影の車 影の車の概要

影の車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 09:31 UTC 版)

影の車
著者 松本清張
発行日 1961年8月30日
発行元 中央公論社
ジャンル 短編集
日本
言語 日本語
形態 上製本
ページ数 238
ウィキポータル 文学
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連作短編集『影の車』

  • 松本清張による連作短編。同タイトルで『婦人公論』1961年1月号から8月号まで連載され、同年8月、中央公論社より単行本が刊行された。
  • 作品は以下の通り。なお、単行本では各話の順序が入れ替えられている。リンクのある作品は、各リンク先を参照。
    • 『確証』(婦人公論・1961年1月号)
    • 万葉翡翠』(婦人公論・1961年2月号)
    • 薄化粧の男』(婦人公論・1961年3月号)
    • 『潜在光景』(婦人公論・1961年4月号)
    • 『典雅な姉弟』(婦人公論・1961年5月号)
    • 田舎医師』(婦人公論・1961年6月号)
    • 鉢植を買う女』(婦人公論・1961年7月号)
    • 突風』(婦人公論・1961年8月号)…単行本化時に除外された作品。のちに短編集『突風』(1966年、海燕社)などに収録。
  • 第4話『潜在光景』が『影の車』のタイトルで映画化・テレビドラマ化されたほか、『万葉翡翠』『薄化粧の男』『典雅な姉弟』『鉢植えを買う女』『突風』もテレビドラマ化されている。

小説『潜在光景』あらすじ

都心から80分ばかりかかる住宅地に住む浜島幸雄は、会社帰りのバスの中で、小磯泰子から声をかけられ、学生時代以来の再会をする。1週間後、再びバスの中で遭遇した泰子は、家に立ち寄るよう勧めた。思い切ってバスを降りた浜島は、泰子が夫を失い、保険の集金の仕事をしながら、六歳の健一という名前の息子と二人で暮らしているのを知る。泰子の態度に、妻には見られないやさしさを感じる浜島。

他方、浜島の妻は、それほど温かい気持ちの女ではなく、家の中は索漠としていた。浜島と泰子の間は急速に進み、二人は結ばれる。少ない収入にもかかわらず、浜島に心から仕える泰子。しかし、息子の健一はひどく人見知りし、一向に浜島に馴れない。泰子と話をしていても、健一の存在が煙たく、気持ちにひっかかってくる浜島。浜島はふと、自分の小さいときの記憶を途切れ途切れに思い出すようになったが、その記憶に潜在する光景が、現在の浜島に思わぬ影をもたらす。

映画

影の車
The Shadow Within
監督 野村芳太郎
脚本 橋本忍
製作 三嶋与四治
出演者 加藤剛
岩下志麻
音楽 芥川也寸志
撮影 川又昂
編集 浜村義康
配給 松竹
公開 1970年6月6日
上映時間 98分
製作国 日本
言語 日本語
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1970年6月6日に松竹系にて公開された。主な舞台を東急田園都市線藤が丘駅周辺の「ささおやま団地」とし、浜島の勤務先を旅行代理店、妻・啓子の職業をフラワー教室とするなど、時代背景は、高度経済成長の進行を踏まえた設定となっている。また、本映画オリジナルの設定として、浜島と泰子の故郷を千葉県千倉町(現・南房総市)としている。1970年度キネマ旬報ベストテン第7位に選出されている。現在はDVD化されている。

キャスト

スタッフ

エピソード

  • 本映画を監督した野村芳太郎は、撮影前日に「明日の撮影に関するメモ」と題した構想書きをメインキャストとメインスタッフに渡していた。主演の加藤剛はこれに刺激され、構想を提案するレポートを毎日書いており、劇中の眼鏡を握りつぶす演技は、加藤が野村に提案し採用されたと回顧している[1]
  • 劇中に度々挿入される主人公の回想場面は、一見フィルターをかけた普通のエフェクト映像に見えるが、実は100日間の実験期間と当初の9倍の予算費用、そして6千mの作業用ポジ・フィルムを消費するという手間暇がかかっている。潜在意識による被害妄想を表現するために単なる回想にしたくないと考えた監督が特注したもので、撮影を担当した川又昂は光学技術担当の石川智弘と共に大船撮影所内に現存していた旧式のオプチカルプリンターを駆使して、まず撮影したポジ・フィルムから3原色分に分解したネガを3本作り、それぞれを8~4コマ分ずらしてポジに焼くことで全体の色がズレた画面を創り上げ、次にこの色ずれしたフィルムの最初のネガからカラーポジと白黒ポジ2本焼いて、さらに撮影風景の明るい部分だけの素粒子を強調するコントラストの強い白黒ポジをもう1本焼いたうえで、この3本のポジを重ね焼きすることで『レリーフ効果』と呼ばれる線や面が浮き出る映像効果を創り上げた。3色分解とレリーフ効果を合わせたこの映像効果を、川又は『多層分解』と名付け、公開当時のパンフレットにもそう記載されている[2]
  • 監督は回想以外の場面を徹底的にリアルに描くこととし、ヒロインの家の外観は神奈川県長津田にある家屋を8ヶ月借り切り、家内部を撮影する際も実際に大船撮影所内に家屋を建ててから本物の水道やガス、テレビを設置して、テレビ番組を視聴する場面では本物の番組が放送される時間帯まで撮影を待つという拘り様だった[3]
  • 岩下志麻の息子役・岡本久人に対する印象は「あの子は普段から喜怒哀楽がないんです。いつも笑ってるような、笑ってないような顔をして。野村監督は子供の扱い方がすごく上手だから、なだめたりいろいろしていました。よくああいう子供を見つけてきたと思います。何を考えているんだか本当に分かりませんでした」「オーディションした時に野村監督が『何を考えているか分からない』というような子を選んだんでしょうね」「不思議な子役さんでしたね」[4]

  1. ^ 『松本清張傑作映画ベスト10 第10巻 影の車』(2010年、小学館)参照。
  2. ^ 『松本清張映像作品サスペンスと感動の秘密』(2014年、メディアックス、P36,37より)
  3. ^ 松本清張映像作品サスペンスと感動の秘密』(2014年、メディアックス、P38,39より)
  4. ^ 春日太一著『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』(2018年、文藝春秋、P106,107より)


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