座に救急車を呼ぶこと。もし、心肺機能の停止があるならば心肺蘇生法(人工呼吸、心臓マッサージ)を施すこと。AEDの適用。
- 激しい嘔吐、吐血(鮮血の場合もあるが茶褐色の場合もある)がある場合にも救急車を呼んだ方がよい。
- 酔いつぶれて横になった場合には、寝ているうちに舌がのどに落ち込んだり、嘔吐物がのどに詰まって窒息する危険があるので、回復体位を必ずとらせ胸の動きを注視する[6]。
- 体温が低下しないように毛布を掛けるなど保温に気を配る。
- 飲酒量として1時間ほどで、日本酒で1升、ビールで10本、ウイスキーならボトル1本程度飲んで酔いつぶれた場合には、生命にかかわる危険があるので、ただちに救急車を呼ぶこと。その際、意識のしっかりした付添人が1名必要である。
注釈
- ^ 日本酒のアルコール度数:15度、焼酎のアルコール度数:25度、ビールのアルコール度数:5度、ウイスキーのアルコール度数:30度の場合。
- ^ Perez SR, Keijzers G, Steele M, Byrnes J, Scuffham PA (2013). “Intravenous 0.9% sodium chloride therapy does not reduce length of stay of alcohol-intoxicated patients in the emergency department: a randomised controlled trial”. Emerg Med Australas 25 (6): 527–34. doi:10.1111/1742-6723.12151. PMC 4253317. PMID 24308613 .。
一回で生理食塩水を20ml/kgの静脈内投与+観察(治療群)と観察のみ(コントロール群)を比較するための一重盲検無作為対照試験である。144例の救急外来(Queensland, Australiaの1つの三次救急と1つの都市救急外来)を受診した複雑な合併症をもたない単純な急性アルコール中毒患者で行われた。両群の血液アルコール濃度は試験開始時には同等であった。試験終了時の血液アルコール濃度は、治療群とコントロール群で同等であった(治療群:0.20% コントロール群:0.19%(P=0.44))。呼気中アルコール濃度の減少、中毒症状スコア、中毒レベルの変化、入院期間も、2群間で有意差を示さなかった。 - ^ 日本中毒学会の公式HPの「急性中毒の標準治療」の「強制利尿」に「すべての急性中毒症例に対して、その程度と意図はさまざまであるが、何らかの強制利尿を実施しているのが現状である。しかし、適切な体液管理と循環管理がなされている限り、強制利尿の適応となる物質は限られている-サリチル酸とフェノバルビタール以外の物質に関する安全性と有効性は確立されていない。 1)中性利尿:イソニアジド、水溶性バリウム塩、きのこ類(サイクロペプタイド)、メプロバメート、など(なお、アルコール類、有機リン、パラコートに関しては十分な根拠は確立されていない)」 と記載されている。したがって、急性アルコール中毒での強制利尿の安全性と有効性が確立されていないことが記載されていることがわかる。
出典
- ^ a b c “急性アルコール中毒”. e-ヘルスネット. 2022年6月27日閲覧。
- ^ 信田さよ子『依存症』文芸春秋、2000年6月。ISBN 978-4166601080。
- ^ MSDS - Alcohol 99% (PDF) (Report). 日本アルコール産業. February 2008.
- ^ “『研究・調査報告書』(分類番号:C-141 報告書番号:13-319担当:慶應義塾大学)(題名(訳):静脈内0.9%の塩化ナトリウム投与は救急治療部のアルコール中毒患者の入院期間を減らさない:無作為対照臨床試験)(上記論文の要旨の日本語訳)”. 2015年7月27日閲覧。
- ^ “日本中毒学会の公式HPの「急性中毒の標準治療」の「強制利尿」”. 2015年7月27日閲覧。
- ^ a b mhGAP Intervention Guide for mental, neurological and substance use disorders in non-specialized health settings (Report). 世界保健機関. 2010. ALC1. ISBN 9789241548069。
- ^ 他人事ではない「急性アルコール中毒」(東京消防庁)
急性アルコール中毒と同じ種類の言葉
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